日本植物病理学会報
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疫病菌に対するグリセオリンの作用機構に関する生化学的および微細構造的研究
尾上 孝利吉川 正明正子 朔佐川 寛典
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1987 年 53 巻 2 号 p. 210-226

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抄録

ダイズに産生されるファイトアレキシンであるグリセオリンは,疫病菌(Phytophthora capsici)の菌糸生育を20μg/mlで部分的に,また50μg/mlで完全に阻害した。同濃度のグリセオリンで処理した菌糸からは,すみやかな電解質の漏出が認められ,アミノ酸やヌクレオシドの酸可溶性分画への取り込みも顕著に阻害された。一方,呼吸や高分子合成の阻害は,電解質漏出の後に認められるようであり,グリセオリンの第一次作用点は,原形質膜の機能阻害にあることが示唆された。
グリセオリンで処理した菌糸では,原形質膜に特徴的な形態異常が観察された。すなわち,無処理区の菌糸に比較し,原形質膜の平滑化や細胞壁からの剥離が観察され,小胞様構造が細胞壁と剥離した原形質膜との間に認められた。一方,対照薬剤として用いたシクロヘキシミドや2, 4-ジニトロフェノールで生育阻害を受けた菌糸には,原形質膜の顕著な形態異常は観察されなかった。これらのことから,グリセオリンで処理した菌糸に認められた原形質膜の形態異常は,必ずしも生育阻害に付随した非特異的な形態変化ではなく,グリセオリンの作用機作と関連した特徴的な形態変化である可能性が示唆された。

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