2016 年 56 巻 7 号 p. 692-697
高齢社会を迎えた日本では, 加齢によって認知機能が低下するにつれてケア実施困難となる高齢者が増加している. 現在の医学・看護学は「治療の意味が理解でき, 検査や治療に協力してもらえる人」を対象とすることを前提にしているが, 認知機能が低下した方々にとってはその前提条件は必ずしも得られていない. 提供される医療やケアが自分のためと理解できずに激しく抵抗する人々に, ケアを行う人が疲弊して職を辞すなど, 看護・介護人材の離職にも直結している. ユマニチュードは体育学を専攻するイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの36年にわたる経験の中から創出した, 知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づくケア技法である. 「あなたは大切な存在です」という言語および非言語によるメッセージを, ケアを受けるひとが理解できる形で届けるための方法でもある. 本稿では, このケアの基本的な考え方と基礎技術について論述する.