日本口腔顔面痛学会雑誌
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原著論文
ラット三叉神経節における支配領域による神経細胞局在の三次元構築
石田 麻依子奥村 雅代岡本 望澁谷 徹金銅 英二
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2014 年 7 巻 1 号 p. 13-21

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抄録

目的:三叉神経節は,眼神経,上顎神経,下顎神経の3枝に分枝し,その末梢枝は頭頚部で広範囲に分布している.三叉神経節内には,これらの神経細胞体が集まっており,それぞれの領域の細胞体の局在には神経節内で偏りがあることが知られている.しかしながら,これまでの報告における表現は統一性に欠け,詳細も不明である.そこで神経損傷で確実に発現するとされる神経損傷マーカーのATF3(activatingtranscriptionfactor3)抗体を用いて三叉神経節内の神経細胞体の局在を三次元構築し,各神経切断群間で比較検討をおこなった.
方法:ラットの三叉神経において眼窩上神経,眼窩下神経,下歯槽神経,舌神経それぞれの切断群(各n=3)と,各神経に至るまでの組織の切開や剥離を加えて,目的の神経を切断しない対照モデル(各n=1)を作製し,ATF3の発現がピークとなる7日後に三叉神経節を摘出し,100μm毎の水平断切片を作製した.これらの切片をATF3抗体と,神経細胞のみを染色するNeuN抗体,すべての細胞の核を染色するDAPI抗体を用いた免疫組織化学に供し,光学顕微鏡下で画像データとしてコンピューターに取り込み,スライスごとに重ねて三叉神経節を復元するように三次元構築をおこなった.
結果:ラット三叉神経節は,二つに分岐しており,第1枝,第2枝から外側へ向かう枝が3枝となる.三叉神経節内における神経細胞集団は,大きく二つの領域に分かれており,1つは吻側(吻側領域)に,もう一つは尾側(尾側領域)に局在していた.これら2つの領域は三叉神経節の背側では融合しており(吻側・尾側連続領域),腹側では分離していた.ATF3とNeuNの二重陽性細胞を観察した結果,眼窩上神経切断後のATF3陽性細胞の局在は,吻側領域において内側に,眼窩下神経切断後のATF3陽性細胞の局在は,吻側領域内ほぼ全域に分布しており,眼窩上神経切断後のATF3陽性細胞領域を含んでいた.下歯槽神経切断後のATF3陽性細胞の局在は主に尾側領域に発現し,吻側・尾側連続領域では点在していた.また,吻側領域において広範囲に散在していた.舌神経切断後では,下歯槽神経切断後とほぼ同じ領域でATF3陽性細胞局在が確認された.眼窩下神経と下歯槽神経,舌神経の各切断後のATF3陽性細胞の局在は吻側・尾側連続領域で混在しており,各神経領域の境界は不明瞭であった.
結論:以上より,ラット三叉神経節内における神経細胞局在には,異なる領域の神経細胞が混在する箇所が存在していた.同じ神経節内における損傷した神経細胞が近接する非損傷の神経細胞に何らかの物質を伝達することが異所性感覚異常の発症につながっているという説もあり,今回の結果は,この異所性感覚異常のメカニズム解明の基礎データになりうると考えられる.

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