抄録
1. イネ白葉枯病々原細菌の栄養要求を明らかにし, 本細菌の増殖に最適な合成培地を作製する目的で, 種々の栄養素が細菌の増殖におよぼす影響を調査した。
2. 基礎培地は l-glutamic acid 0.2%, KH2PO4 0.2%, sucrose 2%の組成を有する液体培地で, 光電比色計を用いて小型培養試験管の混濁度を測定し, 細菌の増殖の良否を調査した。
3. 接種源の菌体を滅菌蒸留水で3回洗浄することにより, 接種源中の微量栄養物は完全に除去し得ること, また, 基礎培地中に混入する金属イオンも有機試薬による呈色反応で検査し, 実験に支障のないことを確認した。
4. 本細菌の増殖に対する基礎培地のリン酸濃度はKH2PO4 0.2%が最適であつた。金属塩類の中, FeSO4・7H2O (0.01∼0.001%), MgCl2・6H2O (0.5∼0.01%), MnSO4・4H2O (0.1∼0.001%) の3種に著しい増殖促進効果があり, これらの2種あるいは3種を同時に添加する時は増殖がさらに顕著に促進されることを認めた。これに反し, CuSO4・5H2O (0.1∼0.01%), ZnSO4・7H2O (0.1∼0.001%) は増殖を抑制し, CaCl2・6H2O (0.1∼0.00001%) にも増殖促進効果が見られなかつた。また, 非金属塩類のH3BO3, Na2MoO4, KIはいずれも増殖促進作用を示さなかつた。なお, FeSO4・7H2O (0.001%) を添加して基礎培地に生ずる少量の沈殿は細菌の増殖を良好にする作用があるようである。
5. 本細菌は増殖に際してビタミンを必須として要求しないが, riboflavin, thiamin, calcium pantothenate (いずれも0.5μg/ml), nicotinic acid, pyridoxin (共に1.0μg/ml) の5種は増殖に刺激的な効果がある。これに対し, p-aminobenzoic acid (0.5μg/ml), cholin, i-inositol (共に1.0μg/ml) の3種は本細菌の増殖に阻害的に作用するようである。