抄録
(一)「ひらぎなんてん」の病害
本病は葉に比較的大なる斑點を形成するものにして、東京附近に於て普通に發生を見るものの如し。病斑は通常橢圓形なれども、不規則なる形状を呈する場合稀ならず。最初灰褐色なれども、後には葉の上面に於て灰色に變じ、病原菌の胞子層其上に散生し、黒鮎状をなす。病斑は黒色又は黒褐色の周縁を有し、健病境界朋瞭なるもの多し。
予は本病々原菌を新種と斷定し、本論文に於てGloeosporium japonicumと命名せり。
(二) 亞麻の病害
本邦に於ける本病害の發生は大正七年勝藤孝一氏により、初めて注意されたるに過ぎざれども、北海道には極めて廣く蔓延しつゝあるものの如し。予は昨大正入年三月石狩國栗山村産の亜麻種子を温室内に播種したるに、之より生じたる亞麻苗〓本病害を発生したるにより、直ちに病原菌を分離培養せう。予は殺菌せる土壌、殺菌せざる土壌竝に殺菌せる大形ペトリ皿中にて前記の種子を發芽せしめたるに、苗が3-5cm.に達したる時總ての鉢及び皿中に本病の發生を見たり。故に本病害は種子によりて傳播を助けらるゝ事疑ふの餘地なし。予は又同年五月札幌に於て圃場の亞麻苗に本病害多數發生し居るを目撃せり。
本病害は亞麻苗の莖及び子葉に發生するものにして、莖の下部を侵襲する場合最も普通なり、苗はこれが爲に漸次に萎凋し、遂に枯死す。子葉に在ては多くは其表面に圓形又は橢圓形の褐色病斑を形成す。本病々原菌は大年七年八月愛耳蘭に於てPethybridge, Lafferty兩氏によりColletotrichum linicolum Pethyb. ct Laff. と命名せられたる菌に恰當す。予は本菌の純粹培養を以て無花果竝に林檎の無傷及び有傷果面に接種し、又菜豆及び樟の苗に接種試驗を施行せり。然れども他種植物への既往の接種試驗は悉く陰性の結果を示せり。
(三)「しきみ」の病害
大正七年四月二十二日原攝祐氏が岐阜縣川上村に於て發見し、標本を予に送致したる病害にして葉竝に小枝に發生す。葉には普通大形にして、圓形なる病斑を形成し、兩面より認め得。病斑の内部は灰褐色にして、周縁は褐色なり。從て健病境界は明瞭なり。病斑は又葉の縁部に生ずる場合稀ならず、斯の如さは概して半圓形を呈す。余の見たる被害枝は全く乾燥し、表面は灰白色にして、其上に病原菌の胞子層散生し、黒點状をなせり。
余は本病々原菌を新種と斷定し、本論文に於てGloeosporium Illiciiと命名せり。