2024 年 64 巻 3 号 p. 247-252
九州大学心療内科には毎年多くの摂食症(摂食障害)患者が来院するが,治療を途中で中断するケースも散見されている.また,心療内科において摂食症患者を入院させる場合,医療者と家族による説得に多くの時間とエネルギーを割かざるを得ないこともしばしばである.深町は,十分な時間をかけて説得し同意を得たうえでの入院となれば,入院目標の半分を達成したといっても過言ではないと述べており,こうした作業は治療上,きわめて重要と考えられる.なぜならば,さまざまなことから回避するという摂食症の精神病理に立ち向かい,患者は回復する道への大きな一歩を踏み出したことになるからである.一方,治療への説得がどうしても届かなかったり,入院をしたとしても一切の治療を拒否したりするケースがときに存在し,法的拘束力のない心療内科の枠組みにおいて,こうした患者をどのように治療に導き,命を救えばよいのかという課題がある.
本稿では心療内科領域における摂食症診療の倫理的課題について,若干の考察を交え報告する.