日本植物病理学会報
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原著
イネばか苗病による徒長苗の形態とばか苗病菌の分布およびプール育苗による発病抑制
内藤 秀樹斉藤 健介古屋 廣光藤 晋一
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2008 年 74 巻 4 号 p. 321-327

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抄録
イネばか苗病はGibberella fujikuroi (Sawada) Itoによって発生し,典型的病徴は草丈の徒長である.本報告では,徒長苗の形態,菌の分布,移植後の生育推移および耕種的防除法としてプール育苗法を検討した.供試種子はばか苗病に自然感染した「もみ種子」と「玄米種子」である.「もみ種子」由来徒長苗の形態をみると,葉鞘は第1完全葉から第3完全葉まで有意に徒長し,最上位葉鞘で最も徒長率が大きかった.葉身は第2完全葉から有意に徒長した.本田移植時期頃の両種子由来徒長苗での病原菌の分布は,苗基部では稈の導管,維管束周囲柔組織細胞内・間隙で見られたが,それより上方部では稈の導管内のみであった.苗での分布長は移植時期直前で稈基部から上部へ「もみ種子」由来苗で平均1.6 cm,「玄米種子」由来苗で平均0.7 cmであった.次に,「もみ種子」および「玄米種子」由来徒長苗をワグネルポットに移植し,その生育推移を観察した.「もみ種子」由来の徒長苗ではポット移植63日後には約30%が回復し,約50%が枯死した.この回復は,病原菌を持つ移植徒長苗より生育した主稈が早期に枯死し,病原菌を持たない分けつが正常と同様の形態に生育したことによるものであった.また,「玄米種子」由来の徒長苗移植ではその約80%が回復した.この「玄米種子」由来徒長苗の多くは菌の感染ではなく育苗箱内の菌を持つ周囲罹病徒長苗から分泌,拡散したジベレリンにより徒長したものと考えられた.また,本病による徒長苗の発生抑制が可能な耕種的防除法として,覆土表面上まで水位を維持するプール育苗法を提案した.このプール育苗法は高い徒長苗発生抑制効果を示した.この抑制効果は水位を覆土表面上まで高く維持することによる病原菌菌糸の生育抑制によると考えられた.
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© 2008 日本植物病理学会
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