薬学教育
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誌上シンポジウム:臨床準備教育の方略を考える~近畿地区統一評価基準の活用を踏まえて~
大阪薬科大学でのチーム基盤型学習によるEBM演習
上田 昌宏恩田 光子
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2022 年 6 巻 論文ID: 2021-028

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抄録

1次資料を含めた医薬品情報の評価と,患者情報を踏まえて最適な医療を提供し,EBMを実践できる薬剤師の養成が求められている.大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学薬学部)では,実務実習でEBMを実践できるように4年次にチーム基盤型学習を用いたEBM演習を行っており,演習の中で患者問題を抽出し,医学論文の評価,適用へとつなげている.2020年度は,新型コロナウイルスの影響による制限で,2019年度に比べ演習内容を縮小しての実施となった.本シンポジウムレビューでは,演習前後で行った理解度確認試験を年度毎に検証することで,本演習の教育効果を報告する.また,EBM演習での学習内容を評価するために,臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉を用いた評価について述べる.

Abstract

In pharmacy education, there is a need to train pharmacists to practice evidence-based medicine (EBM) by evaluating drug information, including primary sources, and providing optimal medical care based on patient information. At Osaka University of Pharmaceutical Sciences (currently Faculty of Pharmacy, Osaka Medical and Pharmaceutical University), team-based learning is conducted in the fourth year so that students can practice EBM in practical training. In 2020, due to restrictions caused by the COVID-19 pandemic, the content of the practice was reduced from that of 2019. In this symposium review, to report the educational effectiveness of this practice, we examined the comprehension tests conducted pre and post the tests for each year. In addition, we will evaluate the learning content in EBM practice using the Kinki region’s summarized assessment chart for preparatory clinical education.

はじめに

薬剤師は,臨床研究のデータを適切に評価し,公衆衛生も含めた医療の質向上に寄与することが求められている.2013年度に薬学教育モデル・コアカリキュラムが改訂され,論文評価を行い,Evidence Based-Medicine(EBM)の実践へとつなげられる薬剤師を養成することが明記された1).論文データだけではなく,患者背景を加味し患者の意思決定の支援および最適な医療の提供を目指すEBMは,座学だけよりも演習を交えた教育が必要である.大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学薬学部)では,実務実習からEBMを実践できるように,臨床準備教育として,2015年度から4年次の前期で医療情報の検索演習およびグループ学習形式でのEBM演習を行っている.開始当初,問題解決型学習(problem based-learning, PBL)を中心とした演習を行っていたが,グループ学習が担当チューターの裁量に大きく依存し,ミニ講義中心で学生が能動的に論文評価を十分行えないという問題点があった2).そこで,1名の指導者が,学習の方向性を決めた演習が可能で,かつ学習者が能動的に学習できるチーム基盤型学習(team based-learning, TBL)を2017年度から導入し,ある一定の学習効果が得られている3).2020年度は,新たな試みとして分野横断型学習を意識した演習プログラムとしたが,新型コロナウイルスの影響を受け,グループ学習を縮小しての実施となった.本演習は毎年,学習効果を検証するために演習前後で理解度確認試験を行っており,2019,2020年度の結果を交えて内容を報告する.

なお,本報告は,研究参加の諾否が成績に影響しないこと,データの使用について,個人は特定されない集団でのデータを利用・公開することについて説明し,同意を得た学生データのみを使用している.

TBLによるEBM演習

1.演習の概要

2017年度から大阪薬科大学4年次前期必修科目において,EBM演習を1週間に1日3コマ,合計2日にかけてTBLによって行っている.グループ編成は出席番号順の4–5名とした.EBMの実践を仮想体験できるプログラムとしており,EBMの5 stepsのStep 1,3,4,5を演習する内容である.授業時間の制限からStep 2の情報検索は本演習に含まれておらず,他の演習で補完している.2017,2018年度はStep 1をStep 3の後に行いStep 1,4と続けて実施していたが,2019年度以降はEBMの手順通り,Step 1から始めるようなプログラムに変更している.その流れを表1に示す.事前学習を促すために,事前学習資料および解説動画を授業の1週間前に配付した.実際の演習では,EBMの概要についてミニレクチャーを行った後,仮想症例シナリオを配り,学生各自でシナリオから患者の医学的問題点をPICO形式で列挙し,グループ内で問題点の共有を行った(Step 1).次に,論文内容に関する確認試験を個人およびグループで試験を行い,講師が問題解説および論文の批判的吟味について重要ポイントを解説した(Step 3).臨床上の問題点への対応方法について,個人およびグループ討論にて検討し,各討論結果を発表によって共有し,講師から肯定的なコメントや改善点に関するフィードバックを受けた(Step 4, 5).演習終了後に,受講生は,臨床準備教育における概略評価表〈近畿地区版〉「(3)薬物療法の実践 【②医薬品情報の収集と評価・活用】」のルーブリックを用いて自己評価した(表2).TBLに必須であるピア評価は,演習回数が十分でないことから実施していない.なお,2020年度は,新型コロナウイルス感染症による時間短縮のため1日2コマでの実施となり,PICOの検討およびグループテスト(gRAT)を減らし適用のみの討論であったため,厳密にはTBLとはいえないが,便宜上TBLとする.

表1 演習のタイムスケジュール
A.2019年度
期間 内容 方法 時間(分)
演習1週間前 EBM予習資料 事前学習 1週間
EBMに関する動画視聴
課題論文の批判的吟味
演習当日 EBM概論 講義 20
症例シナリオの臨床問題の定式化 個人演習&SGD 20
各班のPICOの共有 発表 15
休憩 10
iRAT(プレテスト) 個人演習 30
gRAT SGD 45
休憩 10
課題とRCT/SRの読み方の解説 講義 50
患者への適用 個人演習&SGD 30
各グループの患者への適用を共有 発表 20
フィードバック 講義 10
演習一定期間後 ポストテスト 30
B.2020年度
期間 内容 方法 時間(分)
演習1週間前 EBM予習資料 事前学習 1週間
EBMに関する動画視聴
課題論文の批判的吟味
演習当日 EBM概論 講義 20
症例シナリオの臨床問題の定式化 個人演習 10
各班のPICOの共有 発表 15
iRAT(プレテスト) 個人演習 30
休憩 10
課題とRCT/SRの読み方の解説 講義 50
患者への適用 個人演習&SGD 15
各グループの患者への適用を共有 発表 20
フィードバック 講義 10
演習一定期間後 ポストテスト 30

 

表2 臨床準備教育における概略評価表〈近畿地区版〉の「(3)薬物療法の実践【②医薬品情報の収集と評価・活用】」のルーブリック
観点 アウトカム 第4段階 第3段階 第2段階 第1段階 ×0
②医薬品情報の収集と評価・活用shows how 薬物療法の評価等に必要な情報について,最も適切な情報源を効果的に利用し,情報を収集すると共に,得た情報及び情報源を批判的に評価し,効果的に活用する. 模擬的な症例に関する調査の目的に合わせて,一次資料(原著論文)も含めた適切な情報源を利用し,調査を実践する.得た情報を量的,質的に評価し,提供する.患者啓発や医療の質向上に寄与する情報を主体的に作成・提案する. 模擬的な症例に関する調査の目的を明確にし,基本的な情報源に加え,複数の情報源を利用して調査を実践する.得た情報の評価を常に行い,患者や医療スタッフのニーズを踏まえた資料を作成する. 模擬的な症例に関して薬物療法の評価等に必要な基本的な情報源である医薬品添付文書,インタビューフォーム,診療ガイドラインなどを確認し,情報の収集・評価を行う. 薬物療法に関連する医薬品情報を試行錯誤しながら,収集・整理できる.

2.事前学習資料および扱った内容

テキストは,EBM,ランダム化比較試験(randomized controlled Trial, RCT),システマティックレビュー(systematic Review, SR)の概要,および論文を批判的吟味する際に重要なポイントを抜粋,解説した資料とした.解説動画は15分程度でテキスト中のEBMの基礎事項を補完する内容とした.2020年度は,分野横断型学習を意識するため,該当論文の疾患に関する基礎薬学および病態の復習を促した.

テーマは,グループ1,3は糖尿病,グループ2,4は高血圧とした.論文は1日目にRCTを扱い,2日目にSRを扱った.各論文を用いることで問題解決に導けるような仮想症例シナリオおよび論文を設定した.

3.理解度確認試験の内容

試験内容は,既報3,4) を参考にRCT/SR論文の事前学習資料に即した内容で,対象患者/SR,メタアナリシス(問1),介入と比較/対象患者,介入,比較(問2),アウトカム(問3),グループ割付/論文検索(問4),盲検化/出版バイアス(問5),サンプルサイズ決定/論文選択と評価(問6),結果の解析方法/データ統合(問7),結果の主要評価項目やサブグループ解析(問8,問19_9,問19_10)の10問を五者択一式で出題した.2020年度は,今後,横断型学習が増えることを想定し,問19-9,問19-10を疾患に関する問題(問20_9)および基礎薬学に関する問題(問20_10)とした(図1).個人準備確認試験(iRAT,プレテスト)は各問1点,計10点とし,gRATは,各問5点,計50点であるが,正解に至るまで5回の解答が可能であり,誤った解答回数に応じて1点ずつ減点した.

図1

2020年度の理解度確認試験

4.理解度確認試験の評価

学生612名(2019年度:306名,2020年度:306名)を対象とし,RCTの理解度確認試験に相当するプレ/ポストテストの結果を用いた.なお,ポストテストは授業終了1~2週間後に,問題構成は同一であるが,選択肢の順番を変更して実施した.ただし,2020HT02のポストテストは,学内制限により授業終了後6週後の実施となった.解析対象は,研究協力に承諾を得られた学生のうち,プレテストとポストテストの両方を受験した学生のデータについてJMP Pro 15.1(SAS Institute Inc)を用いて解析した.総得点の前後変化は,Wilcoxon の符号付順位検定を用い,危険率5%を有意水準とした.

5.理解度確認試験の結果

解析対象者は2019年度299人(解析率97.7%),2020年度300人(解析率98.0%)であった.全問である問1–10および各年に共通したEBMの観点に絞った問題である問1–8の平均得点と各問題の前後の得点率を表3に示す.平均得点について,2020HT02を除くすべての演習で有意に向上した(p < 0.001)が,2020HT02については,EBMに関する設問では平均得点が低下傾向であったが有意な差はなかった(p = 0.3).各問に関して,多くの設問で得点が向上傾向であったが,一部の年および設問で低下あるいは横ばいであった.

表3 各年度のプレポストテスト結果
問題 2019DM01 2019DM02 2019HT01 2019HT02 2020DM01 2020DM02 2020HT01 2020HT02
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
プレ
正答率
ポスト
正答率
問1 49.3 76.7 53.5 76.1 97.3 90.7 100.0 96.3 47.9 68.5 62.0 82.3 97.3 98.6 96.0 97.3
問2 83.6 89.0 70.4 90.1 84.0 88.0 91.3 93.8 68.5 89.0 73.4 93.7 91.8 83.6 92.0 89.3
問3 57.5 74.0 56.3 80.3 74.7 89.3 88.8 86.3 54.8 76.7 64.6 83.5 87.7 94.5 93.3 89.3
問4 89.0 89.0 85.9 83.1 85.3 98.7 90.0 92.5 86.3 94.5 87.3 91.1 86.3 95.9 93.3 98.7
問5 72.6 84.9 78.9 90.1 37.3 90.7 60.0 86.3 72.6 69.9 73.4 81.0 52.1 89.0 78.7 85.3
問6 52.1 78.1 56.3 76.1 30.7 61.3 46.3 66.3 54.8 68.5 70.9 73.4 49.3 71.2 66.7 52.0
問7 39.7 61.6 26.8 87.3 60.0 82.7 78.8 87.5 24.7 50.7 29.1 64.6 87.7 90.4 78.7 80.0
問8 11.0 57.5 38.0 77.5 72.0 74.7 73.8 88.8 20.5 32.9 21.5 49.4 30.1 69.9 57.3 50.7
問19-9 28.8 75.3 49.3 67.6 28.0 89.3 38.8 86.3
問19-10 20.5 76.7 28.2 74.6 25.3 80.0 23.8 77.5
問20-9 71.2 95.9 79.7 89.9 49.3 86.3 72.0 84.0
問20-10 49.3 91.8 64.6 89.9 61.6 94.5 73.3 96.0
問1–10の平均得点
(標準偏差)
5.0
(1.8)
7.6
(2.0)
5.4
(1.9)
8.0
(2.0)
5.9
(1.6)
8.5
(1.6)
6.9
(1.6)
8.6
(1.8)
5.5
(1.8)
7.4
(1.5)
6.3
(1.9)
8.0
(2.0)
6.9
(1.6)
8.7
(1.7)
8.0
(2.0)
8.2
(1.6)
問1–8の平均得点
(標準偏差)
4.5
(1.5)
6.1
(1.7)
4.7
(1.5)
6.6
(1.6)
5.4
(1.4)
6.8
(1.4)
6.3
(1.3)
7.0
(1.5)
4.3
(1.5)
5.5
(1.5)
4.8
(1.7)
6.2
(1.8)
5.8
(1.2)
6.9
(1.3)
6.6
(1.5)
6.4
(1.4)

6.理解度確認試験結果の考察

既報3) と同様に医学論文の読解力に対する理解度(問1–8)は向上傾向にあり,TBLを用いたEBM演習での学習効果が得られている.さらに分野横断型学習を含んだ問題(問1–問20_10)についても得点が向上しており,4年次での分野横断型学習で用いられているTBL5) が,4年次でのEBMを含めた分野横断型学習に導入可能であることが示唆された.また,2020年度はグループワークを減らしての実施であったが,2019年度と同等の効果が得られている.この結果は,グループワークを減らした場合においても理解度の向上をもたらし,EBM演習でのTBLにグループワークが不要にも受け取れる.その一方で,グループワークは理解度を向上することだけではなく,コミュニケーションの醸成を目指す側面を持つ.本演習の目的は,他者の意見を踏まえつつ論文を活用しながら治療方針を決定し,EBMの実践を仮想体験することであるため,一概にグループワークが不要であるかのように結論づけるのはふさわしくないと考える.

今後の展望

本演習の理解度確認試験の結果から,医学論文を批判的吟味する力が養われたことを確認しているが,情報の検索・活用については評価できていない.そのため,理解度確認試験のみではなく,学生が示すパフォーマンスを評価する必要がある.臨床準備教育における概略評価表〈近畿地区版〉の「(3)薬物療法の実践【②医薬品情報の収集と評価・活用】」を用いることで評価可能と考える.この評価を行っていく上で,仮想症例シナリオから問題点の抽出,情報検索,得た情報を正しく解釈し患者に活用できる場面設定が必要である.模擬患者への服薬指導の場面や医師への情報提供といった一連のパフォーマンスを測定することで,EBMの実践に近しい能力を評価できるものと考える.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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