宗教/スピリチュアリティ心理学研究
Online ISSN : 2758-1004
本来的生命感を活かした<霊性>の実証研究のために
井筒俊彦の分節理論, アニミズム, 創造的退行の観点から
横洲 有咲宮田 裕光
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2024 年 2 巻 1 号 p. 14-25

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抄録

スピリチュアルな体験は, 本質的に個人的なものであり 主観的体験の一形態である。このことは スピリチュアリティに関する科学的研究を困難にしていると考えられてきた。しかしながら 主観的体験は それが個人的であるという点にこそ体験としての本質があり その個人性に沈潜することで普遍的な思想に接続されうると考えられる。 このような立場から主観的体験を探求することは 個人を超え出て 普遍的地平に接触する方法になりうる。さらに 主観的体験としてのスピリチュアリティと普遍性を結びつける観点からスピリチュアリティを論じることで スピリチュアリティという現象を万人に開かれた普遍的な問いとして捉え直すことが可能になると考えられる。本論文では こうした個人的体験に内在する普遍性という立場に基づいて 学術的なスピリチュアリティ研究の展開可能性を考察する。本論文で<霊性>と表記するスピリチュアリティは 内的体験を透徹することを通じて 普遍的地平と接触する力動を指す。このような体験は 著しく個人的であるがゆえに個人を超越する 「超 個人的人間学」にも相当すると考えられる。こうした<霊性>の生成過程を 東洋思想の要となる概念である「無」に至る過程を構造的に示した 井筒俊彦による分節理論から考察する。さらに 文化人類学における「アニミズム」や心理学の理論である「創造的退行」に着目することで 分野横断的に遍在する<霊性>的営みを明らかにする。個人に即した動的プロセスとしての<霊性>を自らの体験に引き受けることで スピリチュアリティ本来の生命感を損なわずに スピリチュアリティの実証科学的研究を幅広い学問領域で展開できるようになることが期待される。

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© 2024 本論文著者
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