抄録
フェナジン(I)の作用機構に引き続きフェナジン-5N-モノオキシド(II)のイネ白葉枯病菌に対する作用機構を本菌の電子伝達系ならびに酸化的燐酸化反応をとりあげて研究した。
(1) IIは嫌気下L-アスコルビン酸,L-システィンまたは本菌との接触により非生物的または生物的に還元されIに変化するので,IIは結局Iに変化してIとして菌に作用すると見られる。
(2) コハク酸酸化酵素系およびコハク酸-フェナジンメトサルフェート還元酵素に対する阻害実験からI, IIともコハク酸脱水素酵素自体への阻害はほとんどなく,三炭糖燐酸エステル脱水素酵素阻害作用も認められず,さらにIまたはIIのイネ白葉枯病菌増殖阻害に対する試薬36種(L-アスコルビン酸,L-システィンを含む)の阻害解除作用を認めなかったので,これらの酸化的破壊を受けやすい酵素に対しIIのN-オキシドの酸素原子が酸化的に阻害作用を与えているとは考えがたい。
(3) Iの添加によりチトクロームb1の還元は認められたが,それ以降すなわちc, a1については還元の抑制が見られた。したがって電子伝達が制約を受けているものと認められるが,他方ワールブルグ法などによれば見かけ上の呼吸は強くは阻害されないことからチトクロームb1またはコハク酸脱水素酵素よりI〓ジヒドロフェナジンの系による空中酸素への電子のバイパス・フローが示唆された。
(4) 菌細胞による燐酸摂取およびそれに伴なう糖の消費はIまたはIIの添加により非常な阻害を受けるにもかかわらず呼吸を阻害しないか,あるいは軽い促進が示される。
(5) 以上の実験においてIおよびIIの作用性はほとんど差を認めがたく,IIは前述のように本菌との接触により還元的にIに変化して作用するものと考えられ,Iに関する作用機構の概念図が提出された。