日本植物病理学会報
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80 巻, 2 号
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原著
  • 善林 薫, 鬼頭 英樹, 鈴木 文彦
    2014 年 80 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/17
    ジャーナル フリー
    近年開発されたイネいもち病菌の12座のSSRマーカーについて,圃場分離集団に対する識別能を明らかにすることを目的とし,「あきたこまち」が栽培されている圃場YA,YAと距離1 kmの「あきたこまち」栽培圃場TA,YAと距離30 mの「ひとめぼれ」栽培圃場YHから菌の世代別に採集したいもち病菌の集団構造をSSRマーカーにより解析した.12マーカーのうち1マーカーは多型がなく,3マーカーは世代経過時に変異する可能性が示唆されたため,中程度のアリル数を示す8マーカーを集団構造解析に用いた.供試した3圃場のいもち病菌集団および世代別分集団のハプロタイプ多様度は0.535~0.904であり,「ひとめぼれ」発生初期集団を除き比較的高い値を示した.圃場別の3集団および世代別の8分集団におけるペアワイズFSTおよびRSTを算出した結果,同一圃場の分集団間では遺伝的分化は検出されなかったが,圃場別の集団はそれぞれ遺伝的に異なることが明らかとなり,8マーカーを用いることで,種子由来を異にする同一品種上や,近接する圃場の異品種上のいもち病菌集団を識別できることが明らかとなった.また,早期に発生した菌の近接圃場への移入の検出にもSSRマーカーが有効であった.さらに,同一品種間と隣接異品種間を比較した場合,SSRハプロタイプに基づき作成した系統樹から,それらの遺伝的分化の方向が異なることが明らかとなった.以上の結果から,本SSRマーカーは従来識別が困難であった同一品種間および近接圃場間のいもち病菌集団の識別に有効であるだけでなく,いもち病菌の移出入率や遺伝的浮動の大きさの推定等,進化的指標の評価にも適用できることが示された.
  • 鈴木 智貴, 大竹 裕規, 長谷 修, 生井 恒雄
    2014 年 80 巻 2 号 p. 88-97
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/17
    ジャーナル フリー
    いもち病菌の冬期積雪地帯における発生生態を明らかにするため,山形県庄内地方のメヒシバいもち病を対象に調査を行った.まず本病の第一次伝染源について検討した.庄内地方を網羅するように定点調査地点を設置し,越冬前の秋季にメヒシバ種子を採集して保菌率を調査した結果,平均で約0.1%であった.融雪後の翌年4月に同一地点から種子を採集して保菌率を調査したが,保菌種子は全く認められず,これらの種子を播種しても苗いもちは全く発生しなかった.保菌種子および罹病植物体を人為的に越冬させてメヒシバいもち病菌の生存を調査した結果,積雪の及ばない乾燥した条件の場合は種子,罹病葉身で越冬できたが,積雪の及ぶ条件においては越冬できなかった.また,土壌における本菌の検出も試みたが,融雪後に採取した土壌での越冬は確認できなかった.このことから,庄内地方での越冬の可能性は低いと考えられた.次に,本病が庄内地方において6月に発生が認められない理由を検討するため,野外における胞子飛散時期および感染に必要な条件を検討した.その結果,庄内地方では調査した2カ年とも6月27日以前の胞子飛散は認められず,ほとんどは7月に入ってからであった.感染は101個/mlの低い胞子濃度でも可能で,結露時間については最低でも6時間が必要であることが明らかになった.本菌の動態を2007年から2011年まで,定点調査地点において発生時期を3つに分けてサンプリングし,Pot2 rep-PCR法により菌株の遺伝子型を解析した結果では,発生初期の遺伝子型構成は越冬による瓶首効果で単純になり,前年の発生後期に検出された遺伝子型が検出される地点は調査地点の半数以下であった.以上から,庄内地方におけるメヒシバいもち病は越冬により生存する割合は小さく,初発は地域に関係なく一斉に飛散する胞子によると考えられ,その後も周辺からいもち病菌胞子が飛散し伝染・発病を繰り返していると考えられた.
  • 澤田 宏之, 畔上 耕児
    2014 年 80 巻 2 号 p. 98-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/17
    ジャーナル フリー
    2011年10月,広島県におけるトマト(Lycopersicon esculentum)の大規模養液栽培施設で,養液栽培用培地の表面に多数の毛状根が発生し,培地表面が密に覆い尽くされる症状(root mat)が発生した.root matが形成された培地の内部にも,毛状根が密に充満していた.これらの罹病組織からは,乳白色~淡黄色~うすいベージュ色で不透明の円形集落を形成する細菌が分離された.分離菌株をトマトに刺針接種すると多数の細根が発生し,そこからは接種菌が再分離できた.本菌はグラム陰性,好気性で2~4本の周鞭毛を有する桿菌であり,その主要な生理・生化学的性質や16S rDNAの分子系統解析における位置づけはRhizobium属細菌に一致した.また,atpDglnAおよびrecAに基づくMLSA解析において,本菌はR. radiobacterの単系統群に含まれた.以上より,本菌をRhizobium radiobacter (Beijerinck and van Delden 1902) Young, Kuykendall, Martinez-Romero, Kerr and Sawada 2001と同定した.また,本菌はククモピン型のRiプラスミドを有していることが確認できた.R. radiobacter(Ri)によるトマトの病害はわが国では報告がないため,本病を新病害としてトマト毛根病〔Root mat (hairy root) of tomato〕と呼称したい.分子系統解析の結果,本菌の染色体型には多型があり,本菌のgenomovarレベルの所属はgenomovar G7とG9に分散することが明らかとなった.一方,本菌やヨーロッパにおけるroot mat症状の原因菌が保持しているククモピン型Riプラスミドは,きわめて均一性が高いことが認められた.以上のことは,同一起源のプラスミドがヨーロッパと日本において,それぞれの土着の菌へと伝達された可能性を示唆している.
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