心身医学
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教育講演
長寿のもたらす「病」と健康不安
西成田 進
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2016 年 56 巻 7 号 p. 698-703

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抄録
日本は今, 世界に冠たる長寿国になっている. しかし, この長寿にはメタボリックシンドロームとよばれる「病」が付きまとっている. この「病」は快適な生活自体が作り出したものであり, この「病」からの脱出にはその生活習慣, すなわち現在の快適な生活の放棄が必要になる. 「病」自体が苦痛というより「病」から脱出する過程と, 脱出の結果待っている生活自体が苦痛という, おかしな「病」である. 通常「病」は肉体的苦痛を伴い, そこからの脱出によって達成された健康は人々に肉体の健康と精神の安定をもたらすが, この「病」ではそれが逆転している (怪). 巨視的にみればこの「病」の最大の背景は「豊かな生活」と「長寿 (高齢) 」であることに気づく. 際限のない健康願望と増大するこの「病」のリスクは二律背反である. この二律背反により, 足ることを知らない (断念することを知らない) 現代人の健康願望はどこかで健康不安に転化する. 現代人の基本的な病理は豊かな「生活習慣」の継続を願うあまり, 健康の破綻に対するリアリティがもてなくなっている, という点にあるのではなかろうか.
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© 2016 一般社団法人 日本心身医学会
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