多くの研究において扁桃体は感情処理プロセスの中心的な役割を担うと論じられている(感情機能中核説)。しかしながら恐怖感情以外, 特に快感情では扁桃体の賦活を見出した研究が少なく, 扁桃体がすべての感情に共通して中心的な役割を担うかどうかは不明瞭である。そこで本研究では, 右利きの健康な成人男女10名(男性2名, 女性8名, 平均年齢24.5歳±2.1歳)を対象にモーフィングによって作成した喜び, 怒り, 悲しみ, 中性の表情動画を呈示し, 表情呈示時の脳賦活部位を事象関連的核磁気共鳴画像(event-related functional Magnet Resonance Imaging: fMRI )を用いて検討した。その結果, 中性表情に比べ怒り, 喜び表情ともに有意に強い扁桃体, 淡蒼球, 前頭前野内側部の賦活が認められた。しかしながら, 悲しみ表情では扁桃体の賦活は認められなかった。悲しみ感情に関してはより詳細な検討が必要であるが, 本実験の結果は少なくとも扁桃体は不快感情だけではなく, 快感情に対しても応答し, 脅威信号にのみ特異的に応答するのではなくより汎用的役割を持つことを示唆した。
抄録全体を表示