2024 年 8 巻 論文ID: 2024-036
2020年はCOVID-19により,多くの学会大会が誌上/オンライン開催を余儀なくされた.日本医学教育学会でも,学会大会は誌上開催となった.一方,医学系の各大学では講義,実習,試験の運用方法などの問題に直面していた.このような背景から,医学教育サイバーシンポジウム特別委員会により,情報共有や意見交換の「場」として医学教育サイバーシンポジウムが開催された.この特徴として,「約2週間での迅速な準備」「情報共有や議論,オンラインツール体験できるFDとしての場」などがある.この結果,従来は困難であったシンポジウムや情報交流がオンラインでも可能になった.また,教育専用の資材ではなく,より一般的なツールを利用し,安価に,誰でもできる環境が構築された.オンラインミーティングを魅力的にし,質を担保し,参加者にとって有意義な時間とするには,情報・科学技術を活用できる資質とともに「場」を作る力が求められる.
Many academic conferences, including the Japan Society for Medical Education’s (JSME) academic meeting, were held online or in journals due to the COVID-19 restrictions in 2020. Medical universities and faculties also faced the problem of how to hold lectures, practical training, and examinations during this time, so the Cyber Symposium on Medical Education shared information on how to address these issues promptly. The symposium focused on two-week preparations and faculty development opportunities to experience online tools. The ICT Education Subcommittee of JSME focused on activities developing content and skills, such as educational strategies and teaching materials. At the same time, the Special Committee for the Cyber Symposium created a venue to promote interaction among participants for information sharing and opinion exchange. It was significant that these initiatives, considered difficult to implement before COVID-19, became possible affordable and accessible online options, combining and utilizing existing technology and information. Effective online meetings must ensure quality information and technology and be meaningful for participants.
COVID-19の感染拡大により,2020年4月16日に全国に緊急事態宣言が発出された.5月25日には宣言が解除されたものの,日々刻々と状況が変化する中,多くの大学では入構制限により授業のみならず大学生活にも多大な制限を受けた.学生,教員のいずれにもオンライン授業の経験がなく,準備期間もほとんどない状況の中,大学では授業や実習をどのように運用するかという問題に直面していた.
各大学の取り組みを取りまとめ,情報を共有する場としては国立情報学研究所(NII)の「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」(現「大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム」)1) やSNS(Facebook)の「新型コロナ休講で,大学教員は何をすべきかについて知恵と情報を共有するグループ」(現「授業・研究・大学運営,職場や生活について,大学教員が何をすべきか何をしたいかについて知恵と情報を共有するグループ」)などがあり,教育課程,国公私立の別に関わらず情報共有が活発に行われた.
医学部をはじめとする医療系学部の多くでは,より厳密な感染対策が求められた.加えて,臨床実習やスキルトレーニングがカリキュラムの重要な部分を占めていること,必修科目が多く長期の休講が困難であることから,早期から授業再開のための対応が模索されていた.情報共有の場としてはCOVID-19流行以前から存在し,各医学部にある医学教育ユニットの教員が自由に相談・投稿できる「医学教育ユニットの会」2) メーリングリスト,COVID-19をきっかけに構築された「医学教育」Slackなどが使用された.しかし,これらの媒体で五月雨式に投稿される情報は整理されておらず,それぞれの実践や知見をまとめる場が求められていた.
学会活動はそういった実践や知見をまとめる場となり得たが,大学と同様に学術大会や研究会は中止や延期,あるいは誌上開催やオンライン開催を余儀なくされた.筆者が所属する一般社団法人日本医学教育学会でも誌上開催が決定したことを受け,前述のような問題に速やかに対応するための情報共有の場として,医学教育サイバーシンポジウムが開催された.このシンポジウムの特徴としては下記が挙げられる.
1.医学教育関係者の個人のSNSでの問題提起をきっかけに,複数の医学教育関係者が呼応して開催が決定
2.約2週間の準備期間で第1回シンポジウム開催
3.シンポジウムの開催決定後に,理事長承認を受け学会主体の形式を追認
4.隔週でのオンライン開催
5.情報共有・議論のみならず,オンラインツールを体験できるFDの場としても活用
6.無料または安価に使用できるオンラインツールの活用
7.質疑応答の場としてのコミュニケーションツール(Slack)
本稿では,本シンポジウムの内容および,シンポジウムの立ち上げ・運営がどのようにされていたか,また,どのような要因が実施・運営に影響していたかについて述べる.
2020年度は5月30日に第1回が,その後隔週土曜日に計4回開催された.2021年は5月に1回開催された.演者,演題,申込み人数を表1に示す.各演題のアーカイブ動画は本シンポジウムのページ3) にて公開されている.そのため,本項では全体の概要と演題以外に取り組んだ実践や試みについて述べる.
医学教育サイバーシンポジウム演者・演題
テーマ | 演題 | 演者(当時の所属) |
---|---|---|
第1回 2020年5月30日 これからの臨床実習 申し込み人数 474名 |
1.「オンライン臨床実習を実施する際のポイント」 | 錦織 宏(名古屋大学) |
2.「Moodleを用いた臨床実習の支援」 | 淺田 義和(自治医科大学) | |
3.「臨床実習,どこまでできる?どう終わらせる?」 | 清水 郁夫(信州大学) | |
4.「LMSとZoom,携帯電話で実践するオンデマンド消化器内科臨床実習」 | 三原 弘(富山大学) | |
5.「SNSを活用した医学生に対する外科教育」 | 山根 裕介(長崎大学) | |
6.Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用したフリーディスカッション | ||
第2回 2020年6月13日 試験 申し込み人数 425名 |
日本医学教育学会理事長あいさつ | 鈴木 康之(岐阜大学) |
1.「ポストコロナ時代を考えた学生評価について」 | 松山 泰(自治医科大学) | |
2.「オンラインで実施する定期試験」 | 門川 俊明(慶應義塾大学) | |
3.「Moodleオンライン試験の検討と3回の経験」 | 三原 弘(富山大学) | |
4.「在宅試験を任意受験した学生の資質・学力に関する事例報告」 | 太城 康良(三重大学) | |
5.Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用した懇親会 | ||
第3回 2020年6月27日 卒後教育 申し込み人数 257名 |
1.「何が変わった?2020年からの臨床研修(総論)」 | 高橋 誠(北海道大学) |
2.「コロナ禍に研修医を迎えて~地方大学病院の課題とは!?~」 | 松島 加代子(長崎大学) | |
3.「ミニマルなICT医学教育」 | 橋本 忠幸(橋本市民病院) | |
4.「コロナ禍におけるJACRA所属施設での実際」 | 小杉 俊介(飯塚病院) | |
5.「COVID-19パンデミック下の地域研修生の受け入れにおける省察」 | 太田 龍一(雲南市立病院) | |
6.フリーディスカッション(Miro体験会) | ||
7.Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用した懇親会 | ||
第4回 2020年7月11日 with Corona時代の医学教育 申し込み人数 265名 |
1.「G Suiteを用いた新たな遠隔授業システム「F.MOCE」とアフターコロナ」 | 安倍 博(福井大学) |
2.「医師・医療者生涯教育への応用に向けた『オンライン・シミュレーション実習&評価』の可能性」 | 長谷川 仁志(秋田大学/ 日本医師会生涯教育推進委員会) | |
3.「ZOOMによる教育事例検討会:オンラインFaculty Development」 | 磯部 真倫(新潟大学) | |
4.「コロナの時代に生きる:医学生は何を思うのか」 | 伊東 元親(信州大学医学部学生) | |
5.「Making of 医学教育サイバーシンポジウム」 | 村岡 千種(北海道科学大学) | |
6.「with Coronaの時代の医学教育」 | 小西 靖彦(京都大学) | |
7.全体ディスカッション | ||
8.Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用した懇親会 | ||
第5回 2021年5月29日 COVID-19パンデミック2年目の医学教育 申し込み人数 418名 |
A.「コロナ禍でどのように医学教育を進めていくか」 | 門川 俊明(慶應義塾大学) 田中 淳一(東北大学) 村岡 千種(北海道科学大学) |
B.「卒後教育もオンラインで!?」 | 木村 武司(京都大学) 清水 郁夫(信州大学) 関口 兼司(神戸大学) 黄 世捷(聖マリアンナ医科大学) 近藤 猛(名古屋大学) | |
C.「オンライン教育,誰がやってるの?何を使ってるの?」 | 錦織 宏(名古屋大学) 淺田 義和(自治医科大学) 柿崎 真沙子(名古屋市立大学) 橋本 忠幸(橋本市民病院) |
第1回は2020年5月30日に「これからの臨床実習」をテーマとして実施した.開始前には,配信ツールとして使われていたZoom MeetingとSlackの使用方法に関するミニセミナーを実施した.その後,門川(後に本委員会副委員長)より本シンポジウムの趣旨説明があったあと,錦織(後に本委員会委員長)からオンライン臨床実習を実施する際のポイントについての総括的な報告がされた.次いで4大学でのオンラインでの臨床実習の実践についての報告がされた.遠隔では難しいと考えられていた外科系の実技トレーニングについての実践報告を始め,各大学の実践やその背景となる法的根拠等の質疑応答が活発に行われ,質疑応答で使用されたSlackを経由してさまざまな資料やウェブサイトのURLが共有された.
第2回は「試験」をテーマとして6月13日に実施した.評価ではなく試験にテーマを絞ったのは,大学に入構できない状況で,これまで実施していた一斉試験をどのように実施するかという喫緊の問題に対応するためであった.自治医科大学の松山泰氏より,COVID-19での各国での試験の実施や評価方法に関する報告と評価論に関する講演があった後,オンライン試験に関する3件の実践事例が報告された.
第3回は6月27日に「卒後教育」をテーマとして実施した.はじめに,北海道大学の高橋誠氏より,2020年に改定された医師臨床研修制度の概要が総論として示された.その後,大学病院,市中病院,地域医療などさまざまな立場からのコロナ禍における卒後教育についての4件の事例が報告された.臨床実習と同様にICTを活用して実習をどのように実施したかについて報告する事例や,コロナ禍において研修医の受け入れをどのように調整をしたかを報告する事例などが扱われた.質疑応答でも事例の中で扱われたICTを活用した教材の作成に関する質問などがあり,活発に意見交換がされた.
2020年の最終回として実施された第4回は「with Corona時代の医学教育」がテーマとして開催された.Googleベースのシステムを活用した遠隔授業システムの構築,Zoomを活用したFDや生涯教育の事例,学生による教育への提言,今後の医学教育への展望などが報告された.
1年後の2021年5月に開催された第5回「COVID-19パンデミック2年目の医学教育」では,それまでの演者が発表をし,質疑応答を行う形式ではなく,Zoomのブレイクアウト機能で3会場に分かれ,対話形式で行われる3つのプログラムを自由に行き来できる形式として実施された.
それぞれの現場で遠隔授業や感染対策を講じた上での実習等の知見が蓄積されてきた時期であるとともに,緊急避難的に始めた対応に無理が出てくる時期でもあり,各大学での工夫や知見の共有に主眼が置かれた.
上記のように,初期のコロナ禍に実施したオンラインのシンポジウムとしては概ね成功であったと考えられるが,その要因としては1. メンバーの主体的参加に基づく企画立案,2. スピード感重視の広報,3. フラットなチームでの役割分担,4. 準備8割の精神での下準備が合ったと考えられる.本項では,それぞれの要因の具体的内容について述べる.
1. メンバーの主体的参加に基づく企画立案筆者の所属する日本医学教育学会では2020年7月17,18日に開催を予定されていた第52回学会大会について,5月12日に誌上開催へと変更する旨が学会員にメールで通知された.誌上開催について後に本委員会委員となるメンバーがFacebookへ投稿したコメントに,学術大会以外にCOVID-19パンデミックへの対応等について情報共有・ディスカッションする場ができないかを提案するコメントが付いた.それに対して,同様に後に本委員会のメンバーとなる複数の医学教育関係者が呼応した.この初期メンバーにはNIIのサイバーシンポジウムへの登壇経験があった者も含まれており,NIIとの違いや特徴を検討し,COVID-19への感染に対して厳密な対応を求められる病院や医療施設で臨床実習を行うこと,必修科目が多く,カリキュラムが過密なため,別の学年や期への科目の変更がほとんど不可能であることなど,医学教育特有の課題について情報共有,議論を行う場を設けるという方針が建てられた.さらに,有志ではなく学会本体を主催とする形式を検討した.最終的には学会理事長の承認を受け,NIIのサイバーシンポジウムになぞらえて医学教育サイバーシンポジウムとして実施することとなった.このように,学会,あるいは組織の要請に応じた形ではなく,メンバーの主体的な企画運営により始まったことは,医学教育サイバーシンポジウムの大きな特徴であった.
2. スピード感重視の広報5月12日の早朝に日本医学教育学会大会の誌上開催が決定し,当日の午前中には医学教育サイバーシンポジウム開催のための議論がZoomを用いて実施された.打ち合わせの中で,本シンポジウムの目的を「交流」「コミュニケーション」「情報交換」とすること,初回のテーマを,医学教育Slackでも話題となっていた臨床実習とすること,演者(初期メンバーで構成),オンラインでの運営方式や第1回開催日(2020年5月30日)が決定した.午後には告知用のポスター,申し込み用のGoogleフォーム,専用ウェブサイトが構築された.翌日の5月13日より申し込み受付を開始した.
告知においても,紙媒体は使用せず,手続きが簡略なSNSと各種メーリングリストを中心に行った.更新のための費用や時間が必要となる日本医学教育学会の公式ウェブサイトや全学会員向けの一斉メールは限定的に使用した.日本医学教育学会の公式ウェブサイトには,医学教育サイバーシンポジウムのURLのみを掲載した.そして,情報更新は医学教育サイバーシンポジウムのページにて随時行える仕組みを構築した.また,シンポジウム開始以降は,各回の最後に次回案内と演題募集ができる体制を構築した.
3. フラットなチームでの役割分担メンバーには,助教から教授までの大学教員,臨床医が参加していた.また,年齢も30歳代から50歳代と幅広く,医師,非医師,非医療者の混成メンバーであったが,これらの職階・年齢・資格ではなく,メンバーそれぞれができることをベースとした役割分担がなされていた.
前述のように,COVID-19を機にオンラインでの授業や実習に取り組みを始めたものがほとんどであり,そういった意味では遠隔授業の専門家,ITの専門家がいた訳ではない.しかし,その時に自分ができることを,特にはその場で必要な知識を学んだり,スキルを会得したりしながら提供することができていた.例えば以下の内容である.
・配信ツールであるZoomの設定
・申込みに対して自動返信を行うためのGoogleスクリプトの構築
・事後アンケートの項目作成やアンケートツールの準備
・シンポジウムのページの構築と更新
・自身の人脈を活用して話題提供者を紹介
・シンポジウム中にSlackやZoomのチャットに書き込まれるコメントを整理
・書き込まれたコメントから取り上げる質問をピックアップし,司会者に受け渡し
・シンポジウム中の機材・通信トラブルを解決するためにメール等を活用してサポート
これは,メンバー全員が異なる機関に所属していたこと,そのために忙しい時間帯や曜日等が異なり,自身の手が空く時に活動できていたこと,オンラインでの会話等を通じて遊び心を持ちつつお互いを尊重したやり取りが成立していたからだと考えられる.
4. 準備8割の精神での事前準備前述のように,運営メンバー全員が遠隔から参加し,学会運営会社等を入れずに実施するオンラインシンポジウムであるということで,円滑な運営のためには入念な事前準備が必須であった.事前準備の具体的な工夫を,a. 環境構築・ICTツールの選択,b. 参加者演者向け対応,という2つの観点から述べる.
a.環境構築・ICTツールの選択本シンポジウムでは,あらかじめ全体を考えた上で環境を構築できたのではなく,その場その場での課題を解決する形で環境を創った部分が多かった.また,本会のための予算計上はなかったため,費用負担が少ないツールを選択した.さらに,本シンポジウムの運営やツールの使い方そのものが,コロナ禍で起きている問題に速やかに対応するための方法論の一つの情報共有であるとも考え,ツールの選択は下記の2つの基準を意識していた.
1点目が汎用性である.当時COVID-19対応として教育機関であれば必要な手続きを経て無料で使用することができたweb会議ツールには,Zoom以外にもGoogle Meet,Microsoft Teams,Cisco WebEx,あるいはVCubeなどがあった.無料で同時に参加できる人数に制限があるツール,参加者にアカウントの作成などの手続きを求めるツール,設置に時間を要するツールなどは,今回の目的に適さないと考えて除外した.
2点目は基本機能のみで使用できることである.機能を追加したり,大学の要望に合わせて改変できるツールもあるが,できる限り基本設定のみで利用できるものを選択した.汎用性とも関連するが,大学によって利用できる範囲が異なることを考慮し,基本機能の工夫や組合せでできることを参加者に提示するという意図もあった.
今回,使用したICTツールを表2に示す.
使用ツール
有料版を使用 | |
Google Workplace | |
Gmail | 申し込み受付,対応用 |
Google Forms | 申し込み受付,アンケート,演題募集 |
Google Spreadsheets | 申し込み名簿作成 |
Google Slides/PowerPoint | 案内スライド作成 |
Vimeo | 動画アーカイブ作成,配信 |
WordPress | ホームページ作成 |
無料版を使用 | |
QuickTime Player | 動画切り分け |
Remo* | 懇親会トライアル |
Slack* | 質疑応答,運営メンバー連絡 |
Zoom* | 当日配信,交流 |
*はコロナ対応で無料版の機能が拡張されていたツール
参加者向けの事前対応としては,シンポジウムの受付対応,受付済みの通知発信,リマインドメールの発信,終了後のアンケートの依頼メール発信などがある.できる限り迅速に,省力化して対応できるような工夫をした.
具体的には,紙媒体での情報発信や広報は行わず,web上でのみの情報発信とした.また,Googleフォームで受付したあとは,自動で返信が行えるように設定をした.
自動返信メールに参加用のZoom URLや参加の案内を記載することで,情報を一元管理できるようにした.また,機能が短期間に追加・変更されるため,ツールのインストールや使用方法に関する個別のマニュアルは作成せず,ヘルプサイト4) 等を紹介することで省力化を図った.
また,開始20分前にはSlackとZoomの操作説明会を実施し,トラブルが発生した時には速やかに個別対応ができる体制を整えた.
演者向けの事前対応としては,第2回目以降の演者については,Googleフォームを用いて演題を公募した.Googleフォームは,入力された情報をGoogleスプレッドシートで展開することが可能であり,遠隔地にいても,最新の情報を運営メンバーが共有することが可能である.
演者は開始1時間前に音声・画像チェックや使用したい機能が使えるかどうかの動作確認を行った.Zoomには,開始後でも変更できる設定と,開始前にZoomのウェブサイトにサインインしなければ変更できない設定がある.前者の代表はカメラやマイク,名前変更などの設定であり,後者はブレイクアウトルームの使用やチャットの投稿制限などである.前者はZoomミーティングの開始後でも変更の対応が可能であるが,後者はいったん開始してしまうと変更できない.そのため,演者が使用したい機能が使用できるか予め確認する必要があった.また,動画の音量が適切か,ワイヤレスマイクの使用により,音が途切れないかなどの確認をした.さらに司会者と演者で当日の進行の打ち合わせを行った.
コロナ禍を機に企画運営された医学教育サイバーシンポジウムは「情報提供・課題解決の場」「参加することそのものから学ぶ場」という2つの価値を提供していた「場」であったと考えられる.
「情報提供・課題解決の場」としてのサイバーシンポジウムは,5月に学会大会が誌上開催となったことで企画されたそのコンセプト通り,多くのGood Practiceを広く共有する機会であり,対面,オンラインの利点を活かす教育について議論する場であったと言える.一方,「参加することそのものから学ぶ場」については,初回企画の時点では想定されていなかった場であったと言える.企画運営を通じて運営メンバーや登壇者はICTツールやオンラインでのシンポジウムの進め方を学ぶ機会となっていた.また,参加者はオンラインシンポジウムに参加し,ディスカッションが同時進行で展開されるという体験を通じて,良いオンラインシンポジウムとはどのようなものかを考えるきっかけとなっていたと考えられる.さらに,SlackやMiro,Zoomのブレイクアウト機能など,単独では試すことが難しいツールや機能を体験できるFDの場ともなっていた.これらの体験は運営ノウハウやICT支援能力を持つ人材の必要性,あるいはそういった能力を持つ人材育成の重要性に光を当てることとなった.
同時改訂された医学・薬学教育のモデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)5,6) では,変化し続ける「未来の社会や地域を見据え,多様な場や人をつなぎ,活躍できる医療人の養成」を共通のキャッチフレーズとしてカリキュラムが作成された.また,求められる基本的な資質・能力も共通化され「情報・科学技術を活かす能力」など10の項目が定められた.情報・科学技術を活かすためには,情報提供や課題解決などの目的を達成するための方法論としての情報科学技術という視点だけではなく,情報・科学技術を活かして「場」を円滑に運営するという視点も必要となる.
目的を達成するための方法論としての情報・科学技術はICTの使い方を学ぶ教育,すなわちオンライン服薬指導,電子薬歴の利活用,電子処方箋の受け取り(法規制の理解)などが当てはまる.授業形態はオンラインでも対面でも可能であるが,これらの情報や科学技術を学生がうまく活用できるような教育設計や評価が必要となる.
一方で「場」を円滑に運営するためのICTは,ICTを使って学ぶ教育とも言える.授業形態に科学技術を取り入れることで授業を円滑にすることが目的となる.
例えば,遠隔教育としてオンライン服薬指導実習をするために,Zoomを適切に操作して学生実習を円滑に進めたり,ツールや仕組みを組み合わせることで学生間のディスカッションを促進させるような工夫をすることなどが当てはまる.また,例えば在宅医療を模擬的に体験するためのVRの利用や,対面を想定した医療面接のシミュレーションにAIやチャットボットを活用することなど,学習目標そのものにはICTが直接的には関与しないものの,対面での実施が困難である時にICTを活用することで学習が可能となる事例などである.
2020~2021年に企画した医学教育サイバーシンポジウムの運営とそこから得られた知見,それらの知見を今後の医療者教育にどのように活用するかについて述べた.
3年以上を経た今,振り返ってみると,テクノロジーが進化したことにより,現在ではより同様のシンポジウムがより容易に開催可能となっている.また,学習会やシンポジウムのオンライン開催が常態化し,距離に関係なく関心がある内容に参加可能となった.今後,対面開催に徐々に戻っていくとしてもオンラインでの学習会やシンポジウムは今後も必要とされると考えられる.オンラインでの学習機会をいかに魅力的にし,その質を担保し,参加者にとって有意義な時間とできるかは情報・科学技術を活用する資質とともに「場」を作る力が求められると言える.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.