2018 年 23 巻 1 号 p. 19-27
21 世紀に入り,⌈根拠に基づく医療 (evidence-based medicine:EBM)⌋において主眼が置かれる生命延長に加え,生活の質 (quality of life:QOL) の改善を加味した ⌈価値に基づく医療 (value-based medicine:VBM)⌋ の考え方が確立された.VBM の柱である費用効果分析において,QOL と patient-reported outcome (PRO) の評価とその活用が,中医協で示された医療技術評価 (health technology assessment:HTA) の導入の成否の一翼を担っている.PRO は,患者が主観的に知覚した健康状態の計測を目的とした概念を広く傘下とした用語として用いられる.QOL と PRO は,その意味する概念や深さの違いがあるが,PRO は多くの場合,患者自身により報告される臨床試験のエンドポイントとしてQOL を代替し,知覚症状,身体機能,健康の満足度や健康関連 QOL を包含する用語として使用されている.本稿では,中医協の費用対効果評価の分析ガイドラインで使用が例示された,代表的な患者報告アウトカム尺度 (patient-reported outcome measures:PROMs) の 1 つである EuroQol-5 dimension (EQ-5D) について説明する.更に,費用効果分析における QOL/PRO 評価の重要性と課題や,PROMs の国際的標準化の必要性について説明する.最後に,費用対効果評価の試行的導入における QOL/PRO 評価の課題,すなわち,エビデンスデータの必要性,薬剤と医療機器の評価の相違,臨床試験で効用値を測定していない場合に EQ-5D による効用値等に変換するマッピング,そして感度分析における課題を紹介する.わが国において,今後,慎重な費用対効果分析結果による HTA が行われることを期待する.