2026 年 10 巻 論文ID: e10040
福岡大学病院では,薬学実務実習に外来化学療法センターにおける看護師シャドーイングを導入し,薬学生の多職種連携に対する理解を深め,薬剤師の役割を再考して,その学びを実習に反映させる実習プログラムを構築した.本研究では,実習前後における薬学生の理解に関する自己評価を解析し,本プログラムの教育効果を検討した.その結果,評価したすべての項目において実習後のスコアは有意に上昇し,「看護師の役割」,「患者・家族の問題点を見いだすこと」,「薬剤師の役割」において顕著であった.さらにテキストマイニングの結果から,他職種のプロフェッショナルに触れることによって,薬学生の視野が広がり,多角的な問題抽出へとつながったことが考えられた.本プログラムは多職種連携に対する意識および臨床的視点の獲得に有効な教育法であり,多職種連携教育の重要性が高まる中,薬学教育における有用な教育手法の一つとなり得ると考えられる.
Fukuoka University Hospital added a nurse shadowing program into the pharmacy practice training at its outpatient chemotherapy center to enhance student understanding of interprofessional collaboration, promote critical reflection of the pharmacist’s roles, and facilitate application of these insights within clinical training contexts. In this study, pre- and post-training self-assessments of students’ understanding were analyzed to evaluate the program’s educational effectiveness. The results revealed that scores improved significantly across all evaluated items after the training, with increases in “understand the nurse’s role,” “ability to identify issues faced by patients and their families,” and “understand the pharmacist’s role.” Furthermore, a text-mining analysis demonstrated that exposure to professionals from other disciplines broadened students’ perspectives and facilitated multidimensional problem identification. This program appears to be an effective educational strategy for fostering awareness of inter-professional collaboration and developing stronger clinical perspectives. As the importance of inter-professional education continues to grow, this approach provides a valuable tool in pharmacy education.
近年,医療保健福祉の分野における多職種連携の重要性の高まりとともに,国内の教育機関では,医療専門職教育に多職種連携教育が導入され,学生たちのコンピテンシー獲得を目指したさまざまなプログラムが展開されている1–4).その教育手法のひとつであるシャドーイングは,早期臨床体験や実務実習などにおいて導入されており,薬学生や医学生が入院・外来の診療科において医師や看護師をシャドーイングし,他職種の役割の理解や職種間の心理的障壁の解消,さらには患者を多角的に捉える重要性を実感できるなど,その教育的有用性が報告されている5–9).一方で,薬学生が薬剤師による外来化学療法指導を見学し,患者や薬剤師に対するイメージの変化を報告した研究10) はあるが,外来がん化学療法という高度な専門的判断を要する現場において,看護師シャドーイングを通じて他職種との連携や薬剤師としての役割認識に及ぼす影響についての知見は十分ではない.これまでに我々は,がん化学療法を受ける患者に対する薬学実習生の着眼点について検討し,薬学的管理の目標が副作用に偏る傾向があることを報告した11).このことは,薬学生が薬学的視点に基づく評価に重点を置く一方で,患者の治療目標,生活背景および心理的側面を含めた包括的な視点が十分でない可能性を示唆している.このような背景から,薬学生の視野を拡張し,患者を多角的に捉えるための教育的介入が必要と考えられた.
そこで福岡大学病院(以下,当院)薬剤部では,患者に最も近い立場で身体的・心理的・社会的側面を統合的に捉えながらケアを実践する看護師に着目し,実務実習プログラムとして外来がん化学療法センター(以下,化療センター)の看護師シャドーイングを導入した.外来化学療法はチーム医療を基盤として,外来診療時間内に安全かつ効果的ながん化学療法を実施する高度な専門領域であり,当院化療センターでは医師,看護師,薬剤師をはじめとする多職種が連携して業務にあたっている.その看護師業務を観察することは副作用マネジメントや患者支援の在り方を再考する契機となり,本プログラムは,薬学生に看護師シャドーイングを通じて専門性の相対化を促すことにより,多職種連携や薬剤師としての役割に関して理解を深めるものと考える.
本研究は,化療センターでの看護師シャドーイングが,薬学生の他職種理解,連携への態度,薬剤師としての役割認識および臨床的視点の獲得に及ぼす変化を,実習前後に行ったアンケート調査に基づき解析し,令和4年度改訂版薬学教育モデル・コア・カリキュラム12) (以下,コアカリ)で掲げる資質・能力を身に付けることを目標として,本プログラムの教育効果を検討した.
当院において2025年度の第2期(2025年5月19日~7月31日),第3期(2025年8月18日~11月4日),第4期(2025年11月10日~2026年2月10日)に実務実習を行った福岡大学薬学部5年生計65名を対象とした.
2. 化療センター実習の概要2日間にわたる化療センター実習のスケジュールを図1に示す.本プログラムは,コアカリにおける「薬剤師として求められる基本的な資質・能力」の一つである「多職種連携能力」の涵養を目的として構築した.具体的には,薬学生が医療チームの目標とチームを構成する各職種の役割と責務を理解し,患者の身体的・心理的・社会的背景を含めた包括的理解を深め(F-1-1 薬物治療の個別最適化,F-2-1多職種連携への参画・薬剤師の職能発揮),薬学生が主体的にその学びを患者対応に反映させることを教育目標とした.薬学生は事前に,指導者より化療センターの施設概要,役割および機能について説明を受け,学習した上で実習に臨んだ.実習1日目は,指導者と共にスタッフミーティングに参加し,患者情報の共有と確認を行った.次に,看護師1名に対し薬学生1名を割り当て,150分間の看護師シャドーイングを実施した.薬学生は,看護師による薬剤準備および患者・薬剤・レジメンの最終確認をはじめ,穿刺やルート確保,輸液セットのプライミング・バックプライミング,薬剤の接続,逆血確認による血管外漏出の防止,投与速度の設定,抜針のほか,患者の状態把握とアセスメント,問題抽出とその対応といった一連の業務を直接観察した.その後,シャドーイング中に看護師が対応した患者について,電子カルテを用いて臨床経過や問題点を収集し,自身の観察内容と照らし合わせた振り返りを行った後,学生間でその内容を共有し,指導者からフィードバックを受けた.実習2日目は,指導者によるブリーフィングにおいて,初日の経験に基づき再考した薬剤師が果たすべき役割を,患者面談において実践することを目標とした.スタッフミーティング参加後,薬学生は1名につき2名の患者を担当し,電子カルテによる情報収集と問題抽出を行った上で,薬剤師の役割実践として患者面談に臨んだ.なお,本実習における役割実践は患者へのアプローチを主とし,薬剤調製は含まない.最後にデブリーフィングにおいて,学生間で患者面談の内容を共有して振り返りを行い,指導者からフィードバックを受けた.

外来がん化学療法センターにおける実習プログラムのタイムライン
薬学生の多職種連携に対する理解度や認識の変化を調査するため,Microsoft Formsを用いて全14項目(Q1~14)からなるアンケートを実施した(図2).本調査は,実習前後での変化を測定する定量的評価と,記述内容から認識をより詳細に検討する定性的評価を用いた.

アンケート項目
・実習前後調査;Q1~10を実習開始前と終了後に実施し,実習を通じた認識および理解度の変化を測定した.
・実習後調査;Q11~14を実習後のみに実施し,実習後の到達度および内省を評価した.
2) 評価尺度,評価方法および統計学的手法・定量的評価;Q1~8および11~13については,11段階のリッカート尺度「0:全く(理解)できない~10:よく(理解)できる」による自己評価を求めた.実習前後の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準は5%未満(p < 0.05)とした.効果量rはr = |Z|/
・定性的評価;Q9,10および14については,自由記述形式とし,得られた記述データをKH Coder313,14) を用いて解析した.解析対象語は「名詞」,「サ変名詞」,「形容動詞」,「ナイ形容」,「副詞可能」,「感動詞」,「動詞」,「形容詞」,「副詞」,「名詞C」とした.さらに,Q9,10の回答データと実習前後の関連について対応分析を行った.分析には,最小出現回数3回,差異を明確にするため上位30語を使用し,外部変数は実習前,実習後とした.
4. 倫理的配慮本研究は,福岡大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号;F26-04-001).薬学生にはオプトアウト方式により,本研究への参加を拒否する機会を与えた.
2025年度に当院で実務実習を行った薬学生65名中,欠席者3名を除く62名を解析対象とした.本プログラムの3つの教育目標である,①「医療チームの目標とチームを構成する各職種の役割と責務の理解(多職種連携)」,②「患者の身体的・心理的・社会的背景を含めた包括的理解(患者の包括的理解)」および③「主体的に学びを患者対応に反映させること(主体的実践)」と本研究の評価指標(Q1~14)との対応を以下に整理する.目標①はQ6~8,10,13,同様に②はQ1~4,11,③はQ5,9,12,14が各々評価項目に該当し,これらを踏まえた具体的解析結果を以下に示す.
1. 実習前後における理解度の比較Q1~8すべての項目において,実習後のスコアは有意に上昇した(p < 0.001).また,効果量もすべての項目において0.5以上であり,そのうちQ7「看護師の役割」(r = 0.851)が最も高く,次いでQ4「患者・家族の問題点を見いだすこと」(r = 0.784),Q8「薬剤師の役割」(r = 0.778)であった(表1).Q9,10のテキストマイニングの結果,Q9「治療現場での薬剤師の役割」では,実習前後いずれにおいても「患者」,「副作用」,「行う」,「薬」,「薬剤」が頻出上位の抽出語であった.実習後では「問題」,「解決」といった課題解決に関する語句の出現回数が増加し,「薬学的視点で患者の問題点を探り,解決策を提案すること」,「患者に寄り添い,問題解決のためにできることは何か考え,解決すること」などの記述があった(表2(a)).同様にQ10「多職種連携・協働において大切なこと」では,いずれも「職種」,「共有」,「情報」,「患者」,「専門」が抽出され,実習後では「多職種全体で目標を共有しそれに向かって協力し合うこと」,「全体で共通した目標を持ってそれぞれの専門性を発揮すること」などの記述があり,「目標」,「共通」が増加した(表2(b)).さらに,Q9の対応分析の結果では,実習前は「用法」,「用量」,「服薬」,「指導」,「説明」といった薬剤の情報提供に関する語句と対応したのに対し,実習後は「目標」,「目的」,「解決」,「問題」,「視点」といった臨床的な課題解決に関する語句に対応が見られた.同様にQ10の実習前は「報告」,「業務」,「情報」などが,実習後は「共通」,「目標」,「ゴール」などの語句に対応が見られた(図3).
Q1~Q8における実習前後の比較
| 項目 | 実習前 中央値(IQR) | 実習後 中央値(IQR) | Z値 | p値 | 効果量(r) |
|---|---|---|---|---|---|
| Q1.患者・家族の気持ちを具体的に想像すること | 6(4–6) | 7(6–8) | 5.762 | <0.001 | 0.732 |
| Q2.患者・家族の気持ちに寄り添うこと | 6(4–6) | 7(6–7) | 5.616 | <0.001 | 0.713 |
| Q3.患者・家族の話を傾聴すること | 6(6–7) | 7(6–8) | 4.531 | <0.001 | 0.575 |
| Q4.患者・家族の問題点を見出すこと | 4(3–5) | 6(5–7) | 6.175 | <0.001 | 0.784 |
| Q5.医療人としてふさわしい関わり方を考えること | 5(4–6) | 7(6–8) | 5.866 | <0.001 | 0.745 |
| Q6.医師の役割 | 5(3–6) | 7(5.3–8) | 5.882 | <0.001 | 0.747 |
| Q7.看護師の役割 | 4.5(3–6) | 7(6–8) | 6.705 | <0.001 | 0.851 |
| Q8.薬剤師の役割 | 6(4–6) | 7(6–8) | 6.123 | <0.001 | 0.778 |
Wilcoxonの符号付き順位検定におけるZ値は絶対値を示す.IQR:四分位範囲(interquartile range)
薬学生に実習前後の認識および理解度を自己評価させ,その結果をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した
Q9,Q10,Q14における頻出上位の抽出語
| (a)Q9 治療現場での薬剤師の役割(n = 62) | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 実習前 | 実習後 | ||||
| 抽出語 | 出現回数(回) | 抽出語 | 出現回数(回) | ||
| 1 | 患者 | 55 | 1 | 患者 | 59 |
| 2 | 副作用 | 36 | 2 | 薬 | 43 |
| 3 | 行う | 34 | 3 | 副作用 | 41 |
| 3 | 薬 | 34 | 4 | 治療 | 28 |
| 5 | 薬剤 | 27 | 5 | 薬剤 | 22 |
| 6 | 治療 | 19 | 6 | 問題 | 19 |
| 7 | 医師 | 18 | 7 | 考える | 18 |
| 8 | 確認 | 17 | 8 | 確認 | 16 |
| 9 | 適切 | 14 | 8 | 情報 | 16 |
| 9 | 評価 | 14 | 10 | 解決 | 14 |
| 11 | 使用 | 13 | 10 | 提供 | 14 |
| 11 | 提案 | 13 | 12 | 効果 | 13 |
| 13 | 安全 | 12 | 12 | 行う | 13 |
| 13 | 薬物 | 12 | 12 | 適切 | 13 |
| 15 | 考える | 11 | 15 | 提案 | 12 |
| 15 | 情報 | 11 | |||
| (b)Q10 多職種連携・協働において大切なこと(n = 62) | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 実習前 | 実習後 | ||||
| 抽出語 | 出現回数(回) | 抽出語 | 出現回数(回) | ||
| 1 | 職種 | 38 | 1 | 患者 | 43 |
| 2 | 共有 | 30 | 2 | 目標 | 34 |
| 3 | 情報 | 29 | 3 | 職種 | 32 |
| 4 | 患者 | 25 | 4 | 専門 | 25 |
| 5 | 専門 | 18 | 5 | それぞれ | 22 |
| 6 | それぞれ | 17 | 6 | 共有 | 19 |
| 7 | 自分 | 16 | 6 | 情報 | 19 |
| 8 | 医療 | 15 | 8 | 治療 | 17 |
| 8 | 行う | 15 | 9 | 理解 | 15 |
| 10 | コミュニケーション | 13 | 10 | 行う | 12 |
| 10 | 役割 | 13 | 11 | 自分 | 11 |
| 12 | 理解 | 12 | 11 | 役割 | 11 |
| 13 | 他 | 11 | 13 | 医療 | 10 |
| 14 | 意見 | 9 | 14 | 共通 | 9 |
| 14 | 治療 | 9 | 14 | 持つ | 9 |
| (c)Q14 社会に出る前に,修得しておくべきと感じたこと(n = 62) | ||
|---|---|---|
| 抽出語 | 出現回数(回) | |
| 1 | 患者 | 22 |
| 2 | コミュニケーション | 21 |
| 3 | 感じる | 19 |
| 4 | 共感 | 17 |
| 4 | 知識 | 17 |
| 6 | 能力 | 15 |
| 7 | 必要 | 14 |
| 7 | 理解 | 14 |
| 9 | 自分 | 10 |
| 9 | 職種 | 10 |
| 9 | 力 | 10 |
| 12 | 考える | 9 |
| 13 | 出る | 8 |
| 14 | 思う | 7 |
| 14 | 身 | 7 |
| 14 | 相手 | 7 |
| 14 | 薬 | 7 |
(a)は「Q9 治療現場での薬剤師の役割」,(b)は「Q10 多職種連携・協働において大切なこと」における実習前後の比較,(c)は「Q14 社会に出る前に修得しておくべきと感じたこと」の実習後の結果であり,いずれも出現回数上位15の語を示す

Q9,10における対応分析.(a)「Q9 治療現場での薬剤師の役割」,(b)「Q10 多職種連携・協働において大切なこと」における実習前後での対応分析.
患者・家族の問題を解決するために,Q11「どのような点に着目すべきか考えること」,Q12「自分がどのように介入すべきか考えること」およびQ13「他職種とどのように連携するか考えること」のスコア中央値はそれぞれ6.5,6および7であった.またQ14「社会に出る前に修得しておくべきと感じたこと」では「コミュニケーション」,「共感」,「知識」などが頻出上位の抽出語であり,「薬の知識だけでなく,患者との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力を習得しておく必要があると感じた」,「共感が難しいと感じた」,「薬についてもっと深く勉強しておく必要があると感じた」などの記述があった(表2(c)).
3. 教育目標に対する評価の要約以上のとおり,本プログラムが掲げた3つの教育目標に関する結果が得られた.目標①(多職種連携)については,Q7,8のスコア上昇,ならびにQ10における「目標」,「共通」といった語句の増加および実習後の特徴的な語句(図3(b))として示された.目標②(患者の包括的理解)についてはQ1~4のスコア上昇のうち,特にQ4の効果量は高く,またQ11で実習後の到達度が示された.目標③(主体的実践)についてはQ5のスコア上昇と,Q9の対応分析では臨床的な課題解決に関する対応(図3(a)),およびQ14では実践の振り返りが示されている.
本研究では3つの教育目標を設定し,化療センターにおける看護師シャドーイングを導入した本プログラムが,薬学生の多職種連携に対する意識および臨床的視点の獲得に及ぼす影響を検討した.その結果,実習前後での認識および理解度の変化を測定した8項目すべてにおいて,実習後のスコアが有意に上昇し,教育介入の効果が定量的に示された.さらに定性的解析においても,実習前のテキストマイニングの結果では,薬学生の着眼点が副作用など「薬剤情報」に偏りやすいとする我々の報告11) と一致していた.しかし,実習後には「問題解決」や「共通目標」へとシフトしており,本プログラムがチーム医療の本質に向けた思考様式の変容を促したことが示唆された.なかでも,Q7「看護師の役割」が効果量r = 0.851と最も高い値であったことは,本プログラムの大きな教育効果を示したものと言える.看護師シャドーイングでは,穿刺やプライミング,逆血確認といった看護技術に加え,身体的・心理的側面からの患者アセスメントを直接観察することができる.これらは調剤室や病棟での実習では経験しにくい内容であり,薬学生にとって他職種のプロフェッショナルに触れる貴重な機会となったと考えられる.その結果,知識としての職種理解を超え,他職種の専門性に対する理解を,さらに臨床的な実感を伴うものへと高めるうえで有用であったと考えられる.これらの点は,化療センターを舞台とした本プログラムの特徴であり,先行研究5–9) とは異なる教育的側面を反映している可能性がある.
さらに看護師シャドーイングによる他職種理解の深化は,実習2日目の「薬剤師としての役割実践」においても,薬学生の臨床的な着眼点に顕著な変化をもたらしたと考えられる.看護師による患者への生活背景や心理的苦痛までも含めた問題抽出のアプローチに触れたことによって,薬学生の視野が広がり,多角的な問題抽出へとつながった.この変化は,Q4「患者・家族の問題点を見いだすこと」(r = 0.784),Q8「薬剤師の役割」(r = 0.778)の結果に表れており,テキストマイニングの解析結果とも一致している.本研究ではこの「薬剤師としての役割実践」に関して,実践内容の客観的評価は行っていないものの,このプログラムが薬学生の臨床的視点の形成に大きく寄与した可能性がある.また,薬学生が薬剤師による外来化学療法指導を見学した先行研究10) では,患者や薬剤師に対するイメージ変化や,副作用モニタリングに対する認識の重要度が実習後に高まったことが報告されている.一方,本プログラムでは,看護師シャドーイングによる気づきを起点として,薬学生が自ら課題を設定し実践へと展開する主体的学習を促した点に教育的意義があると考えられる.
本プログラムでは,多職種連携・他職種理解,包括的アセスメント視点の獲得および薬剤師の役割認識を学修目標に設定した.本研究の結果から,本プログラムは各学修目標の達成に寄与したと考えられる.具体的には,目標①(多職種連携)については,他職種理解および多職種連携に対する認識の深化が確認された.また,目標②(患者の包括的理解)については,患者を多面的に捉える視点の獲得につながったと考えられる.さらに,目標③(主体的実践)については,患者対応や薬剤師の役割について主体的に考察する機会となったと評価できる.その教育方略として「看護師シャドーイング法」と,得た学びや気づきをアウトプットする「薬剤師としての役割実践」の2段階構成を導入した.この構成は,他職種の視点を単なる知識としてインプットするだけでなく,臨床現場での主体的実践へと段階的に展開するうえで有効であったと考えられる.すなわち,「薬剤師としての役割実践」を指導薬剤師の模倣ではなく,自身の学びや気づきを昇華させ,チームおよび患者にとって有用である主体的な実践行動へと結びつける過程に本プログラムのねらいがある.また,評価法として11段階のリッカート尺度を用いた定量的評価により薬学生の認識変化を明確に捉えるとともに,自由記述に対するテキストマイニングを用いた定性的評価を組み合わせたことで,学生の思考の変容プロセスや具体的な気づきの内容を多角的に評価することが可能であったと考えられる.
一方で,Q3「患者・家族の話を傾聴すること」の効果量はr = 0.575であり,他項目と比較して最も低い値であった.さらに,実習後の内省(Q14)で「薬の知識だけでなく,患者との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力を習得しておく必要があると感じた」,「共感が難しいと感じた」,「薬についてもっと深く勉強しておく必要があると感じた」といった記述が認められたことは,臨床現場の実態に直面した薬学生の誠実な気づきと捉えられる.がん化学療法に関して知識と経験が豊富な看護師が患者と寄り添いながら業務を遂行する姿は,薬学生にとって知識だけでは補えない「医療人としての姿勢」を再考する契機となったと考えられる.
本研究には以下の限界がある.第一に,対象が単一施設の薬学実習生に限定しており,結果の一般化には慎重な解釈が必要である.第二に,シャドーイングを実施したのは化療センターの看護師に限定している点である.そのため,本実習のみで看護師の全般的な役割を網羅的に理解したとは言えず,本研究結果はあくまで治療現場における多職種連携の一側面から評価した結果に基づくものである.第三に,評価データが薬学生の自己評価に基づいている点である.対応した症例や看護師の関わりの多寡によって学習内容に差異が生じた可能性がある.特に教育目標③(主体的実践)に関しては客観的な評価を組み入れていないため十分な検証ができていない.さらに,本研究は実習直後の変化を評価したものであり,長期的な意識や態度の変容を保証するものではない.今後は,自己評価に加えて客観的な実践能力の評価指標を導入するとともに,長期的なフォローアップを行うことで,実践能力の向上プロセスを含めて,本プログラムの教育的有用性をより包括的に検証する必要がある.
本研究では,化療センターにおける看護師シャドーイングを導入した実習プログラムが,薬学生のチーム医療の本質に向けた思考の変容を促し,多職種連携に対する意識および臨床的視点の獲得に有効な教育法であることが示された.本プログラムは多職種連携教育の重要性が高まる中,薬学教育における有用な教育手法の一つとなり得ると考えられる.
本研究にご協力いただきました福岡大学病院がん化学療法センターの看護師の方々に感謝申し上げます.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.