2022 年 2 巻 Supplement 号 p. S2
膝関節外傷は多くのスポーツ選手を悩ませる外傷であるが、最も重篤な外傷はACL損傷である。我々は2007年より女性バスケットボール選手を対象にHip-focused Injury Prevention program(HIPプログラム)を作成し、前向き介入研究を実施した。その結果、介入前と比較して介入後に非接触性ACL損傷発生率は有意に減少した(Omi etal.AJSM 2018)。また、新入生を対象にこのプログラムを9ヵ月間実施させて、実施前後で片脚着地動作の三次元動作解析を行い、トレーニング効果を検証した。その結果、実施後には衝撃を緩衝できる着地動作に変化することがわかった(大見他 臨床スポ2012)。
初発のACL損傷だけでなく、臨床において問題となるのがACL再建術(ACLR)後の再損傷である。再損傷には再建したグラフトを再び損傷する再断裂(術後1〜2年以内に多い)と対側損傷(術後2〜3年以降に多い)がある。そこで、HIPプログラムをACLR後のリハプロトコルに導入すれば、再断裂を予防できるのではないかと考え、HIPプログラムを適宜ACLRリハプロトコルに導入し、患者教育を含めた再断裂リハプロトコルを作成し、介入研究を実施した。対象は初回ACLRを受けた者で、従来のプロトコルを実施してスポーツ復帰した者136名(C群)と再断裂予防リハを実施してスポーツ復帰した者153名(再断裂予防リハ群)であった。その結果、C群の再断裂者は10名、再断裂予防リハ群の再断裂者は5名であり、ハザード比は0.39(95%CI:0.14〜1.16 ,P=0.09)であった(Kawashima et al.OJSM 2020)。再断裂予防リハは有益であると考えられる一方で、導入後に再断裂した5名を長期的に調査すると、3名はさらに損傷または対側損傷を起こしていた。つまり、再断裂予防リハの導入によって、ACLR後に 60%程度再断裂を予防できることがわかり、一方でこのプログラムを実施しても複数回のACL損傷を起こす者がいることがわかった。
次に再断裂予防リハ実施者の経時的な変化を調査する必要があると考え、片脚着地動作の縦断的調査を行った。術後5ヵ月、スポーツ復帰時に片脚着地動作評価を実施したところ、垂直方向最大床反力は、経時的に有意に減少し、かつ患側と健側に有意差はなかった。よって、縦断的調査においても再断裂予防リハは有益であると考えられた。
若年スポーツ選手に多いACL損傷、再損傷に対して15年間取り組んできて重要だと感じることは、患者教育である。教育をより効果的にするには理学療法士自身のコミュニケーション技術と少しでも怪我を減らしたいという熱意だと思う。本シンポジウムでは、我々がこれまで取り組んできたACL損傷予防についてそのエビデンスと実際についてお伝えしたい。