薬学教育
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ISSN-L : 2433-4774
原著
「ピアサポート(先輩学生による実習支援)プログラム:1年次基礎実験実習の支援」の実践
―グループワークのファシリテーション導入による学修効果の検討―
栗尾 和佐子木下 将吾小倉 力斗出納 いずみ永田 実沙上田 昌宏串畑 太郎安原 智久曽根 知道
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2020 年 4 巻 論文ID: 2020-032

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抄録

本学では1年次基礎実験実習に2年生が支援・指導を行うピアサポートを実施している.2018年度より,実習終了後に行っていた実習内容の口頭試問を廃し,2年生がファシリテーターを務めるグループワークを導入した.グループワーク導入により,2年生にもたらす教育効果を実習支援後のレポートのSCAT法による分析結果とルーブリックによるパフォーマンスの自己評価より検証した.また,1年生の実習に対するパフォーマンスにもたらす効果を,2年生が1年生をルーブリックで評価した結果を用いて,2017年度と2018年度を比較した.その結果,グループワークのファシリテーターを務めた2018年度の2年生は2017年度と比べて,指導方法を考えて実行する課題発見・問題解決能力,行動力が養われ,教育への意識が向上することが示された.また,2018年度の1年生はグループワークを通じて,実習についての思考や課題発見・問題解決能力が養われることが明らかとなった.

Abstract

In 2018, our university abolished the oral examination that was conducted after labs and introduced group work facilitated by the second-year students. They provided peer support and guidance to the first-year students in the basic laboratory training. The educational effects of the introduction of group work on second-year students were examined by the SCAT (Steps for Coding and Theorization) analysis of the reports and performance self-evaluation of performance with a rubric. The results showed that the second-year students of 2018 who served as facilitators developed problem finding and solving skills, behavioral skills to implement instructional methods, and an increased awareness of education more than those of 2017. The effects on first-year student performance in labs were verified with the results of the second-year students’ rubric assessments of them. There was evidence that the first-year students in 2018 developed thinking skills and problem finding and solving skills in labs through the group work.

緒言

文部科学省の薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂1) において,卒業までに修得されるべき「薬剤師として求められる基本的な資質」の1つとして,「教育能力」が提示された.また,摂南大学薬学部は,卒業時に修得すべき8つの資質(ディプロマポリシー)2) の1つとして,「生涯にわたる自己研鑽,キャリア形成と教育能力」を設定している.本学では,2013年度から,2年生を対象に正課科目として,キャリア形成I 2) を開講しており,その中で「ピアサポート(先輩学生による実習支援)プログラム:1年次基礎実験実習の支援」を実施している.このプログラムは,2年生が1年生に実習の直接の支援を行い,著者の研究室配属卒研生の5年生が2年生の支援・指導を行う,屋根瓦式教育35) を取り入れたピアサポート68) 方式である.我々は,この方式を2013年度から2016年度に亘って改善するとともに,その教育効果を明らかにした.すなわち,実習後の2年生と1年生に対するアンケート調査結果等から,ピアサポートする側の2年生は実習支援する上での知識,実習指導への積極性,学習意欲,指導意欲が向上され,受ける側の1年生は実習の知識や技能を身につけ,1年生に実習の面白さをもたらす効果的なプログラムであることを示した9)

一方,1年次基礎実験実習において,パフォーマンスに基づく評価,学習者の行為・遂行能力等の評価は明確ではなかった.そこで,2017年度に本学薬学部のシラバスをもとに,実験実習の評価指標として,図1に示す実習用ルーブリック10–13) を作成した.この実習用ルーブリックを用いて,2年生が担当する1年生のパフォーマンス評価を行った.2018年度には,1年生が実験内容や結果についてより理解して考察できるように,2017度まで行っていた実習後の口頭試問を廃し,2年生がファシリテーターを務めるグループワーク14) を導入した.1年次基礎実験実習のピアサポートプログラムに導入したグループワークを通じて,ファシリテーターを務める2年生が,後進を指導する上での課題発見・問題解決能力,後進を育成する意欲を有することを求め,さらに,支援される側の1年生に実習についての思考や課題発見・問題解決能力が養われることを目標とした.

本研究では,グループワークのファシリテーション導入によって,2年生にもたらす教育効果(主体性,教育力,課題発見・問題解決能力,指導する意欲)を,実習支援終了後のレポートのSCAT(Steps for Coding and Theorization)法15,16) を用いた分析結果およびルーブリックによる2年生のパフォーマンス到達度の自己評価の結果により検証した.また,1年生の実習に対するパフォーマンスにもたらす効果を明らかにするため,2年生がルーブリックで評価した1年生のパフォーマンス到達度の結果を用いて,2017年度と2018年度を比較した.

方法

1.1年次基礎実験実習の支援の概要

2017年度と2018年度の1年次基礎実験実習の支援の概要を表1に示す.2017年度は,2年生31名が1年生237名を,2018年度は,2年生 29名が1年生222名を対象に実習の支援・指導を行った.2年生と1年生は,それぞれ4グループに分かれ,さらに各グループ内で2年生は実験台ごとの1年生6~8名を担当した.支援の期間は3日間(13時20分~18時10分 / 1日)で,実習内容は,1日目が「容量器の正確さと精密さ」,2日目が「生体成分の分離・定性」,3日目が「タンパク質の定量」であった.2018年度は,1年生に行っていた教員による口頭試問を廃し,2年生がファシリテーターを務めるグループワークを実施した.グループワークは担当した実験台ごとに,その日に行った実習の内容,結果,考察,実験で工夫した点や問題点のほか,実習内容に関連した課題について約30分間討議した.2017年度と2018年度の2~3名の5年生は,2年生に対して,実習期間中,支援・指導を行い,実習後,その日に行った実習支援についてフィードバックをした.また,2018年度の5年生は,グループワーク中,2年生のサポートを行い,実習後には,グループワークを含めてフィードバックをした.

表1 1年次基礎実験実習の支援の概要
年度 2017 2018
2年生人数 31 29
1年生人数 237 222
〈実習支援〉
 方 法 2年生(6~7名/1グループ),1年生(52~62名/1グループ)の4グループに分かれて実習を行う.
2年生1名が,実験台ごとの1年生6~8名を担当し,実習の支援と指導を行う.
 期 間 3日間(9月~10月 火曜,水曜,木曜),13:20~18:10/1日
 実習後 ★教員による口頭試問
 (内容)
 ・実験結果と考察
 ・定性反応などの原理
 (時間,人数)
 ・約10分,教員1名に1年生2名
★5年生によるフィードバック
★2年生ファシリテーターによるグループワーク
 (内容)
 ・実験結果と考察
 ・実験での工夫した点,問題点
 ・課題に対するSGD
 (時間,人数)
 ・約30分,2年次生1名に1年次生6~8名
★5年生によるフィードバック
★1年生のパフォーマンス評価実施
 (3日間の実習支援終了後)
★2年生のパフォーマンス自己評価実施
 (実習支援前および3日間の実習支援終了後)
★1年生のパフォーマンス評価実施
 (3日間の実習支援終了後)
★2年生のパフォーマンス自己評価実施
 (実習支援前および3日間の実習支援終了後)
〈1年次基礎実験実習〉
 内 容 1日目:容量器の正確さと精密さ
容量可変式ピペット使用法,容量可変式ピペットの容量検定法
2日目:生体成分の定量 分離・定性
タンパク質,アミノ酸の定性反応,アミノ酸のペーパークロマトグラフィー
3日目:生体成分の定量 タンパク質の定量
タンパク質の定量(Lowry法)による検量線の作成,血清タンパク質の定量

2.2年生の実習支援後のレポートのSCAT法15,16) を用いた分析

2年生(2017年度31名および2018年度29名)に,3日間の実習支援が終わった時点で気づいたことや分かったことに関するレポート(400文字以上)を作成させた.レポートの分析方法としてSCAT法を使用した.

3.ルーブリックによる2年生のパフォーマンス到達度の自己評価

図1に示す,4つの観点と5段階のレベルからなる教育体験用ルーブリック(観点:A「自発的な学習を促すための学習環境の提供」,B「学習者の理解度に合わせた教育方法の工夫」,C「教育の質を向上させるための行動」,D「教育活動に対する意識の変化」,レベル:0~4の5段階)を作成した.2017年度と2018年度の2年生は,実習支援前と3日間の実習支援終了後に教育体験用ルーブリックを用いてパフォーマンス到達度を自己評価した.なお,いずれの年度も2年生には,実習支援前にルーブリックを配布し,パフォーマンスの観点とレベルについての説明を行った.

図1

2年次教育体験用ルーブリック

4.ルーブリックによる1年生のパフォーマンス到達度の評価

図2に示す,5つの観点と5段階のレベルからなる基礎実験実習用ルーブリック(観点:A「実習に対する姿勢」,B「演習の基本事項」,C「課題発見・問題解決」,D「思考・考察」,E「創意工夫」,レベル:0~4の5段階)を作成した.2017年度と2018年度の2年生は,3日間の実習支援終了後に基礎実験実習用ルーブリックを用いて1年生のパフォーマンス到達度を評価した.なお,いずれの年度も1年生と2年生には,実習開始前にルーブリックを配布し,パフォーマンスの観点とレベルについての説明を行った.

図2

1年次基礎実験実習用ルーブリック

5.アンケート調査

1年生を対象に2017年度および2018年度ともに,3日間の実習が終了した時点で,アンケート調査を行った.なお,アンケートの回収率は,2017年度が98%,2018年度が97%であった.

6.統計解析法

JMP®Pro13(SAS Institute Inc.)を用いて解析を行った.ルーブリックによるパフォーマンス到達度の評価結果については単純集計を行い,階層型クラスター分析には,Ward 法を使用した.2017年度と2018年度の結果の解析には,Fisherの正確確率検定を行った.危険率5%未満を有意差ありとした.

7.倫理的配慮

レポートの内容等の結果は,研究の目的で個人情報が分からない状態で統計的な処理の後,学会や論文で公開する可能性があることを書面もしくは口頭で説明をし,同意を得た.本研究は,摂南大学人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2014-48,2016-02).

結果

1.2年生の実習支援後のレポートのSCAT法を用いた分析結果

2017年度2年生31名,2018年度29名が作成したレポートの記述を元に,SCATの4ステップコーディングを行い,そこからストーリーライン/理論的記述/さらに追及すべき点・課題を導いた.さらに,これらの結果を基に,統合化した2017年度の結果を表2に,2018年度を表3に示す.統合化した2017年度と2018年度の理論記述から,いずれの年度の2年生に共通して,実習支援を通じて,「1年生の実験に対する知識や,技能,態度についての気づき」,「1年生に伝わらない,伝えることの困難さの気づき」,「支援・指導する上で,教える側の知識と理解力,事前学習の必要性」,「支援・指導する上での工夫(1年生と話す,目を配る,1年生各々の学習能力に合わす)が必要」,「支援・指導に困った時の5年生のアドバイスの有難さ」,「成功体験による自分が役立っている実感や満足感」,「失敗体験からの力量不足と準備不足の反省,次回は準備万全にして臨む思い」および「今回のプログラムを将来,患者さんへの服薬指導や後輩を育成する場面で役立つ」という学びや気づきがみられた.一方,2018年度の2年生では,新たに「間違いを教えていけないと思う責任」,「支援・指導する上での工夫に自信をもつことや声の大きさに気を付けること」,「支援・指導に困った時に5年や2年生に聞くこと」,「事前学習や教え方を工夫することで指導・支援が自分の思うようにできた実感」,「成功体験により達成感,楽しさ,成長した自分や新たな自分の発見」,「成長した1年生を見て,嬉しい気持ち」および「今回のプログラムを1年生同士が協力しあい良いこと,1年生の自主性を養うのに弱いこと」という学びや気づきがみられた.

表2 2017年度2年生31名の記述から統合化したストーリーライン/理論的記述/さらに追及すべき点・課題
ストーリーライン
(現時点でいえること)
2年生は実習支援をする中で,1年生は想像以上に実験について知らないこと,予習をしないこと,講義を聞かないこと,また,実験に対する理解度や意欲に差があることに気づく.そして,2年生は1年生の実験操作を見て,自分の1年生の時を振り返り,成長したことを実感する.2年生は,実習操作などの説明や1年生の質問に対して伝わらず,1年生にわかりやすく伝えること,相手に合わせて説明すること,1年生に答えを導き出させることの難しさを知る.2年生は,教える側は,実習内容を深く理解し,正しい知識を持つための事前学習が必要であり,1年生への指導・支援には,もっとコミュニケーションをとること,目を配ること,1年生各々の学習能力に合わすことの工夫が必要と考える.また,指導・支援に困った時に,改めて5年生のアドバイスの有難さを実感する.指導・支援が思うようにできた2年生は,自分が役立っている実感や満足感をもつ.逆に,指導・支援が思うように出来なかった2年生は,自分の準備不足を反省し,次回の実習支援ではもっと準備して実習支援に臨もうと思う.実習支援を体験して,2年生は今回のプログラムを,将来,薬剤師になった時に患者さんに服薬指導をする時,後輩を指導する時に役立つと実感する.
理論的記述 学生が実習支援を通して,学んだこと,感じたこと,気づいたこと.
・1年生に実習支援をする中で,1年生の実験に対する知識,技能,態度についての気づき.
・1年生の実験に対する知識や技能が分かる中で,自分が成長したことの実感.
・1年生に伝わらない,伝えることの困難さの気づき.
・支援・指導する上で,教える側の知識と理解力,事前学習の必要性.
・支援・指導する上での工夫(1年生と話す,目を配る,1年生各々の学習能力に合わす)が必要.
・支援・指導に困った時の5年生のアドバイスの有難さ.
・成功体験による自分が役立っている実感,満足感.
・失敗体験からの力量不足と準備不足の反省,次回は準備万全にして臨む思い.
・実習支援を体験して,今回のプログラムを「将来,患者さんへの服薬指導や後輩を育成する場面で役立つ」ことの
 実感.
さらに追及すべき点・課題 ・多くの学生に成功体験をもたらすにはどのようなサポートがいるのだろうか.
表3 2018年度2年生29名の記述から統合化したストーリーライン/理論的記述/さらに追及すべき点・課題
ストーリーライン
(現時点でいえること)
2年生は実習支援やグループワークのファシリテーターをする中で,1年生は想像以上に実験について知らないこと,予習をしないこと,講義を聞かないこと,実験に対する理解度や意欲に差があることに気づく.そして,実習操作などの説明や1年生の質問に対して伝わらず,1年生にわかりやすく伝えること,答えを導き出させることの難しさを知る.2年生は,実習支援やファシリテーターをする立場になり,間違いを教えていけないと思う責任を持つ.そして,教える側は,実習内容を深く理解し,正しい知識を持つための事前学習が必要であること.また,1年生への指導・支援するには,自信をもつこと,声の大きさに気を付けること,コミュニケーションをとること,目を配ること,1年生各々の学習能力に合わすことの工夫が必要であり,わからない時は5年生や2年生に聞くことが大事であると考える.また,指導・支援に困った時に,改めて5年生のアドバイスやフィードバックが役に立っていることを実感する.より事前学習を行い,教え方を工夫して,指導・支援が思うようにできた2年生は,1年生に役立っている実感,達成感,満足感,楽しさを感じ,成長した自分や新たな自分を発見をする.さらに,成長した1年生を見て嬉しく思うようになる.逆に,指導・支援が思うように出来なかった2年生は,自分の準備不足を反省し,次回の実習支援ではもっと準備して実習支援に臨もうと思う.実習支援を体験して,2年生は今回のプログラムを「1年生同士が協力しあい,将来,患者さんへの服薬指導や後進を育成するのに役立つ」,「1年生の自主性を養うには弱い」と実感する.
理論的記述 学生が実習支援を通して,学んだこと,感じたこと,気づいたこと.
・1年生に実習支援をする中で,1年生の実験に対する知識,技能,態度についての気づき.
・1年生に伝わらない,伝えることの困難さの気づき.
・実習支援やファシリテーターをする立場になり,間違いを教えていけないと思う責任.
・支援・指導する上で,教える側の知識と理解力,事前学習の必要性.
・支援・指導する上での工夫(自信をもつ,声の大きさ,1年生と話す,目を配る,1年生各々の学習能力に合わす)
 が必要.
・支援・指導に困った時に5年生や2年生に聞くことが大事.
・支援・指導に困った時の5年生のアドバイスやフィードバックの有難さ.
・より事前学習を行い,教え方を工夫することで,指導・支援が自分の思うようにできた実感.
・成功体験による自分が役立っている実感,達成感,満足感,楽しさ,成長した自分や新たな自分の発見.
・成長した1年生を見て,嬉しい気持ち.
・失敗体験からの力量不足と準備不足の反省,次回は準備万全にして臨む思い.
・実習支援を体験して,今回のプログラムを「1年生同士が協力しあう」,「将来,患者さんへの服薬指導や後輩を
 育成する場面で役立つ」,「1年生の自主性を養うのに弱い」ことの実感.
さらに追及すべき点・課題 ・成功体験をもたらしたものは,何であったのか.
・1年生の自主性を養うプログラムにするには,どのようにすればいいか.

2.2年生のパフォーマンス到達度の自己評価

実習支援終了後の2年生のパフォーマンスの自己評価の結果を表4に示す.2017年度と2018年度の2年生のパフォーマンスの自己評価を比較したところ,レベルの平均は観点Aの「学習環境の提供」がそれぞれ2.0および2.5,観点Bの「教育方法の工夫」がそれぞれ2.0および2.6,観点Cの「行動」がそれぞれ2.1および2.3,観点Dの「意識の変化」がそれぞれ2.1および2.6であり,2018年度の2年生の全ての観点で自己評価が,2017年度の2年生と比べて上昇傾向を示した.

表4 2年生のパフォーマンス自己評価結果
観点 年度 人数 4 3 2 1 0 平均±標準偏差 Fisherの正確確率検定
A 自発的な学習を促すための学習環境の提供 2017 31 1 7 15 7 1 2.0 ± 0.86 p = 0.09286
2018 29 1 12 15 1 0 2.5 ± 0.63
B 学習者の理解度に合わせた教育方法の工夫 2017 31 0 10 12 8 1 2.0 ± 0.86 p = 0.09527
2018 29 2 14 11 2 0 2.6 ± 0.74
C 教育の質を向上させるための行動 2017 31 1 7 16 7 0 2.1 ± 0.77 p = 0.76406
2018 29 1 10 14 4 0 2.3 ± 0.75
D 教育活動に対する意識の変化 2017 31 4 3 18 5 1 2.1 ± 0.96 p = 0.12549
2018 29 4 9 15 1 0 2.6 ± 0.78

3.1年生のパフォーマンス到達度の評価

1年生のパフォーマンス評価の結果を表5に示す.また,1年生のパフォーマンス評価の観点ごとの平均値と標準偏差を算出し,図3にレーダーグラフで表した.3日間の実習が終了した時点での2017年度と2018年度の1年生のパフォーマンス評価を比較したところ,レベルの平均は観点Aの「実習に対する姿勢」がそれぞれ2.4および2.7,観点Bの「実習の基本事項」がそれぞれ2.3および2.7,観点Cの「課題発見・問題解決能力」がそれぞれ1.9および2.7,観点Dの「思考・考察」がそれぞれ2.0および2.6,観点Eの「創意工夫」がそれぞれ2.0および2.4であり,2018年度の1年生の全観点のパフォーマンス評価が,2017年度の1年生と比べて有意に上昇した(それぞれp < 0.0001,Fisherの正確確率検定).特に,観点Cの「課題発見・問題解決能力」および観点Dの「思考・考察」のパフォーマンス評価が著しく上昇した.

表5 1年生のパフォーマンス評価結果
観点 年度 人数 4 3 2 1 0 平均±標準偏差 Fisherの正確確率検定
A 実習に対する姿勢 2017 237 24 86 93 32 2 2.4 ± 0.88 p < 0.0001
2018 222 33 93 89 7 0 2.7 ± 0.76
B 実習の基本事項 2017 237 29 55 118 34 1 2.3 ± 0.90 p < 0.0001
2018 222 27 104 89 2 0 2.7 ± 0.69
C 課題発見・問題解決能力 2017 237 2 61 101 71 2 1.9 ± 0.79 p < 0.0001
2018 222 18 121 74 9 0 2.7 ± 0.68
D 思考・考察 2017 237 4 64 110 57 2 2.0 ± 0.78 p < 0.0001
2018 222 19 107 82 14 0 2.6 ± 0.74
E 創意工夫 2017 237 12 28 139 58 0 2.0 ± 0.75 p < 0.0001
2018 222 13 90 97 22 0 2.4 ± 0.75
図3

1年生のパフォーマンス評価結果(平均値)

2017年度と2018年度の1年生のパフォーマンス評価結果を階層型クラスター分析により分類した結果を図4に示す.いずれの年度においても,1年生のパフォーマンス評価は4群に大別された.2017年度および2018年度の1年生のパフォーマンス評価では,観点A~Eのレベルがすべて平均値より高い群(I群11%およびV群37%),観点A~Eのレベルがすべて平均的な群(II群42%およびVI群24%),観点A~Eのレベルがすべて平均値より低い群(IV群23%およびVIII群25%)に分かれた.それらに加えて,2017年度には,観点Dの「思考・考察」以外のレベルが平均値より低い群(III群24%),2018年度には,観点Bの「実習の基本事項」と観点Eの「創意工夫」のレベルが平均値より低い群(VII群14%)が認められた.

図4

階層型クラスター分析の結果

4.実習後の1年生のアンケート調査結果

3日間の実習終了後に実施した1年生のアンケート調査の内容および結果を表6に示す.表6のQ3およびQ4に示すように,約8割の1年生は,グループワークは「実習での知識習得の手助けになった」,「実習での探索的・理論的思考の手助けになった」と回答し,グループワークを肯定的に捉えた.また,Q2に示すように,基礎実験実習の負担が大きいと思う1年生が2017年度の約5割から約3.7割に有意に減少(p = 0.0015)し,具体的には予習や復習,実習時間および課題に対する負担が軽減したと考える学生が多かった.

表6 1年生のアンケート調査結果

2年生の参加に関する質問では,Q6からQ11に示すように,2017年度も2018年度の8割以上の1年生は高く評価しており,2017年度と2018年度の間で大きな差は認められなかった.

考察

2年生が実習支援終了後に作成したレポートをSCAT法により分析した結果,表2表3に示すように,2018年度の2年生には,新たに「間違いを教えていけないと思う責任」,「支援・指導する上での工夫(自信をもつ,声の大きさ)」,「支援・指導に困った時の対応」,「事前学習や教え方の工夫を行い自分の思うように支援・指導できた実感」,「成功体験により達成感,楽しさ,成長した自分の発見」,「成長した1年生への嬉しい気持ち」および,「プログラムの良い点や問題点の発見」という学びや気づきがみられた.これは,毎回の実習支援終了時のグループワークのファシリテーターを務めることが,2018年度の2年生に責任感をもたらし,2017年度の2年生と比べて,事前学習をより行い,指導方法の工夫や態度,困った時の対処などの考慮がよりできるようになった可能性が考えられた.そして,成功体験により自分の指導方法に自信を持ち,教える楽しさ,自分自身の成長を感じた2年生が現れたことが示唆された.また,2年生は今回のプログラムの良い点や問題点などの課題を発見できたことが考えられた.

表4に示す実習支援終了後の2年生のパフォーマンスの自己評価の結果からも,2018年度では,2017年度と比べて観点Aの「学習環境の提供」,観点Bの「教育方法の工夫」および観点Dの「意識の変化」のレベルの平均値が上昇した.2018年度の2年生は,2017年度と比べて1年生の理解度に合わせた指導ができ,1年生の積極的な取り組みや意欲的な態度から,自分の指導方法に自信を持ち,教える喜びや充実感を得た学生が増加したことが示唆された.

一方,1年生では,表5および図3に示すように2年生による1年生のパフォーマンス評価の結果,2018年度の1年生のパフォーマンス到達度は,2017年度と比べて各観点のレベルの平均値が有意に上昇し,特に観点Cの「課題発見・問題解決能力」と観点Dの「思考・考察」のレベルは著しく上昇した.毎回のグループワークにより,2018年度の1年生は,2017年度と比べて実習内容を振り返る時間が増え,また実験についての結果や考察,工夫したことや問題点について他者の意見を聞く機会が増えた結果,1年生のパフォーマンスが向上したことが示唆された.さらに,2018年度の2年生はグループワークのファシリテーターを務めることで,1年生の実習に対する考えや行動をより理解することができ,特に課題発見・問題解決能力,思考・考察の評価を適切にできるようになったことに起因する可能性も考えられた.このことから,今回の実習の振り返りのために導入したグループワークは,1年生の思考力や課題発見・問題解決能力の涵養に有効であることが考えられた.

2年生による1年生のパフォーマンス到達度の評価について階層型クラスター分析を行った結果,図4に示すように,2017年度および2018年度とも4つの群に大別できた.1年生のパフォーマンス評価において,観点A~Eのすべて高い群は2017年度の11%から2018年度には37%に増加し,観点A~Eのすべて平均的な群は2017年度の42%から2018年度には24%に減少した.2017年度では,観点Dの「思考・考察」以外のレベルが平均値より低い群(24%)がみられたが,2018年度では,観点Dの「思想・考察」に加えて,観点Aの「実習に対する姿勢」と観点Cの「課題発見・問題解決能力」が平均値の群(14%)が新たに出現した.一方,観点A~Eのすべて低い群は2017年度23%だったのに対して2018年度も25%でほとんど変化はなかった.これらの結果から,口頭試問の代わりにグループワークを導入したことで,2018年度の1年生は,思考や課題発見・問題解決能力が養われ,中間層の群が高い群に移行したことが考えられた.また,2017年度と2018年度のすべて低い群の割合に変化はなかったが,観点A~Eのすべての平均値が2018年度に上昇したことから,グループワークは教育効果を高める有効な学習方法であることが示唆された.今回作成した1年次基礎実験実習用ルーブリックは,1年生のパフォーマンス(実習に対する姿勢,基本事項,課題発見・問題解決能力,思考・考察,創意工夫)のレベルを測る手法として有効であることが示され,クラスター分析は,パフォーマンスのタイプを分類し,学生に適した教育を行う上で有効な手法となりうることが考えられた.

表6に示す1年生のアンケート結果からは,約8割の1年生は「グループワークは知識習得,探索的・理論的思考の手助けになった」と回答した.また,グループワークにより予習や復習,実習時間,課題の負担が減少し,基礎実験実習の負担が大きいと思う1年生が2017年度の約5割から約3.7割に有意に減少したことから,グループワークは1年生にとって有効であったことが考えられた.

以上の結果から,グループワークのファシリテーターを務めた2018年度の2年生は,2017年度の2年生と比べて,相手に合わせた指導方法を考えて実行する,課題発見・問題解決能力,行動力が養われ,教育への意識が向上したことが示された.また,2018年度の1年生は,グループワークを通じて,実習についての思考や課題発見・問題解決能力が涵養されることが明らかとなった.

本学では,キャリア形成I科目に,5つの自己研鑚・参加型学習(1.1年次基礎実験実習の支援,2.常翔啓光学園ピアエデュケーションの支援,3.災害救助訓練の支援,4.学会への参加,5.公開講座への参加)を開講している.2年生は,これら5つの内から1つを希望で選択する.1年次基礎実験実習の支援では,さらに3つ(1.生体成分定性定量,2.組織血球・解剖,3.ハンディキャップ体験)から1つを選択する.1年次基礎実験実習の支援を選ぶ2年生は,もともと教育支援への意識が高いと考えられるが,ここ数年,生体成分定性定量を第1希望に選ぶ学生は6割弱である.5年生については,著者の卒研研究室配属であり,卒業研究として担当する学生もいるが,そうでない学生もいる.それでも,目の前の下級生を指導しなければと思うと,学生は自ら学習し,主体的に行動を起こしている.本研究結果が,教育支援に興味のない学生に適応可能であるかは明らかでない.しかしながら,学生が実践的な教育支援体験を通じて,受動的な授業では養われない,学生自身が持っている能力(主体的に行動する力,考える力,課題発見・問題解決能力,教育力など)が引き出されることと思われる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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