論文ID: 2009oa
熟達した読み手における文字から音への潜在的で迅速な変換は,文字列特異的な事象関連電位成分であるN170の左半球優位性に反映されると考えられている。最近,この半球非対称性は文字列が知覚物体として注意に選択されて生じることが示唆された(Okumura et al., 2015)。本研究はこの見解を物体にもとづく注意の実験パラダイムを用いて検証することを目的とした。刺激は文字列(単語,非単語)か記号列にランダムドットを空間的に重畳させたものであり,課題は文字・記号列とドットのいずれか一方の色を判断することであった。結果として,文字・記号列に注意を向ける条件でのみ,文字列に対する左半球優勢な陰性増強が,刺激提示後約200–300 msに観察された。この効果が典型的なN170よりも潜時が長かったのは,重なった刺激間の競合の解決,または文字列の知覚的補完にかかった時間を示すと考えられる。しかしながら本研究は,文字列特異的ERPの左側性化に,文字列への選択的注意が必要であることをはじめて示した。