抄録
ベトナムのイネいもち病菌レースの分布実態を調査した。メコンデルタを中心にベトナム全土から採集した罹病葉サンプルから,129の単胞子分離菌株を得た。日本の判別品種12品種を供試して病原性検定を行った結果,これらは12種のレースに分類された。最も優勢なレースは002.4で,メコンデルタ11省中,10省でその分布が確認された。その他,106.4, 006.4, 102.4, 002.0が優勢であった。抵抗性遺伝子Piaをもつ愛知旭,PitをもつK59はそれぞれ93.8%および86.0%の供試菌株に対して感受性であった。一方,新2号,クサブエ,フクニシキ,Pi No.4,とりで1号,K60, BL1の7品種はすべての菌株に抵抗性であった。参考品種として供試した,抵抗性遺伝子PishだけをもつAA/S2-3もすべての菌株に抵抗性を示したが,新2号,クサブエ,フクニシキ,Pi No.4, BL1の5品種もPishをもつことが知られているため,これらの判別品種の抵抗性にPishまたは未知の遺伝子が関与している可能性がある。なお,新2号はすべての菌株に抵抗性であったが,Pik-sだけをもつAA/S2-75は95.3%の菌株に感受性であったことから,Pishをもつ他の判別品種でもPishだけが抵抗性に作用していることも考えられる。ベトナムで栽培されている主要45品種の異なるレースに類別された4菌株に対する反応を検定した結果,それらは抵抗性型の異なる8品種群に類別でき,ベトナム産いもち病菌の病原性は多様化していることが判明した。なお,日本の判別品種を用いてベトナム産いもち病菌株を詳細に類別することは難しいと考えられた。