2026 年 10 巻 論文ID: e10019
薬学教育において臨床現場で必要とされるコミュニケーション能力の向上が求められている.そこで没入感を体感できる仮想現実(VR)に着目し,薬局窓口での医療面接に関するVRコンテンツを導入し,本コンテンツが学生にどのように受け止められるかを把握することを目的とした.高校生及び薬学生を対象に「臨場感」「行為主体感」「有用性」「臨床一致性」に関する評価を実施した.いずれも肯定的な評価が得られ,特に「臨場感」は85.1~97.9%,「有用性」は93.7~98.8%と高く,実務実習経験の有無に関わらず多くの学生が肯定的に評価した.自由記述の共起ネットワーク分析では,実習内容や学年によって関心の焦点が異なり,低学年は薬剤師と患者の関係,高学年は具体的な薬剤の使用法にも注目していた.これらの結果から,本VRコンテンツは薬剤師業務の理解を深め,臨場感を体験できる教育ツールとして活用できる可能性が示唆された.
This study introduced new virtual reality (VR) content in pharmaceutical education to simulate and improve pharmacist-patient communication at the pharmacy counter. Participants, including university pharmacy students and high school students, responded to a questionnaire assessing four key aspects of the project: presence, sense of agency, usefulness, and alignment with clinical practice. Overall, these points received favorable evaluations. Presence and usefulness were rated particularly high, ranging from 85.1% to 97.9% and 93.7% to 98.8%, respectively, regardless of prior clinical experience. A co-occurrence network analysis of students’ free-response comments to open-ended questions revealed differences in focus by training content and academic level. The lower-year responses focused on general pharmacist-patient communication, while upper-year responses were more interested in practical topics, such as providing medication explanations and educational applications. These findings suggest that VR content is a valuable educational tool for enhancing students’ comprehension of pharmacists’ roles and providing an immersive experience in clinical communication. Furthermore, integrating VR content into existing lectures and practical sessions may become an effective and widely accepted educational approach for a broad range of learners, from high school to university-level pharmacy students.
薬学教育におけるコミュニケーション教育の重要性は年々高まっており,薬剤師が患者中心の医療を実践するうえで不可欠な能力として位置づけられている.実務実習などの参加型臨床実習は,学生が患者面接や服薬指導,医療者への提案といった実践的活動に参加し,指導者からのフィードバックや観察学習を通じてコミュニケーション技能や自信を高め得ることが報告されているものの1–3),施設間で教育環境に差異が生じやすく,学習機会の均質化が難しいという課題も指摘されている4,5).また我が国の6年制薬学教育では,患者対応を含む実務実習に先立ち,共用試験により必要な知識・技能・態度が担保される仕組みが採られている.そのため低学年の段階では,患者と直接関わる参加型臨床実習を十分な形で実施することには一定の制約がある.こうした状況において,臨床現場での実践的学習を学内教育によって補完する役割が求められている.学内教育は,薬剤師に求められる基本的な知識や態度を涵養する上で重要な基盤である.一方で,実務実習事前教育に関する薬学生の満足度調査からは,患者対応や他者との関係構築に関わる実践的コミュニケーションの学習について,学内教育のみでは十分でないと感じている学生が少なくないことが報告されている6).こうした背景から,臨床現場における実践的なコミュニケーションを学ぶことができる教育方法の開発は,現在の薬学教育における重要な課題の一つとなっている.
このような教育的課題に対し,仮想現実(VR)は臨場感を伴ったコミュニケーション場面を安全かつ再現性高く体験できる点で,有用な補完手段となり得る.しかし薬学教育におけるVR活用の報告は限定的であり,特に薬剤師-患者間コミュニケーションを教材化した事例はほとんど見られない.そのためVRコンテンツを教育現場に実際に導入した際に,学生がどのように受け止め,どのような教育的価値を見出すのかという実践的知見が不足している.そこで薬局窓口における薬剤師と患者の基本的なコミュニケーション場面を再現したVRコンテンツを制作し,その教育的活用に先立つ基礎的検討として,本VR及びVRを用いた実習が薬学生及び高校生にどのように受け止められるかを把握することを目的にアンケート調査を実施した.
VRゴーグルとしてMeta Quest 2及び3(Meta Platforms, Inc., USA)を使用した.
2. 実教育へのVRコンテンツの導入VRコンテンツは,薬剤師が患者に対して吸入ステロイド製剤の使用法を指導する「薬局窓口での医療面接」とした7).なお本VRコンテンツは薬局内で撮影した薬剤師と模擬患者の医療面接を,各々の視点から動画で確認できるが,視聴者自身はVR内で会話や手技を行うものではない.また本VRコンテンツは,学年ごとの教育目的に応じて,以下のように実習へ導入した.薬学部1年生に対しては,1症例を題材にsmall group discussion(SGD)を通じて薬学的プロブレム及び介入プランの検討を行った後,服薬指導のロールプレイ演習と模擬患者への服薬指導演習を実施した.本VRコンテンツは,服薬指導前に指導方法の一例を共有する教材としてSGD中の調査時間に,7~9名を1班として視聴させた.薬学部4年生に対しては,実務実習開始前に服薬指導の記録及び評価の視点を確認することを目的として,事前実習の演習項目の一つとして本VRコンテンツを組み入れた.実習は1班12~16名の6班で実施し,VR視聴後にSOAP形式の服薬指導記録を作成させ,その内容についてグループ内で討議を行った.薬学部6年生には,4年生の症例検討演習にチューターとして参加後,自身の学習及び教育場面における本VRコンテンツの活用可能性を検討することを目的として,10分間のVR視聴を行った.高校生に対しては,薬剤師業務や患者対応の具体像を理解することを目的として,オープンキャンパス又はファーマカレッジにおいて薬剤師業務の体験及び見学の一例とし,1グループ最大10名とし,15分間隔でVRコンテンツの視聴を実施した.なおファーマカレッジは高校生を対象とした本学の体験型教育イベントであり,オープンキャンパスと同様に薬学教育の理解促進を目的として実施されている.
3. VRコンテンツの評価方法本報告で扱う教育実践は,静岡県立大学の倫理委員会の承認の上で実施した(承認番号4-54,6-4).2023年4月から2025年3月において,薬学部生(1年生,4年生及び6年生)を対象にVRコンテンツの視聴を含む実習に参加後,アンケート用紙を配布した.また高校生はファーマカレッジやオープンキャンパス時のVRコンテンツを用いた実習体験に参加後,アンケート用紙を配布した.なお本実践の趣旨の説明及びアンケート調査の目的を事前に説明し,アンケートへの回答をもって本報告への協力に同意したものとみなした.また協力の有無が成績評価に影響しないことを十分に説明した上で,VRゴーグルの使用方法を説明し実施した.なおアンケートは無記名で実施し,未回答項目は各解析から除外した.
4. アンケート評価項目「薬局窓口での医療面接」のVRコンテンツに関して,(1)自分がその場にいる感覚がある(臨場感),(2)自分がその場で面接をしている感覚がある(行為主体感),(3)医療面接を行う上で参考になると思う(有用性),(4)自分がイメージする臨床現場(6年生以外)又は臨床実習での臨床現場(6年生)と同じである(臨床一致性)を評価した.さらにVRを用いた実習に対する学生の受け止め方を評価するアンケートとして,(1)VR動画は興味をもって視聴できた,(2)薬剤師の業務を学ぶ時に役立つと思う,(3)VRを視聴して疲労感がある,(4)またVRを用いた実習があれば参加したい,(5)薬剤師の仕事を知ることができた,(6)薬剤師の仕事に興味をもてた,(7)VRを見て今までの薬剤師に対する認識に変化があるか,を評価した.各評価項目は5-point scale(5:あてはまる,4:ややあてはまる,3:どちらともいえない,2:ややあてはまらない,1:あてはまらない)により評価し,VRを用いた実習に対する(7)VRを見て今までの薬剤師に対する認識に変化があるかについては,あり又はなしについて評価し,変化の内容についても調査した.さらに各アンケート評価には自由記述の欄を設けた.
5. 共起ネットワーク分析自由記述内容に関しては,KH Coder(株式会社SCREENアドバンストシステムソリューションズ,京都)を用いて解析した.アンケートの自由記述の誤字脱字を修正し,共起ネットワーク分析を実施した.なお単語の最小出現数は自由記述記載人数により調整を行い,70名以上の場合は5回,40名以上70名未満では4回,40名未満では3回と設定した.
「薬局窓口での医療面接」を題材としたVRコンテンツの評価には,高校生171名,薬学部1年生175名,4年生158名,6年生47名の計551名が回答した.全体として,「臨場感」「有用性」「臨床一致性」について,5(あてはまる)又は4(ややあてはまる)と評価した学生の割合は,いずれも91.3%以上であった(図1A~D).「自分がその場にいる感覚がある(臨場感)」の設問に対し,各群で5又は4と評価した割合は85.1~97.9%であり,いずれの群においても高い評価が得られた(図1A).「自分がその場で面接をしている感覚がある(行為主体性)」に対して5又は4と評価した割合は,高校生では84.2%であったが,1,4及び6年生では各々69.1%,66.5%及び68.1%であった(図1B).「医療面接を行う上で参考になると思う(有用性)」に対する5又は4の評価は,全学年で93.7%以上を示した(図1C).臨床一致性については,1(あてはまらない)又は2(ややあてはまらない)と回答した学生は,高校生及び6年生で0.0%,1年生で2.3%と少数であった.4年生においても,1名にとどまった(図1D).

「薬局窓口での医療面接」のアンケート評価.全学年n = 551,高校生n = 171,1年生n = 175,4年生n = 158,6年生n = 47である.
自由記述には,「服用法を細かく説明しており,患者に寄り添っている所が印象に残った」「患者が自分を見て話しているので実際に面接している感覚になった」「服薬指導の参考になると思った」「患者の理解度を確かめながら指導している様子が分かりやすかった」といった内容が記載された.これらの自由記述を基に作成した共起ネットワークを図2及び図3に示す.高校生及び1年生では,「患者」「薬剤」「実際」「説明」などの単語グループが形成された(図2).4年生では「吸入」「使用」「方法」「説明」といった用語が共起された.6年生においては,「実習」「イメージ」「前」などに関連する単語が検出された(図3).

「薬局窓口での医療面接」の高校生及び薬学部1年生における自由記述の共起ネットワーク分析.高校生及び薬学部1年生の単語の最小出現数は5回と設定した.共起ネットワークでは,各円の大きさは出現頻度を表し,共起の強い単語が線で結ばれる.

「薬局窓口での医療面接」の薬学部4年生及び6年生における自由記述の共起ネットワーク分析.学部4年生及び薬学部6年生の単語の最小出現数はそれぞれ5回及び3回と設定した.共起ネットワークでは,各円の大きさは出現頻度を表し,共起の強い単語が線で結ばれる.
VRを用いた実習に対するアンケート評価結果を表1に示した.高校生176名,1年生181名,4年生154名,6年生47名の合計558名が回答した.「VR動画は興味を持って視聴できた」に対して,5又は4と回答した割合は,高校生と6年生で100%,1年生で94.5%,4年生で95.5%と,いずれも高評価であった.「薬剤師の業務を学ぶときに役立つと思う」という問いに1又は2と回答した学生は,高校生及び6年生では0.0%であった.「VRを視聴して疲労感がある」という項目では,5又は4と評価した割合は37.5~74.7%であった(高校生37.5%,1年生50.8%,4年生74.7%,6年生59.6%).「またVRを用いた実習があれば参加したい」の設問に対して5と回答した割合は,高校生42.9%,1年生33.1%,4年生31.2%,6年生25.5%であった.「薬剤師の仕事を知ることができた」及び「薬剤師の仕事に興味をもてた」という質問では,それぞれ90.9~99.4%,84.4~98.9%の高い肯定的評価が得られた.またVRを視聴したことで今までの薬剤師に対する認識に変化があったか,という問いに「変化がある」と回答した高校生は31.4%であった.変化の内容は,「患者に説明する時は言葉だけでなく表情やジェスチャーも使用することでさらに理解しやすくなる」「人と関わる際は空気感が大切だと思った」のような記述が見られた.1及び4年生でも7.3%及び12.7%の学生は変化があったと回答しており,内容には「患者に対して分かりやすく丁寧にやさしく話すことが必要であるとより一層感じられた」「想像以上に親身になって患者と接している」のような回答が得られた.これらに対して6年生では認識の変化を感じた割合は4.3%と低値であった.一部の自由記述では,VR酔いに関する言及も認められた.
VRを用いた実習に対する学生へのアンケート評価
| 評価項目 | 対象 | 評価(%) | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | ||
| (1)VR動画は興味をもって視聴できた | 高校生(n = 176) | 88.1 | 11.9 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
| 1年生(n = 181) | 66.9 | 27.6 | 4.4 | 1.1 | 0.0 | |
| 4年生(n = 154) | 73.4 | 22.1 | 3.9 | 0.6 | 0.0 | |
| 6年生(n = 47) | 83.0 | 17.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | |
| (2)薬剤師の業務を学ぶ時に役立つと思う | 高校生(n = 176) | 87.5 | 11.4 | 1.1 | 0.0 | 0.0 |
| 1年生(n = 181) | 68.5 | 28.2 | 1.7 | 1.7 | 0.0 | |
| 4年生(n = 154) | 68.2 | 26.6 | 3.2 | 0.6 | 1.3 | |
| 6年生(n = 47) | 76.6 | 21.3 | 2.1 | 0.0 | 0.0 | |
| (3)VRを視聴して疲労感がある | 高校生(n = 176) | 6.3 | 31.3 | 11.9 | 40.3 | 10.2 |
| 1年生(n = 181) | 19.3 | 31.5 | 19.9 | 19.3 | 9.9 | |
| 4年生(n = 154) | 37.7 | 37.0 | 11.7 | 8.4 | 5.2 | |
| 6年生(n = 47) | 10.6 | 48.9 | 23.4 | 8.5 | 8.5 | |
| (4)またVRを用いた実習があれば参加したい | 高校生(n = 175) | 42.9 | 45.7 | 8.6 | 2.3 | 0.6 |
| 1年生(n = 181) | 33.1 | 42.0 | 19.3 | 5.5 | 0.0 | |
| 4年生(n = 154) | 31.2 | 37.7 | 22.1 | 6.5 | 2.6 | |
| 6年生(n = 47) | 25.5 | 48.9 | 25.5 | 0.0 | 0.0 | |
| (5)薬剤師の仕事を知ることができた | 高校生(n = 176) | 75.0 | 24.4 | 0.6 | 0.0 | 0.0 |
| 1年生(n = 181) | 52.5 | 41.4 | 6.1 | 0.0 | 0.0 | |
| 4年生(n = 154) | 56.5 | 34.4 | 6.5 | 2.6 | 0.0 | |
| 6年生(n = 47) | 59.6 | 34.0 | 4.3 | 2.1 | 0.0 | |
| (6)薬剤師の仕事に興味をもてた | 高校生(n = 176) | 76.7 | 22.2 | 1.1 | 0.0 | 0.0 |
| 1年生(n = 181) | 49.7 | 40.3 | 9.9 | 0.0 | 0.0 | |
| 4年生(n = 154) | 43.5 | 40.9 | 13.6 | 1.9 | 0.0 | |
| 6年生(n = 47) | 53.2 | 31.9 | 14.9 | 0.0 | 0.0 | |
評価は,5:あてはまる,4:ややあてはまる,3:どちらともいえない,2:ややあてはまらない,1:あてはまらない,を示す.
本報告では,薬局窓口における医療面接の様子を再現したVRコンテンツ7) を実教育に導入し,学生がどのように受け止め,評価したのかを調査した.各学生のアンケート評価から,本VRコンテンツは高い臨場感を提供する教材であると考えられた.過去の研究においても,360°カメラを用いて制作された嚥下造影検査のVR教材に対し,98%の視聴者が臨場感を感じたと報告されている8).学年別の評価において臨場感のスコアは85.1~97.9%と大きな差が認められず,VR視聴の臨場感は年齢や薬学的知識の程度による影響を受けにくい可能性が示唆された.一方,行為主体感に関する肯定的評価は全体で73%と,臨場感や有用性,臨床一致性に比してやや低値となった.この要因として,本コンテンツでは視聴者がVR内で実際に会話へ介入できない点が挙げられる.薬剤師と患者の両視点から面接を観察できる点は,面接手技の学習に有用であるが,視聴者自身が面接を行っている感覚は得にくいと考えられた.
有用性に関しては,95%以上の学生が本コンテンツを有用と評価した.医療教育分野では,動画を用いて熟練者の手技や対応を観察することによる観察学習や模倣学習が,その後の手技理解やパフォーマンス向上に寄与することが報告されており9,10),本VRコンテンツも医療面接手技を学ぶための教材として一定の教育的価値を有する可能性が示唆された.自由記述の内容からも,患者に応じた対応の重要性に気づくなど,実践的な視点からの学びが得られたことが確認できた.さらに「表情やしぐさの変化に着目しやすかった」「手元まで見ることができた」とのコメントもあり,従来の医療面接動画では把握しにくい手元の動きやアイコンタクト,相槌,表情などを,薬剤師及び患者双方の視点から観察可能である点も高評価を得た一因と考えられる.
共起ネットワーク分析の結果,高校生及び薬学部1年生では,薬剤師が患者に服薬指導を行う様子に関心が集まっていた.一方で薬学部4年生では,薬に関する専門的知識の習得を背景に,吸入薬の使用法や説明に対する注目が見られた.さらに薬学部6年生では,後進育成の視点から本コンテンツの教育導入方法について,自身の経験を踏まえて言及していることが示唆された.これらの結果は,VR視聴時の学習目的や実習内容,学生に求められている役割といった学習文脈の違いを反映している可能性がある.さらに学習段階や薬学的知識の程度の違いも影響し,学生がVR視聴時に注目する内容が変化した可能性が示唆された.
また多くの学生が「興味を持って視聴できた」「薬剤師業務の理解に役立った」といった肯定的な意見が得られ,本VRコンテンツは教育上有益なツールになり得る可能性があると考えられた.さらに7~8割の学生が「VR実習があれば再度参加したい」と回答しており,学生に受け入れられやすい教育方法であることが示された.一方で,一部の学生からは視聴による疲労感やVR酔いに関する記述が認められ,これは過去の報告とも一致している11).特に4年生では「VRを視聴して疲労感がある」と回答した割合が高値であった.この背景として,本VR実習は事前実習(OSCE前教育)の一環として約3週間の実習の最終日に実施しており,さらに当日は90分の実習を3コマ行うスケジュールの中で実施されたことから,実習全体の負荷や実施タイミングが影響した可能性が考えられる.そのため,疲労感の評価にはVRコンテンツそのものだけでなく,実習全体の状況が影響した可能性がある.VR導入は視聴時間や休憩の取り方など,疲労やVR酔いへの配慮を行うことが重要である.
高校生においては,本VRの視聴を通じて,薬剤師業務に関する捉え方に変化を感じたと回答する学生が一定数認められた.特に薬剤師が多様な情報を聴取及び提供し,工夫を凝らしたコミュニケーションを行っている様子に対して,気づきを得た可能性が示唆された.このことから,本VRコンテンツは薬剤師業務の理解や薬剤師の役割を紹介する教育的資料としても活用可能であることが示唆された.
本報告の限界として,VRコンテンツの評価がアンケート調査に基づく主観的評価に限られている点が挙げられる.さらに本アンケートは教育活動の一環として実施されたため,無記名によるアンケート調査ではあるものの,社会的望ましさバイアスの影響が含まれている可能性も否定できない.また本研究では,対象群ごとにVR視聴前後の学習活動や教育目的が異なっていたこと,さらにVR視聴前の事前調査を実施していないことから,学年間の統計的比較や視聴による意識変化を前後比較で検証することはできない.今後,同一内容の服薬指導をVRコンテンツと通常の動画で視聴した群を比較し,医療面接技術の習得効果を検証する必要がある.
本報告では薬局窓口における薬剤師と患者の基本的なコミュニケーション場面を再現したVRコンテンツを制作し,その導入実践を通じて学習者の受け止め方を調査した.その結果,本VRコンテンツは,薬学教育において臨場感のある学習環境を提供し,薬剤師業務を観察的に体験するための教育ツールとして活用可能な教材となり得ることが示唆された.また本VRは既存の実習や演習にも比較的円滑に組み込むことが可能であり,高校生から薬学部上級生に至るまで,学習段階に応じた活用が検討可能な実践的教材の一例になり得ることも示唆された.
本報告の実施にあたり,ご協力いただいた静岡県立大学薬学部 大瀧晃一氏,中井結奈氏,石坂駿氏に感謝申し上げます.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.