薬学教育
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短報
薬学生におけるメタ認知的学習方略の因子構造の検討
井上 信宏, 大野 修司, 山内 理恵, 久保 元, 江上 佳那, 山﨑 正博
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電子付録

2026 年 10 巻 論文ID: e10033

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抄録

本研究では,一私立薬科大学の薬学生1~6年生を対象に,メタ認知的方略の因子構造を6学年相当のコホートにおいて横断的に検討した.検証的因子分析の結果,対象薬学生のメタ認知的方略は,モニタリング方略とプランニング方略の2因子構造で捉えられることが示唆された.加えて,試験成績が得られた2年生,4年生及び6年生において方略と成績との関連を探索的に検討した結果,モニタリング方略を起点とする一定の関連パターンが観察された.以上より,薬学生におけるメタ認知的方略は2因子構造として把握される可能性が示唆され,教育的支援を検討する際にモニタリング方略に着目することが重要であると考えられた.

Abstract

This study examined the factor structure of metacognitive strategies cross-sectionally across six grade-equivalent cohorts of pharmacy students from the first to sixth years of a private pharmaceutical university. Confirmatory factor analysis revealed that metacognitive strategies among these pharmacy students could be represented by a two-factor structure comprising monitoring and planning strategies. Furthermore, an exploratory analysis of the associations between learning strategies and academic performance in the second, fourth, and sixth years, for which examination scores were available, revealed a consistent pattern of associations originating from monitoring strategies. These findings suggest that metacognitive strategies in pharmacy students may be understood as a two-factor construct and that particular attention to monitoring strategies is important when considering educational support.

 目的

令和4年に改訂された薬学教育モデル・コア・カリキュラムでは,予測困難な社会の変化に対し柔軟に対応できる人材を育成すべく,単なる知識の網羅的な修得に留まらず,知識の統合による体系的な理解に基づいた応用力や問題解決能力,臨床推論能力の獲得が薬学生に求められている1).また学部教育だけでなく卒業後においても,常に最新のガイドラインや医療技術の進歩に対応できるだけの,自律的な生涯学修の姿勢を確立することが不可欠である.このような長期間にわたる高度な専門教育課程において,学修者が効果的に学修を遂行するためには,単に学修量を確保するだけでなく自らの学修プロセスを客観的に捉え必要に応じて調整する自己調整学習2,3) の能力を身に着け,状況に応じた適切な学習方略を選択することが重要となる4).自己調整学習は,学習者が目標設定,方略選択,遂行中のモニタリング,自己省察を通して学習を調整する過程として捉えられており2,3),主要な構成要素としてメタ認知,動機づけ,学習方略が位置づけられる5).

自己調整学習の中核をなす「メタ認知的方略」は,例えば学修計画を事前に立てたり,随時自身の理解を省察したりといったように,自身の認知活動をモニターしコントロールする高次の役割を果たす行動であり,効果的な学修を支えるマネージャーとしての機能を有している6,7).薬学教育における「メタ認知的方略」に関する研究では,初年次の学生を対象とした検討が行われており,「メタ認知的方略」が定期試験の成績と正の関連を示すことや8),成績下位学生に対するメタ認知的支援がモニタリング能力の向上や誤概念の修正に寄与することが報告されている9).さらに「メタ認知的方略」は,薬学部の総合演習科目の試験成績の向上に有効と示されている10,11) 「深い処理方略」の使用を促進し,間接的に学業成績を向上させることが示唆されている7).このように,特に薬学教育では基礎から臨床へと連続する膨大かつ累積的な知識を扱い,学年進行とともに知識の統合的理解や応用が求められることから,自身の状態を点検しながら学修を進める「メタ認知的方略」の重要性は高いと考えられる.

一方で,メタ認知的方略の下位構造については,単一因子として扱う立場7) に加えて,プランニング方略とモニタリング方略など複数の側面から捉える立場12,13) も示されており,必ずしも一貫していない.したがって,特定の集団においてメタ認知的方略を測定しその関連を検討する際には,まず当該集団において尺度がどのような因子構造として成立しているかを確認する必要がある.特に,薬学生を対象として「メタ認知的方略」の因子構造を検討した研究は,著者らの知る限りみられない.因子構造が明らかでなければ,メタ認知的方略を単一概念として扱うべきか,あるいは複数の側面に分けて解釈すべきかが不明確であり,認知的方略や学業成績との関連の解釈,さらには教育的支援の焦点化にも影響する.以上を踏まえ,本研究では,一私立薬科大学の薬学生を対象として,メタ認知的方略尺度の因子構造を検討し,複数学年コホートにおける尺度構造の安定性を確認することを主目的とした.さらに,認知的方略との関連を通じてその構成概念上の位置づけを補足的に検討し,試験成績が得られた2年,4年,6年生について学業成績との関連を探索的に検討した.

 方法

1. アンケート調査

調査対象は2024年度に在籍した星薬科大学の全学生1,654名とした.実施時期は,1年生から4年生及び6年生は2024年4月のガイダンス時に,5年生は学外における実務実習期間中の回答困難性及び学修状況の特殊性を考慮し,2024年度に5年次として在籍していたコホートを対象に,6年次に進級直後の2025年4月に調査を実施した.したがって,本研究における複数学年の比較は,修学年次そのものの差異を厳密に比較するものではなく,各学年相当コホートにおける横断的特徴を把握するものとして解釈する必要がある.調査方法は,GoogleフォームへのQRコードを記載した紙を配布し,各自のスマートフォンで読み取らせて回答させた.

調査項目のうち,メタ認知的方略は大学生を対象に内的整合性が確認されているメタ認知的方略尺度7) を用いた(表1).この尺度には,自分で決めた計画にそって勉強する(プランニング方略),勉強のやり方が自分にあっているかどうかを考えながら勉強する(モニタリング方略),など6項目が含まれた.認知的方略は,薬学生への信頼性が確認されている認知的方略尺度7,10) を用いた.この尺度には,学修内容を何かに繰り返し書いて覚える「反復作業方略」3項目,新しい学修内容を今まで習った知識と関連付けて覚える「深い処理方略」6項目,学修内容をノートにまとめることで覚える「まとめ作業方略」3項目が含まれた(表1).これらの調査項目への回答は,「全くあてはまらない」から「よくあてはまる」の5件法で求められた.

表1

アンケート調査項目の記述統計

1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 6年生
回答数 247 250 212 189 157 178
回答率(%) 87.3 91.2 71.4 73.3 59.7 63.8
No 質問項目/下位尺度 平均値(標準偏差)
プランニング方略 3.38(0.85) 3.63(0.88) 3.68(0.89) 3.55(0.94) 3.62(0.94) 3.65(0.93)
Q1 自分で決めた計画にそって勉強する. 3.15(1.08) 3.36(1.11) 3.50(1.15) 3.26(1.18) 3.46(1.11) 3.53(1.06)
Q2 これから何をどうやって勉強するかを考えてから勉強する. 3.83(0.88) 4.03(0.91) 4.03(0.90) 3.87(0.92) 3.82(0.97) 3.83(1.01)
Q3 最初に計画を立ててから勉強する. 3.17(1.18) 3.50(1.14) 3.52(1.17) 3.52(1.18) 3.58(1.12) 3.58(1.08)
モニタリング方略 4.05(0.56) 4.07(0.62) 3.95(0.67) 3.85(0.64) 4.08(0.61) 3.97(0.68)
Q4 勉強のやり方が自分にあっているかどうかを考えながら勉強する. 3.85(0.85) 3.92(0.89) 3.84(0.91) 3.79(0.88) 4.11(0.79) 3.90(0.91)
Q5 やった内容を覚えているかどうかをたしかめながら勉強する. 4.20(0.78) 4.25(0.73) 4.07(0.76) 3.89(0.87) 4.06(0.82) 4.07(0.83)
Q6 自分が分からないところはどこかをみつけようとしながら勉強する. 4.10(0.77) 4.06(0.87) 3.94(0.81) 3.86(0.87) 4.06(0.80) 3.94(0.82)
反復作業方略 3.35(1.02) 3.66(1.01) 3.44(1.05) 3.40(1.07) 3.52(0.97) 3.49(1.12)
Q7 勉強するときは,何かに書きながら学習を進める. 3.96(0.98) 4.16(0.88) 3.94(1.02) 3.88(1.03) 3.99(0.93) 3.86(1.18)
Q8 用語などを覚えるとき,何かに書きうつしながら勉強する. 3.08(1.29) 3.53(1.27) 3.33(1.28) 3.26(1.27) 3.52(1.19) 3.45(1.27)
Q9 用語などを覚えるときは,繰り返し書いて覚える. 3.00(1.37) 3.30(1.33) 3.06(1.34) 3.04(1.42) 3.06(1.29) 3.17(1.40)
深い処理方略 4.04(0.50) 4.05(0.56) 3.99(0.59) 3.88(0.59) 4.10(0.53) 3.97(0.67)
Q10 前に習ったことを思い出しながら,勉強を進める. 4.23(0.59) 4.11(0.72) 4.03(0.77) 3.77(0.85) 4.04(0.82) 3.88(0.98)
Q11 勉強するときは,同じ内容はまとめて覚える. 4.02(0.85) 4.08(0.80) 3.96(0.88) 3.98(0.87) 4.05(0.79) 3.98(0.85)
Q12 勉強するときは,その内容を頭の中に思い浮かべながら学習を進める. 4.04(0.70) 4.11(0.68) 4.06(0.75) 3.97(0.79) 4.14(0.75) 4.07(0.80)
Q13 用語などを覚えるとき,似たようなものをまとめて覚える. 3.80(0.95) 4.00(0.85) 3.94(0.78) 3.99(0.78) 4.06(0.84) 3.94(0.92)
Q14 勉強するときは,内容を関連づけて覚える. 4.11(0.73) 4.04(0.76) 4.02(0.75) 3.88(0.82) 4.20(0.63) 4.03(0.82)
Q15 勉強するときは,新しい内容と今まで習ってきたことを頭の中で結びつける. 4.06(0.78) 3.96(0.83) 3.90(0.85) 3.68(0.87) 4.10(0.76) 3.90(0.86)
まとめ作業方略 2.64(0.91) 3.17(1.02) 3.26(1.13) 3.22(1.10) 2.97(1.10) 3.08(1.16)
Q16 ノートを自分なりにまとめ直して勉強する. 2.60(1.19) 3.24(1.22) 3.37(1.26) 3.36(1.28) 3.10(1.26) 3.15(1.30)
Q17 勉強するとき,教科書や問題集の内容をノートにまとめている. 2.87(1.12) 3.38(1.16) 3.41(1.23) 3.36(1.22) 3.14(1.25) 3.20(1.30)
Q18 教科書や問題集を読むとき,その内容の大筋をノートに書いてまとめる. 2.46(1.04) 2.89(1.18) 3.02(1.29) 2.94(1.28) 2.68(1.21) 2.89(1.23)

回答率(%)は各学年の在籍者数に対する割合を示す.総回答率74.5%.

2. 試験成績

解析に用いた試験成績は,いずれも対象学年の全員が後期に受験する科目の定期試験の正答率である.2年生では2年次までに学ぶ物理・化学・生物の3領域に含まれる内容を総合的に復習する科目,4年生では4年次までに修得すべき基本的な薬学知識を復習する総合科目,6年生では6年間で学ぶ全ての薬学知識を総復習する総合科目の試験成績をそれぞれ用いた.回答者と未回答者の比較にはt検定を用いた.

3. 分析方法

1) 検証的因子分析

得られた調査データについて「全くあてはまらない」から「よくあてはまる」をそれぞれ1~5の数値に変換し,IBM SPSS Amos 26を用いて検証的因子分析を行い薬学生におけるメタ認知的方略の因子構造を推定した.各学年相当コホートでの因子の同等性を確認するため,等値制約を置かない配置不変モデルと,因子負荷量を等値とする測定不変モデルについて最尤推定法で多母集団同時分析14) を行った.また,認知的方略も含めた検証的因子分析も同様に行った.モデルの適合度は,Comparative Fit Index(CFI,基準 ≥ 0.9),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA,基準 ≤ 0.08),及びAkaike’s Information Criterion(AIC,基準モデル間でより小さい方)によって評価した.また,jamovi 2.6.44を用いてω係数を算出した.因子の弁別性については,共通方法因子(common latent factor, CLF)を導入した感度分析,heterotrait–monotrait ratio(HTMT比)及び減衰補正相関r*の算出により点検した(詳細は表S2~S4に示す).

2) パス解析

各因子に負荷する下位尺度の算術平均値(尺度得点),及び2年,4年,6年生の試験成績を変数に用いたパス解析を学年別に行った.メタ認知的方略と認知的方略間の構造は,自己調整学習理論と,大学生7) 及び中学生15) を対象に行った先行研究の枠組みを参考に,メタ認知的方略が認知的方略の使用に関連し,その先に試験成績と関連するというモデルに設定した.また,著者らの先行研究10) では薬学生において認知的方略と試験成績との関連が示されていることから,本研究ではその上位概念としてのメタ認知的方略を含めた関連構造を探索的に検討した.ただし,先行研究10) では方略の調査時期が10月,試験実施が11月と近接しているのに対し,本研究ではそれぞれの時期が4月及び11月と解離しているため,試験成績との関連は探索的分析として位置づけた.なお,モデルでは外生変数間及び内生変数の誤差間に共分散を設定した.

4. 倫理的配慮

調査にあたり,予め本研究の趣旨,研究不参加によって何ら不利益を受けないこと,研究対象となることへの同意をいつでも撤回できること,個人のプライバシー保護に配慮することを文書及び口頭で説明し,アンケート調査への回答をもって研究参加への同意を得ることとした.本研究は,星薬科大学倫理審査委員会の承認を得て実施された(審査番号:2023-27).

 結果

1. 記述統計及びメタ認知的方略の検証的因子分析

アンケート調査の結果,全学生1,654名のうち1,233名(74.5%)から回答を得た(表1).メタ認知的方略を推定するに当たり,1因子構造7) と2因子構造(プランニング方略,モニタリング方略)12,13) が報告されていることから,それぞれの因子構造を推定してその適合度を比較した.各学年でのメタ認知的方略尺度の構成について多母集団検証的因子分析を行った結果,1因子構造では全てのモデルで適合度が基準に満たなかった(表2).一方,2因子構造では測定不変モデル(CFI = 0.919, RMSEA = 0.045, AIC = 349.3)で良い適合を示した.このとき内的整合性を示すω係数は,プランニング方略は全学年で0.740~0.861と高い値を示した一方,モニタリング方略は1年生のみが0.514と低く,他学年は0.612~0.750と概ね許容範囲を示した.なお,配置不変と測定不変モデルのΔCFIが0.011と境界的であったため,1年生を除いた2〜6年生で感度分析を行ったところ,CFIは向上し配置不変から測定不変への適合低下は小さい(ΔCFI = 0.008)ことが示された(表2).

表2

メタ認知的方略の多母集団同時分析

因子負荷量 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 6年生
Q1 0.780 0.806 0.780 0.831 0.847 0.867
Q2 0.577 0.602 0.614 0.654 0.655 0.623
Q3 0.763 0.817 0.834 0.879 0.896 0.890
Q4 0.491 0.536 0.662 0.520 0.591 0.624
Q5 0.438 0.578 0.644 0.499 0.540 0.616
Q6 0.589 0.623 0.820 0.599 0.692 0.771
ω係数
プランニング方略 0.740 0.778 0.782 0.829 0.858 0.861
モニタリング方略 0.514 0.612 0.750 0.645 0.646 0.716
因子分散
プランニング方略 0.783 0.874 0.910 1.065 1.022 0.957
モニタリング方略 0.206 0.292 0.433 0.280 0.301 0.411
因子共分散
(相関係数)
0.162***
(0.402)
0.294***
(0.582)
0.261***
(0.416)
0.232***
(0.424)
0.257***
(0.463)
0.363***
(0.579)
適合度
2因子構造 CMIN 自由度 確率 CFI RMSEA AIC
配置不変モデル 190.6 48 0 0.930 0.049 346.6
測定不変モデル 233.3 68 0 0.919 0.045 349.3
1因子構造
配置不変モデル 494.8 54 0 0.784 0.082 638.8
測定不変モデル 543.0 79 0 0.773 0.069 637.0
感度分析(1年生除く2~6年生のみ)
配置不変モデル 157.6 40 0 0.934 0.055 287.6
測定不変モデル 187.2 56 0 0.926 0.049 285.2

因子負荷量は2因子構造測定不変モデルの値を示す.*** p < 0.001.

2. メタ認知的方略と認知的方略を併せた検証的因子分析

メタ認知的方略2因子と認知的方略3因子を含めた多母集団検証的因子分析では,測定不変モデルが適合度の基準を満たした(表3).一方,モニタリング方略と深い処理方略の因子間相関は0.723~0.966と高値を示し,両因子の弁別性に懸念が生じた.両因子を統合したモデルの適合度(AIC = 2,043.7)は,2因子モデル(AIC = 2,021.4)よりも悪化した.全データは表S1に示した.加えて,CLFの導入による感度分析では,共通方法成分の存在が示唆された一方,両因子の関連は学年によっては高水準が残存した(表S2).またHTMT比による評価では,学年により閾値を上回る値が観察された(表S3).なお,尺度得点に基づく減衰補正相関r*による点検でも高水準が示され,検証的因子分析で得られた因子間相関と整合的であること,先行研究12) のr*も高水準になり得ることが確認された(表S4).

表3

メタ認知的方略及び認知的方略の多母集団検証的因子分析(抜粋)

適合度 CMIN 自由度 確率 CFI RMSEA AIC
配置不変モデル 1,503.3 750 0 0.914 0.029 2,055.3
測定不変モデル 1,599.4 815 0 0.911 0.028 2,021.4
感度分析(モニタリング方略及び深い処理方略の統合因子モデル)
配置不変モデル 1,588.4 780 0 0.908 0.029 2,080.4
測定不変モデル 1,681.7 845 0 0.905 0.028 2,043.7
因子間相関係数 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 6年生
モニタリング⇔深い処理 0.966 0.855 0.963 0.723 0.932 0.949

感度分析は,モニタリング方略と深い処理方略の弁別性を検討するための,両因子を統合したモデルである.

3. パス解析

メタ認知的方略,認知的方略及び試験成績の関連を探索的に検討するため,2年生,4年生及び6年生のデータを用いたパス解析を行った.なお,アンケート調査回答者と未回答者とで試験成績の平均正答率 ± SEを比較したところ,2年生(回答者64.0 ± 0.9,未回答者66.2 ± 3.1,p = 0.51)では差はなかったが,4年生(回答者74.1 ± 1.0,未回答者67.5 ± 1.5,p = 0.001,Cohen’s d = 0.49)及び6年生(回答者67.7 ± 0.8,未回答者64.1 ± 1.1,p = 0.008,Cohen’s d = 0.34)で差がみられた.パス解析の結果,モデルの適合度は3学年いずれも良好な値を示した(表4).深い処理方略から試験成績への標準化パス係数は,3学年いずれも正の影響を示した(β = 0.147~0.290, p < 0.05).また,モニタリング方略から深い処理方略へのパスはいずれの学年も正の関連を(β = 0.461~0.687, p < 0.05),プランニング方略から深い処理方略へのパスは3学年いずれも正の関連(β = 0.119~0.145, p < 0.05)を示した.なお,4年次成績を統制変数とした6年生のmodel 2でも,統制しないmodel 1と比較して全体的な傾向に変化は見られなかった.

表4

メタ認知的方略,認知的方略及び試験成績のパス解析

2年生 4年生 6年生model 1 6年生 model 2
モニタリング方略 → 深い処理方略 0.547*** 0.461*** 0.687*** 0.687***
プランニング方略 → 深い処理方略 0.145** 0.135* 0.119* 0.119*
モニタリング方略 → 反復作業方略 0.173* 0.019 0.125 0.125
プランニング方略 → 反復作業方略 0.049 0.067 0.058 0.058
モニタリング方略 → まとめ作業方略 0.087 –0.073 0.032 0.032
プランニング方略 → まとめ作業方略 0.212** 0.298*** 0.314*** 0.314***
深い処理方略 → 試験成績 0.267*** 0.147* 0.290*** 0.210***
反復作業方略 → 試験成績 –0.078 –0.101 0 0.033
まとめ作業方略 → 試験成績 –0.002 0.174* –0.094 –0.081
4年次試験成績 → 試験成績 0.728***
 
適合度 CMIN 自由度 確率 CFI RMSEA
2年生 3.39 2 0.183 0.994 0.053
4年生 0.651 2 0.722 1 0
6年生 model 1 2.58 2 0.275 0.998 0.041
6年生 model 2 12.09 7 0.098 0.998 0.064

6年生model 2では,6年次試験成績に対する統制変数として4年次に受験した総合科目の試験成績を用いた.* p < 0.05,** p < 0.01,*** p < 0.001.

 考察

本研究では,一私立薬科大学の薬学生を対象として,メタ認知的方略の因子構造を検討し,併せて認知的方略及び試験成績との関連を探索的に分析した.その結果,対象学生におけるメタ認知的方略はモニタリング方略とプランニング方略から成る2因子構造として捉えられることが示唆された(表2).このことは,薬学生がメタ認知的な学修行動を「計画を立てる」側面と「学修状況を把握する」側面とに区別して捉えている可能性を示している.特に,モニタリング方略は全学年を通して比較的高値を維持しており,学生が自身の学修状況を意識的に把握しようとしている傾向が示された(表1).これらの所見は,薬学生におけるメタ認知的方略が単一のまとまりではなく,その内部に異なる機能的側面を想定することの妥当性を支持するものである.教育支援の観点からは,薬学生の知識量の確保だけでなく,学修の進め方を自己点検し調整する行動を可視化して支援する意義を示す結果と考えられる.

さらに,試験成績が得られた2年,4年及び6年生における探索的検討の結果,これら3つの学年とも特にモニタリング方略が深い処理方略に関連し,その先で試験成績につながる一定の関連パターンが観察された(表4).一方,プランニング方略も深い処理方略に関連したが,その係数はモニタリング方略と比較して小さく,成績への寄与は相対的に小さいと考えられる.ただし,本研究における回答者の試験成績は未回答者よりも有意に高く,方略からの関連の有無自体は保持されうるが,推定値の大きさは過大評価されている可能性がある.また,本結果の認知的方略と試験成績の関連は,方略の測定時期と試験時期に時間差があるため因果的には解釈できないものの,先行研究10) で示された関連パターンと概ね整合しており,薬学生における学習方略と学業成績の関連に一定の一貫性が存在する可能性を示唆する.以上のことから,本研究で観察された成績との関連は探索的な所見ではあるものの,薬学生における学習方略と学業成績の関連に関する理解を補う結果と考えられた.

認知的方略を含む5因子の検証的因子分析では,モニタリング方略と深い処理方略の因子間相関が一部の学年で極めて高く,両因子の弁別性が懸念された(表3).両因子を統合したモデルでは適合が低下したことから,モデル適合の観点では両者を別概念として扱うことが妥当と判断された.ただし,HTMT比は学年によっては高値を示し(表S3),またCLFを導入した感度分析においても,高相関が共通方法成分のみで十分に説明されないことが示唆された(表S2).一方,先行研究との比較可能性に配慮し,尺度得点相関とω係数に基づく減衰補正相関(r*)を算出したところ,モニタリング方略と深い処理方略のr*は検証的因子分析の因子間相関と整合し,潜在相関の高値は測定誤差を考慮した推定としても一貫していた(表S4).先行研究12) について参考としてr*を試算すると中〜高値となり得る例が確認され,本研究の所見は少なくとも減衰補正という枠組みでは既報と大きく乖離しないことが示唆された.以上より,薬学生の学修場面において,理解の点検(モニタリング)と内容の関連づけ(深い処理)が質問紙では似た行動として回答されやすく,その結果モデル上は区別可能なものの弁別性が十分でない可能性がある.

1年生ではモニタリング方略のω係数が相対的に低かったため,1年生を除外した感度分析を行った結果,感度分析では測定不変性がより明確に支持された(表2).このことは,学年間の等値性の仮定に対し1年生における尺度の信頼性が一定程度関与している可能性を示している.先行研究では,大学1年生はメタ認知的制御が成熟する時期であり16),またモニタリングが多様な形で現れ得ることが示唆されていることから17),尺度測定における信頼性に影響した可能性がある.本研究はコホート間の横断比較であり,発達的変化を直接示すものではないが,初年次では自己の学修状況を点検する行動が自己報告として安定に捉えられにくい可能性が示唆されたことから,初年次教育におけるモニタリング方略の適切な導入が重要と考えられる.

本研究にはいくつかの限界がある.第1に,単施設データであること,アンケート回答者は未回答者より試験成績が高いことから,母集団としての薬学生に対する外的妥当性や得られた推定値の大きさは一般化できない可能性がある.第2に,自己報告尺度で測定したため,同一方法による回答傾向の影響で関連が過大に推定されている可能性がある.特に,モニタリング方略と深い処理方略の相関は全学年で高く,両因子の弁別性は今後の検証課題である.第3に,学習方略の測定時期と試験成績の取得時期には時間差があり,成績との関連は探索的所見として解釈する必要がある.以上より,今後は複数大学での再現性検証,縦断デザインによる時間順序の確認や交差遅延効果モデルを用いた検討,ならびに初年次を含む測定モデルの安定性を精査したうえで,教育的介入研究へ展開する必要性があると考えられる.

本研究は,単一施設の薬学生を対象に,メタ認知的学習方略がモニタリング方略とプランニング方略の2因子構造として捉えられる可能性を示した.さらに,認知的方略及び試験成績との関連を補足的に検討した結果,特にモニタリング方略に着目する教育的意義が示唆された.今後の薬学教育においては,例えば,授業内での問いかけとフィードバックを通じた理解の点検9),試験後の振り返りシート(exam wrapper)の活用など18,19),モニタリング方略を支える実践を検討する余地があると考えられる.本結果の解釈には,尺度の内的整合性や構成概念の弁別性による影響に留意する必要があるが,このような知見から,薬学教育においてはメタ認知的学習方略を一括りに捉えるのではなく,特にモニタリング方略に着目して学修支援を検討することの意義が示唆された.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.

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