2023 年 41 巻 2 号 p. 154-161
我々は,注意欠如多動症(ADHD)児の干渉制御における先行手がかりの影響について明らかにするために,先行手がかりのあるフランカー課題中における事象関連電位(ERP)のN1成分を用いた。その結果,定型発達(TD)群では,先行手がかりが付与された先行手がかり条件の一致刺激呈示時における反応時間が,先行手がかりのないコントロール条件に比べて短縮した。一方で,ADHD群では,先行手がかり条件の不一致刺激呈示時における反応時間が,コントロール条件よりも延長した。さらに, ADHD群では,先行手がかり条件の不一致刺激呈示時におけるERPのN1振幅が,コントロール条件に比べて減弱した。これらの結果から,ADHD児は,不一致刺激に対してより慎重な反応方略を採用するといった,TD児とは異なる干渉制御の方略をとることが示唆された。N1振幅の減弱は,早期の情報処理の量を減らし,不一致刺激からの干渉を受けにくくしていることを反映する可能性が推察された。