日本植物病理学会報
Online ISSN : 1882-0484
Print ISSN : 0031-9473
ISSN-L : 0031-9473
疫病菌接種ダイズ胚軸の抵抗反応発現時におけるグリセオリンの役割に関する電顕的解析
吉川 正明尾上 孝利正子 朔佐川 寛典
著者情報
ジャーナル フリー

1987 年 53 巻 2 号 p. 227-241

詳細
抄録

ダイズに非病原性の疫病菌,Phytophthora capsiciをダイズ胚軸に接種すると,接種後8∼10時間まで感染菌糸は組織内を進展したが,それ以後,ダイズのファイトアレキシンであるグリセオリンの蓄積をともなう抵抗反応発現に付随して,感染菌糸の組織内進展が停止した。一方,ブラスチサイジンSで処理したダイズ胚軸では,グリセオリン蓄積が抑制され,感染菌糸の組織内進展も停止せず,完全な罹病型病徴を示した。
接種後12∼15時間における抵抗反応発現時のダイズ胚軸内の感染菌糸の微細構造には,特徴的な原形質膜の形態異常が観察された。この形態異常は,原形質膜の平滑化や細胞壁からの剥離,また細胞壁と剥離した原形質膜との間に小胞様構造の出現,さらに原形質膜の消失をともなうものであり,本菌をin vitroでグリセオリン処理した際に認められるものと極めて類似していた。一方,ブラスチサイジンSで処理した胚軸内の感染菌糸,また接種後5時間のようにグリセオリン蓄積を開始していない抵抗反応発現期以前における無処理区の胚軸内の感染菌糸には,原形質膜の形態異常は観察されなかった。これらの結果は,抵抗反応発現時におけるダイズ胚軸内の感染菌糸は,そこに蓄積するグリセオリンにより阻害されていることを示唆する。

著者関連情報
© 日本植物病理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top