2020 年 4 巻 論文ID: 2020-029
大阪大谷大学で,薬学生にとって基本となる50個の化合物を題材とした構造式かるたを作成した.その「かるた」を活用し,薬学部初年次学生を対象に,学習に対する動機付け及び有機化学の基礎となる事項の理解や知識の定着につながるよう学習方略を立案・実践し,試験とアンケートにより評価した.アンケート結果を用いたクラスター分析より,学生は4つのクラスターに分けられた.また,自由記述について,各クラスターを目的変数として対応分析を行った結果,化学を好きと評し,「かるた」への興味をもつ傾向にある成績上位群では「復習-新しい-知識」,化学を嫌いと評する傾向にある成績下位群では「構造-覚える」などの抽出語との関連が確認された.これより,本方略を知識定着への手段とした群や「かるた」の内容の短期記憶の手段とした群などを見出すことができ,成績下位群ほど,短期記憶に頼る傾向がみられることが明らかとなった.
A card game named Karuta, which uses 50 essential compounds to help first-year pharmacy students in organic chemistry, was developed by the Osaka Ohtani University. This game is designed to help student motivation for learning and understand basic organic chemistry. A group of pharmacy students was surveyed, and chemistry-related problems faced by the students in the pharmacy department and as well as effectiveness Karuta in solving these problems were examined. Students were divided into four clusters based on the cluster analysis using the questionnaire results. As a result of the correspondence analysis using clusters as the objective variable, the group with the highest grade of interest in Karuta who liked chemistry was associated with the extracted word “review-new-knowledge”. In the lower grade groups, who tended to dislike chemistry, there was a relationship with extracted words such as “structure-remember.” Thus, it is possible to identify groups that use this strategy as a means for knowledge fixation and groups that use short-term memory of the contents of Karuta. Thus, it became evident that the lower the grade of the group, the more is the tendency toward short-term memory.
2013年文部科学省発表のコラムによると,新聞やテレビで現在の大学教育における学生の学力低下が問題視されており,その要因として,大学生の学力水準自体が低下してきていることや,現在の大学生の学びに対する意欲や心構えが以前よりも下がってきていることが評されている1).薬学部においても同様の問題に直面しており,現在の大学教育における学力低下の問題を解決するためには,初年次より学問に対する動機づけや専門教育の橋渡しとなるよう基礎学力を向上させることが重要となる2).また,この状況に対し,安原らは,すべての入学生が支障なく薬学を学べる基礎学力を身に付けられる新たな学習方略が求められると述べている3).従来型の大人数を対象とした教員側からの一方向の授業形式に加えて,これまでに薬学教育でも初年次より様々な学習方略が立案され実践と教育効果の検証がなされている4–7).我々は,動機付けの手法として近年注目されている,ゲーミフィケーションを活用した教育に着目した.
ゲーミフィケーションとは,一般に「ゲームの考え方やデザイン・メカニクスなどの要素をゲーム以外の社会的な活動やサービスに利用すること」と定義されている8).国内の大学教育においてもゲーミフィケーションが活用されており9),海外の有機化学教育における事例も報告されている10).これまでに,大阪大谷大学では4,5年生を対象に薬学の科目分野横断学習を目的に,医薬品の構造式を題材とした,構造式かるた(以下,「かるた」)を開発した.その「かるた」を活用した教育を立案・実践し,その教育効果をアンケートにより評価し,科目分野横断的な学習促進効果を確認した11).
そこで「かるた」を用いた教育を初年次学生にも援用し,さらに試験による客観評価も含めた研究を進めるべく薬学生にとって基本となる化合物を題材とする「かるた」を作成した.その「かるた」を活用して,有機化学の基礎学力向上をめざし,学習に対する動機付け及び有機化学の基礎となる事項の理解や知識の定着につながるよう学習方略を立案・実践した.また,この学習方略が,どのような学生群に対して,どのような学習効果をもたらすのかを試験とアンケートにより評価し,より効果的な有機化学の基礎学力向上のための学習方略の開発につなげることを,本研究の目的とした.
今回の「かるた」では50個の化合物を題材とした.その内訳は,複素環式化合物が14個,ベンゼン環をもつ化合物が16個,それ以外の化合物が20個である.かるたの例を図1-Aに示す.取り札には,化合物の化学構造式を,読み札には有機化学の基本として習得が必要な内容である,化学構造が有する官能基名やその性質,反応などを記している.
A:「かるた」の例.読み札は3ヒントを記した.取り札の表面には構造式を,裏面には化合物名を記載した.B:学習方略及び評価の概要.C:プレテストとポストテストの具体例.
2019年度後期に,大阪大谷大学薬学部1年生129名(65名と64名の2クラス)を対象に,「基礎化学演習」の一部として,各クラスに90分の授業を合計4コマずつ実施した.本学習方略及び評価の概要を図1-Bに示す.はじめの2コマは,「かるた」に関連する有機化学の反応や化合物の性質(以下,「かるた」の内容)についての理解を促すため,講義形式で実施した.3コマ目は,「かるた」の一覧表を用いて,「かるた」の内容に関する講義をし,4コマ目には,かるた大会を行った.かるた大会は,2回戦から構成され,第1回戦は8テーブル(自由席)に分かれて対戦し,1位は1位同士,2位は2位同士…とテーブルを移動し,第2回戦を実施した.そしてこの第2回戦の結果を基に競技者の順位を決定した.また,教員が読み手となり,「かるた」の内容の理解や整理,知識の定着を期待して,競技の途中に,随時「かるた」に出てくる構造式や性質等について簡単な解説を行った.
3.評価 3-1)アンケートかるた大会終了後に,学生を対象として,アンケート(記名式,計8問)を実施した(表1).アンケートは,かるた大会前の「かるた」への印象(Q1),有機化学への印象(Q2),事前学習時間(Q3),かるた大会の感想(Q4~7),「かるた」等の利点と改善点(Q8)から構成される.アンケートの形式はQ1~7は選択式,Q8は自由記述である.
Q1 かるた大会を実施する前の「構造式かるた」について,印象を教えてください.(「かるた」への印象) | |||||
---|---|---|---|---|---|
1興味がもてない | 2あまり興味がもてない | 3どちらでもない | 4少しは興味がもてる | 5興味がもてる | |
全体 | 2 | 16 | 22 | 32 | 23 |
クラスターI | 0 | 0 | 0 | 12 | 6 |
クラスターII | 1 | 11 | 7 | 0 | 0 |
クラスターIII | 1 | 5 | 15 | 20 | 0 |
クラスターIV | 0 | 0 | 0 | 0 | 17 |
Q2 あなたは有機化学について,どのように思いますか.(有機化学への印象) | |||||
---|---|---|---|---|---|
1嫌い | 2少し嫌いな方 | 3どちらでもない | 4少し好きな方 | 5好き | |
全体 | 12 | 25 | 23 | 23 | 12 |
クラスターI | 5 | 13 | 0 | 0 | 0 |
クラスターII | 7 | 12 | 0 | 0 | 0 |
クラスターIII | 0 | 0 | 20 | 17 | 4 |
クラスターIV | 0 | 0 | 3 | 6 | 8 |
Q3 構造式かるた大会のため,事前学習をどのくらい行いましたか.一番近いのを選んで下さい.(事前学習時間) | |||||
---|---|---|---|---|---|
1.していない | 2.30分未満 | 3.30–1時間程度 | 4.1–3時間程度 | 5.3時間以上 | |
全体 | 39 | 32 | 15 | 8 | 1 |
クラスターI | 4 | 6 | 3 | 4 | 1 |
クラスターII | 12 | 4 | 3 | 0 | 0 |
クラスターIII | 16 | 16 | 6 | 3 | 0 |
クラスターIV | 7 | 6 | 3 | 1 | 0 |
Q4~8 構造式かるた大会の感想を教えてください. | |||||
---|---|---|---|---|---|
Q4 順位がつくことで,やる気がでた | |||||
1思わない | 2あまり思わない | 3どちらでもない | 4まあまあそう思う | 5そう思う | |
全体 | 4 | 23 | 19 | 29 | 20 |
クラスターI | 0 | 4 | 4 | 5 | 5 |
クラスターII | 1 | 8 | 4 | 5 | 1 |
クラスターIII | 2 | 9 | 11 | 12 | 7 |
クラスターIV | 1 | 2 | 0 | 7 | 7 |
Q5 「かるた」は有機化学の勉強に役立つ | |||||
---|---|---|---|---|---|
1思わない | 2あまり思わない | 3どちらでもない | 4まあまあそう思う | 5そう思う | |
全体 | 0 | 3 | 4 | 29 | 59 |
クラスターI | 0 | 0 | 1 | 5 | 12 |
クラスターII | 0 | 1 | 2 | 5 | 11 |
クラスターIII | 0 | 2 | 1 | 15 | 23 |
クラスターIV | 0 | 0 | 0 | 4 | 13 |
Q6 かるた大会は楽しめた | |||||
---|---|---|---|---|---|
1思わない | 2あまり思わない | 3どちらでもない | 4まあまあそう思う | 5そう思う | |
全体 | 1 | 4 | 15 | 42 | 33 |
クラスターI | 1 | 2 | 11 | 4 | 12 |
クラスターII | 1 | 2 | 3 | 8 | 5 |
クラスターIII | 0 | 1 | 0 | 4 | 12 |
クラスターIV | 0 | 1 | 0 | 4 | 12 |
Q7 かるた大会があれば又参加したい | |||||
---|---|---|---|---|---|
1思わない | 2あまり思わない | 3どちらでもない | 4まあまあそう思う | 5そう思う | |
全体 | 1 | 5 | 11 | 34 | 15 |
クラスターI | 1 | 1 | 6 | 8 | 2 |
クラスターII | 3 | 4 | 6 | 4 | 2 |
クラスターIII | 2 | 6 | 20 | 12 | 1 |
クラスターIV | 0 | 0 | 2 | 5 | 10 |
Q8 かるた大会があれば又参加したい:自由記述(「かるた」等の利点と欠点) |
※( )内は,各アンケート内容を示している.
「かるた」の内容に関する知識の習得度を確認するため,かるた大会のプレテスト(3コマ目の初め)とポストテスト(4コマ目のかるた大会終了後)を実施した.プレテストとポストテストはマークシート形式の知識想起を問う10点満点の同一問題とした.プレテスト終了後に問題を回収し,正答はポストテスト終了時まで開示しないようにした.プレテストとポストテストの具体例を図1-Cに示す.
また,かるた大会後の学習に対する動機付け効果と有機化学の学力の評価に初年次の有機化学の科目である「化学通論」の前期末試験結果及び「基礎化学演習」の後期末試験結果を用いた.いずれも記述式の100点満点である.後期末試験には「かるた」に関する内容も含まれており,「かるた」とは一部異なる構造式や反応式を記述する形式とした点で,プレテスト及びポストテストと比較して,理解度を問う問題が多かったといえる.
3-3)クラスター解析アンケートのQ1及びQ2の結果より,クラスター解析を行った.クラスター解析には,距離の計算にEuclid距離を,クラスタリングにはWard法を使用した.また,各クラスターの特徴を把握するため,アンケートの各問の回答結果及びかるた大会のプレテストとポストテストの結果,前期末試験及び後期末試験の結果を分析した.
3-4)自由記述の計量テキスト分析「かるた」及び大会の利点と改善点(Q8:自由記述)について,抽出語の関連を把握するため,共起ネットワーク分析を行った.また,「かるた」及び大会の利点について,前述(3-3)の各クラスターの特徴を把握するため,各クラスターを目的変数として,自由記述との対応分析を行った.
4.統計解析と倫理的配慮統計解析にはJMP(14.2.0)を用いており,p値が0.05未満の場合を統計的に有意とみなした.また,計量テキスト分析にはKH Coder3を用いた.本研究では,茶筌を用いて形態素解析を行い,解析対象語は,出現回数2回以上の名詞,サ変名詞,形容動詞,固有名詞,人名,ナイ形容詞,副詞可能,未知語,タグ,感動詞,動詞,形容詞及び副詞とした.さらに,形態素解析の際に「かるた」を強制抽出した.また,対応分析における結果の散布図は,X軸を第1成分,Y軸を第2成分とし,出現回数の多い語ほど大きい円で描画するバブルプロットを用いて表している.学生には,成績及びアンケート結果を研究に使用する旨と,アンケートに回答しない場合も不利益は生じない旨の説明を行い,拒否の機会を担保した.本研究は,大阪大谷大学薬学部生命倫理審査委員会の承認(BE-0048-19)を得ている.
講義受講者129名のうち,解析対象者は95名(回収率は,73.6%)であった.
1.アンケート結果(単純集計)表1にアンケート結果(単純集計)を示す.「かるた」への印象(Q1)について,約58%が “興味がもてる” “少しは興味がもてる”,約19%が “あまり興味がもてない” “興味がもてない” と答えた.また,有機化学への印象(Q2)では,37%が “好き” “少し好きな方” と答え,“嫌い” “少し嫌いな方” と答えたのは39%であった.かるた大会の感想に関する問いのうち,「順位がつくことで,やる気がでた(Q4)」「かるた大会があれば又参加したい(Q7)」に対し約半数が,「かるたは有機化学の勉強に役立つ(Q5)」「かるた大会は楽しめた(Q6)」に対し約8割が “そう思う” “まあまあそう思う” と回答した.
2.クラスター解析結果アンケートのQ1及びQ2を用いてクラスター解析した結果,学生はI~IVの4つのクラスターに分けられた(図2).Q1及びQ2のアンケート結果(表1)により各クラスターの特徴を比較したところ,クラスターIとIIは,いずれも有機化学が嫌いと評する傾向にあり,そのうちクラスターIでは「かるた」に対し興味がもてる傾向群,クラスターIIは「かるた」に対する興味がもてない傾向群であった.またクラスターIIIでは,有機化学への印象及び「かるた」への興味について,どちらも中程度群,クラスターIVでは有機化学が好きと評する傾向にあり,「かるた」に対して興味がもてる群であった.
アンケートのQ1,2の結果に基づくクラスター解析結果(n = 95).距離の計算にはEuclid距離を,クラスタリングにはWard法を使用した.得られたクラスターを基に,学生を4つのグループに分類した.
かるた大会のプレテストとポストテストの結果を図3-Aと表2-Aに示す.プレテストの平均は5.81点(SD: 1.91),ポストテストの平均は7.53点(SD: 1.88)であった(p < 0.001).また,すべてのクラスターにおいて,ポストテストの平均点はプレテストに比べて有意に高く,クラスター別のプレテストとポストテストの平均点はいずれも,クラスターIVで最も高く,クラスターIII,クラスターIと続き,クラスターIIで最も低かった.また,クラスター間の平均点を比較すると,プレテストでは,クラスターIIとIII,IIとIVで有意な差があり,ポストテストではクラスターIIとIVで有意な差が確認された.
クラスター別,知識習得度確認試験結果(n = 95).A:かるた大会のプレテスト及びポストテスト結果.B:前期末試験及び後期末試験結果.
[A]かるた大会のプレテストとポストテスト結果 | |||
---|---|---|---|
プレテストAv.(SD) | ポストテストAv.(SD) | p値a) | |
全体(n = 95) | 5.81(1.91) | 7.53(1.88) | <0.001 |
クラスターI(n = 18) | 5.55(2.12) | 7.16(2.17) | 0.034 |
クラスターII(n = 19) | 5.05(1.54) | 6.94(1.54) | 0.0012 |
クラスターIII(n = 41) | 6.09(1.92) | 7.63(1.84) | <0.001 |
クラスターIV(n = 17) | 6.35(1.86) | 8.35(1.83) | 0.0053 |
[B]前期末試験と後期末試験結果 | |||
---|---|---|---|
前期末試験Av.(SD) | 後期末試験Av.(SD) | p値b) | |
全体(n = 95) | 64.35(15.48) | 66.10(18.18) | 0.3626 |
クラスターI(n = 18) | 56.72(17.50) | 56.58(21.48) | 1.0000 |
クラスターII(n = 19) | 60.00(15.57) | 63.59(15.68) | 0.6186 |
クラスターIII(n = 41) | 65.85(13.67) | 68.58(16.58) | 0.2530 |
クラスターIV(n = 17) | 73.70(12.50) | 73.00(17.75) | 1.0000 |
a)Wilcoxon signed-rank test, b)Wilcoxon rank sum test.
前期末試験及び後期末試験の結果を図3-Bと表2-Bに示す.前期末試験の平均は64.35点(SD: 15.43),後期末試験の平均は66.10点(SD: 18.18)であった.前期末試験と後期末試験のクラスター別平均点は,いずれもクラスターIVで最も高く,次にクラスターIII,クラスターIIと続き,クラスターIで最も低かった.また,クラスター間の平均点を比較すると,前期末試験では,クラスターIとIV,IIとIVで有意な差があり,後期末試験では,クラスターIとIII,IとIVで有意な差が確認された.
4.自由記述の計量テキスト分析結果「かるた」及び大会の利点と改善点(Q8:自由記述)について,形態素解析により得られた出現回数2回以上の解析対象語を表3に示す.利点については回答のあった52名の記述を解析対象とした(総抽出語数は1018語).内容を特徴づける頻出語は「覚える」「構造」「勉強」など,「かるた」に関する語句が確認された.共起ネットワークから「復習-化学-新しい-知識」,「頭-入る-知識-復習」「楽しい-授業-形式」などの抽出語との関連が高いことが示された(図4-A).
[A]利点(n = 52) | [B]改善点(n = 40) | ||
---|---|---|---|
抽出語 | 回数 | 抽出語 | 回数 |
思う | 22 | 思う | 15 |
覚える | 20 | かるた | 7 |
構造 | 18 | 言う | 5 |
勉強 | 11 | 聞こえる | 5 |
良い | 10 | 取る | 4 |
楽しい | 9 | 人 | 4 |
解説 | 6 | 声 | 4 |
人 | 5 | お手付き | 3 |
入る | 5 | ルール | 3 |
途中 | 4 | 机 | 3 |
頭 | 4 | 構造 | 3 |
遊び | 4 | 順位 | 3 |
グループ | 3 | 答え | 3 |
テスト | 3 | 班 | 3 |
形式 | 3 | 勉強 | 3 |
残る | 3 | 名前 | 3 |
取る | 3 | 問題 | 3 |
授業 | 3 | 覚える | 2 |
やる気 | 2 | 教室 | 2 |
化学 | 2 | 決める | 2 |
楽しむ | 2 | 見る | 2 |
記憶 | 2 | 差 | 2 |
緊張 | 2 | 最後 | 2 |
最初 | 2 | 最初 | 2 |
自分 | 2 | 札 | 2 |
出る | 2 | 出す | 2 |
色分け | 2 | 少し | 2 |
新しい | 2 | 人数 | 2 |
盛り上がる | 2 | 数字 | 2 |
大会 | 2 | 組 | 2 |
知識 | 2 | 他 | 2 |
定着 | 2 | 特に | 2 |
普段 | 2 | 読み上げる | 2 |
復習 | 2 | 聞き取る | 2 |
名前 | 2 |
「かるた」及び大会の利点と改善点(Q8:自由記述)における計量テキスト分析結果.A:利点における共起ネットワーク図(n = 52).B:利点における対応分析(n = 52).C:改善点における共起ネットワーク図(n = 40).
また,改善点については,回答のあった40名の記述を解析対象とした(総抽出語数は610語).内容を特徴づける頻出語は「聞こえる」「取る」「お手付き」「ルール」など,かるた大会に関する語句が確認された.共起ネットワークでは「机-人数」,「お手付き-ルール」「班-最初-決める」などの抽出語との関連が高いことが示された(図4-C).
Q1とQ2のアンケート結果を基に分けた4つのクラスターとQ8の利点との対応分析では2成分が抽出され,第1成分の寄与率は46.98%,第2成分は29.84%であった(図4-B).クラスターIV(n = 17:有機化学好き,「かるた」への興味あり,成績最上位群)では,「化学-記憶-定着」,クラスターIII(n = 41:有機化学への印象及び「かるた」への興味中程度,成績上位2番目群)では,「解説-勉強」,クラスターII(n = 19:有機化学嫌い,「かるた」への興味薄い傾向,ポストテスト最下位群)及びクラスターI(n = 18:有機化学嫌い,「かるた」への興味あり傾向,後期末試験最下位群)では,「構造-覚える」,又クラスターIでは「遊び」などの抽出語が確認された.
Q1とQ2のアンケート結果に基づいて分けた4つのクラスターの学生群によって,成績が異なり(図3,表2),「かるた」やかるた大会に対して利点と感じている特徴にも相違があることが示された(図4-B).
クラスターIVでは,有機化学を好きと評して「かるた」への印象もよく,すべての試験で最も良好な傾向にあった.また,図4-Bより,「化学-記憶-定着」などの抽出語との関連が高いことからも,本方略を知識定着への手段として認識したことが考えられた.
クラスターIIIでは,有機化学への印象及び「かるた」への興味中程度,成績は上位2番目群であった.図4-Bより,「解説-勉強」などの抽出語と関連があることから,かるた大会における解説を利用して学習できていたことが示唆された.
表1より,クラスターIとIIでは,どちらも有機化学を嫌いと評する傾向にあり,図3-B,表2-Bより,定期試験の成績への影響は確認されなかった.また,図4-Bより,「構造-覚える」との関連性があることから,「かるた」の内容を暗記のためのツールとして認識していることが考えられた.
クラスターIは「かるた」に対して興味がもてる傾向にあり,その要因として,図4-Bより「遊び」という抽出語との関連が高いことから,「かるた」に対して,遊びの要素を感じ興味をもったことが考えられた.図3-B,表2-Bより,ポストテストのような知識想起型の試験において,プレテストより成績向上が確認された場合であっても,必ずしも,かるた大会後の学習に対する動機付けや有機化学の学力向上につながったとはいえず,短期記憶であったことが示唆された.これより,クラスターIに対して,本方略の目的である有機化学の基礎学力の向上に寄与できたとはいえない.本クラスター群に対して,「かるた」に興味をもっていた点を生かし,有機化学の学力向上につなげるための,さらなる取組みが必要と考えられた.
一方,クラスターIIでは,「かるた」に対して興味をもてない傾向にあった.また,「順位がつくことで,やる気がでたか」の質問に対し,約47%が“思わない”“あまり思わない”と答えていることから(表1-Q4),競争要素を好まないことが考えられた.また,かるた大会のポストテストで最下位であったことからも,競争要素の少ない学習方略の方が適していると考えられた.
受講者の意識や成績によって,本方略が知識定着への手段となる群や,かるた大会の解説を利用して学習の手段とした群,また,かるた大会後の学習に対する動機付け効果や有機化学の学力向上は確認されず短期記憶であった群など学習効果に相違があることが本研究より明らかとなった.化学を嫌いと評する傾向にある成績下位の群ほど,短期記憶の傾向がみられたことから,より効果的な有機化学の基礎学力向上のため,さらなる取組みが必要と考える.まずは本方略の改善として,1,2コマ目の講義の際,医療現場における有機化学の活用事例紹介の機会を増やすなど,有機化学への興味につなげられるよう改善する.これより,学習に対する動機付けや「かるた」の有効活用につながることが期待できる.また,本方略以外の学習方略も検討・活用し,さまざまな方面からのアプローチが有機化学の基礎学力向上には必要と考える.
本研究の限界点の第一として,筆者らの教員がいる中で記名式のアンケートを実施した点にあり,学生の本音を引き出せていない可能性がある.限界点の第二に,本研究により,本方略が知識定着へのアプローチとなる群と短期記憶へのアプローチとなる群が示されたが,学習のプロセス12) については今回の研究で明らかにできていない可能性がある.しかし,初年次における有機化学の学力向上に向けた方略として,短期記憶のみで有機化学の学力につなげられていない群を可視化し,問題点が抽出できた点は有用と考える.今後は,今回抽出された問題点を改善し,有機化学の基礎学力向上をめざした教育を実践していき,その後の,より複雑な医薬品の構造式の特徴の理解につなげる.さらに,臨床現場の問題解決において活用するための礎として役立つものと考えている.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.