薬学教育
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誌上シンポジウム:医療職専門教育のアクティブ・ラーニングを充実するために―医学教育の取り組みから
話し合い学習法―主体的,対話的で深い学びのために
神代 龍吉
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2019 年 3 巻 論文ID: 2019-009

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Abstract

協同学習の一つである話し合い学習法(Learning through Discussion: LTD)を紹介する.この技法は学習者に主体性があり活動性・能動性が高い.学習者間の肯定的な依存関係,傾聴とミラーリングというマナー,自己の学びと仲間の学びを目指すものである.学習者は予習で学習素材を理解し,次いで自己の考えを加え,経験に照らし,授業に備える.教室ではシンク・ペア・シェア,ラウンドロビン,ジグソー等の技法を通じて,学習者は等しく発言し,自己の考えと他者のそれとを比較し,理解の相違を知り,自身の考えを外化する.LTDは主体的・対話的で深い学びを実現する学習法である.

はじめに

2020年度入学の小学生から適用される新学習指導要領では「アクティブ・ラーニング」は「主体的,対話的で深い学び」と日本語で表現されている1).「話し合い学習法」(Learning through Discussion:以下LTD)は指導要領の理念を実現する能動的な学習法である.高校生以下はもちろん,薬学部,看護学部,医学部の学生などにも応用可能である.

LTDは協同学習の方略であるとともに学習支援の理論である.表1に示す種々のアクティブ・ラーニング型授業の中でも学習者主導型であり能動性が高い2).これがうまくいっている授業では,学習者の自助・互助の意識が高く,教室内が活動性の高い協同体となっており,深い学びが可能である.LTDは協同学習のなかで最も取り入れやすく,学習者100名程度であれば教員は一人で十分であり,特別な設備なくして,授業にも実習にも取り入れることができる.

表1 アクティブ・ラーニング型授業の技法と戦略
タイプ タイプ0 タイプ1 タイプ2 タイプ3
学習の形態 受動的学習 能動的学習 能動的学習 能動的学習
主導形態 教員主導型 教員主導・講義中心型 教員主導・講義中心型 学生主導型
アクティブ度 中~高
技法・戦略 話し方(声の大きさやスピード)
板書の仕方
スライドの見せ方
実物やモデルによる提示
コメントシート
ミニッツペーパー
小レポート
小テスト
宿題(含むeラーニング)
クリッカー
授業通信
ディスカッション
プレゼンテーション
体験学習
協同・協調学習
調べ学習
ディベート
話し合い学習法
ピアインストラクション
PBL
TBL
ケースメソッド
その他

文献2より一部改変.

協同学習について

LTDの実際を説明する前に協同学習の理念や条件について触れておく.グループ学習と違って協同学習は学習者が心と体を合わせて仲間と自分のために学び,その結果として仲間と新しいものを創りあげる学習である.グループ学習と協同学習の差異について安永らの概念図を紹介する(図1 3).また表2のように競争の概念とは正反対の協同の意識に基づいている3).協同と競争は対極にあると言える.さらに表3に示すKaganの4要素またはJohnson兄弟の5要素が含まれていれば協同学習,含まれていなければ単なるグループ学習であるとも理解できる.学習者ひとりひとりがこれらのことを自覚して臨んだ場合に実現する学習方法である.協同学習は小グループを形成して学ぶ点は従来のグループ学習と同じであるが,協同の精神と構成主義を理解しながら仲間で学ぶ点が異なっている.

図1

協同学習とグループ学習との差異(文献3 p. 88より).

表2 競争中心と協同中心のパラダイムの違い
競争中心 協同中心
知識観 知識を教師が学生に伝える 知識は対話を通して創られる
学生観 知識を受けとる容器 学生は知識を構成する主体
授業目的 学生の分類・選別 学生の能力開発
人間関係 非人間的な関係 クラス全体の人間的な関係
学習環境 競争や個別を促す環境 協同を促す支持的環境
授業の前提 専門知識あれば教えられる 教えることは複雑であり相当な訓練を要する

文献3より一部改変

 

表3 協同学習の基本要素
Kaganの4要素 Johnson兄弟の5要素
a.学習者同士の肯定的な相互依存 a.学習者同士の肯定的な相互依存
b.学習者が個人の責任を取る b.促進的相互交流
c.誰もが同じ時間・回数発言する平等性 c.個人の2つの責任(自分と仲間の学び)
d.すべての学習者が参加し,考え,話し,聞き,授業と無関係の者が教室内にいない(同時性) d.集団作業スキルの促進
e.活動の振り返りと改善

Kagan S (1992) Cooperative learning. San Juan Capistrano, CA: Resources for Teachers Inc.

Johnson DW & Johnson RT (1989) Cooperation and competition: Theory and research. Edina, MN: Interaction Book Company.

LTDの理論

LTDは学習教材を深く読み解き,基本的な学習スキル,批判的思考力,自己学習能力の育成を目的としている学習法であり対話法である.予習(個人学習)とミーティング(話し合いによる集団学習)からなり,表4に示したような課程(ステップ)を辿ることが求められる4).よってLTDは単なる話し合いではない.選ばれるテーマは文章,設問,学説,症例でもよい.単一の解がない課題こそ楽しい.予習段階におけるステップ1は課題の把握,ステップ2は課題中の言葉の理解,ステップ3では課題の主張や意味を汲み取る.ステップ4で課題の意味するところを自分の言葉に置き換えて概説する.ステップ5では基礎知識と課題と関連付ける.基礎知識には基礎科目で覚えた知識,理論,自分の経験などを含む.医学系であれば生化学,薬理学,解剖学などの基礎科目の知識を用いて課題を説明する.ステップ6で課題と自己との関連付けを行う.ここでは課題に対する自分独自の解釈,自分にとっての発展要素などを考える.ステップ7で初めて自分の言葉とアイデアで課題を批判,評価する.内容を予習ノートにまとめておく.ステップ8ではリハーサルで授業に臨んだ時を想定して,質問を考えるなど,仲間との討論に備える.この過程は30~60分程度で十分である.

表4 話し合い学習法の基本的な過程プラン
ステップ 段階 予習 教室にて
1 導入 全体像の把握 雰囲気作り
2 理解 言葉の理解 言葉の理解
3 理解 主張の理解 主張の理解
4 理解 話題の理解 話題の理解
5 関連付け 知識との関連付け 知識との関連付け
6 関連付け 自己との関連付け 自己との関連付け
7 課題の評価 課題の評価 課題の評価
8 リハーサル リハーサル ふり返り

文献4より(一部改変)

授業でも予習とほぼ同様のステップで進めるが導入部分は教室の雰囲気作りに充てる.言わばアイスブレーキングで,仲間の健康状態,予習の程度,意気込みなどを話題にする.教室の温度,静粛性なども確認する.ステップ2~4では後述の話し合いの技法を取り入れて課題をどうとらえたかを述べ合う.ステップ4では特に深く話し合う課題を2~3選ぶ.ステップ5では仲間の知識を絡め合い学習の範囲を拡げていく.ステップ6で課題や仲間の意見と自分のそれとの相違点や一致点を確かめる.予習と同じくここまでは相手の意見を尊重する内化(インプット)の過程である.ステップ7で課題を批判的・建設的に評価する.最後のステップ8では話し合いを振り返り,進行・内容・仲間の意見に関して率直な意見を述べ合う外化(アウトプット)の過程となる.過程プランは学習者の状況,課題の性質,授業の形態に合わせて変更してもよい.

LTDに不可欠なマナーとして学習者間の傾聴とミラーリングがある5).傾聴とは学習者が自分の意見を述べているときに聞き手が耳目と体を傾けて聴くことで,発表者に,注目されている,意見を聞いてもらっている,自分の存在を認めてもらっているという自己効力感が出てくる.ミラーリングでは聞き手が話者の言葉をしっかり聞き取り,正しく復唱して,意見を正しく受け取ったことを示す行為で,これにより話し手の自己効力感は増してくる.必ずしも話し手の一言一句をリピートするのではなく,「今の意見は要するに~~ということだよね」と要約して話し手に確認するだけでよい.話し手は聞き手に正しく伝わっているか,誤解されていないか,と自分の発言をモニターすることになる.もしも聞き手が違う意見を述べるとしても,話し手は自分の主張を聞いてくれた上での反対意見であると受け取ることができる.これにより相手との間に信頼感が芽生え,互恵的な相互依存関係ができる.傾聴とミラーリングは,その後の対話的活動のすべての場面で踏襲されるべきものである.

生命科学での応用

上記のLTDを生命科学の予習に応用したものを表5に示す.教室内で胆石症を初めて学ぶ医学科3年生を想定した予習過程プランである.ステップ1~6は自分の意見を挟まずこの病気に対しての知識を深める.ステップ5で基礎医学の知識を動員して胆石症の病態生理図を書く.ステップ6では胆石症の患者が自分の前に来ることを想定して,診断を試み,治療方針を考える.ステップ7では,授業で仲間に胆石症を説明する,または患者に説明している自分を想起する.ステップ8は予習ノートの作成である.課題を胆石症よりも広いカテゴリーの「胆道疾患」とすれば胆管疾患,胆のう疾患などが含まれ予習範囲も広がる.図2に50分授業の流れを示した.

表5 胆石症の学習過程プランー予習
ステップ 段階 (例)胆石症の授業(予習) 予習時間(分)
1 導入 成書で胆石症を通読 10
2 理解 新出の学術語を調べる 5
3 理解 分類・症状・合併症・治療を把握 5
4 理解 疫学的事項を検索する 5
5 関連付け 基礎医学の知識で病態生理図を書く 10
6 関連付け 診断・治療のプロセスを考える 5
7 外化する 患者に説明する場面を想定する 5
8 リハーサル ノート作成 5
計50分
図2

話し合い学習法―50分授業での時間配分例.

(医学教育学会ホームページhttp://jsme.umin.ac.jp/com/uge/20180902sympo/S10-2%20.pdfより医学教育学会の許可を得て転載)

表6は70分または90分授業での過程プランである.後述の話し合いの各種技法を取り入れて学習者に主体性と能動性を持たせる.90分授業の前半を通常講義にして,後半をLTDに充て,発展的な課題を与えてもよい.

表6 胆石症の授業―70分,90分授業の例
ステップ 意義 方略 70分
授業
90分
授業
1 導入 理解度把握テスト 5 5
2 理解 回答・言葉の解説 5 5
3 理解 当日の課題提示 3 3
4 理解 個人・ペアで話す 4 4
5 関連付け 4人で述べ合う 12 12
6 関連付け ジグソー 15 20
7 課題評価 グループ間討論 20 30
8 まとめ・振り返り 教員の補足・振り返り 6 11
計70分 計90分

学習者の予習における負担を考慮してLTDは当初週1回くらいの頻度から次第に回数を増していき,最終的には大部分の授業がLTD型になることを望みたい.予習確認テストは予習なしでは難しいと感じるくらいの2問程度でよい.2種類のセットを用意して隣同士が同じ問題にならないように工夫する.学期末の成績に加算されることを予め周知しておく.グループ分けは数回毎に組み替えて活性化を図る.多様な意見の持ち主がグループにいるメンバー構成が理想である.

対話のための技法

授業で学習者はグループを形成し,予習してきたことを述べ合う際に用いられる技法を紹介する(図3).

図3

協同学習の技法.予習してきたことを1分間自分で考える(左上).となりとペアになり課題について2~3分語り合う.傾聴とミラーリングが大切(右上).次に4人でグループを形成し,各自が3分ずつ考えを述べ(外化する),他の3人は傾聴し,最後にグループの意見をまとめる(右下).次の課題においては話し始めの順番を変える.欠席があった場合も代役を入れず,不在を気遣い,次回は歓迎する(欠席者の存在を認める)(左下).

1.単独思考(Think by myself)

予習してきたことについて,学習者はまず一人でまとめる.時間は1~2分でよい.

2.シンク・ペア・シェア(Think Pair Share; TPS)

ついで隣り合う同士でペアになり,相互に1~2分で自分の考えを伝える語り合いである.両方が話し終えたら,相手と自分の考えで違う点を整理する.これに関して厳密なやり方や定義はない.大切なのは傾聴とミラーリング,そして相手の言った内容について批判しないことである.

3.ラウンドロビン(Round Robin; RR)

ペアを2~3つ合わせて4~6人のグループを形成し,メンバーが皆同じ回数,同じ長さで順番に自分の意見を述べる学習法である.聞き手はそれに傾聴し,必要に応じてミラーリングする.誰かが司会役になったり,グループを仕切ったり,書記役に徹して自分の意見を述べないようなことがないように,発言機会の平等性を確保する.

説明のために4人の学習者をa,b,c,dとして(図3右下),まず学習者aがテーマについて自分の考えを3分で述べる.他の3人は傾聴の態度で接する.ついでbが同じように意見を述べる.その後c,dと続く.この時,語る時間は4人等しく確保する.一周したら各人の発言内容を皆で確認し4人の考えをまとめる.不一致の意見を切り捨てることはしない.次のテーマに移った時にはbを皮切りにc,d,aの順で発言する.

もしも欠席者が一人あったら(例えばc),欠席者の替わりを充当することはしないで,a,b,dの3人で工夫しながらラウンドロビンを実行する(図3左下).代替者を補充しないことでcは次の機会に出席した時に,自分の不在を気にされていたことを知り,次は欠席しないように心がけようと思う.他の3人は,先週はcさんを待っていたよと声をかける.このような不在者の取り扱いが協同学習での思いやりである.欠席者の席に他の誰かを補充すれば,自分がいなくても何とかなるんだという思いが欠席者に生じ,欠席することに心理的抵抗がなくなっていく.

4.ジグソー(Jigsaw)学習法(図4

複数のテーマ(例えばP,Q,R,Sの4つ)に対処する場合,グループ内で4人が手分けして4つのテーマを調べるのは単なる分業またはグループ学習である.ジグソー学習法ではテーマP,Q,R,Sごとに,各グループから一人ずつ参加して専門家集団を形成させる.テーマPの専門家集団を各グループの1番目の4人で形成した場合をP{A1, B1, C1, D1}と記す.同様にしてQ{A2, B2, C2, D2},R{A3, B3, C3, D3},S{A4, B4, C4, D4}を作る.すなわち元のグループは一時離散する.専門家集団ではそれぞれのテーマについて深く話し合い,各自はその成果を自分のものとして元のグループに持ち帰る.このプロセスで学習者は自分で深く学んでくる責任と帰ってから他の3人に理解されるように伝える義務を負う.学ぶ責任と伝える責任が生じ学習者に能動性がでる.残りのテーマQ,R,Sについても相互に教えあう.課題数とグループ構成員数が一致するように初めにグループ分けをするとスムーズに行く.50分授業では時間が不足するのでジグソー学習は省略してもよい.1コマが70分や90分ならば表6のようなゆったりした時間配分となり,ジグソー学習を取り入れることができる.

図4

ジグソー学習法.4つの課題について各グループから一人ずつ派遣して4つの専門家集団を形成し,課題を深く検討する.各自詳しくなり,元のグループへ戻り,担当した課題について他の3人に説明する.

5.特派員(Correspondent)

4人グループのうち2人程度が,他のグループへ出かけて議論を聞いたりインタビューしたりして新しい考えや自グループとの相違点などを取材してくる.相互に派遣してもよい.4人中3人を出すと1人しか残らず,他からの特派員を迎えた時に大変なので2人くらいは残る方がよいと言われる.ここでも取材して伝えるという能動学習ができる.

6.シンポジウム式の討論

教室の3グループ程度を選び,その代表が教室の前にでてシンポジウム形式で自グループの考えを述べる.教員は座長の役割りを担い,グループ間の意見を交流させる(図2).1コマが90分ならば,前半または後半にこの形を取り入れてもよい.

最初一人で考えていた時の考えがシンク・ペア・シェアやラウンドロビンのプロセスを経るうちに自分の考えが修正され,知識の深まりを感じることが多い.

7.振り返り(Reflection)

授業時間の最後に当日のテーマについての知識面の振り返りと仲間とのコミュニケーション,すなわち協同学習がうまくいったかどうかの振り返りを行う.時間がとれず十分な振り返りができなかった場合は放課後や夜間に教員への質問,学習者間の意見交換などができる環境を設けるのが望ましい.e-ラーニングやラインで電子的に集めるとクラス全員の意見をまとめやすく後述の授業通信の作成が楽である.学習者は振り返りを記録するためのノート(振り返りシートまたは授業記録紙)を作る.A4の広さの1ページで十分である.振り返りシートを授業時間内に書かせて提出させてもよい.安永の著書に授業記録紙が紹介されている6).授業全体,話し合い,グループへの参加度合いを学習者に自問させる形式となっている.

小林は振り返る項目として,自己の学習態度,分かったこと・わからなかったこと,その他の3点を挙げている7)

8.授業通信

授業後に集まった学習者の意見・質問や学習者間のやり取りをまとめた紙または電子媒体のシートで質問に対しては教員が答えを記載する.形式は自由で学習者の意見を並べ,それに対する同僚や教員の答えや改善策を添えた文書の形を取ることが多い.紙媒体のものは次の授業の冒頭に配布するが電子媒体であればいつでも閲覧できる.教員には負担がかかるが学習者にとっては次のステップの計画に役立つ.実際の授業通信が安永の著書に例示されている8)

授業の最後に確認テストを行う方法

これまで紹介してきたLTDとは多少異なる形式の授業を一つだけ示す.LTDは予習が必須であるが予習がしにくい授業や学習者の予習実行率が低いときには話し合いがうまくいかない.そこで小林は授業の最後に確認テストを行い,皆が100点を取るまで学習者が協力する形のアクティブ・ラーニングを紹介している9)図5に65分授業の例を小林の著書から一部改変して示した.これは高校生の物理だが,注目すべきは態度目標を教室に掲げることで教室内で自由に行動させて学習がアクティブになるように意図されている.最初の15分で学習内容を説明し,次の35分間で演習問題(回答付き)を4問ほど与え,生徒に協同学習を促す.最後の15分で確認テスト(2問)を出題し,相互採点させ,リフレクション・カードを記入させる.この時も学生は助け合って皆が100点取れるように協力する.この授業における確認テストは,その授業で身に着けて帰ってほしいという最小限の事柄を問題にして問もので,前述のLTDの予習確認テストとは異なる.

図5

小林の物理の授業プロセス(文献9より一部改変).最初の15分間で学習内容を説明し,次の35分間で問題を出し学習者の話し合いで解かせ(回答も同時に配る),最後の15分間で確認テストを行い,相互に採点させ,リフレクション・カードを記入させる.

教員の振舞い

LTD進行中の教員の振舞いは長年の経験をもとにしたノウハウが小林の著書に出ている10)図5に教師の役割りと働きかけの一部が示されている.学習者の討議中に放任または干渉しすぎないことが肝要とされている.課題に関しての質問は受けずグループ内の仲間に聞くように促す.「チームで協力できていますか?」,「あと10分で確認テストですが順調ですか」といった討議のプロセスに関する質問を発して教室全体やグループに適切に介入する.また教室あるいはグループの雰囲気を見て気づきやリフレクションを促すようにするのがコツである.深い学びに誘う質問としては「分からなかったことを理解するには何が必要ですか?」,「この法則はどんなことに応用されていますか?」,「将来仕事にしたいことと今日学んだこととはどうつながりますか?」,「今日学んだことと他教科で学んだこととのつながりを図解してください」などの質問が例示されている.

安永らの著書ではミーティング中の指導法として,机間巡視しながらも安易な関与は止め,グループが沈黙しているときは変化を待ち,議論が見当違いの方向へ行っているときにもグループが是正・解決するのを期待する,などが記されている11)

LTDで学習者にもたらされるもの

安永らの著書にLTDの効果として表7の10項目が示されている4).学習課題が確実に認知・理解され,しゃべる,伝える,対話する,調べる,応用する,意見を異にする相手とどう付き合うか,などの技能・態度が身に着く.さらに競争とは対極にある協同の意識が醸成され,例えば予習なしで授業に臨んだ場合には肩身の狭さを実感し,次の授業には十分な予習をして臨もうという責任感を感じ,学習意欲も高まってくる.そして仲間で教えあい,分かりあえたことを喜ぶ感想が授業通信に現れてくる.当初「自分のペースで勉強したい」と言っていた学習者も回数を重ねるうちにLTDを肯定的に捉えるようになる.このようにして対人関係スキルが訓練され,相手の意見を取り込みながら,社会の中での振舞いを意識しつつ,自分の意見を外化(アウトプット)する経験は卒業後の多職種連携,異文化交流,ひいては国際協調に役立つであろう.

表7 LTDの効果
1. 課題文の理解と記憶の促進
2. 確かな知識の定着と活用力の向上
3. 論理的な言語技術の発達
4. 分析的・批判的スキルの獲得
5. 効果的な教え方と学び方の獲得
6. 対人関係スキルの発達と仲間関係の改善
7. 個人的な満足と学習意欲の向上
8. 学習・仲間・学校に対する価値観の変化
9. 主体性と能動性の獲得
10. 民主・共生社会の基盤となる価値観の醸成

文献4より(一部改変)

LTD学習成果の評価

知識獲得面の成果として成績が向上することは確かであり,看護学科で模擬試験の劇的な成績向上と学修態度向上が得られた例が報告されている12,13).情意や態度の評価にはチェックリスト,ピア評価,自己評価も適宜組み合わせて用いられる.協同学習に対する認識を測定する尺度も作られている14)

技能の評価にはルーブリック評価も適していて,LTDにおけるルーブリックも提案されている.西村らの論文15) には評価項目として,評価領域としてグループへの参加,教材の理解,他のメンバーの受容,自己主張,メンバーの意見の正確さ,発表や報告の方法,意見の批判,結論の掘り下げなど17の協同学習技能が挙げられ,それぞれに4段階の評価スケールが付されている.最近,會田ら16) は協同学習の諸条件を教員が評価するためのルーブリック表を考案し検証している.評価項目に「率直に意見を言い積極的に聴く」,「心理的に安全なチームの風土作りと活性化に貢献する」,「メンバーの多様性を尊重し誠実な態度で協同する」,「コンフリクトに建設的に対応する」の4つが挙げられている.それぞれに具体的な模範的行動が示され4段階の評定段階となっている.ルーブリック表ですべての学習者について的確で迅速な評価を行うのは実際には教員側にも訓練が要る.協同学習におけるルーブリック評価項目は学習態度と技能を中心にして,知識は通常のペーパー試験で評価して良いと思われる.グループごとに個人名を配置した評価表を電子的に構築しておけば机間巡回中にタブレット等で入力できる.よく発言しているか,傾聴しているか,グループ内で孤立していないか,などが評価項目になる.

田口ら17) は授業の後にコンセプトマップ(医学系では病態生理図のような2次元展開図に相当)を哲学のリレー授業の最後に描かせ,これをルーブリックで点数化する方法を開発している.評価基準として「コンセプトの理解」,「コンセプトの創出」,「リンクの構造」,「リンク語の適切さ」,「中心テーマとの関連性」を選んでいる.展開図での構成要素間の関連,連携,広がり,あるいは思考の発展性が数値化できていて面白い.

おわりに

LTDの理論や実際について概説した.学習者を主体的,対話的で深い学びに導くには非常に有用な方法である.授業では学習者の条件やテーマに合わせた多少のバリエーションは問題なく,必要に合わせて工夫・改良はむしろ必要である.LTDでの傾聴とミラーリング,発言の平等性,学習者の学ぶ責任の自覚などはProblem-based learning(PBL)やTeam-based learning(TBL)など他の協同学習の効果も高めると思われる.学習者が大学入学早期にこの学習法を身につけることで,その後の学習過程は実り多いものとなるであろう.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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