2024 年 8 巻 論文ID: 2024-015
私は2023年3月に大阪医科薬科大学を卒業し,現在大阪府の地域連携拠点病院の1つである東住吉森本病院で薬剤師として勤務している.母校では2023年度より6年次に「統合薬学演習」と呼ばれる演習がカリキュラムに導入されており,私はその開講に先立って行われたトライアル授業に参加する機会を頂いた.本演習では,大学6年間で学んだ各科目の断片的な知識の整理,科目横断的な繋がりを発見することを目的としている.演習に参加した経験を踏まえ,卒業生の立場からよりよい薬学教育の構築のために必要だと感じた点について述べたい.
I graduated from Osaka Medical and Pharmaceutical University in March 2023 and currently work as a pharmacist in Higashisumiyoshi Morimoto Hospital. My alma mater has introduced a class called “Integrated and interdisciplinary exercises in pharmaceutical sciences” into the curriculum for sixth-year students starting in 2023, and I had the opportunity to participate in a trial class that was held prior to its launch. The purpose of this exercise is to organize the fragmented knowledge of each subject learned during the six years of university and to discover connections across subjects. Based on my experience of participating in the seminar, I would like to discuss what I feel is necessary to further develop pharmaceutical education from the perspective of a graduate.
「知識統合」とは,学習者が既存の知識と新たな知識を関連付けることにより理解を深め,そこから汎用性の高い概念を構築していくプロセスである1).薬学生は6年間の授業を通して,物理,化学,生物などの基礎薬学をはじめ,薬理,薬剤,薬物治療などの薬学専門科目を学習していく.それぞれの科目は独立している訳ではなく,知識を関連付けていくことで,より深い理解となっていく.しかし,多くの薬学生が膨大な範囲の試験対策として,その場しのぎの単なる暗記として勉強に取り組んでいるのが現状である.この現状を改善するために,大阪医科薬科大学では2023年度より「統合薬学演習」と呼ばれる新たな演習が6年次のカリキュラムに導入された.今回は「統合薬学演習」の実施内容を紹介し,本演習のトライアル授業に参加した経験や6年間の薬学教育を終え,現在は臨床現場で勤務する立場から薬学教育をよりよいものへと構築していくために必要だと感じた点について述べたいと思う.
統合薬学演習は,医療現場で発生する課題を通じて,それまでに学習した各教科の断片的な知識を整理しながら科目横断的に結びつけて理解することを目的とし,2単位の必修科目として新たにカリキュラムに組み込まれている.2 週間の期間のうち,事前学習に加えて4 日間の午後をコアタイムに設定し,グループワーク形式で実施された.
本演習で扱った課題を図1に示す.課題は大課題と小課題で構成され,臨床現場で想定される症例に対して薬剤師として処方提案をすることが大課題として設定された.更にその提案の妥当性を高めるための小課題が物理,化学,生物,薬理・薬剤の各領域の視点から設定された.ホームグループは12名程度で構成されたが,その中に各領域を担当する専門家グループが数名単位で構成された.
演習で扱った課題(大課題・小課題)
本演習はジグソー法を採用し,前半2日間は図2に示すような流れで演習が行われた.最初のホームグループ活動では課題の確認と解決のための道筋を立てるための議論が行われた.その後各専門家グループに分かれ,事前学習の知識の共有が行われ,小課題を解決しながら,それらの領域について理解を深めた(専門家活動).演習にあたって小課題が設定されるが,議論内容に制約はなく,大課題を解決するために必要だと感じた領域について各グループで理解を深めた.各専門家が理解を深めた知識を2度目のホームグループで共有し,各領域間で知識の統合を行いながら課題解決に向けて議論を行った(ジグソー活動).後半の2日間では大課題解決に向けて統合された知識を基に議論を行い,プレゼンテーション資料を作成してホームグループ間で相互に発表した.
前半2日間で行ったジグソー法に基づく演習の流れ
本演習に参加し,臨床症例に対して薬剤師として介入していくためには,基礎薬学と臨床薬学の両輪が必要となることや,それらを繋げていくことの重要性を学んだ.正直なところ,低学年時に有機化学や熱力学などの難解な教科を独立した知識として学習している際は,これらの知識が将来薬剤師として働く上で,どのように必要となってくるのか想像がついていなかった.しかし,今回の演習を通じて臨床現場で患者の病態や薬剤の特性を正確に理解するためには,基礎科目の知識が必要となってくることが実感できた.
一方で,議論の内容に制約がないが故に,10名を超えるグループで議論を始めた初日は議論の方向性が見えず苦労した.グループワークに必要なスキルが不足していた点に加え,これまで私自身が経験した学生生活の中で与えられた設問ではなく,自ら問題点を探し,解決する機会が少なかった点も要因として考えられた.臨床現場ではカルテや薬歴の中に設問があるわけではなく,様々な情報を収集しながら,問題点を抽出し,介入していかなければならない.薬学生の時点からこうした演習の中で症例を活用し,課題発見力や問題解決力を養っていくことで,卒業後に円滑に臨床現場に適応していくことができるのではないかと感じた.
大学での6年間を振り返ると,低学年時から臨床的な症例に触れて,講義で学んでいる知識をアウトプットしていく機会を設ける必要があるのではないかと感じた.私自身は6年次に本演習に参加して,基礎薬学,臨床薬学間の知識の結びつきに気付き,臨床的な症例においてそれらの知識を活用していく楽しさを感じる貴重な経験をすることができた.低学年時からその時点での履修状況に合った内容でこうした経験を積み重ねていくことで,それぞれの科目を学ぶ意義を感じながら,講義を受講することができ,臨床現場で活躍する薬剤師に興味を持つことができるのではないかと感じた.
今後私は自施設での実務実習を通して薬学生と関わる機会があると思う.臨床的な知識を提示するだけではなく,大学で学ぶ基礎薬学の知識を実際の症例に活用し,科目間の知識の繋がりを実感できるような経験を学生と共にできればと思う.臨床現場で勤務する立場から薬学教育をよりよいものへと構築していくために必要なことを今後も考えていきたいと思う.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.