日本植物病理学会報
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65 巻, 5 号
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  • 上運 天博
    1999 年 65 巻 5 号 p. 501-509
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ビワがんしゅ病菌(Pseudomonas syringae pv. eriobotryae)の52 Mdalプラスミド由来の病原性遺伝子を含むDNA断片(23kb)をpLAFR 3に挿入して得られたpVIR 6から病原性遺伝子を単離するためサブクローニングや欠失を試みた。その結果,挿入断片が約7kbで,病原性を有するpKPN 35が得られた。この挿入断片の塩基配列を調べた結果,全長が6961bpで,4つのオープンリーディングフレーム(OPF)の存在が示唆された。ORF 1 (480bp)とOPF 4 (516bp)は既知の遺伝子と相同性はなかった。ORF 2 (969bp)の塩基配列から想定されるアミノ酸配列は大腸菌IS 5のトランスポザーゼと相同性が認められた。ORF 3 (2193bp)領域のみを含むpNSF 1は52 Mdalプラスミドが欠落し,病原性を失ったビワがんしゅ病菌PE 0に病原性を回復させた。しかし,pNSF 1のORF 3から580bpのBssHII断片を欠失させたプラスミドは病原性を回復させることはできなかった。以上の結果はORF 3が病原性遺伝子であることを示しており,psvAと命名した。psvAの上流にはHrpLdependent promoterの共通配列が認められた。psvAの塩基配列から想定されるタンパク質psvAは731のアミノ酸からなり,その分子量は83.2kDaであった。psvAは既知のタンパク質と相同性は認められなかったが,Pseudomonas syringae pv. glycineaavrA遺伝子のN末端領域との相同性が認められた。psvAを発現用ベクターpET-3aに組み込み,大腸菌でのタンパク質発現を調べた結果,psvAの想定分子量とほぼ同じ分子量を有するタンパク質の発現が認められた。サザンハイブリダイゼーション分析により,psvAがヤマモモこぶ病菌(P. syringae pv. myricae)とカクレミノこぶ病菌(P. syringae pv. dendropanacis)にも保持されていることが明らかになった。
  • 酒井 泰文
    1999 年 65 巻 5 号 p. 510-514
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    薬剤散布後の種子の感染状況を未熟な発育段階から定期的に調査し,感染阻止状況からチオファネートメチル水和剤の散布適期を決定した。ダイズ開花時の散布は薬効が持続する期間種子の感染を予防するが,薬効が消失すると感染種子は急増した。一方,開花後30日から50日の期間内の散布は,成熟期まで種子の感染を予防するとともに,すでに感染している種子では内在する菌を死滅あるいは病徴発現に必要な菌量以下に生育を抑え,成熟期における発病(紫斑発現)を阻止した。しかし,開花後70日の散布では,すでに一部の種子で発病が見られ,散布時期としては適切でなかった。以上のことから,本剤をダイズ開花後30日から50日の期間内に1回散布すれば発病がきわめて低率に抑えられることが明らかになった。チオファネートメチル剤のダイズ生育期の6回以上の散布により,本剤に対する耐性菌が出現した。耐性菌による種子の発病は,本剤の散布によって抑制することができなかった。本剤や本剤と交叉耐性を示すベノミル剤は,本病に対しきわめて優れた防除効果を示す。したがって,これらの薬剤の散布は散布適期内の1回に止め,薬剤耐性菌の出現を抑制することが大切である。
  • 朴 杓允, 海野 和俊
    1999 年 65 巻 5 号 p. 515-520
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    イチゴ黒斑病菌が生産するAF毒素Iをイチゴ感受性細胞に処理すると,原形質連絡糸部位に原形質膜変性が生じ,この部位の細胞外に多糖類が多量に集積した。この多糖類の分泌に関連する細胞反応について,生体組織の細胞オルガネラの機能解析に効果を発揮することが知られている電顕計測学法を用いて調査した。計測の結果,葉緑体,マイクロボディー,核,液胞の細胞の容積については毒素処理区と水対照区の間で有意差はないことがわかった。それに反して,クリステ,ゴルジ野,核小体,粗面小胞体の容積とゴルジ小胞数は,毒素処理3時間以内に対照区よりも有意に増加した。しかし,毒素処理区のこれらオルガネラ容積やゴルジ小胞数は,毒素処理6時間と10時間後には対照区よりも有意に減少した。この結果は,毒素処理により感受性細胞がえ死する前に,多糖類を含む物質の生合成と分泌機能が一時的に活性化したことを示す。
  • 景山 幸二, 北村 文男, 青柳 岳人, 百町 満朗
    1999 年 65 巻 5 号 p. 521-525
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ベントグラス葉腐病菌Rhizoctonia solani AG2-2 IIIBのクリーピングベントグラスグリーンにおける生存様式について検討した。本菌は,発病がみられないときでも分離率は低いものの植物体から分離された。さらに,発病前および後のクリーピングベントグラスを採取し,高温多湿条件に置くと発病がみられた。このことから,本菌は年間を通じて発病がみられないときでもクリーピングベントグラスターフ中に生存し,本菌にとって環境条件が好適になり宿主の感受性が高くなると発病に至ると考えられた。生存形態に関して調査したところ,薬剤処理に関係なく発病時に本菌の菌核がベントグラス葉鞘基部に観察され,病原性が認められた。また,発病時以外には植物残渣からは本菌の分離はみられなかった。以上のことから,菌核がベントグラスターフ中でのR. solani AG2-2 IIIBの生存形態と考えられた。
  • 野田 孝人, 林 長生, Pham Van Du, Hoang Dinh DINH, Lai Van E
    1999 年 65 巻 5 号 p. 526-530
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ベトナムのイネいもち病菌レースの分布実態を調査した。メコンデルタを中心にベトナム全土から採集した罹病葉サンプルから,129の単胞子分離菌株を得た。日本の判別品種12品種を供試して病原性検定を行った結果,これらは12種のレースに分類された。最も優勢なレースは002.4で,メコンデルタ11省中,10省でその分布が確認された。その他,106.4, 006.4, 102.4, 002.0が優勢であった。抵抗性遺伝子Piaをもつ愛知旭,PitをもつK59はそれぞれ93.8%および86.0%の供試菌株に対して感受性であった。一方,新2号,クサブエ,フクニシキ,Pi No.4,とりで1号,K60, BL1の7品種はすべての菌株に抵抗性であった。参考品種として供試した,抵抗性遺伝子PishだけをもつAA/S2-3もすべての菌株に抵抗性を示したが,新2号,クサブエ,フクニシキ,Pi No.4, BL1の5品種もPishをもつことが知られているため,これらの判別品種の抵抗性にPishまたは未知の遺伝子が関与している可能性がある。なお,新2号はすべての菌株に抵抗性であったが,Pik-sだけをもつAA/S2-75は95.3%の菌株に感受性であったことから,Pishをもつ他の判別品種でもPishだけが抵抗性に作用していることも考えられる。ベトナムで栽培されている主要45品種の異なるレースに類別された4菌株に対する反応を検定した結果,それらは抵抗性型の異なる8品種群に類別でき,ベトナム産いもち病菌の病原性は多様化していることが判明した。なお,日本の判別品種を用いてベトナム産いもち病菌株を詳細に類別することは難しいと考えられた。
  • 兼松 聡子, 横山 泰裕, 小林 享夫, 工藤 晟, 大津 善弘
    1999 年 65 巻 5 号 p. 531-536
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    モモ枝折病は従来,Fusicoccum属菌による病害とされていたが,新潟県において発生した罹病樹から分離された菌株の分生子形成細胞はフィアライドであり,in vitroPhomopsis属菌に特徴的なβ胞子を形成したことから,本菌はFusicoccum属菌ではなく,Phomopsis属菌であると考えられた。この新潟分離株と,フランスで分離されたモモにcankerを引き起こすP. amygdali (synonym: F. amygdali),および本邦産でモモに果実腐敗や芽枯れ症状を引き起こすPhomopsis属菌のW型株とG型株とを用いて,胞子形態,コロニーの形態,ならびにモモ新梢基部に対する病原性を比較した.その結果,モモ枝折病菌は,コロニー形態が白色で特徴的な隆起があること,およびモモ新梢基部に特徴的な病徴を示すこと,の2点において,W型株やG型株とは異なった。しかし,欧州産のP. amygdali (Delacroix) Tuset et Portillaには諸性質が似ており,これと同一種であると同定した。
  • 塚本 浩史, 津田 盛也, 藤森 嶺
    1999 年 65 巻 5 号 p. 537-542
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ヒエ黒穂病菌(U. trichophora)を用いてイヌビエ(E. crus-galli var. crus-galli)の生物学的防除法開発のための基礎的研究を温室内で行った。日本国内21府県の54か所で,小穂,葉鞘あるいは稈がU. trichophoraによって黒穂病に罹病したEchinochloa属植物,イヌビエ(E. crus-galli var. crus-galli),ヒメイヌビエ(E. crus-galli var. praticola),ヒメタイヌビエ(E. crus-galli var. formosensis),タイヌビエ(E. oryzicola)および栽培ヒエ(E. utilis)を64個体採集した。採集した罹病植物体上の胞子堆中の単一の黒穂胞子からU. trichophoraの分離株を得た。おのおのの単一黒穂胞子由来の分離株の酵母様出芽細胞懸濁液をイヌビエの葉鞘に注射接種すると,イヌビエに胞子堆が形成された。胞子堆は宿主植物体の様々な部位に形成された。すなわち,胞子堆は特に稈,葉鞘および葉身上に形成され,小穂に形成されることもあった。さらに,単一黒穂胞子由来の分離株をショ糖加用ジャガイモ煎汁寒天培地上において5度の画線培養を繰り返すことによって,単一細胞系統株を得た。おのおのの単一細胞系統株の酵母様出芽細胞懸濁液を2葉期のイヌビエに噴霧接種して,各分離株の胞子堆形成能を比較した。その結果,3分離株が70%以上の植物体に胞子堆を形成した。胞子堆はおもに植物体の地際部に形成された。胞子堆の形成された植物体は成長が抑制され,枯死することもあった。以上の結果は,本菌がノビエに対する微生物除草剤として高い可能性を有することを示している。
  • 塚本 浩史, 堤 史樹, 小野寺 和英, 山田 昌雄, 藤森 嶺
    1999 年 65 巻 5 号 p. 543-548
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    ヒエ属植物の病原菌であるE. monocerasによるイネの葉いもちの抑制について,温室内で調べた。E. monocerasの分生胞子懸濁液(106胞子/ml)の前接種によって,イネの品種にかかわらず,いもち病斑数が75%以上減少した。また,いもち病菌の接種の7日前までのE. monocerasの接種によって,いもち病斑形成は抑制された。さらに,圃場試験において,その効果について調べた。E. monoceras胞子懸濁液の1回の処理によって,処理後2から6週まで85%以上いもち病斑形成が抑制された。E. monoceras処理区において,非処理葉上のいもち病も抑制された。温室内試験でE. monocerasは全身的宿主抵抗性を誘導しなかったので,その結果はE. monoceras処理による初期のいもち病の進展抑制が上位葉への感染の機会を減らしたことを示唆している。1週間ごとに2回,3回および4回の処理をしても,同様の結果となった。E. monocerasに罹病したタイヌビエ(E. oryzicola)をイネ株条間に移植することによっても,いもち病は抑制された。この結果は,罹病タイヌビエ上の病斑に形成された分生胞子がイネに付着し,いもち病が抑制されたことを示唆している。さらに,慣行薬剤処理を対照として,イネの生育および収量に対するE. monoceras処理の影響について,圃場で調べた。1回あるいは2回処理では,稈長,穂長,穂数,乾物重および収量に影響はなかった。しかしながら,3回処理では桿長が減少し,4回処理では稈長,乾物重および収量が減少した。以上の結果は,2回以内の処理であれば,E. monocerasはイネに影響を与えることなく,イネ葉いもちを防除できる生物防除剤の素材となりうることを示している。
  • 中澤 (那須)佳子, 北之園 忍, 長谷川 久恵, 奥野谷 圭司, 八重垣 史彦, 鈴木 一実, 曵地 康史, 奥野 哲郎
    1999 年 65 巻 5 号 p. 549-552
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    Ralstonia solanacearum (RS)菌液をブロットしたImmobilon-P (I-P)を,RSに対するウサギIgG液,続いてalkaline phosphatase結合抗ウサギIgGヤギIgG液に浸漬後,5-bromo-4-chloro-3-indolylphosphateとnitro blue tetrazoliumを含む炭酸緩衝液に浸漬し発色したところ,検出限界は102cfu/dotであった。根にRS菌液を浸漬接種したトマト苗(品種:大型福寿とLS-89)の地際部断面をI-Pにブロットしたところ,青枯病発病苗ばかりか接種1日後の苗からもRSが検出され,検出限界は105-106cfu/gであった。大型福寿とLS-89を青枯病汚染圃場で栽培し,最下位基部を経時的にI-Pにブロットした。LS-89ではRSは検出されず,青枯病の発病も認められなかった。大型福寿では発病株のみならず未発病株からもRSが検出された。本法を用いて,ハウス栽培の萎凋症状を呈すナスと周囲の未発病ナスからRSが検出できた。以上の結果から,本法は,圃場におけるRSの検出に有用であることが示された。
  • 塚本 浩史, 津田 盛也, 藤森 嶺
    1999 年 65 巻 5 号 p. 553-556
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    Exserohilum monocerasは,水田に発生するノビエ類に対する生物除草剤の活性成分として,有用な糸状菌である。本研究では,タイヌビエに対するExserohilum monocerasの感染様式を調べた。すなわち,1葉期のタイヌビエの葉の表面に本菌胞子懸濁液を接種した36, 48あるいは63時間後に,接種葉をラクトフェノール-エタノール水溶液に浸漬し,固定・脱色した後,顕微鏡下で本菌の感染行動を観察した。ほとんどの胞子は発芽管を伸長させた後,表皮細胞の縫合部の上層に付着器を形成し,角皮侵入した。侵入菌糸は表皮細胞中に侵入するか,あるいは細胞間隙を伸展した。また,ごく一部の付着器は表皮細胞上あるいは気孔孔辺細胞上に形成され,それぞれ角皮侵入あるいは気孔侵入を行った。さらに,結露および冠水条件下の宿主葉上における本菌の侵入部位および侵入菌糸の伸長部位を比較したが,重要な違いはなかった。
  • 病徴,病原性,分生子の発芽条件および病原菌の所属
    今泉 英理夏, 小林 享夫, 中島 千晴
    1999 年 65 巻 5 号 p. 557-562
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    関東地方,および東北南部で畑地雑草のカナムグラの葉に,多数の褐斑を生じ黄化落葉する激しい病気が発生していた。病徴および病原菌の形態的特徴と文献調査により病原菌はホップ・カナムグラ褐斑病菌Pseudocercospora humuli (Hori) Guo et liuと同定された。
    カナムグラへの培養菌叢磨砕液,分生子懸濁液の噴霧接種により約2∼4週間後に病徴が再現されたが,同属であるホップへの菌叢磨砕液の噴霧接種,カナムグラ病葉を健全葉にはりつける接種ではホップはまったく発病せず病斑は形成されなかった。再三の病原性検定でも分離菌は宿主として記録のある同属のホップには発病せず,病原性分化の起きている可能性を窺わせた。
    分生子の発芽条件を調べたところ,分生子は25°Cで2時間後から発芽し,24時間後には93%が発芽した。5∼35°Cで発芽し,適温は25°C, pH 3では発芽せず,pH 4∼9でよく発芽した。水中,寒天培地上,空気湿度100%で良く発芽し,以下空気湿度89%まで発芽がみられ,85%では発芽しなかった。分生子の発芽能力は,室温で約2ヵ月間保たれた。
  • 勝部 和則
    1999 年 65 巻 5 号 p. 563-568
    発行日: 1999/10/25
    公開日: 2009/02/19
    ジャーナル フリー
    菌糸和合性(vegetative compatibility)を利用して,ホウレンソウ萎ちょう病菌Fusarium oxysporum f. sp. spinaciae個体群の日本における地理的分布および圃場内における個体群構造について検討した。16府県のホウレンソウ産地で得た日本産100菌株をFiely et al. (1995)によるVCGs (vegetative compatibility groups) 1, 2, 3に分類したところ,VCGの構成比はVCG 1が46.0%で最も多く,VCG 2は39.0%, VCG 3は7.0%であった。地理的な分布については,VCG 1, 2はわが国に広く分布することが明らかになった。VCG 3は供試菌株の多かった1県のみに分布した。VCG 1および3に分類された菌株はすべて感受性品種「おかめ」に対して病原性を示したが,VCG 2に分類された菌株のうち,2菌株は病原性を示さなかった。また,VCG 2に所属する菌株の病原力には幅がみられたが,平均するとVCG 1および3の病原力に劣った。
    次に連作圃場を16区分して採集した発病個体の根部維管束組織から分離したF. oxysporum 130菌株のうち106菌株がいずれかのVCGに分類され,感受性品種に対して強い病原性を示した。94菌株(72.3%)はVCG 1に分類され,この個体群が圃場内に優占的に広く分布しており,その上で,構成比は低いがVCG 3が圃場内の一部に一定の集団を形成し,VCG 2やその他の不和合性菌群とともに,圃場内で多様な個体群構造を形成していることが明らかになった。また,本研究によって既知のVCGに属さない不和合性のF. oxysporum f. sp. spinaciaeの存在が新たに明らかになった。
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