日本植物病理学会報
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原著
山形県庄内地方におけるメヒシバいもち病の発生生態
鈴木 智貴大竹 裕規長谷 修生井 恒雄
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2014 年 80 巻 2 号 p. 88-97

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抄録

いもち病菌の冬期積雪地帯における発生生態を明らかにするため,山形県庄内地方のメヒシバいもち病を対象に調査を行った.まず本病の第一次伝染源について検討した.庄内地方を網羅するように定点調査地点を設置し,越冬前の秋季にメヒシバ種子を採集して保菌率を調査した結果,平均で約0.1%であった.融雪後の翌年4月に同一地点から種子を採集して保菌率を調査したが,保菌種子は全く認められず,これらの種子を播種しても苗いもちは全く発生しなかった.保菌種子および罹病植物体を人為的に越冬させてメヒシバいもち病菌の生存を調査した結果,積雪の及ばない乾燥した条件の場合は種子,罹病葉身で越冬できたが,積雪の及ぶ条件においては越冬できなかった.また,土壌における本菌の検出も試みたが,融雪後に採取した土壌での越冬は確認できなかった.このことから,庄内地方での越冬の可能性は低いと考えられた.次に,本病が庄内地方において6月に発生が認められない理由を検討するため,野外における胞子飛散時期および感染に必要な条件を検討した.その結果,庄内地方では調査した2カ年とも6月27日以前の胞子飛散は認められず,ほとんどは7月に入ってからであった.感染は101個/mlの低い胞子濃度でも可能で,結露時間については最低でも6時間が必要であることが明らかになった.本菌の動態を2007年から2011年まで,定点調査地点において発生時期を3つに分けてサンプリングし,Pot2 rep-PCR法により菌株の遺伝子型を解析した結果では,発生初期の遺伝子型構成は越冬による瓶首効果で単純になり,前年の発生後期に検出された遺伝子型が検出される地点は調査地点の半数以下であった.以上から,庄内地方におけるメヒシバいもち病は越冬により生存する割合は小さく,初発は地域に関係なく一斉に飛散する胞子によると考えられ,その後も周辺からいもち病菌胞子が飛散し伝染・発病を繰り返していると考えられた.

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