抄録
カンキツ黒点病斑は黒点病菌の侵入により誘起される防衛反応の結果として形成される。本実験は黒点病菌の侵入を受けた宿主で細胞の異常分裂が起こる理由を知るために行なったものである。
り病葉から得た褐変組織はカンキツの付傷水洗部(WW)の細胞に異常分裂および異常伸長を誘導した。細胞の異常分裂ならびに異常伸長を誘導する成分(細胞分裂誘導成分: CD)は褐変組織の50%エタノール溶液により抽出された。本成分は高濃度(100mg生体重相当/ml:n)の場合には細胞に異常伸長を,また,低濃度(n/100)では異常分裂を誘導した。さらに,細胞の周囲で本成分の濃度が異なる場合,細胞は濃度の高い側に伸長し,また濃度の高い側と低い側の中間に細胞壁が形成された。周囲の濃度がほぼ同じ場合には細胞は肥大した。本成分はその作用ならびに健全カンキツ組織からは検出されないことから,いわゆるきずホルモンと考えられた。
本成分による細胞の異常分裂はD. citri感染後に見られる細胞の分裂と同-であった。これらの結果から,黒点病り病部における細胞の異常分裂は感染後に生じる細胞分裂誘導成分の作用によるものであり,本成分は病原菌侵入に対する物理的防衛組織形成に寄与していると考えられた。