抄録
6歳,女児。父がDenys-Drash症候群であり,26歳時より腎機能低下が進行し,31歳時に血液透析が導入された。本児は8ヵ月時に両側のWilms腫瘍と診断され,JWITS Regimen EE-4Aに従い化学療法が行われたが,腫瘍の縮小が認められず両側腫瘍摘出術を受けた。父親および患児の末梢血,および患児のWilms腫瘍からWT1遺伝子のR390Xを来たすナンセンス変異が検出された。1歳8ヵ月時より尿蛋白が出現し次第に増悪したため,5歳時に開放腎生検が施行された。病理組織学的に巣状糸球体硬化症と診断されAngiotensin II Receptor Blocker (ARB) の投与が開始された。投与開始後早期に尿蛋白の減少と低蛋白血症および低アルブミン血症の改善が認められ,投与後1年6ヵ月の時点で尿蛋白は消失した。Denys-Drash症候群に生じた巣状糸球体硬化症に対してARBが有効である可能性およびWT1遺伝子異常症の多様性を示唆する症例であると考えられた。