相当多数の植物について, CMVの自然感染株での病徴とCMVの数種系統を接種して得られた病徴を概観し, それらからCMVの病徴の型を整理した。
株全体からみた場合, 植物体の矮化が一般的にみられた。トマト, ヒメキンギョソウでは, ときに叢生になるものもあつた。
葉の病徴としてはモザイクをつくるものが大部分である。一般にモザイクに先立つて veinclearing, veinbanding または chlorotic spot などがみられる。パンジー, セルリーなどでは鮮やかな黄斑を示すものもあつた。またトウガラシ, グラジオラスでは, 時に白色のモザイク株も観察された。モザイクにともなつて葉が奇形になるものも多く, 奇形の著しい場合には, トマト, ヒメキンギョソウなどでは糸葉症状になつた。ダチュラ, ダイコンなどでは, モザイクとともに激しい ruffle (皺縮) 状になるものもあつた。パンジーの黄色輪点株および催乳クロバーのモザイク株から分離したCMVはタバコに輪点症状を示した。また黄化の激しいパンジーから分離した系統では, タバコ, ペチュニアなどに接種すると, 全身的なえそ症状があらわれ, 時にはその生長点が枯死してしまつた(第7図)。ペチュニア, マツムシソウ, キュウリの自然感染株の中には, その葉に enation をつくるものもあつた。キュウリでは汁液接種により, その病徴再現に成功し, とくに新青長地這品種は enation をつくりやすい品種のようであつた。キクから分離した1系統をタバコに接種すると, Smith (1951年) が観察しているものと似た特異の異常生長がその葉に見られた(第10図)。
花の病徴としては花弁にふ入り, 萼にモザイクをつくるものが多かつた。サクラソウでは花の色全体が淡く白つぽくなるものもあつた。キクおよびダイコンから分離した系統を接種したタバコ, ペチュニアではその花弁にふ入りができるとともに, 花冠に著しい奇形がみられた(第11, 12図)。
果実の病徴はキュウリでは不明瞭であつた。これはわが国のキュウリ品種がCMVに対し, 抵抗性をもつているためと思われた。キュウリで病徴のみられる場合には, 果梗に近い果実の肩の部分に chlorotic spot があらわれることが多かつた。東京カボチャでは明瞭な chlorotic spot, モザイク, 奇形などが果実でみられた。トウガラシ, トマトでは, 時に黄色のモザイクが観察され, ナスでは果実の色が淡くなるものがあつた。
接種葉に local lesion をつくつたものは9科20種の植物であつた。local lesion の型は, 接種するCMVの系統, 植物の種類, 接種時期の差異などによつて, 第14図から18図に示したように chlorotic spot からえそになるものまで, その形も単なる斑点状のものから, 4重, 5重の輪点状になるものまで各種のものがみられた。アメリカアリタソウ, アカザなどでは, 多くの系統に対し local lesion をつくるだけで全身感染しない。数種マメ類, タバコでは, ある系統を接種すると, local lesion をつくり, その後その lesion が葉脈にそつて進展し, 茎にえそ条斑をつくることもあつた。また local lesion をつくつて, 後全身感染してモザイクになるものもあつた。
symptomless carrier は1種も見出せなかつた。タバコ, トマト, キュウリなどのモザイク株の葉の表皮細胞, 毛茸などについて, 細胞内のX体の有無を調べたが, とくにX体と思われるものは観察できなかつた。
抄録全体を表示