心身医学
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56 巻, 7 号
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巻頭言
第56回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
教育講演
  • 本田 美和子
    2016 年 56 巻 7 号 p. 692-697
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    高齢社会を迎えた日本では, 加齢によって認知機能が低下するにつれてケア実施困難となる高齢者が増加している. 現在の医学・看護学は「治療の意味が理解でき, 検査や治療に協力してもらえる人」を対象とすることを前提にしているが, 認知機能が低下した方々にとってはその前提条件は必ずしも得られていない. 提供される医療やケアが自分のためと理解できずに激しく抵抗する人々に, ケアを行う人が疲弊して職を辞すなど, 看護・介護人材の離職にも直結している. ユマニチュードは体育学を専攻するイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの36年にわたる経験の中から創出した, 知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づくケア技法である. 「あなたは大切な存在です」という言語および非言語によるメッセージを, ケアを受けるひとが理解できる形で届けるための方法でもある. 本稿では, このケアの基本的な考え方と基礎技術について論述する.
  • 西成田 進
    2016 年 56 巻 7 号 p. 698-703
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    日本は今, 世界に冠たる長寿国になっている. しかし, この長寿にはメタボリックシンドロームとよばれる「病」が付きまとっている. この「病」は快適な生活自体が作り出したものであり, この「病」からの脱出にはその生活習慣, すなわち現在の快適な生活の放棄が必要になる. 「病」自体が苦痛というより「病」から脱出する過程と, 脱出の結果待っている生活自体が苦痛という, おかしな「病」である. 通常「病」は肉体的苦痛を伴い, そこからの脱出によって達成された健康は人々に肉体の健康と精神の安定をもたらすが, この「病」ではそれが逆転している (怪). 巨視的にみればこの「病」の最大の背景は「豊かな生活」と「長寿 (高齢) 」であることに気づく. 際限のない健康願望と増大するこの「病」のリスクは二律背反である. この二律背反により, 足ることを知らない (断念することを知らない) 現代人の健康願望はどこかで健康不安に転化する. 現代人の基本的な病理は豊かな「生活習慣」の継続を願うあまり, 健康の破綻に対するリアリティがもてなくなっている, という点にあるのではなかろうか.
シンポジウム:現代社会が望む家族のかたち~生殖医療に関わる者たちのジレンマ~
  • 相良 洋子, 髙松 潔
    2016 年 56 巻 7 号 p. 704
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
  • 久慈 直昭, 伊東 宏絵, 井坂 惠一
    2016 年 56 巻 7 号 p. 705-711
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    現在わが国において提供精子を用いた人工授精 (artificial insemination with donor’s semen : AID) は匿名で行われている. しかし告知を受けないで育った子どもが, 偶然さまざまな理由でAIDによって生まれた事実を知ったとき, 子どもは親が事実を話してくれなかったことに悩み, また提供者の情報を知ることができないことに強い憤りを感じる例がある. 提供者の情報や, 同じ提供者から生まれた同胞の情報は, AIDで生まれた子どもたちにとって, 自己のアイデンティティ確立に重要であるとともに, 遺伝情報取得, 近親婚回避という医学的理由からも重要である. 一方, 告知を受けた子どもでもやはり提供者や遺伝的同胞についての情報は得たいと考えており, また告知を受けて提供者や同胞の情報が得られた子どもはAIDに対して肯定的となることからも, 出自を知る権利はやはり必要である. ここでは, 親が子どもに事実を伝えることの重要性と, 提供者の情報を子どもが利用できるようになるために解決しなければならない問題点とその方策を考察し, 今後わが国が進むべき方向性を考える.
  • 笠原 麻里
    2016 年 56 巻 7 号 p. 712-717
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    生殖補助医療に伴う育児における母体のさまざまな負担について, 実際の症例を通して述べた. 問題は多岐にわたり, 身体的問題, 生殖医療ゆえの挙児をめぐる葛藤, 母体の精神的問題などを示した. 生殖医療においても, 産後の育児を見通した支援の必要性があり, 特に男性不妊をめぐる女性の気持ちや, 周囲に話しにくい事情など特有の心理的配慮の必要性を論じた.
  • 森 和子
    2016 年 56 巻 7 号 p. 718-722
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    不妊治療を受けても妊娠に至らない場合, その先の選択として非配偶者間生殖補助医療を選択する夫婦が年々増えている. 本稿では養子縁組家族が親子関係を構築するプロセスから示唆される非配偶者間生殖補助医療による家族のあり方について考察した. 他人同士の出会いからともに生活する中で, 養親はありのままの子どもを受け止め, 子どもも養親から受け止められることで愛着の絆が作られ親子になっていく. そして親子関係が構築され安定した時期に子どもに対し養子であることを真実告知をしたうえで, 親子関係の再構築をしていく. 今日出自が秘密にされることでアイデンティティ形成が阻害されてきたという養子の歴史が非配偶者間人工授精 (AID) で生まれた人たちの出自を知らされない苦しみと重なる. わが国でも当事者の情報が特定の機関で管理され, 必要なときにアクセスできる相談支援システム作りの必要性が示唆された. 今日養子縁組を含め多様な選択肢から家族のあり方を主体的に選ぶことができる社会になることが求められている.
原著
  • —原子力発電所事故がもたらした身体・心理・社会的影響—
    辻内 琢也, 小牧 久見子, 岩垣 穂大, 増田 和高, 山口 摩弥, 福田 千加子, 石川 則子, 持田 隆平, 小島 隆矢, 根ヶ山 光 ...
    2016 年 56 巻 7 号 p. 723-736
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    本研究は, 東日本大震災に伴って発生した福島原子力発電所事故の2年後に, 福島県内の仮設住宅において避難生活を送る住民の心的外傷後ストレス症状と, そのストレスに影響を与える身体・心理・社会的要因を明らかにしたものである. 2,425世帯に対して無記名で任意回答のアンケート用紙を配布し, 745名 (回答率30.7%) の回答を得た. 欠損値を除く661名の解析を行ったところ, IES-Rの平均値が34.20±20.56であり, PTSDの可能性に対する高いリスクを示すカットオフ値24/25を超えた者が62.56%であった. PTSDの可能性との関連を多重ロジスティック回帰分析で検討した結果, 「経済的困難」 (OR : 2.34, 95%CI : 1.30~4.24), 「賠償の心配」 (OR : 4.16, 95%CI 1.26~13.76), 「持病の悪化」 (OR : 2.94, 95%CI : 1.63~5.30), 「新疾患の罹患」 (OR : 2.20, 95%CI : 1.21~3.99), 「相談者の不在」 (OR : 1.92, 95%CI : 1.07~3.42) が有意な予測因子として認められた. これまでに世界各地で報告されてきた他の災害と比較しても, 原発事故被災者にきわめて高い外傷後ストレス症状が認められた理由として, 事故に対する補償や賠償といった問題など, 本災害の人為災害としての要素が重要であると考えられた.
  • 山蔦 圭輔, 佐藤 寛, 笹川 智子, 山本 隆一郎, 中井 義勝, 野村 忍
    2016 年 56 巻 7 号 p. 737-747
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/01
    ジャーナル フリー
    はじめに : 近年, 摂食障害を呈する女子学生が増加している. 本研究の目的は, 新版食行動異常傾向測定尺度 (Abnormal Eating Behavior Scale new version : 以下AEBS-NV) の開発と信頼性および妥当性を検討することであった. 対象者 : 一般女子学生へ調査を実施し, 調査用紙への身長・体重を除く項目へ完答し, また摂食障害の罹患歴がない者226名 (20.4±2.6歳) (調査1) および104名 (19.9±1.1歳) (調査2) を分析対象とした. 方法 : 想定した項目の因子構造を確認するため, 因子分析を行った. また, 尺度の妥当性を検討するため, 因子得点により対象者を3群に分類し (low group : LG, middle group : MG, high group : HG), EAT-26およびEDI得点について, 群における一要因分散分析を行った. また, 尺度のカットオフポイントを検討するため, 下位尺度得点ごとにROC分析を行った. 結果 : 因子分析の結果, “非機能的ダイエット” 因子・ “食事へのとらわれ” 因子・ “むちゃ食い” 因子の3因子 (14項目) が抽出され, 信頼性係数の値は十分であった. EAT-26およびEDI得点は, LGよりもMG・HG (p<0.01), MGよりもHG (p<0.01) で高かった. カットオフポイントは41点とした. 結論 : AEBS-NVの十分な信頼性・構成概念妥当性および基準関連妥当性が確認された. 本尺度により, 女子学生の食行動異常傾向を連続線上で評価することが可能であると考えられる.
連載:心身医学で知っておきたい臨床倫理の基礎と実践
地方会抄録
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