ヒエ属植物の病原菌である
E. monocerasによるイネの葉いもちの抑制について,温室内で調べた。
E. monocerasの分生胞子懸濁液(10
6胞子/ml)の前接種によって,イネの品種にかかわらず,いもち病斑数が75%以上減少した。また,いもち病菌の接種の7日前までの
E. monocerasの接種によって,いもち病斑形成は抑制された。さらに,圃場試験において,その効果について調べた。
E. monoceras胞子懸濁液の1回の処理によって,処理後2から6週まで85%以上いもち病斑形成が抑制された。
E. monoceras処理区において,非処理葉上のいもち病も抑制された。温室内試験で
E. monocerasは全身的宿主抵抗性を誘導しなかったので,その結果は
E. monoceras処理による初期のいもち病の進展抑制が上位葉への感染の機会を減らしたことを示唆している。1週間ごとに2回,3回および4回の処理をしても,同様の結果となった。
E. monocerasに罹病したタイヌビエ(
E. oryzicola)をイネ株条間に移植することによっても,いもち病は抑制された。この結果は,罹病タイヌビエ上の病斑に形成された分生胞子がイネに付着し,いもち病が抑制されたことを示唆している。さらに,慣行薬剤処理を対照として,イネの生育および収量に対する
E. monoceras処理の影響について,圃場で調べた。1回あるいは2回処理では,稈長,穂長,穂数,乾物重および収量に影響はなかった。しかしながら,3回処理では桿長が減少し,4回処理では稈長,乾物重および収量が減少した。以上の結果は,2回以内の処理であれば,
E. monocerasはイネに影響を与えることなく,イネ葉いもちを防除できる生物防除剤の素材となりうることを示している。
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