抄録
コムギうどんこ病の発生している圃場内に,可動式育苗箱に育成された病原性分析品種を静置することによりコムギうどんこ病菌を捕捉し,その病原性を集団レベルで判定する方法について検討した。病原性の分析品種には本菌レースの基準判別品種(抵抗性遺伝子型:Pm1, Pm2, Pm3a, Pm3b, Pm4a, Pm5およびPmSh1(札幌春小麦由来)とIbis (Mli)ならびに感受性品種:Chancellorの幼苗を用いた。病原性分析品種の暴露は本病発生最盛期の圃場では24時間が適しており,その後,各品種上に形成される病斑の数を計測することによって,本菌の集団が保有する病原性の種類と頻度が分析できた。すなわち,本菌集団の病原性を1987∼1988年に北海道,東京都および岡山県で調べた結果,各地で共通に抵抗性を示す品種はなく,いずれかの地域で用いた抵抗性遺伝子に対する病原性の存在が示されたが,それらの分布と頻度には明瞭な調査圃場間差が認められた。抵抗性遺伝子の利用歴と病原性の検出頻度との間には関連性が認められる場合と認められない場合とがあった。また,従来のレース検定ではPm3bに対する病原性レースが検出されなかった地域において,低頻度ながら病原性の存在が検出された。以上の結果から,本法は圃場における本菌集団の病原性の迅速な検出に有効であり,他の空気伝染性病害にも適用できるものと考えた。