抄録
Aphanomyces euteiches Drechslerはcorn meal broth (CMB)で卵胞子を旺盛に形成するが,nutrient broth (NB)では全く形成しない。CMB培養菌体抽出物をNB培養菌体に与えると卵胞子形成が誘導されることを利用し,CMB培養菌体中の卵胞子形成誘導物質を調べた。分離と分析の結果,CMB培養菌体中の無機成分が卵胞子形成を誘導した。この無機成分中に含まれる元素を分析し,それらの元素の組合せから生じる無機化合物の卵胞子形成の誘導を調べると,CaCO3, CaCl2およびCaOのみにその効果が見られた。このことからCa2+が卵胞子形成を誘導すると考えられた。CMBとNBのCa2+濃度は,それぞれ1.3×10-4M, 8.4×10-6Mであった。Ca2+を含む8種類の無機化合物を種々の濃度でNB培養菌体に与えると,いずれの化合物も卵胞子形成を誘導した。この中でCaCl2が最も作用が強く,10-4Mが卵胞子形成の誘導に最適な濃度であった。キレート剤の種々の量をCMBに加えて,有効なCa2+を減じると,Ca2+の濃度が7×10-5Mより低いと卵胞子の形成は認められなかった。これらのことから,A. euteichesの卵胞子形成にはCa2+が不可欠であることが示された。