薬学教育
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誌上シンポジウム:高大接続から考えてみよう―思考力・判断力 どうとらえ,どう測定するか―
高等学校における教育改革の動向
―生徒の学びはどう変わり,大学はどう受け止めるのか―
山田 剛史
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2020 年 4 巻 論文ID: 2020-036

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抄録

加速的な人口減少に端を発する人口動態の変化やAI等の技術革新に伴う産業構造の転換など,学生を待ち受ける社会環境の大きな変化は,学校教育全体に大きな影響を与えている.現在進められている高大接続改革の主眼は,点としての入試改革や,大学・高等学校における教育改革を別個に進めることのみに非ず,学校から社会へのトランジションを円滑に進めるために,共通の枠組み・言語の元で,学校段階を超えて生徒・学生の学びと成長を最大化しようとするものである.

これまで行われてきた座学中心の授業や暗記型の学習といった狭義の学力養成から,主体的・対話的で深い学びや探究的な学び,社会に開かれた教育課程の実現へと教授・学習パラダイムの転換が図られる.社会(出口),高校(入口)双方が大きく変わろうとする中で,大学はそれをどう受け止め,教育の転換を図ることが求められるのだろうか.教育政策,統計データ,実践を踏まえて考えたい.

Abstract

Amid Japan’s rapidly graying population and AI-driven industrial revolution, changes in the social environment surrounding students have an immense impact on school education. The goals of the current High School/University Articulation Reforms are thus multi-tiered: not only to improve entrance examinations and educational systems in high school and university respectively, but at a deeper level to facilitate students’ school-to-work transitions by offering real-life challenges and practical experiences in order to maximize students’ learning potentials and personal growth.

Now, the traditional way of teaching-learning has to undergo a paradigm shift from narrowly defined training academic knowledge: teacher-centered classrooms and rote memorization, to a more student-centered curriculum that is open to society and where students dive deep into learning in proactive, interactive, and inquisitive manners. In an era where society (an exit point) and high school (an entry point) are both changing drastically, how should university education respond to the changes and transform their roles? This study discusses the challenges of university reform efforts by referring to educational policies, statistical data, and practices.

はじめに

加速的な人口減少に端を発する人口動態の変化やAI等の技術革新に伴う産業構造の転換など,学生を待ち受ける社会環境の大きな変化は,学校教育全体に大きな影響を与えている.まず,社会と大学とをつなぐ出口に関わる課題として,卒業時の質の保証があり,その実現のために三つの方針(3ポリシー)を軸とした学習成果基盤型教育の導入が進められている.とりわけ,育成する人材像を具現化したディプロマ・ポリシーには,社会における顕在・潜在ニーズを取り入れることが求められている.そこには,従前の大学教育では必ずしも積極的・明示的に扱われてきたとは言えない側面(思考力や判断力,主体性や協調性,課題設定・解決能力など)が含まれており,その育成のためのカリキュラム改革やアクティブラーニングの導入が必然の流れとなってきている.そして,育成すべき資質・能力の深化・拡張に伴い,従来の評価の考え方・方法のみで捉えきれるものではなく,新たな評価・多面的な評価の導入が不可避のものとなっている.この多面的評価の検討・実施が,各授業やカリキュラム全体,ひいては入学者選抜など,大学の入口・中身・出口のあらゆる場面で求められるようになっている.

本稿の主な目的は,高等学校における教育がどのように変わってきているのかを伝えることにあるが,上記の社会変化や大学教育の動向を押さえた上で,高校教育の動向を捉えることが重要であると考えている.なぜなら,現在進められている高校教育(のみならず初等・中等教育全体)の改革の考え方や枠組み,最終的に目指す目標は,上述した大学教育改革と基本的には同じ構造・内容を有しているからである.資質・能力の三つの柱(≒学力の三要素)を,「主体的・対話的で深い学び」を軸に,教科横断的な視点から,社会に開かれた教育を取り入れつつ,組織的なカリキュラム・マネジメントによって育成するというものである.これらの指針が「新学習指導要領」の中で明文化されたことや,学習成果(の1つ)としての大学入試が変わるということによって,高校教育は急速に変わりつつある.

現在進められている高大接続改革の主眼は,点としての入試改革や,大学・高等学校における教育改革を別個に進めることのみに非ず,学校から社会へのトランジションを円滑に進めるために,共通の枠組み・言語の元で,学校段階を超えて生徒・学生の学びと成長を最大化しようとするところにある.これまで行われてきた座学中心の授業や暗記型の学習といった狭義の学力養成から,主体的・対話的で深い学びや探究的な学び,社会に開かれた教育課程の実現へと教授・学習パラダイムの転換が図られる.社会(出口),高校(入口)双方が大きく変わりつつある中で,大学はそれをどう受け止め,教育の転換を図ることができるのだろうか.以降,教育政策,統計データ,実践事例を踏まえて考えたい.

高等学校における教育改革の政策動向

1.高大接続の一体的改革

高大接続改革には,高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の三種の改革が含まれている.そして,「学力の三要素」を確実に育成・評価するために,三者の一体的な改革が重要であると明示されている1)

高等学校教育改革においては,「学力の三要素」(①知識・技能の確実な習得,②(①を基にした)思考力・判断力・表現力,③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)の確実な育成のために,教育課程の見直し,学習・指導方法の改善と教員の資質・能力の向上,多面的な評価の推進が掲げられている.大学教育改革においては,学力の三要素の更なる伸張のために,「三つの方針」(①卒業認定・学位授与の方針,②教育課程の編成・実施の方針,③入学者受入れの方針)に基づく大学教育の質的転換,認証評価制度の改善が掲げられている.大学入学者選抜改革においては,学力の三要素の多面的・総合的評価のために,「大学入学共通テスト」の導入,個別入学者選抜の改革が掲げられている.

2. 新しい学習指導要領

新しい学習指導要領が2020年度から開始される(小学校2020年度〜,中学校2021年度〜,高等学校2022年度〜).新学習指導要領では,子供たちが何を学ぶかだけでなく,どのように学ぶか,何ができるようになるかも重視し,子供たちの「生きる力」を確実に育むことが目指されている.その特徴は大きく4つに分けられる2)

1)社会に開かれた教育課程

よりよい教育課程を通じてよりよい社会を作るという目標を学校と社会が共有し,それぞれの学校において,必要な教育内容をどのように学び,どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを明確にしながら,社会との連携・協働によりそのような学校教育の実現を図ることを目指す.これは,教育新学習指導要領全体の基盤となる考え方として位置づけられている.

2)育成を目指す資質・能力の明確化

「生きる力」をより具体化し,教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力が,①生きて働く「知識・技能」の習得,②未知の状況にも対応できる「思考力,判断力,表現力等」の育成,③学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養,の三つの柱として整理されている.

3)「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進

単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成に向けて,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(アクティブラーニングの視点に立った授業改善)を進めることが明示されている.

4)各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進

総則において,「生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(カリキュラム・マネジメント)に務める」ことが明示されている2)

主体的・対話的で深い学び

新学習指導要領の重要なポイントの一つである「主体的・対話的で深い学び」(表1)の推進は,今回の高大接続改革の中でも,全ての教員が日常的な教育活動の中で展開することになる重要な柱である.この間,大学で進められている「アクティブラーニング」と,新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」とは表現こそ異なるものの,意味するものはほとんど同じと言って良い.極言すれば,今回の高大接続改革の肝は,大学入学者選抜の改革を起爆剤(特に高等学校への教育改革の促進)としつつ,大学教育と高等学校教育とをアクティブラーニングによってつなぐ「教育接続」ひいては「学びの接続」にある.それ故に,主体的・対話的で深い学びをどう理解し,実践するかが鍵となる.

表1 主体的・対話的で深い学び3)
学び 内容
主体的な学び 学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら,見通しを持って粘り強く取り組み,自己の学習活動を振り返って次につなげる学び
対話的な学び 子供同士の協働,教職員や地域の人との対話,先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ,自己の考えを広げ深める学び
深い学び 習得・活用・探究という学びの過程の中で,各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう学び

なお,主体的・対話的で深い学びの推進における留意点として,以下のことが示されている2)

①授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,生徒に目指す資質・能力を育むために「主体的な学び」,「対話的な学び」,「深い学び」の視点で,授業改善を進めるものであること.

②各教科等において通常行われている学習活動(言語活動,観察・実験,問題解決的な学習など)の質を向上させることを主眼とするものであること.

③1回1回の授業で全ての学びが実現されるものではなく,単元や題材など内容や時間のまとまりの中で,学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか,グループなどで対話する場面をどこに設定するか,生徒が考える場面と教師が教える場面とをどのように組み立てるかを考え,実現を図っていくものであること.

④深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要になること.各教科等の「見方・考え方」は,「どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのか」というその教科等ならではの物事を捉える視点や考え方である.各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすものであり,教科等の学習と社会をつなぐものであることから,生徒が学習や人生において「見方・考え方」を自在に働かせることができるようにすることにこそ,教師の専門性が発揮されることが求められること.

⑤基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題がある場合には,それを身に付けさせるために,生徒の学びを深めたり主体性を引き出したりといった工夫を重ねながら,確実な習得を図ることを重視すること.

ここで挙げられている点は,大学におけるアクティブラーニングを理解・実践する上でも同様の考え方と言える.大学で先行導入されたアクティブラーニングが,学習指導要領といった学校現場に大きな影響力を持つ文書として示されたことによって,高等学校以下に一気に広がることとなる.大学としては,そういった教育を受けた生徒が大学に入学してくる,つまり,入学前の生徒の学習経験や意欲,身に付けた資質・能力が異なってくるという点に留意して,初年次教育のあり方を含めた入学後の教育を再設計することが求められる.

高等学校における教育改革の動向

2014年の高大接続改革答申の中で提示された「主体的・対話的で深い学び」は,高等学校においてどの程度進んでいるのか.ここでは,リクルート進学総研が実施した「高校教育改革に関する調査2018」の結果を取り上げる4)

〔調査目的〕全国の全日制高校で行われている教育改革(高大接続改革,新しい学習指導要綱,キャリア教育,進路指導,学校改革に関する取り組みなど)の実態を明らかにする.

〔調査期間〕2018年10月

〔調査方法〕郵送調査.校長宛に調査票を送付

〔調査対象〕全国の全日制高校4,703校中1,203校(回収率25.6%)

アクティブラーニング型授業の導入状況 注1)図1の通りである 注2).2016年以降,何らかの形でアクティブラーニング型授業が導入されていると回答した学校は9割を超えている.また,学校全体で組織的に取り組んでいるという学校も2018年には3割近くに増えている.2014年に答申が出されて以降,各学校において急速に進められていることが伺える.

図1

アクティブラーニング型授業の導入状況(経年比較)

また,こうした授業改善に取り組んだことによる変化について,生徒の変化では,「学びに向かう姿勢・意欲が向上した(49.1%)」「主体性・多様性・協働性が向上した(37.9%)」「思考力・判断力・表現力が向上した(17.8%)」の順に高く,教員の変化では,「教員の授業観が変わった(41.5%)」「教材開発や授業設計力が向上した(33.5%)」「生徒理解が深まった(16.1%)」の順に高くなっていた.生徒の変化では,学びに向かう姿勢・意欲の向上が最も多く認められた.「基礎的な学力(知識及び技能)が向上した(8.9%)」と回答した割合が低いことから,アクティブラーニング型授業の導入と知識・技能の獲得との間には直線的な効果を認めにくい状況(実際,多くの先生が悩まれている問題)があるものの,学びに向かう姿勢・意欲の向上がみられるということは,その後の学習行動や学習態度の変化,ひいては学習の成果にも肯定的な影響をもたらす可能性を有している.生徒の学習に対する意欲や学習プロセスの質を大きな問題とせず,いかに試験で効果的・効率的に点数を取るかといった観点に立脚すれば,非効率的と感じられるかもしれないが,生徒を自律的な学習者へと誘うためには極めて重要な視点であろう.そのことと相まって,教員の授業観が変わったという回答が最も高かったことも重要である.アクティブラーニング型授業を導入し,生徒の主体的・対話的で深い学びを促す授業改善の進展には,教授者の教授・学習パラダイムの転換5,6) が不可欠である.必ずしも内発的な動機に基づいてアクティブラーニング型授業の導入に臨んでいない教員も少なくないかもしれないが,実施していく中で授業観に変容がみられたのであれば,このことが次につながる重要な契機となるのではないだろうか.

高等学校における教育改革の実践事例

ここでは,筆者が改革当初から指導・助言等の関与をしている東山中学・高等学校(京都市左京区にある私立男子校)(以下,東山中高)における組織的な教育改革の実践事例を取り上げる.取り組みの詳細については別稿を参照されたい7,8)

1.組織的な体制の整備

東山中高では,先述した政策動向を踏まえて,組織的な教育改革を進める方針を固め,2016年4月に「学習力強化プロジェクト特別委員会」を設置した(第1層).副校長(当時)を委員長として,中高の教頭,進路指導部長,教務部長など執行部の先生を中心に編成された.また,機動的に活動を進めること,正課におけるアクティブラーニングの導入のみならず,正課外活動の改革も長期的な成長という視点で重要であるという認識を共有したことから,「アクティブラーニング検討WG」と「アクティブトランジション検討WG」を設置し,2本柱で進める体制を整えた(第2層).WGには,特別委員会の委員に加えて,活動に熱心な若手教員を呼び込み,多様な意見を混ぜることやOJTを通して次代の教員養成を行うことをねらいとした.さらにアクティブラーニング検討WGの下には,各教科から選出された教員(自薦・他薦,1年任期だが再任も可)が集まり,相互研修を行う場として「アクティブラーニング協同勉強会」を設置している(第3層).

執行部中心の特別委員会,執行部+若手教員による各種WG,一般教員から選出された協同勉強会といった3層の場を設けて,議論と実践の断絶や,執行部と現場教員とのコミュニケーションの断絶を起こさずに,効果的・効率的な改革が進められるようにデザインしている.

2.教員主体・実践型の体系的なプログラム

先述したアクティブラーニング検討WGでは,定常メニューとして表2のような取組を行っている.

表2 東山中高におけるAL検討WGを中心とした取組
名称 実施回数 主な対象 活動内容
1.協同勉強会 年5回 特別委員,協同勉強会メンバー 教科横断的なチームを適宜編成し,互いの実践を共有したり,新たな知識や情報を得たり,技術を修得したりする.
2.公開授業 年3回 協同勉強会メンバー 教科の異なる3名の教員が1つのチームになり,その中の1人の授業を一緒に検討し,公開授業と振り返りを行う.中には,チームティーチングを行うケースもある.
3.授業研究会 年2回 全教員 半年に一度,全体研修の一環として,モデル授業を行う.
4.東山ALニュース 不定期 全教員(配付対象) WGメンバーが交代制によって,研修の開催報告や実践紹介,学外の動向などを新聞形式で編集し,教員に配付している.
5.東山AL実践研究会 年1回 全教員(一般教員は任意),学外教員 学外に対して開いている研究会.東山の取組紹介に加えて,参加者同士が実践や問題を共有したり,解決方法を考えたり,仲間作りも出来るような形でプログラムを編成している.

これらの取組に通底している考え方としては,アクティブラーニングの導入において「特定の型(教授法)」を強制するのではなく,「一定の枠組み」は提示した上で,各教員の自主性や独自性を尊重するようにしている.トップダウンで一気に進めるよりは浸透するまでに時間がかかるが,持続可能性の視点からみれば,このミドルアップダウン型の方式が最も適していると考えている.また,各種研修では,多様な対話をベースとして,先生方が主体的・対話的に学べるよう場をデザインしている.通常の会議体では超えにくい教科の壁を出来るだけ取っ払って,議論したり協働したりする中で,教育する実践共同体の構築を目指している.

3.データに基づく持続的な教育改善

より教育・学習の成果を高めるためには,実践の効果を把握・検証することが求められる.大学においてはIR(Institutional Research)の取組が進められているが,新学習指導要領に明文化された「カリキュラム・マネジメント」を実現するべく,高等学校においてもIRのような取組が進められることが想定される.東山中高においても,全校生徒を対象としたアンケート調査を開発し,2018年度から段階的に実施している.調査は,生徒の学びと成長を多面的・立体的に把握・分析できるように縦断調査(パネルデータ)を採用している.

具体的には,アクティブラーニングを取り入れた授業がどの程度増えているのか,どのような方法が生徒の「主体的・対話的で深い学び」に影響を及ぼしているのかといった,正課における教育・学習の実態を把握し,効果の検証を行っている.また,東山中高の教育方針の1つである「夢の実現」や,その具体化のための3大ツール(『10年カレンダー』『夢を叶える生徒手帳』『3年日記』)などの正課外での取組が生徒の成長に与える影響なども分析・検証できるよう調査項目を設定している.

分析結果は,特別委員会やWG,協同勉強会,実践研究会などで報告し,そこから次に取るべきアクションについて議論・検討を行っている.まだ組織的にIR活動を行うための体制や効果的なフィードバックの仕組みが十分に整っているとは言えないが,出来ることから少しずつ始めていって,データに基づく持続的な教育改善の文化を根付かせていければと考えている.

大学における初年次教育の実践事例

ここでは,京都大学教育学部の高大接続改革の実践事例を取り上げる.京都大学では,2016年度の入学者選抜から高等学校における幅広い学習に裏付けられた総合力と学ぶ力および高い志を評価し,個々の学部が定めたカリキュラムと教育コースを受けるにふさわしい学力と意欲を備えた者を選抜する「京都大学特色入試」が導入された.教育学部の特色入試は,高等学校において探究的な学習が進んでいることを踏まえつつ,そうした多様な経験を生かすことが出来るように設計されている9).さらに,同じタイミングで初年次教育の抜本的な改定も行っている.具体的には,学部1年生の専門必修科目「教育研究入門I」(前期),「教育研究入門II」(後期)という教育学部で伝統的に実施されてきた科目を探究型の内容に刷新し,2016年度から開始された10,11).このように,高等学校の教育改革,特色入試の導入,初年次教育の改革と,探究的な学力を軸に高大接続の一体的改革を具現化した.

教育研究入門は,高年次の専門科目(最終的には卒業論文)への接続も意図しており,前後期とも協調学習形態を取り,前期はグループでの調査研究(最後はポスター発表+レポート)を,後期は個人での調査研究(最後は口頭発表+レポート)を中核に据えている.多くの大学の初年次教育で行われているような個別のスタディ・スキルの育成などは直接的には扱わず,調査研究を進めていく中で身に付けられるよう埋め込み型のスタンスを取っている.その分,学生同士のディスカッションや進捗状況を共有するための発表会(ピアレビュー含む),TAによるサポートなどを充実させている.筆者は,これらの取組に関する包括的なアセスメントを開発し,縦断的・横断的な分析・効果検証を行っている12).その結果は,当該年度の担当教員および次年度の担当教員との引継ぎの場や当該研究科で開催されるFDの場などで共有し,持続的な質の維持・向上を目指している.

最後に

本稿では,大学入学者選抜の改革と学習指導要領の大幅な改定によって,高等学校の現場が大きく変わろうとしていることを統計データや実践事例から見てきた.課題は山積みで,必ずしも順調に進んでいるとは言い難い.それでも,社会の変化に応じて学校も変わっていかなければ,次代を担う子供たちがたくましく幸福に生きていくことは出来ない.こうした変化やうねりの中で,大学はどう受け止めるのか.今後さらに深刻化する少子化に伴って進行する大学入学者の学力の多様化に,入学前の学習経験の多様化が加わる.既にほぼ100%に近い大学が初年次教育を実装しているが,それはこの入学者の変化に耐えうるものになっているだろうか.学生が,高校から大学への移行,大学初年次から高年次への移行を円滑に行えるようなカリキュラムや教育実践になっているだろうか.この15年近くの間に一気に普及した初年次教育は,多くの大学で「パッケージ化」(共通シラバスや教材,実施マニュアル等)されたが,形骸化している(仏作って魂入れず)といった声もよく耳にする.今こそ,上述したような観点からの検証・改善が必要な時期に来ているのではないだろうか.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

注1)  調査では,「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)の視点による授業改善に取り組んでいますか」と尋ねている.

注2)  2018年は選択肢を追加・文言を変更.2016年までは「学校全体で取り組んでいる」「学校全体での取り組みではなく,教科で取り組んでいる」「学校や教科など組織的な取り組みではなく,教員個人で取り組んでいる」「取り組んでいない」「取り組み状況を把握できていない」の5択で質問.

文献
  • 1)  中央教育審議会.新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について~全ての若者が夢や目標を芽吹かせ,未来に花開かせるために~(答申).2014.
  • 2)  文部科学省.高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総則編.2018.
  • 3)  文部科学省.主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善)について.2017.
  • 4)  リクルート進学総研.高校教育改革に関する調査2018「アクティブラーニング型授業」編(プレスリリース).2019.http://souken.shingakunet.com/research/kaikaku2018_release01.pdf
  • 5)   Barr  RB,  Tagg  J. From teaching to learning: A new paradigm for undergraduate education. Change. 1995; 27(6): 12–25.
  • 6)  溝上 慎一.アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換.勁草書房.2014.
  • 7)   澤田  寛成, 柴田  昌平, 中村  憲幸,他.トランジションの視点を加えたアクティブラーニングの実践と課題―共生(ともいき)の精神を備えた主体性の育成をめざして―.東山研究紀要.2019; 63: 25–49.
  • 8)   福地  信也, 澤田  寛成, 柴田  昌平,他.『土台力の木』New Version Project―セルフ・リーダーシップ育成に向けた新たな一歩―.東山研究紀要.2020; 64: 1–13.
  • 9)   楠見  孝, 南部  広孝, 西岡  加名恵,他.パフォーマンス評価を活かした高大接続のための入試―京都大学教育学部における特色入試の取り組み―.京都大学高等教育研究.2016; 22: 55–66.
  • 10)  服部 憲児,山田 剛史.高大接続を視野に入れた探究型初年次専門科目の設計と評価:京都大学教育学部「教育研究入門」における実践(1).第22回大学教育研究フォーラム発表論文集.2017: 366–367.
  • 11)  山田 剛史,服部 憲児.高大接続を視野に入れた探究型初年次専門科目の設計と評価:京都大学教育学部「教育研究入門」における実践(2).第22回大学教育研究フォーラム発表論文集.2017: 368–369.
  • 12)  山田 剛史,溝口 侑.高大接続を視野に入れた探究型初年次教育―高校での探究学習を経験した学生はどのように学び成長するか―.初年次教育学会第12回大会発表要旨集.2019: 74–75.
 
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