論文ID: 96.23220
The purpose of this study was to develop the Japanese version of the State Adult Attachment Measure (J-SAAM), which measures a momentary level of the sense of attachment security and insecurity, and to examine its reliability and validity. In Study 1 (N = 366), it was confirmed that the J-SAAM, like the original version, has a three-factor structure (security, anxiety, and avoidance) and that each subscale has sufficient internal consistency and criterion validity. In Study 2 (N = 245), participants were divided into Security Priming conditions and Neutral Priming conditions for the intervention. The results showed that the J-SAAM captured a certain degree of temporary fluctuations in the sense of attachment security and insecurity. These results suggest that the J-SAAM has similar properties as the original version and has acceptable reliability and validity.
アタッチメントとは,何らかの脅威に遭遇した際に,安心感の回復・維持という目標を達成すべく,特定の他者に対する近接を志向する行動システムである。John Bowlbyは,養育者との早期離別を経験した子どもが示す強烈な苦痛や不適応を説明するためにアタッチメントの概念を生み出した(Bowlby, 1969)。そのため,アタッチメント理論は当初,子どもと養育者の関係性を理解するための枠組みであった(Gillath et al., 2016)。しかしながら,Hazan & Shaver(1987)がアタッチメント理論を成人の恋愛関係に拡張したことをきっかけに,成人のアタッチメント研究が勃興し,恋愛関係にとどまらない,幅広い親密な対人関係を扱った成人のアタッチメント研究が盛んに行われるようになった。そのため,今やアタッチメント研究は,成人のパーソナリティや親密な対人関係を検討する主要なアプローチの1つとなっている。
成人のアタッチメント行動システムの活性化から不活性化までの一連の流れを表現したのがMikulincer & Shaver(2003)のモデルである。彼らのモデルによると,成人はその閾値こそ高いものの,傷病や愛する者の喪失などといった大きな脅威にさらされれば,子どもと同様にアタッチメント行動システムが活性化する。当該行動システムが活性化すると,アタッチメント対象と呼ばれる親密な他者への近接を希求するとともに,そのような他者の利用可能性を判断することになる。アタッチメント対象のことを「思いやりがあり,応答的である」などと判断できれば,脅威によって生じた苦痛が緩和され,安心感を取り戻すことができる。ひいては,アタッチメント行動システムが不活性化し,探索やケアギビングといった非アタッチメント行動を再開することが可能となる。
一方で,アタッチメント対象が利用可能ではないと判断された場合,脅威によって生じた苦痛は緩和されるどころか,むしろより一層増悪することになる(Mikulincer et al., 2003)。その結果,未制御の苦痛に対処するために,二次的アタッチメント方略(Main, 1990),つまり,過活性化方略と不活性化方略のどちらか,あるいは両方の使用が余儀なくされる(Mikulincer & Shaver, 2016)。過活性化方略とは,アタッチメント行動システムの活性化を維持しつづけるという方略であり,非応答的なアタッチメント対象の注意を引き付け,保護や支援を提供してもらうことを主たる目的としている。そのため,過活性化方略は,アタッチメント対象に対して過度に依存したり,注意やケアを過度に要求したりするといった行動から構成される。それに対して不活性化方略とは,安心感が回復していない状態であるにもかかわらず,アタッチメント行動システムを不活性化するという方略である。不活性化方略の主たる目的は,利用不可能なアタッチメント対象から心理的距離を取ることである。その目的を果たすために,近接性希求の否定や過剰な自立の追求,脅威や苦痛の軽視などが行われる。
アタッチメント行動システムに関する上述の流れ自体は,人類に共通する「標準的」なものである。しかし,アタッチメント行動システムの活性化に伴うアタッチメント対象との一連の相互作用は,Internal Working Models(以下,IWMとする),つまり,アタッチメントと関係する記憶や信念,態度,目標など(Gillath et al., 2016)を形成することでアタッチメント行動における個人間変動をもたらす。例えば,アタッチメント対象との近接によって安心感を得た体験は「近接が有益である」という信念や他者に対する信頼感・感謝・愛情を形成する(Mikulincer & Shaver, 2003)。その結果,脅威にさらされた際には,アタッチメント対象に対する近接が促される。このような方略は,安心に基づく方略と呼ばれ,精神的健康の維持だけでなく,自律性や個性化,自己実現の発達にも寄与する(Mikulincer & Shaver, 2003)。それに対して,アタッチメント対象との近接によって安心感が得られず,二次的アタッチメント方略を使用せざるをえなかった体験は,アタッチメント対象の利用可能性や脅威の評価を歪め,以後も同様の二次的アタッチメント方略の使用を促す。以上のような個人間変動はアタッチメントスタイルと呼ばれ,成人の心理社会的適応やwell-beingなどの個人間変動の説明に用いられてきた。
ただし,近年は,アタッチメントスタイルのような個人間変動だけでなく,アタッチメントの質の個人「内」変動に着目した成人のアタッチメント研究も著しく増加している。例えば,アタッチメントスタイルは長期間にわたって安定している「特性」であるとみなされているが,原法を改変したアタッチメントスタイルの尺度を用いることによって,現在のアタッチメントの質を30日間毎日測定すると,日ごとに一定の個人内変動が生じること(Fraley et al., 2011),そのような変動には対人関係上の喪失感をもたらすライフイベントが影響を及ぼしていること(Davila & Sargent, 2003)が報告されている。さらに,短時間のプライミング介入であったとしても,安定型のアタッチメントスタイルと密接な関連を持つ状態の自尊感情および親密な他者に関する期待が即時的かつ一時的に変動することが明らかとなっている(中井(松尾),2022)。個人内変動を扱うこれらの知見は,短期間での変動が生じうる「状態」としての側面が,アタッチメントの質に存在することを示唆する。
成人のアタッチメント行動システムのダイナミクスを説明する先述のMikulincer & Shaver(2003)のモデルは,アタッチメントの質を「状態」の視座から捉える際にも有用である。当該モデルによると,我々の中に存在するのは単一のIWMではなく,安心に基づく方略と過活性化方略,不活性化方略それぞれに対応する複数のIWMである。各IWMの慢性的な活性化の程度は,個人が有するアタッチメントの質に関する特性,すなわち,アタッチメントスタイルを規定する。我々は安心感の回復・維持という目標の達成のために,状況に応じた判断を行い,その判断に基づいたアタッチメント行動を行うものの,各IWMの慢性的な活性化の程度は,そのような判断にバイアスをかける。さらに,各IWMの活性化の程度が状況に応じて一時的に変化することで,アタッチメント対象の利用可能性などといった判断やアタッチメント行動に影響が及ぶこともある。例えば,不活性化方略を行いやすい回避型のアタッチメントスタイルを持つ者は,慢性的に活性化している不活性化方略のIWMを有しているが,それと同時に安心に基づく方略および過活性化方略のIWMも有している。そのため,安心に基づく方略のIWMが何らかの理由で一時的に活性化すると,アタッチメント対象が利用可能であると判断しやすくなり,安心感を取り戻すことが容易になる。その結果,通常時とは異なって,不活性化方略を使用しにくくなるとともに,安心に基づく方略のIWMが慢性的に活性化している者と同様の振る舞いを示しやすくなる。実際,我々がそのような複数のIWMを有していること(Baldwin et al., 1996; Rowe & Carnelley, 2003),ならびに,特定のIWMを活性化させることで,当該IWMと一致する振る舞いを示しやすくなること(Gillath et al., 2006; Gillath et al., 2022)は複数の知見によって裏付けられている。
上記のように,アタッチメントの質には状態の側面が存在すると考えられるが,成人のアタッチメント研究で用いられている従来の自記式尺度は,アタッチメントの質に関する特性を測定するものであり,状態の測定という点では限界があった。事実,成人のアタッチメントスタイルを測定する代表的な自記式尺度であるExperience of Close Relationships inventory(以下,ECRとする;Brennan et al., 1998)は,「私はたいてい,自分の問題や心配事を恋人と話し合う(中尾・加藤,2004)」といった項目を用いていた。つまり,ECRなどの従来の自記式尺度は,特定の人間関係における一般的な経験を振り返るよう求めていたことから,測定しているその瞬間のアタッチメントの質の測定には適していなかった。また,先述したFraley et al.(2011)とDavila & Sargent(2003)も,既存のアタッチメントスタイル尺度を状態尺度に改変して用いていたことから,当該尺度の信頼性と妥当性は十分に担保されていなかった。
そこでGillath et al.(2009)は,アタッチメントの安定性と不安定性の感覚に関する一時的な水準(momentary level of the sense of attachment security and insecurity: 以下,アタッチメントの状態安定性・不安定性とする)を測定するState Adult Attachment Measure(以下,SAAMとする)を開発した4。SAAMは,既存のアタッチメントスタイル尺度の項目を参考にしつつ,現在の状態に焦点が当たるようデザインされた尺度である。例えば,ECRの「恋人がとても親しくなりたがると,不快になる」という項目表現を「親友や恋人(あるいは配偶者)に親しくされると,私は心地良くないだろう」に変更したり,各項目の前に「今この瞬間……」という文言を用意したりするなどの修正がSAAMには施されている。つまり,SAAMは,自身の一般的な傾向ではなく,現在の心境に基づいて回答ができるようになっている。そのようなSAAMは,探索的因子分析と確認的因子分析の結果に基づき,安定性・不安・回避という3因子構造であるとみなされている。これらは,Mikulincer & Shaver(2003)のモデルにて採用されている安心に基づく方略・過活性化方略・不活性化方略という3つのIWMの活性化の程度に対応していると考えられている。実際,SAAMは,状態自尊感情やポジティブ情動を高める介入の効果は検出しないが,特定のIWMを活性化または不活性化させる介入の効果は即時的に検出することがGillath et al.(2009)によって確認されている5。さらに,SAAMの得点に関する集団内の順位は,気分状態の得点と同程度に変動しやすいことも彼らは示した。つまり,状態尺度ならではの性質をSAAMが備えていることが示されている。
SAAMのようにアタッチメントの状態安定性・不安定性を測定できる尺度は我が国に存在しない。しかしながら,SAAMはすでに中国語(Ma et al., 2012)と韓国語(Park & Lee, 2012),オランダ語(Bosmans et al., 2014),イタリア語(Trentini et al., 2015),ドイツ語(Stöven & Herzberg, 2021)に翻訳され,それぞれの国において当該構成概念を用いた実証研究が進められている。さらに,アタッチメントの状態安定性・不安定性を捉えることの意義を示す知見も蓄積されてきている。例えば,安心に基づく方略のIWMを活性化させるSecurity Priming(以下,SPとする)と呼ばれる介入は,認知(例えば,認知的開放性や他者に対する信頼感の増幅)・感情(例えば,抑うつ気分や不安の減少)・行動(例えば,援助行動や問題解決行動の促進)に影響を及ぼすことがメタ分析で示されている(Gillath et al., 2022)。このことは,アタッチメントの状態安定性・不安定性が多様な認知・感情・行動に関する個人内変動を説明・予測しうることを示唆する。またSPは,従来の多くの成人のアタッチメント研究が抱えていた方法論上の問題を克服することにも役立ってきた。具体的には,研究協力者を各条件(例えば,SP条件vs統制条件)にランダムに割り当てることで,因果関係の方向を明らかにしたり,未知・既知の交絡要因に対処したりすることを可能にしてきた(Gillath et al., 2022)。このようなSPの効果を測定できる尺度という側面もSAAMは備えている(Gillath et al., 2009)。
以上のことから,SAAMの日本語版(Japanese version of the State Adult Attachment Measure: 以下,J-SAAMとする)を開発することにより,多様な認知・感情・行動に関する個人内変動を,アタッチメント理論に基づいて説明・予測することが可能になると考えられる。また,我が国においてもSPを用いた成人のアタッチメント研究を発展させていくためにはSAAMの日本語版の開発は必要不可欠である。そこで本研究では,J-SAAMを作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。
研究1で行うことは以下の3点である。第1に,SAAMを邦訳し,原版と内容的に等価な尺度を作成する。第2に,Web調査により得られたデータに基づいて,J-SAAMの因子構造と内的整合性を検討する。第3に,アタッチメントスタイルを測定する既存の自記式尺度などを用いることで,J-SAAMの基準関連妥当性を検討する。検討に用いる4つの尺度およびJ-SAAMの各下位尺度との関連性に関する予測を以下に示す。
1つ目の尺度は,アタッチメントスタイルを測定するRelationship Questionnaire(Bartholomew & Horowitz, 1991)日本語版(以下,RQとする;加藤,1998)である。当該尺度によって測定される安定型は「自身は愛と支援を享受するのに値し,他者もまた信頼に値する」という肯定的な自己・他者モデルを反映している(Bartholomew & Horowitz, 1991)。SAAMの安定性も同様の自己・他者モデルを反映していることから,安定型とJ-SAAMの安定性は正の相関を示すと予測した。一方,RQによって測定されるとらわれ型は,他者の応答性に対する信頼の欠如と親密な関係に対する強い欲求を反映している(島,2012)。それに対してSAAMの不安は,他者に対する信頼感の欠如という側面は含んでいないが,アタッチメント行動システムの過活性化のIWM,つまり,親密な人々の近くにいて愛されたいという強烈な欲求は含んでいる(Gillath et al., 2009)。よって,とらわれ型はJ-SAAMの不安と正の相関を示すと予測した。また,否定的な他者モデルを特徴とするRQの拒絶型と恐れ型は,ともにSAAMの回避と正の相関を示すことが確認されている(Gillath et al., 2009)ことから,本研究においても同様の結果が得られると予測した。
2つ目の尺度は,RQと同様にアタッチメントスタイルを測定するExperience of Close Relationship-Relationship Structure-Generalized Other(以下,ECR-RS-GOとする;古村他,2016)である。本尺度には下位尺度として,他者に見捨てられることへの不安を反映した不安と,他者との親密さに心地よさを感じない程度を反映した回避が存在する。このような両変数の特徴は,他者の応答性に対する信頼感や相互依存に対する心地よさなどといった肯定的な自己および他者モデルを包含するSAAMの安定性の特徴(Gillath et al., 2009)と相反する。よって,ECR-RS-GOの不安および回避は,J-SAAMの安定性と負の相関を示すと予測した。また,ECR-RS-GOをはじめとするECR系の心理尺度は,アタッチメントシステムに関する特定の二次的アタッチメント方略の取りやすさを反映している。具体的には,ECR系の不安は過活性化方略,ECR系の回避は不活性化方略の取りやすさと関連していると考えられている(Mikulincer & Shaver, 2016)。ECR-RS-GOの不安とSAAMの不安,ECR-RS-GOの回避とSAAMの回避はそれぞれ,関連性の強い二次的アタッチメント方略が一致している。よって本研究では,ECR-RS-GOの不安はJ-SAAMの不安と,ECR-RS-GOの回避はJ-SAAMの回避と正の相関を示すと予測した。
3つ目の尺度は,状態自尊感情を測定するTwo-Item Self-Esteem scale state version(以下,TISE-stateとする;箕浦・成田,2016)である。アタッチメント理論では,親密な他者から愛され,特別であるとみなされることによって,肯定的な自己認識が形成されると考えられている(Mikulincer & Shaver, 2016)。実際,そのような相互作用を繰り返し経験していると目される安定型のアタッチメントスタイルの人々は,高い特性自尊感情を示すことが分かっている(Gorrese & Ruggieri, 2013)。また,安心に基づく方略のIWMを一時的に活性化させると,状態自尊感情が増幅することも報告されている(中井(松尾),2022)。したがって,状態自尊感情はJ-SAAMの安定性と正の相関を示すと予測した。
4つ目の尺度は,気分状態を測定するPositive and Negative Affect Schedule(Watson et al., 1988)日本語版(以下,PANASとする;佐藤・安田,2001)である。Gillath et al.(2009)の検討では,PANASのポジティブ情動がSAAMの安定性とは正の,回避とは負の相関を示していた。一方,PANASのネガティブ情動はSAAMの安定性とは負の,不安および回避とは正の相関を示すことが確認されている。よって,本研究においても同様の結果が得られると予測した。
方法研究協力者および手続き Lancers社のクラウドソーシングサービスを用いて研究協力者を募集し,Web調査を実施した。調査フォームはHyperText Markup LanguageとCascading Style Sheetsで作成された。Web調査の結果,合計で400名分の回答データが得られた。そのうち,後述するInstructional Manipulation Check(IMC)設問にて不適切回答を行った34名のデータを除外した,366名(男性219名,女性147名,平均年齢41.9歳(SD=8.26))が分析対象となった。
J-SAAM 原著者(Omri Gillath氏)に邦訳について承諾を得た後に,翻訳会社にSAAMの邦訳およびバックトランスレーションを委託した。その後,本研究の第1著者と第2著者による確認と修正を適宜行いながら日本語版およびバックトランスレーション版のSAAMを作成した。SAAMの原著者にバックトランスレーション版のSAAMを確認してもらったところ,いくつかの指摘を受けた。そのため,本研究の第1著者と第2著者,翻訳会社が協議を行って修正を行い,再度原著者に確認を求めた。原著者から承認を得るまで,この流れを繰り返した。最終的に,原著者による承諾の得られたものをJ-SAAMとして研究1のWeb調査および研究2のWeb実験に用いた。項目内容はTable 1に示した。J-SAAMは21項目で構成され,回答形式は7件法(1: 全くあてはまらない,4: どちらともいえない,7: 非常にあてはまる)であった。
Confirmatory factor analysis results and item statistics of J-SAAM in Study 1
Loadings | M | SD | |||
---|---|---|---|---|---|
F1. Security | |||||
4 | 愛されていると感じる | .75 | 4.0 | 1.63 | |
6 | 今,何かうまくいかなくても,誰かを頼ることができると感じる | .84 | 3.9 | 1.60 | |
7 | 他者は私のことを大事にしてくれていると感じる | .83 | 4.2 | 1.45 | |
11 | 今,親しい人たちが寄り添ってくれるのを知っているので,リラックスする | .74 | 3.7 | 1.62 | |
13 | 頼れる人がいると感じる | .88 | 4.2 | 1.68 | |
18 | 他者に安心して親しみを感じる | .73 | 3.8 | 1.50 | |
20 | 自分の親しい人たちは信頼できると感じる | .74 | 4.7 | 1.47 | |
F2. Anxiety | |||||
1 | 誰かに私のことを本当に愛していると言ってもらえたらいいのにと思う | .71 | 3.9 | 1.77 | |
5 | 親しい誰かが今,私と会ってくれたらいいのにと思う | .67 | 3.3 | 1.59 | |
8 | 無条件に愛されることが今,どうしても必要だ | .80 | 3.1 | 1.52 | |
12 | 愛されていると感じることが今,本当に必要だ | .88 | 3.6 | 1.56 | |
14 | 誰かと気持ちを共有したい | .61 | 4.0 | 1.54 | |
17 | 私のことを気にかけてくれる人に,心配事を相談したい | .59 | 3.7 | 1.57 | |
19 | 誰かの情緒的な支えが本当に必要だ | .78 | 3.6 | 1.56 | |
F3. Avoidance | |||||
2 | 親友や恋人(あるいは配偶者)に親しくされると,私は心地良くないだろう | .34 | 2.9 | 1.75 | |
3 | 独りぼっちだと感じるが,他者と親しくしたいとは感じない | .68 | 3.9 | 1.73 | |
9 | 誰かが自分と過剰に親しくしようとするのが怖い | .81 | 3.6 | 1.77 | |
10 | 誰かが自分と親しくなろうとしたら,私は距離を保とうとするだろう | .83 | 4.0 | 1.62 | |
15 | 人から愛されていると感じるが,正直なところ私にはどうでもいい | .40 | 2.9 | 1.37 | |
16 | 誰かと親しい状態を考えると神経質になる | .84 | 3.4 | 1.65 | |
21 | 他者と親しくすることについて複雑な気持ちである | .82 | 3.8 | 1.61 |
RQ アタッチメントスタイルを測定するために,RQ(加藤,1998)を用いた。本尺度は,安定型ととらわれ型,拒絶型,恐れ型という4つのアタッチメントスタイルについて記述された各文章が自身にどの程度あてはまるかを7件法(1: 全くあてはまらない―7: 非常にあてはまる)で尋ねる尺度である。本研究では,各アタッチメントスタイルに関する評定値を分析に用いた。
ECR-RS-GO ECR-RS-GOとは異なるアタッチメントスタイル尺度としてECR-RS-GO(古村他,2016)を用いた。本尺度は9項目で構成され,回答形式は7件法(1: 全くあてはまらない―7: 非常にあてはまる)である。本研究では,不安と回避の下位尺度得点を分析に用いた。
TISE-state 状態自尊感情を測定するために,TISE-state(箕浦・成田,2016)を用いた。本尺度は2項目で構成され,回答形式は5件法(1: あてはまらない―5: あてはまる)である。本研究では,合計得点を分析に用いた。
PANAS 気分状態を測定するために,PANAS(佐藤・安田,2001)を用いた。本尺度は16項目で構成され,回答形式は6件法(1: 全く当てはまらない―6: 非常によく当てはまる)である。本研究では,ポジティブ情動とネガティブ情動の下位尺度得点を分析に用いた。
IMC設問 三浦・小林(2016)が調査3から7において使用したIMC設問を用いた。具体的には,数行にわたる教示文の末尾に「以下の質問には『はい』と回答して次のページに進んでください」と記載しておくとともに,その教示文の下に「はい」,「いいえ」,「わからない」の中から回答する「私は電子メールを使ったことがない」という項目を用意した。Lancers社のアカウント登録を行うためには,電子メールアドレスの入力が必須となる。したがって,すべての研究協力者が電子メールの使用経験を有している。本研究では,教示文を読み飛ばして「いいえ」または「わからない」を選んだ場合を不適切回答とみなした。
倫理的配慮 研究1,2は,環太平洋大学の研究倫理委員会の承認を得て実施された(IPU 倫理21-決008)。すべての研究協力者に,研究の趣旨と回答データの取り扱い,研究協力の任意性,中断が可能であることを説明し,同意が得られた者にのみ研究への協力を求めた。
結果と考察J-SAAMの因子構造の検討 SAAMの原版(Gillath et al., 2009)と同一の3因子構造に因子間相関を仮定した確認的因子分析を行った。その結果,適合度はχ2 (186) =570.72(p<.001),CFI=.91,NNFI=.89,TLI=.90,SRMR=.08,RMSEA=.08であった。この適合度は,SAAMの原版(CFI=.90, RMSEA=.07; Gillath et al., 2009)やイタリア語版(CFI=.92, NNFI=.91, RMSEA=.06; Trentini et al., 2015),ドイツ語版(CFI=.82, TLI=.81, RMSEA=.07; Stöven & Herzberg, 2021)の適合度と同程度であった。また,CFIとNNFIは.90以上,RMSEAは.08未満で許容可能とみなしていたイタリア語版(Trentini et al., 2015)の基準値を概ね満たしていた。そのため,J-SAAMの適合度は研究利用に耐えうるものであると判断して以降の分析を行った。3因子構造における各項目への因子負荷量をTable 1に示した。なお,因子間相関に関しては,安定性が不安と正の相関(r=.17, p=.002)を,回避とは負の相関(r=‒.47, p<.001)を示していたが,不安と回避は無相関(r=.00, p=.990)であった。
J-SAAMの内的整合性の検討 次に内的整合性を確認するためにα係数を算出した。その結果,SAAMの安定性(α=.92)と不安(α=.88),回避(α=.86)いずれもが十分な値を示した。各尺度得点の平均値は,安定性が4.1(SD=1.29),不安が3.6(SD=1.22),回避が4.1(SD=1.20)であった。なお,ECR-RS-GOとTISE-state,PANASのα係数も十分な値(αs=.88―.94)であった6。
J-SAAMの基準関連妥当性の検討 J-SAAMの基準関連妥当性を検証するために,J-SAAMと各尺度間の相関分析を行った。ただし,先述のとおり,J-SAAMには有意な因子間相関が存在したことから,他の下位尺度を統制した偏相関分析も実施した。相関分析の結果は概ね予測と一致するものであり,関連があると予測された尺度間には概ね中程度の相関係数(|rs|>.30)がみられた。また,予測されていない尺度間では概ね相関が弱かった(Table 2)。
Correlations and partial correlations of J-SAAM with other measures in Study 1
RQ | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Secure | Dismissive | Preoccupied | Fearful | ||||||||
Note. r = correlation coefficients,pr = partial correlation coefficients. *p < .05,**p < .01,***p < .001 |
|||||||||||
J-SAAM Security | r | .55 | *** | ‒.30 | *** | ‒.10 | ‒.50 | *** | |||
pr | .47 | *** | ‒.05 | ‒.22 | *** | ‒.35 | *** | ||||
J-SAAM Anxiety | r | ‒.04 | ‒.36 | *** | .51 | *** | .05 | ||||
pr | ‒.17 | *** | ‒.36 | *** | .54 | *** | .18 | *** | |||
J-SAAM Avoidance | r | ‒.41 | *** | .47 | *** | .04 | .61 | *** | |||
pr | ‒.22 | *** | .43 | *** | ‒.03 | .50 | *** | ||||
ECR-RS-GO | TISE-state | PANAS | |||||||||
Anxiety | Avoidance | Positive | Negative | ||||||||
J-SAAM Security | r | ‒.30 | *** | ‒.73 | *** | .64 | *** | .48 | *** | ‒.34 | *** |
pr | ‒.32 | *** | ‒.64 | *** | .59 | *** | .41 | *** | ‒.28 | *** | |
J-SAAM Anxiety | r | .46 | *** | ‒.17 | ** | ‒.01 | .09 | .26 | *** | ||
pr | .57 | *** | ‒.05 | ‒.17 | ** | .00 | .36 | *** | |||
J-SAAM Avoidance | r | .37 | *** | .56 | *** | ‒.38 | *** | ‒.28 | *** | .40 | *** |
pr | .31 | *** | .39 | *** | ‒.13 | * | ‒.08 | .30 | *** |
まず,RQに関しては,予測通り安定型がJ-SAAMの安定性と,とらわれ型がJ-SAAMの不安と,拒絶回避型および恐れ型がJ-SAAMの回避と正の相関および偏相関を示した。一方で,予測はしていなかったものの,恐れ型がJ-SAAMの安定性と負の相関および偏相関を示していた。恐れ型は,他者の受容を過度に求めているが,他者からの拒絶を恐れて親密な関係性を回避するという依存と自律の問題を特徴としている(Bartholomew, 1990)。このような特徴は,肯定的な自己・他者モデルを包含するJ-SAAMの安定性の特徴と相反することから,両者の間には負の関連がみられたと考えられる。
続いて,ECR-RS-GOに関しては,当該尺度の不安・回避が予測と一致してJ-SAAMの安定性と負の相関および偏相関を示した。さらに,ECR-RS-GOの不安はJ-SAAMの不安・回避と,ECR-RS-GOの回避はJ-SAAMの回避と有意な正の相関および偏相関を示しており,本研究の予測と概ね整合する結果が得られたといえる。
TISE-stateに関しては,予測通り当該尺度得点がJ-SAAMの安定性と中程度の正の相関および偏相関を示していた。この結果は,J-SAAMの安定性が肯定的な自己モデルを包含することの証左であろう。
最後に,PANASに関しては,SAAMの原版(Gillath et al., 2009)と同様に,ネガティブ情動が安定性と負の相関を,不安および回避とは正の相関を示していた。また,ポジティブ情動は安定性と正の相関を,回避とは負の相関を示していた。したがって,PANASとの関連に関しても,本研究の予測と概ね整合する結果が得られたといえる。ただし,ポジティブ情動と回避の関連においてのみ,相関分析と偏相関分析の結果に差異がみられた。つまり,相関分析では両者の間に有意な負の関連が示されたが,偏相関分析では有意な関連がみられなかった。ポジティブ情動と密接なかかわりを持つ主観的幸福感を応答変数,SAAMやアタッチメントスタイル尺度の下位尺度を説明変数とする階層的重回帰分析を実施したTrentini et al.(2015)でも,主観的幸福感と回避の間に存在した負の単相関は他変数の投入によって消失していた。そのため,回避とポジティブ情動の間に偽相関がみられたという本研究の結果は,J-SAAMが他言語版と同様の回避を測定していることの証左と考えられる。
研究1では,邦訳されたJ-SAAMの項目内容が原版と等価であることが確認された。また,確認的因子分析および内的整合性の検討により,J-SAAMが3つの下位尺度から構成されること,それらの内的整合性にも問題がないことが確認された。さらに,すべての下位尺度における十分な基準関連妥当性が確認できた。
研究2では,先述のSPによってアタッチメントの安定性・不安定性に即時的変化を引き起こし,その即時的変化に関するJ-SAAMの測定性能を検証した。SPを実施すると,SAAMの安定性の得点が増加し,不安と回避の得点は減少するのに対して,統制条件であるNeutral Priming(以下,NPとする)ではそのような変化がみられないことが示唆されている(Gillath et al., 2009)。よって,J-SAAMがMikulincer & Shaver(2003)のモデルにて採用されている安心に基づく方略・過活性化方略・不活性化方略という3つのIWMの一時的な活性化の程度に対応しているのであれば,本研究においても,SPの実施後にJ-SAAMの安定性が増加するのに対して,不安と回避の得点は減少すると予測した。一方で,各IWMを活性化させないであろうNPの実施後にはそのような変化がみられないと予測した。
方法研究協力者 Lancers社のクラウドソーシングサービスを用いて研究協力者を募集した。その結果,合計で294名分の回答データが得られた。そのうち,後述するIMC設問等において不適切回答がみられた50名のデータを除外した,245名(男性148名,女性97名,平均年齢42.7歳(SD=8.77))が分析対象となった。なお,そのうちの114名がSP条件に,131名がNP条件に無作為に割り付けられた。
J-SAAM 上記の手続きによって邦訳されたSAAMへの回答を求めた。
IMC設問 三浦・小林(2016)が調査1,2において使用したIMC設問を使用した7。具体的には,数行にわたる教示文の末尾に「以下の質問には回答せずに(つまり,どの選択肢もクリックせずに)次のページに進む」と記載しておくとともに,その教示文の下に5件法で回答する3項目を用意しておいた。本研究では,3項目のいずれか1つにでも回答(任意の選択肢をクリック)を行った場合を不適切回答とみなした。
プライミング SPの効果は,複数の課題を組み合わせることで増幅されると考えられている(Ma et al., 2021)。そのため,本研究では2種類のプライミング課題を実施した。また,人物を想起・記述する課題と過去の体験を想起・記述する課題の順序は,研究協力者によってカウンターバランスがなされた。1種類目のプライミング課題は,人物を想起・記述するものであった。まず,呈示された文言(後述)と一致する人物を1名選び,その人物との関係性(例えば,友人・配偶者・隣人)を記述するよう求めた。その後,画面上に表示されたテキストボックスに,その人物に関する情報を5分間でできる限り詳細に記述するよう求めた。具体的には,その人物の外見や性格,その人物と一緒にいるときに感じる気持ちなどを記述するよう求めた。SP条件においては「その人とは親しくて気楽に頼ったり頼られたりすることができる。これからもずっと親しくしていけると思うし,また安心してお互いに何でもうちあけることができる」,NP条件においては「隣人・職場の人・取引相手・配偶者や子どもを通じて知った人などの中で,あまりよく知らなくて,その人のことはめったに考えない」という文言と一致する人物を1名選ぶよう求めた。なお,SP条件の文言は,詫摩・戸田(1988)のType I(secure)に関する文言が修正して用いられた。NP条件の文言やその他の手続きは,Gillath et al.(2009)とRowe & Carnelley(2003)を参考にして作成された。
2種類目のプライミング課題は,過去の体験を想起・記述する課題であった。まず,呈示された文言(後述)と一致する過去の体験を1つ選ぶよう求めた。その後,画面上に表示されたテキストボックスに,その体験に関する情報を5分間でできる限り詳細に記述するよう求めた。具体的には,その体験の背景や概要,その体験で感じたことなどを記述するよう求めた。SP条件においては,「あなたが辛い時や落ち込んでいる時に,親しい人が慰めてくれたり助けてくれたりした体験」,NP条件においては「最近,あなたがスーパーマーケットや食料品店に何かを買いに行かなければならなかった体験」という文言を呈示した8。SP・NP条件の文言や手続きは,Gillath et al.(2010)と Rowe & Carnelley(2003)を参考にして作成された。
手続き 研究協力に対する同意を取得した後に,実験プログラムがアップロードされたURLにPCでアクセスしてもらうことで,Web実験を実施した。実験プログラムはMillisecond社製のInquisit 6によって作成された。IMC設問およびJ-SAAMへの回答を求めた後に,プライミング介入を実施した。その後,J-SAAMおよびデモグラフィック項目への回答を求めた。1度目と2度目それぞれのJ-SAAMの間には,およそ15分の時間が空いていた。1度目と2度目それぞれのJ-SAAMの項目順は研究協力者間でランダマイズされてはいなかったが,1度目と2度目の項目順は異なるものであった。実験の所要時間はおよそ40分であった。なお,先行研究(Gillath et al., 2009; Stöven & Herzberg, 2021)では,SAAMをプライミング介入の後でのみ測定し,介入の種類でSAAMの得点を比較する参加者間計画が採用されていた。しかし,クラウドソーシングを用いたWeb実験では,各研究協力者の実験環境を厳密に統制することが困難であった。そのため本研究では,実験環境による差異が結果に影響を及ぼすことを回避するために,J-SAAMをプライミング介入の前後で測定し,その得点の変化を群ごとで比較検討する混合計画を採用した。
結果と考察内的整合性を確認するためにプライミング課題の前後に測定されたJ-SAAMのα係数をそれぞれ算出した(Table 3)。その結果,プライミング課題前の安定性はα=.92,不安はα=.88,回避はα=.83であった。一方,プライミング課題後の安定性はα=.94,不安はα=.91,回避はα=.90であった。
Effects of priming condition on J-SAAM scores in Study 2
J-SAAM Security | J-SAAM Anxiety | J-SAAM Avoidance | |||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Before prime | After prime | Before prime | After prime | Before prime | After prime | ||||||||||||||||||
α | M | SD | α | M | SD | α | M | SD | α | M | SD | α | M | SD | α | M | SD | ||||||
Note. SP = Security Priming,NP = Neutral Priming. | |||||||||||||||||||||||
SP | .92 | 4.2 | 1.28 | .94 | 4.8 | 1.21 | .88 | 3.7 | 1.25 | .91 | 4.0 | 1.24 | .83 | 3.4 | 1.09 | .90 | 3.1 | 1.19 | |||||
NP | 4.1 | 1.15 | 4.3 | 1.21 | 3.7 | 1.11 | 3.6 | 1.21 | 3.4 | 1.02 | 3.3 | 1.16 |
プライミング課題 まず,人物を想起・記述するプライミング課題において,想起・記述された人物の関係性をSP条件とNP条件それぞれで確認した。その結果,SP条件において頻出したのは友人(n=64)と配偶者(n=16),同僚(n=6)であった。それに対して,NP条件で頻出したのは隣人(n=35)と同僚(n=29),友人(n=21)であった。
プライミング課題による妥当性の検討 続いて,2種類のプライミング課題において記述された文字数を,SP条件・NP条件別に算出した。その結果,人物を想起・記述する課題においては,SP条件(M=167.8, SD=77.00)とNP条件(M=171.9, SD=76.20)の間で平均文字数に有意な差はみられなかった(t (237.64) =0.42, p=.678, d=0.05)。同様に過去の体験を想起・記述する課題においても両条件の平均文字数に有意差はみられなかった(SP条件: M=176.4, SD=78.46; NP条件: M=191.5, SD=85.42; t (242.28) =1.44, p=.150, d=0.18)。よって,次節で述べる条件間の差異に文字数の効果は交絡していなかったと考えられる。
最後に,条件(参加者間要因:SP条件・NP条件)と時点(参加者内要因:介入前・介入後),J-SAAM(参加者内要因:安定性・不安・回避)を要因とする三要因分散分析を実施した(条件・時点・J-SAAMの下位尺度ごとの平均値とSDはTable 3に示した)。その結果,条件×時点×J-SAAMの二次の交互作用が有意であった(F (1.80, 436.57) =18.54, p<.001, ηp2=.07)。そこで,J-SAAMの下位尺度別に条件×時点の単純交互作用の検定を行った結果,いずれの下位尺度においても条件×時点の単純交互作用が有意であった(Fs (1, 243) =9.01―26.18, ps=.003―.000, ηp2s=.04―.10)。また,時点の単純・単純主効果が,SP条件の安定性・不安・回避(Fs (1, 113) =26.71―69.97, ps=.000, ηp2s=.19―.38),NP条件の安定性(F (1, 130) =20.80, p<.001, ηp2s=.14)で有意であった。つまり,SP条件においては,介入後の安定性および不安の得点が介入前と比して有意に高かったのに対して,介入後の回避の得点は有意に低かった。一方,NP条件においては,介入後の安定性の得点が介入前と比して有意に高かった。なお,J-SAAMのすべての下位尺度において,時点ではなく,条件の単純・単純主効果も追加で検討したところ,介入後の安定性(F (1, 243) =9.10, p=.002, ηp2=.04)と不安(F (1, 243) =4.94, p=.027, ηp2s=.02)において,条件の効果が有意であった。つまり,プライミング介入前には両条件の安定性と不安の得点に有意差がなかったが,プライミング介入後はSP条件の安定性と不安の得点がNP条件よりも有意に高かった。
以上のように,SP条件において安定性が増加し,回避が減少した点は,予測と一致していた。また,NP条件において安定性が増加したという点では予測と一致していなかったが,プライミング介入後の安定性の得点はSP条件の方が有意に高かった。よって安定性は,両条件におけるアタッチメントの状態安定性の差異を十分に検出できていたと考えられる。
一方,SPによる不安の低下が示されていた先行研究(Gillath et al., 2009)および本研究の予測とは異なって,本研究の結果ではSP条件の不安がプライミング介入後に有意に増加していた。SAAMの不安は,過活性化方略のIWM,つまり親密な他者から愛されることを願う強烈な近接性希求を反映していると考えられている(Gillath et al., 2009)。しかし,他者と親密な関係を構築・維持したいという欲求自体は,人間に生得的に備わっているものであり(Deci & Ryan, 2000),過活性化方略のIWMに特異的なものではない。さらに,SPによって安心に基づく方略のIWMが活性化すると,近接性希求が高まることが分かっている(Gillath et al., 2006)。SPによって高まる近接性希求は,過活性化方略のIWMに基づく近接性希求とは強さや質が異なると考えられる。だが,J-SAAMの不安は両者を弁別せずに測定しているのかもしれない。実際,SAAMの原版(Gillath et al., 2009)では,安定性と不安が無相関または負の相関(rs=‒.28―.02)であったのに対して,本研究においては有意な正の相関であった。つまり,J-SAAMの不安が弁別的妥当性において問題を抱えているがゆえに,SPによって高まった近接性希求が当該得点の増加として表れた可能性がある。ただし,本研究では,先行研究(Gillath et al., 2009; Stöven & Herzberg, 2021)とは異なり,J-SAAMをプライミング介入の後だけでなく,前後で測定していたことから,実験デザインの差異が関与していた可能性は留意すべきであろう。
本研究の目的は,J-SAAMを作成し,その信頼性と妥当性を確認することであった。研究1,2に基づき,J-SAAMは構造的妥当性・内的整合性・基準関連妥当性に大きな問題がないことが確認された。
ただし,本研究知見の解釈にあたっては,本研究におけるIWMの位置づけについて留意する必要がある。本研究では,Mikulincer & Shaver(2003)のモデルに基づき,安心に基づく方略と過活性化方略,不活性化方略という3つのIWMの存在を仮定するとともに,各IWMの慢性的な活性化の程度をアタッチメントスタイルとみなして議論を行った。しかしながら,IWMの定義や種類,機能といった位置づけに関しては,研究者間でもコンセンサスが得られておらず(Thompson et al., 2022),アタッチメントスタイルとの異同も明確になっていないように思われる9。そのため,本研究におけるIWMの位置づけは,他の研究と必ずしも一致しているわけではない。ひいては,本研究で得られた知見と他の研究知見を安易に同じ土俵に乗せて解釈すべきではないといえる(遠藤,2021)。
また,本研究には以下の2つの限界が存在する。第1に,J-SAAMの不安の得点がSPによって増加していた点が挙げられる。当該下位尺度が,過活性化方略のIWMの活性化の程度を十分に測定できているのかについては,さらなる検討が必要であろう。第2に,プライミング介入の効果を測定するために,J-SAAMを短時間に1度回答するよう研究協力者に求めた点が挙げられる。1度目の回答を覚えていたり,実験者の意図を汲んで2度目の回答を行ったりしていた研究協力者がいた可能性は否定できない。そのため,研究2にてNP条件の安定性・SP条件の不安それぞれが増加したのは,研究2の実験デザインによって生じたそのような問題が原因かもしれない。よって,プライミング介入の後でのみJ-SAAMの測定を行った場合でも,本研究と同様の結果が得られるのかどうかを確認する必要がある。
上記のような留意点および限界がありながらも,アタッチメントの状態安定性・不安定の定量化を我が国でも可能にしたことは本研究の意義である。本研究を糸口に,アタッチメントの個人間変動だけでなく,個人内変動に関する研究も,今後我が国において発展することが期待される。
開示すべき利益相反関連事項はない。
本研究はJSPS科研費21K20310の助成を受けて実施された。
2本研究は,第63回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(2022)と日本心理学会第86回大会(2022),日本パーソナリティ心理学会第32回大会(2022)で発表したデータを再分析したものである。
3研究1・2のサンプルの詳細なデモグラフィック情報とSAAMの原版の項目(英語表記)が併記されたJ-SAAMの確認的因子分析の結果,J-SAAMの性別ごとの平均得点,J-SAAMの質問票の例を,J-STAGEの電子付録に記載した。
4ECRは恋人に対するアタッチメントスタイルを測定する尺度である。それに対して,SAAMは恋人がいない者でも回答できるよう,一般他者に対するアタッチメントスタイルを測定する尺度となっている。
5Baumert et al(2017)は,状態を「特定の時点において,首尾一貫した行動・思考・感情の程度/範囲/レベルを記述する量的次元」と定義している。また,状態は特性とは異なり,短期間で変化するとも述べている。SPなどのプライミング介入を行うと,特定のIWMが即時的に活性化し,当該IWMと一致する認知・感情・行動が生じると想定されている(例えば,Gillath et al., 2022)。そのため,プライミング介入によって生じるIWMの一時的な活性化も,状態の変化とみなすことが可能である。
6箕浦・成田(2016)は,2項目で構成されるTISE-stateの信頼性係数として,Cronbachのαだけでなく,Spearman‒Brownのρも算出していた。そのため,本研究においてもTISE-stateのρを算出した結果,十分な値(.88)が得られた。
7研究2の実験には,計10分の自由記述課題が含まれていたことから,ほぼリッカート尺度のみで構成されていた研究1の調査と比して研究協力者の負担が大きく,努力の最小限化(Satisfice)が生じやすくなっていると考えられた。そのため研究2では,より誠実に実験に取り組んだ者が判別できるよう, 研究1で用いたIMC設問よりも多くの違反者が検出されやすいIMC設問を用いた。
8SP条件の人々は,2種類のプライミング課題において同一人物を立て続けに想起・記述している可能性があったが,本研究では実際にそうであったのかどうかを研究協力者に確認していなかった。しかし,2種類のプライミング課題で同一人物を立て続けに想起・記述する場合としない場合のどちらにおいても,安心に基づく方略のIWMを活性化させているという点では相違がなかった。またそもそもSPは,当該IWMを活性化させるプライミング全般を含む用語である。そのため,安心と関係する単語(例えば,愛・抱擁・愛情・サポート)や画像刺激(例えば,母親が子どもを抱きしめているもの)を呈示したり,アタッチメント対象のことや安心感を抱いた個人的体験を想起してもらったりするなど,SPには多様な手続きが存在する。さらに,いずれの手続きでも同様の効果を有することがメタ分析で確認されている(Gillath et al., 2022)。したがって,2種類のプライミング課題で想起・記述した人物が同一であるのか否かに関係なく,本研究のSPはアタッチメントの状態安定性・不安定性に影響を及ぼしたと考えられる。
9実際,Gillath et al.(2009)においても,IWMとアタッチメントスタイルはしばしば同列に扱われている。