2024 年 8 巻 論文ID: 2024-008
附属の医療施設を持たない立命館大学薬学部では,実務家(臨床系)教員に対して医療施設での研修制度を設けている.この研修では,調剤,カンファレンスへの参加,患者への服薬指導を通した自己研鑽だけでなく,研修施設と大学との連携,実務実習生へのサポートを行っている.研修施設と大学の連携では,医療現場における課題を共同研究として取り組み,研修施設薬剤師の学位取得のサポートを行ってきた.実務実習生へのサポートでは,薬物治療上の問題点把握のため病棟実習開始前に薬剤管理指導記録の記載方法について指導薬剤師と協力して指導を行っている.附属の医療施設を持たない薬学部・薬科大学においては実習施設の指導薬剤師に実習を一任しているのが現状である.全ての実習施設において実施することは困難であるが,臨床系教員が,医療施設で研修を行うことで実務実習を通した教育・研究といった施設と大学の連携が可能となってくる.
The College of Pharmaceutical Sciences, Ritsumeikan University is not affiliated to any medical facility, but has a training system at a medical facility for the clinical faculty. This training includes dispensing medicines, attending conferences, and providing drug administration guidance to promote self-improvement. It also supports collaboration between training medical facilities and universities and assists clinically practicing students. Joint research is being conducted on issues in the medical field along with supporting pharmacists at the training medical facility to obtain degrees. To understand the problems related to drug treatment, we guide clinically practicing students on filling out drug management guidance records in cooperation with supervising pharmacists before starting their on-the-ward training. Currently, at pharmacy schools and pharmaceutical universities without affiliated medical facilities, the supervising pharmacists at the training medical facilities provide clinical practical guidance for students. Implementing this approach at all training medical facilities is difficult. However, having clinical faculty members train at medical facilities can possibly help collaborate in education and research through clinical practical training.
立命館大学薬学部(以下,本学)では,臨床系専任教員に対して実務研修制度を設けている.この制度を利用し,現在,3名の教員が病院で研修を行っている.
筆者は,この制度を利用し,大阪北区にある公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院(以下,北野病院)で研修を行っている.今回,この研修制度を利用した臨床系教員の取り組みについて報告する.
実務研修では,調剤を始めとするセントラル業務ならび病棟業務を行っている.
2. 共同研究これまで,含糖酸化鉄注射液フェジン®静注40 mg(以下,フェジン®)の希釈液,新生児に対する経口酢酸亜鉛製剤ノベルジン®の適正使用に関する共同研究を行ってきた.
フェジン®は,希釈が必要である場合,通常10~20%ブドウ糖液を用いて5~10倍に希釈して使用することになっている1).なお,臨床現場においては,等張液である5%ブドウ糖液を用いることが多い.希釈液としてブドウ糖を用いる理由は,フェジン®がショ糖を用いて水酸化第二鉄をコロイド化した製剤であるため,ブドウ糖液以外の製剤で希釈するとpHの変化や電解質の影響によりコロイド状態が不安定となり,鉄イオンの遊離が促進され吐き気や嘔吐などの副作用を引き起こす2–4) おそれがあるためである.しかしながら,医療現場においては,希釈液としてブドウ糖液を用いることが適切でない患者も存在し,その場合,安定性等に関する情報は存在しないが,ブドウ糖液でなく生食を用いて希釈を行っている.そこで,フェジン®を生食に溶解した際の安定性に関する検討を行い,その安定性について報告を行った5).
筆者は,実務研修としてNICU(Neonatal Intensive Care Unit)でのカンファレンスに参加していた.血清亜鉛値の低い新生児に対してノベルジン®を投与した際,副作用として通常血清銅値が上昇するが,反対に低下する児が多いと主治医が話題にしていた.そこで実際にカルテ調査を行い,新生児におけるノベルジン®の適正使用に関する研究を行った6,7).この研究について,NICUを担当していた薬剤師の学位取得につながった.
3. 実務実習への関わり学生の病棟実習開始前に薬剤管理指導記録の記載に関する講義を指導薬剤師と協力して行った.講義を行う前に薬剤管理指導記録に関するアンケートを行った.なお,アンケート調査は,調査の目的を学生へ説明後,個人が特定されないように匿名化で行い,倫理的配慮を行い実施した.アンケート内容は次の通りである.
1.SOAPのことは知っていますか.
2.大学の授業でSOAPについて学びましたか.
3.どの学年で学びましたか.
4.何時間くらいの講義でしたか.
5.学んだ講義科目名.
6.大学の授業でSOAP形式で記録を書いたことがありますか.
7.薬局実習でSOAP形式で記録を書きましたか.
実習生8名全員から回答を得た.結果を表1に示す.学生全員SOAPについて大学で学んでいることが確認できた.しかしながら,薬局実習において,SOAP形式で記録を書いていなかった学生が見受けられた.実際,実習生が担当した患者に対してSOAP形式で薬剤管理指導記録を書き,その内容について発表を行った後,指導薬剤師と共に講評を行い,薬剤師管理指導における着目点をアドバイスしている.今回,他のシンポジストと重複するところがあり,筆者は講義実施前のアンケート結果について報告した.
SOAP実習事前アンケート
・SOAPのことは知っていますか. |
知っている:8名,知らない:0名 |
・大学の授業でSOAPについて学びましたか. |
学んだ:8名,学んでいない:0名 |
・どの学年で学びましたか. |
3年生:1名,4年生:7名 |
・何時間くらいの講義でしたか. |
1時間:2名,2時間:1名,3時間:2名 |
4時間30分:1名,覚えていない:2名 |
・学んだ講義科目名 |
医薬品情報演習:1名,臨床情報学:1名 |
実務前実習:4名,覚えていない:2名 |
・大学の授業でSOAP形式で記録を書いたことがありますか. |
書いたことがある:6名,書いたことはない:1名 |
覚えていない:1名 |
・薬局実習でSOAP形式で記録を書きましたか. |
書いた:5名,書いていない:3名 |
附属の臨床施設を持たない大学における臨床系教員が実務研修から得られることとしては,自己研鑽だけでなく,研修を行っている施設に実習配属された実習期間中の学生へのサポート,実習施設の指導薬剤師と協力して実務実習を行うことが挙げられる.また,施設と協力して臨床現場で問題となっている課題に対して協同研究を行い,現場で活躍する薬剤師の学位取得をサポートすることができる.また,学内に対しては研修成果報告会をFD(Faculty Development)の一環として行い学部教員に対して還元を行っている.
附属の病院・薬局を持たない薬学部・薬科大学においては実習施設の指導薬剤師に実習を一任しているのが現状である.全ての実習施設において実施することは困難であるが,実務家(臨床系)教員が,医療施設で研修を行うことで実務実習を通した教育・研究といった施設と大学の連携が可能となってくる.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.