2021 年 61 巻 6 号 p. 528-534
本稿は,米国の哲学者であり心理療法家でもあるGendlinが提唱した「フォーカシング」と〈からだ〉について論じたものである.フォーカシングは,ある特定の問題や状況について〈からだ〉に感じられる漠然とした意味の感覚――フェルトセンス――に焦点を当て,それを言い表すことで新しい意味を創出するという体験との特徴的なかかわり方である.フォーカシングで注目する〈からだ〉,すなわちフェルトセンスは常に状況を生き進もうとしており,新しい意味を投げかけつづけている.本稿では,診療場面を想定した架空事例を提示したうえで,このような理論について検討した.最後に本特集のテーマである「身」と「心」,「主体」と「客体」といった視点についての筆者らの見解にも言及した.