抄録
本報告は1973年および1975年に全国各地の白葉枯病罹病葉から分離した菌株について病原性検定を行った結果から,主として各都府県,各地域に分布する菌系について比較検討を加えたものである。さらにわが国における菌系分布の地域的特性,支配要因および寄主品種と分離菌病原性との関係について論及した。
1. 427分離菌の病原性検定の結果,I群菌259, II群菌128, III群菌36, IV群菌3, V群菌1であった。I群菌はわが国に最も多く分布していたが,II, III群菌も全国平均で30%, 8%それぞれ分布しているので,黄玉群品種に属する既存の抵抗性品種によって的確な防除が不可能であることを指摘した。
2. II群菌はわが国のほぼ全域にI群菌と混在して分布していた。III群菌は東北北陸地域から分離されなかったが,長野,山梨両県以西ではかなり高密度に分布していることがうかがわれた。とくにIII群菌分離率の高かった県は長野,熊本,鹿児島であった。
3. IV群菌は1975年に長崎市三重田町,沖縄県恩納村,および名護市幸喜から3菌株分離された。V群菌は宮崎県西臼杵郡五ケ瀬町から1菌株分離された。
4. 九州沖縄地域ではI群菌からV群菌まですべての菌系が分布しており,他の地域に比べるととくにII群菌の分離率が高かった。これは同地域において長年黄玉群品種が栽培されてきたため,黄玉群品種を侵しうるII群菌の密度が増加したためと考えられる。
5. 菌系分布に栽培品種の抵抗性が影響することは十分考えられるが,黄玉群品種地帯と金南風群品種地帯から分離された各菌系分離率を検討したところ,菌系分布の支配要因は必ずしも栽培品種だけでないことが示唆された。今後,環境要因,耕種条件との関連についても検討する必要がある。
6. 寄主品種と分離菌病原性との関係を金南風群品種と黄玉群品種について検討した結果,金南風群品種と病原性との間には明らかな関係がみられなかった。黄玉群品種の場合,II, III群菌のみが分離されたが,II群菌分離率がIII群菌に比べてきわめて高いことが認められた。