薬剤疫学
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原著
Methotrexate 投与関節リウマチ患者における生物学的製剤併用時の感染リスクに関する Propensity Score を用いた複数の疫学的方法の妥当性の検討
鯉沼 卓真赤沢 学
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2021 年 26 巻 1 号 p. 27-40

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抄録

疫学研究では,時間と共に患者の状態が治療を受けることで変化するプロセスが繰り返される.そのため,この時間経過の表し方によっては時間依存的にバイアスが生じる.本研究は,このバイアスへの対処を含んだ複数の疫学的方法を行い,methotrexate (MTX) 単独投与群と生物学的製剤併用群の間における感染リスクについて,得られた推定値の妥当性を検討することを目的とした.データベースは,JMDC のレセプトデータを使用した.

このデータベースより,MTX 単独投与患者 2734 人及び生物学的製剤併用患者 1035人の合計 3769人の Rheumatoid Arthritis (RA) 患者を抽出した.その後,RA 患者の疾患時間経過を「経過時間」,「処方回数」,「時期」の 3種類の各時間軸を用いて表現し,各時間軸の同一時点において時間条件付き Propensity Score (PS) マッチングを行った.さらにPS weighting 法も併せて行った.その結果,「経過時間」,「処方回数」,「時期」の各時間軸を用いた感染リスク Odds Ratio (OR) は,それぞれ1.48 (95%CI 0.71-3.11),1.60 (95%CI 0.72-3.55) and 1.04 (95%CI 0.58-1.86) となり,Immortal time (IMT) への未対処及び非時間条件付きPS マッチングに用いた時間軸「経過時間 (IMT 除外かつ非時間条件付きPS マッチング)」の ORは1.14 (95%CI 0.71-1.81) となった.PS weighting 法である Inverse Probability Weighting Estimator (IPW) と Augmented Inverse Probability Weighting Estimator (AIPW) による Average Treatment Effect (ATE) は,それぞれ0.31% (95%CI −0.91-1.53),0.29% (95%CI −0.91-1.49) となり,Average Treatment Effect on the Treated (ATT) は 0.10% (95%CI −1.11-1.32) と推定された.各方法による感染リスクの推定値は,両群間において統計的有意差を認めず,先行研究の生物学的製剤併用による感染リスクは上昇しない,という結果を支持した.このことから,方法論としての各疫学的方法が持つ特徴を視点とした多角的な解析結果が得られた.それにより,疫学的方法論確立へ寄与するものと考えられた.

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