2000 年 13 巻 2 号 p. 119-124
急性発症の非典型的なIgA腎症は,高度な尿蛋白,肉眼的血尿を伴うて急性に発症し,糸球体基底膜の融解像やメサンギウム領域や糸球体末梢血管係蹄壁へのIgAの沈着を認める。重篤な臨床症状と強い組織病変を呈するにもかかわらず,必ずしも予後不良な疾患ではない。今回我々は,肉眼的血尿を伴うネフローゼ症候群で急性発症したIgA腎症の1女児例を経験した。抗凝固・線溶療法,ステロイド療法,抗血小板療法に加え,アンギオテンシン変換酵素阻害剤 (ACEI: angiotensin converting enzyme inhibitor) を投与した結果,治療開始後4カ月で尿蛋白は消失し臨床症状の改善を認めた。急性期の腎生検では,基底膜の二重化や網状化,菲薄化,不規則化などの基底膜融解像やメサンギウム領域および糸球体末梢血管係蹄壁にIgAの沈着が認められたが,1年後の追跡腎生検では組織学的な改善が確認された。ACEIの効果は,腎糸球体内血行動態を改善することで腎糸球体基底膜のsize selectivity障害を緩和し,さらに腎糸球体基底膜のcharge barrierの修復にも関与すると言われている。したがって,本症例の様な腎糸球体基底膜病変を特徴とする急性発症型のIgA腎症にACEIは有効であると考えられる。