2017 年 57 巻 10 号 p. 999-1004
背景 : ヒトにおいて精神的ストレスのみで潰瘍が発症するかは再検証が必要である. 目的 : 東日本大震災後の消化性潰瘍の成因, 特徴を平時と比較検討する. 方法 : 発災直後から3カ月間, 前年同時期に宮城県内7施設において新たに診断された消化性潰瘍症例を後ろ向き研究として集積した. 震災後症例において非出血群をコントロールとし潰瘍出血の危険因子を求めるロジスティック回帰分析を行った. 結果 : 震災後3カ月間で潰瘍症例は約1.5倍, 特に出血性潰瘍は2.2倍に増加, 成因としてH. pylori陰性かつ非NSAID群が24%を占め, 前年の13%から有意に増加した. 災害後出血性潰瘍は, 多発し胃に多く, 輸血を要した患者が多かった. 避難環境は, 独立した災害時潰瘍出血の危険因子であった (OR4.4). 結論 : 東日本大震災後に著明に消化性潰瘍が増加し, H. pylori陰性かつ非NSAID群の割合の有意な増加から, 大規模災害時の精神的ストレスは独立して消化性潰瘍を引き起こす可能性が初めて示された.