薬剤疫学
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企画/HTA (医療技術評価) の昨日・今日・明日
4.費用対効果以外の要素をいかに扱うべきか? ―アプレイザル (総合的評価) に関する諸問題―
齋藤 信也
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2018 年 23 巻 1 号 p. 29-39

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抄録

HTA (Health Technology Assessment:医療技術評価) の際に,費用対効果の結果以外の要素をいかに扱うべきだろうか? 費用対効果の結果を得るまでの過程をアセスメント (分析) とするなら,その後これに,社会的,倫理的要素等を加味して総合的に評価する過程は,アプレイザルと呼ばれる.このアプレイザルのあり方については,中医協 (中央社会保険医療協議会) 費用対効果評価専門部会で度重なる検討が行われ,その際に評価すべき倫理・社会的要素として,① 公衆衛生的観点での有用性 (感染症対策など) ② 公的医療に含まれない追加的費用 (介護費用や生産性損失など) ③ 長期に重症の状態が続く疾患での延命治療 ④ 代替治療が十分に存在しない疾患の治療 の 4 項目が採用された.当初重要な要素とされたイノベーションの評価は,薬価制度における加算とダブルカウントになる恐れがあるとのことで取り消された.①② に関しては,そうした観点を盛り込んだ費用対効果の結果を得ることは,理論上は可能なことから,アプレイザルの際にアセスメントの一部として扱うのか,それとも,定性的あるいは半定量的な要素として,考慮の対象とするのかについては議論が必要と思われる.一方 ③ については,我が国が範とした英国でも⌈終末期特例⌋という形で,QOL 値を高く評価したり,閾値を柔軟に適応するなどして,対象患者の治療へのアプローチを妨げないような工夫がなされている.ただ英国では,HTA を医薬品の償還の可否判断に用いているからこそ,こうした対応が必須となるわけであり,我が国のように HTA を医薬品の価格調整にのみ用いる場合は,これも価格を決める際に考慮すべき定性的項目の一つということになると考えられる.このように我が国の HTA におけるアプレイザルは英国モデルを下敷きにしているものの,その使用方法が異なるために,これまで議論が輻輳しがちであった.アプレイザルのあり方については,今後の費用対効果評価の本格導入に向けて,その違いに自覚的になったうえで,さらなる議論が必要と考えられた.

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