心理学研究
Online ISSN : 1884-1082
Print ISSN : 0021-5236
ISSN-L : 0021-5236
外国語副作用の生起に対する語彙アクセスと統語解析の影響の比較1, 2
文 昕然平見 真希人藤木 大介
著者情報
ジャーナル フリー HTML 早期公開
電子付録

論文ID: 96.23330

詳細
Translated Abstract

Using a foreign language is known to temporarily reduce the ability to think, due to the cognitive resources lost to language processing. This is called the foreign language side effect. Previous studies have shown that similarity of the structure in the foreign language used to that of the native language is associated with a smaller foreign language side effect. However, what defines a similar structure has not been clarified. This study examined whether the occurrence of foreign language side effects is due to syntactic analysis or lexical retrieval. Using a dual-task method to compare the degree of foreign language side effects between Japanese and English use among Chinese students demonstrated that the influence of lexical retrieval was larger than that of syntactic analysis.

人間の情報処理能力には限界があり,2つ以上の複雑な情報処理を並行して行うと,1つ1つの処理の遂行能力が低下する。例えば,日常的な場面では,人の話を聞きながら考えたり,考えながら話したりするように,言語処理と思考とを並行して進めることが求められる。このような状況では,使用する言語が母語であれば,思考能力の低下は比較的小さいが,使用する言語が慣れない外国語の場合には,言語処理に要する認知的負荷が大きいため,思考能力の低下が相対的に大きくなる(高野他,2003)。

このような外国語使用時に伴う思考能力の一時的な低下を外国語副作用(foreign language side effect)と呼ぶ(Takano & Yagyu, 2021)。Takano & Noda(1993)は外国語副作用と外国語使用の困難さを区別するため,思考課題と言語課題を並行して行う二重課題法による実験を行った。思考課題は外国語副作用の大きさを測る指標で非言語的な空間推理の課題であり,言語課題は言語処理に認知資源を使わせるためのもので音声呈示される短い文の正誤判断課題であった。実験の結果,言語課題を母語で行った場合に比べて,外国語で行った場合に言語処理と思考の間の相互的な干渉(干渉率interference rate)が大きくなった。これは外国語使用時のパフォーマンスの低下が,外国語使用の困難さだけでは説明できないことを示している。

外国語副作用の大きさはどのような要因によって影響を受けるのだろうか。言語転移仮説(language transfer hypothesis; Fathman, 1975; Hakuta, 1976; Zehler, 1982)によれば,2つの外国語を同じ時間勉強したとしても,母語と似た構造を持つ外国語のほうが熟達しやすいとされる。この仮説に基づき,Takano & Noda(1995)は,母語と似た構造を持つ外国語を使用する時ほど,外国語副作用が小さくなるという言語類似仮説(linguistic similarity hypothesis)を提案し,検証した。具体的には,英語を外国語とした場合のドイツ語話者と日本語話者とを比較した実験や,日本語を外国語とした場合の韓国語話者と英語話者とを比較した実験を行った。前者の実験では,ドイツ語は英語と同じインドヨーロッパ語族のゲルマン語派に属し日本語よりも近いとした。実際ドイツ語は英語と同様SVO(主語+述語+目的語)言語であり,また,アルファベット表記で語源を一にする単語も多く,文法や語順,文字や語彙も共通点が多い。一方,日本語はSOV(主語+目的語+述語)言語であり,漢字表記と仮名表記であり,一部の外来語を除いて共通する語彙は少なく,文法や語順,文字や語彙も異なる。結果は予測通りドイツ語を母語とする方が日本語を母語とするよりも外国語副作用が小さくなるというものであった。また後者の実験では,韓国語は日本語と同じアルタイ語族であり,英語よりも近いとした。実際韓国語は日本語と同様SOV言語である。ただ,韓国語はハングル表記であり,文法や語順は近いが,文字は異なる。結果は予測通り韓国語を母語とする方が英語を母語とするよりも外国語副作用が小さくなるというものであった。これらの2つの実験のうち,特に後者の実験の結果から,文法や語順の類似度の違いは外国語副作用の多寡に影響すると言える。しかしながら,表記や語彙の違いも影響するのか,また,これらのうちいずれがより大きく影響するのかといったことが不明である。言語を理解する過程には,入力された語の統語範疇(おおよそ品詞に当たる)に関する情報に基づき文の統語構造を構築する処理(統語解析)と,語の意味情報等にアクセス(語彙アクセス)し,文全体の意味表象を構築する処理との大きく2つの処理が含まれる。外国語使用時の思考力への影響を検討する上では,統語解析と語彙アクセスのいずれが外国語副作用に大きく影響するか明らかにする必要がある。そこで本研究では,在日中国人留学生に対して英語使用時と日本語使用時の外国語副作用の大きさを比較する。

中国語と日本語の共通点は,漢字表記を使用することであり,表記が同一で意味も類似している語が多いことである。一方,中国語と日本語の相違点は,文法と語順が違うことである。中国語の語順はSVOであるが,日本語はSOVである。これに対し,中国語と英語の共通点は,語順が似ていることである。いずれの語順もSVOである。一方,中国語と英語の相違点は,文字の表記と語彙である。漢字は体系的な表語文字であるが,英語はアルファベット文字を用い,音声を媒介として意味を伝える表音文字である。

これらをまとめると,統語解析においては中国語と英語の類似度が高く,語彙アクセスにおいては中国語と日本語の類似度が高いと言える。中国語話者にとって,日本語使用時の外国語副作用のほうが大きいなら,統語解析からの影響のほうが大きいと言え,英語使用時の外国語副作用のほうが大きいなら,語彙アクセスからの影響のほうが大きいと言える。

実験1

在日中国人留学生の日本語と英語の外国語副作用の大きさを比較することで,統語解析と語彙アクセスのどちらが外国語副作用の生起に起因するのかを検討する。

方法

参加者 日本の国立大学に在籍している中国人留学生24名(平均年齢24.4歳)であった。参加者はすべて日本語能力試験N1に合格した者であった。また,英語力に関しては,CEFR(ヨーロッパで作成された外国語学習者の英語力習熟度レベルを示すガイドライン)により,C1レベル(TOEIC 945点以上,TOEFL 95点以上)2人,B2レベル(TOEIC 785―944点,TOEFL 72―94点)7人,B1レベル(TOEIC 550―784点,TOEFL 42―71点)12人,A2レベル(TOEIC 225―549点)3人であった。

材料 3つの言語課題(A版,B版,C版)と4つの思考課題を用意した。言語課題も思考課題も難易度が同程度の異なる問題であった。また,3つの言語課題を中国語版,日本語版と英語版に翻訳して用いた。

言語課題は,中国語話者を対象に外国語副作用を検討した楊・井上(2017)に基づき,文の真偽を判断する問題10問と質問に選択肢から答える問題5問の計15問で構成した。質問文は著者が作成し,問題の等質性及び難易度は認知心理学,言語心理学を専門とする大学教員が確認した。文の真偽を判断する文は,例えば「桜は春の花です。」のような文で,「はい」または「いいえ」で答える形式であった。選択肢から答える問題は,例えば「以下の3つの国の面積を大きい順で言ってください。アメリカ,ロシア,中国」のような質問に答える形式であった。言語課題の質問文は標準的な発音を確保するために,各言語のネイティブスピーカーのものを録音した。各文は10秒おきに再生され,全体で2分40秒となるようにした。

思考課題は2桁の2つの整数の加減法の計算式を羅列した問題シートを用いた。

手続き 外国語副作用と外国語使用の困難さを区別するため,Takano & Noda(1993)に基づき,視覚呈示による思考課題(主課題)と音声呈示による言語課題(副課題)を並行して行う二重課題法による個別実験を行った。

各参加者に(a)言語課題を行わずに思考課題のみを行う統制条件,(b)母語の言語課題(質問を母語で提示する)と思考課題を行う中国語条件,(c)日本語の言語課題(質問を日本語で提示する)と思考課題を行う日本語条件,(d)英語の言語課題(質問を英語で提示する)と思考課題を行う英語条件の4条件を実施した。4条件の実施順序,および材料の組み合わせは参加者間でカウンターバランスをとった。

実験は,実験の概要説明,練習試行,本試行,情報収集という流れで実施された。

まず実験の概要説明として,実験の流れ,実験の構成,実験内容,実験の手続きと注意事項からなる中国語で書かれた「実験に関する説明」を配布した。参加者に3分程度でこの「実験に関する説明」を読んでもらった後,実験者は再度中国語で参加者に実験手続きを説明した。また,実験実施にあたり個人情報の取り扱いについては法令等を遵守することも説明した。最後に,自らの意思により実験に参加する旨を確認した。

次に,練習試行を実施した。練習試行は二重課題で,言語課題は中国語の問題であった。練習試行の問題は本試行の問題と異なるものであった。練習試行の様子からフィードバックを与え,実験手続きについて参加者が十分に理解できるようにした。開始から10秒後に課題が音声呈示され,その後10秒ごとに5つの課題が呈示された。したがって,練習課題は1分間であった。

その後,本試行を実施した。二重課題では,中国語,日本語,英語の3条件いずれにおいても,中国語で「はじめ」という合図を出し,10秒後,言語課題の1問目を音声呈示した。参加者は口頭で言語課題に回答しながら同時に思考課題に取り組んだ。ただし,言語課題の問題は10秒間隔で呈示されたので,次の言語課題の問題が出るまで思考課題に専念できた。言語課題を聞いたり答えたりしながらも思考課題への取り組みをなるべく中断せず続けるように指示した。15問の言語課題が呈示された後,中国語での「やめ」という合図で,思考課題と言語課題を同時に終了した。この一連の試行はそれぞれ2分40秒であった。

言語課題に関しては,参加者は音声呈示される各文を聞き取り,その文の内容を常識に照らし合わせて口頭で回答した。その回答はICレコーダーと実験者のメモによって記録された。問題を呈示した言語にかかわらず,回答は日本語,英語または中国語のいずれでも良いものとした。言語課題の答え,あるいは質問自体の意味が分からない場合は口頭で「わからない」と回答するように指示した。

思考課題に関しては,参加者は速く,正確に暗算することが求められた。答えは計算式の等号の後ろに記入した。

統制条件では言語課題を行わずに思考課題のみ行った。参加者は「はじめ」の合図で計算を開始し,「やめ」の合図と同時に計算を終了した。参加者は回答時間の中で,できるだけ多くの問題に正確に回答することが求められた。したがって,統制条件での正答数は参加者の本来の計算能力を表す。制限時間は2分40秒であった。

最後に,参加者の語学力に関する情報収集を行った。参加者にTOEICまたはTOEFLと日本語能力試験N1の得点を尋ねた。実験は全体を通して20分程度であった。

なお,倫理的配慮として,手続きに参加者に過度な負担を強いる過程が含まれないことをゼミを通じて複数人で確認した。

結果

思考課題と言語課題の正答数をTable 1に示した。条件ごとの平均正答数を確認したところ,思考課題の成績は統制条件,中国語条件,日本語条件,英語条件の順に低下することが見て取れる。そこで,中国語条件,日本語条件と英語条件においてどれだけ思考課題の成績が低下したかを確認するため干渉率を求めた。Takano & Noda(1993)に基づき,言語処理と思考の間に生じる干渉率(I)を以下の式で算出した。

Table 1

思考課題と言語課題の正答数,誤答数(SD

思考課題 言語課題
条件 わからない
統制条件 53.4 2.0
(13.9) (2.0)
中国語 31.8 2.0 13.4 1.1 0.5
(10.6) (2.1) (1.3) (0.9) (0.8)
日本語 26.5 1.4 10.2 2.8 2.4
(7.4) (2.4) (2.4) (1.8) (2.3)
英語 21.8 1.8 8.3 4.0 2.6
(8.6) (1.6) (2.7) (2.4) (2.9)

I = (S−D) /S×100 (%) (1)

Sは統制条件での思考課題の正答数,Dは母語または外国語の条件での思考課題の正答数である。この式を用いて算出した干渉率の平均は,中国語条件で40.8%(SD=12.5),日本語条件で49.0%(SD=13.5),英語条件で58.7%(SD=12.4)であった。これらに差があるかを検討するため,言語条件(中国語,日本語,英語)を独立変数,言語課題の成績を各言語の能力と見なして共変量とし,干渉率を従属変数とする線形混合モデルによる参加者内1要因計画の共分散分析を行った結果,有意な差が認められた(F (2, 46.8) =4.65, p=.014, ηp2=.516)。そこで,多重比較(Bonferroni法)を行ったところ,中国語と英語との間,および日本語と英語との間に有意な差が認められた。中国語や日本語と比べ英語の干渉率が大きいと言える。

なお,本実験の参加者の日本語能力は高く,資料にもよるがCEFRでC1,B2に相当するとされ(例えば,Center for Language Education and Research Sophia University, 2018),相対的に英語能力が低いために英語条件での干渉率が大きくなったとも考えられる。そこで,英語のCEFRで参加者をC1,B2の群とB2,A1の群に分け,言語条件毎の干渉率(SD)を求めたところ,C1,B2では中国語条件で44.6%(14.7),日本語条件で56.6%(11.8),英語条件で59.7%(10.0),B2,A1では中国語条件で38.5%(10.9),日本語条件で44.5%(12.6),英語条件で58.2%(14.0)となった。そこでCEFRの群と言語条件を独立変数とし,干渉率を従属変数とする2要因混合計画の分散分析を行ったところ,言語条件の主効果のみが有意(F (2, 44) =22.6, p<.001, ηp2=.507)で,CEFR(F (1, 22) =2.32, p=.142, ηp2=.095),及びこれらの交互作用(F (2, 44) =2.15, p=.128, ηp2=.089)は有意ではなかった。したがって,参加者の英語能力が干渉率に影響しているとは言えない。

考察

実験1では中国人留学生の日本語と英語の干渉率を検討した。その結果,英語の外国語副作用の方が大きく,外国語副作用は統語解析よりも語彙アクセスからの影響が大きいことが示唆された。

しかし,実験1には2つの点で改善の余地がある。1つ目は,言語課題が簡単な短文で構成されていたことである。より統語的に難しい文であれば統語解析からの影響が強く生じる可能性がある。2つ目は,言語課題の取り組みが聴解であったことである。実験1はTakano & Noda(1993)にならい聴解としたが,中国語と日本語の共通点は類似の語彙を有するだけでなく,どちらも漢字表記を使用するということを踏まえると,表記の類似性は,聴解ではメリットにならない。そこで,以上の2点を改善し実験2を行った。

実験2

実験1で課題として残った検討不十分な点を改善した検討を行った。1つ目の,言語課題からの統語解析的な負荷が小さかった可能性があることに対応するため,実験2では,短文ではなくPISAの読解力テストの文章を用いた。2つ目の,中国語と日本語の共通点が漢字表記を使用することであるにもかかわらず言語課題が聴解であったことに対応するため,実験2では,読解で言語課題を行いながら聴解で思考課題を行うように変更した。

方法

参加者 日本の国立大学に在籍している中国人留学生48名(平均年齢23.8歳)であった。中国語群,日本語群と英語群にランダムに16名ずつ割り振られた。参加者は全員日本語能力試験N1に合格した者であった。また,英語に関しては,CEFRにより,C1レベル(TOEIC 945点以上,TOEFL 95点以上)1人,B2レベル(TOEIC 785―944点,TOEFL 72―94点)28人,B1レベル(TOEIC 550―784点,TOEFL 42―71点)18人,A2レベル(TOEIC 225―549点)1人であった。

材料 3つの言語課題と2つの思考課題であった。2つの思考課題は難易度が同程度の異なる問題であった。

言語課題は,中国語版,日本語版,および英語版の2018年のPISA読解力テスト(Cow's Milk)を紙に印刷したものであった。二者択一問題8問と質問に選択肢から答える問題3問,記述問題2問の計13問で構成された。

思考課題は,2桁の2つの整数の加減法の計算式40問とした。計算式はすべてネイティブスピーカーが中国語で録音し,再生機器により15秒ごとに音声呈示された。全体で10分10秒になるようにした。

手続き 外国語副作用と外国語使用の困難さを区別するため,音声呈示による思考課題(主課題)と視覚呈示による言語課題(副課題)を並行して行う二重課題法による個別実験を行った。各参加者に(a)言語課題を行わずに思考課題のみを行う統制条件,(b)各言語群の言語課題と思考課題を同時に行う二重課題条件の2条件を実施した。2条件の実施順序は参加者間でカウンターバランスをとった。

実験の流れは,実験の概要説明,練習試行,本試行,情報収集という流れであった。このうち,実験の概要説明と情報収集は実験1と同様であった。

練習試行は二重課題であった。中国語群の言語課題は中国語の問題,日本語群の言語課題は日本語の問題,英語群の言語課題は英語の問題とした。練習試行の問題は本試行と同等のものとして,2018年のPISA読解力テスト(Chicken Forum)を用いた。練習試行の様子からフィードバックを与え,実験手続きについて参加者が十分に理解できるようにした。練習試行には3分30秒割り当てた。

本試行は中国語,日本語,英語3条件の二重課題と統制条件であった。各条件の二重課題では,中国語の「はじめ」という合図で読解テストを始めた。その10秒後,計算問題の1問目を音声呈示した。参加者は口頭で計算問題に回答しつつ読解問題にも取り組んだ。40問の計算問題が呈示された後,中国語の「やめ」という合図と共に計算問題と読解問題を同時に終了した。参加者は計算問題に答えながらも読解問題をなるべく中断せず続けることが求められた。統制条件では各言語条件と同様に,計算問題が音声呈示され,参加者は口頭で回答した。

言語課題に関しては,参加者は文章を読んで答えをシートに記入した。各問題の回答時間に制限は設けられなかったが,全体の制限時間は10分10秒であった。参加者は読解問題にできるだけ多く,正確に回答することが求められた。

思考課題に関しては,中国語で計算式を音声提示され,参加者は口頭で回答した。その回答はICレコーダーと実験者によるメモによって記録された。問題式を聞き取れなかったり,次の問題が出るまで答えられなかった問題はすべて誤りと見なした。実験は全体を通して25分程度であった。

なお,倫理的配慮として,手続きに参加者に過度な負担を強いる過程が含まれないことを,ゼミを通じて複数人で確認した。

結果と考察

思考課題と言語課題の正答数をTable 2に示した。なお,言語課題中の記述問題は複数正答の候補があるが,そのうちの1つを記述できれば正答したとみなした。条件ごとの平均正答数を比較したところ,思考課題の正答数は実験1と同様に,統制条件,中国語条件,日本語条件,英語条件の順に低下することが見て取れる。そこで,中国語条件,日本語条件と英語条件においてどれだけ思考課題の成績が低下したかを確認するため干渉率を求めた。中国語条件での平均干渉率は10.9%(SD=10.8),日本語条件での平均干渉率は12.7%(SD=11.3),英語条件での平均干渉率は36.1%(SD=17.8)であった。これらに差があるのかを検討するため,言語条件(中国語,日本語,英語)を独立変数,言語課題の成績を共変量,干渉率を従属変数とする参加者間1要因計画の共分散分析を行ったところ,有意な差が認められた(F (2, 44) =7.46, p=.002, ηp2=.253)。そこで,多重比較(Bonferroni法)を行ったところ,日本語条件と英語条件の間に,英語条件と中国語条件の間に有意な差が認められ,中国語条件と日本語条件の間に有意な差は見られなかった。実験1と同様に,英語条件の干渉率の方が有意に大きいことが確認された。このことから,外国語副作用の生起において統語解析より語彙アクセスからの影響が大きいと言える。

Table 2

思考課題と言語課題の正答数,誤答数(SD

条件 思考課題 言語課題
得点
統制条件 36.2 3.8
(2.8) (2.8)
中国語 33.1 6.9 11.5
(5.8) (5.8) (2.9)
日本語 31.7 8.3 10.4
(5.1) (5.1) (2.4)
英語 22.8 17.3 7.4
(7.3) (7.3) (3.2)

なお,実験1と同様,英語のCEFRで参加者をC1,B2の群とB2,A1の群に分け,言語条件毎の干渉率(SD)を求めたところ,C1,B2では中国語条件で9.61%(8.61),日本語条件で16.1%(11.4),英語条件で38.4%(12.6),B2,A1では中国語条件で12.5%(13.7),日本語条件で5.24%(6.97),英語条件で33.1%(23.7)となった。そこでCEFRの群と言語条件を独立変数とし,干渉率を従属変数とする被験者間2要因計画の分散分析を行ったところ,言語条件の主効果のみが有意(F (2, 42) =17.0, p<.001, ηp2=.447)で,CEFR(F (1, 42) =1.18, p=.284, ηp2=.027),及びこれらの交互作用(F (2, 42) =0.95, p=.397, ηp2=.043)は有意ではなかった。したがって,参加者の英語能力が干渉率に影響しているとは言えない。

まとめと今後の課題

以上より,本研究は先行研究で明らかにされていなかった外国語副作用はどのような処理の負荷によって生起するかを明らかにした。Takano & Noda(1995)は母語と似た構造を持つ外国語を使用するほど,外国語副作用が小さくなるという言語類似仮説を提唱したが,本研究に基づくと,言語類似仮説の中の「母語と似た構造」とは語彙アクセスのことを指すことが明らかになった。

ただし,語彙アクセスには,性質の異なる複数の処理,例えば,音韻処理,意味処理などを含む総合的な言語処理が必要である。そのため,それらの処理のどの部分が外国語副作用の生起に関連しているのかは不明であり,更なる検討が必要である。

また,本研究では思考課題として計算課題を用いたが,これは人の思考のごく限られた側面を反映したものと言える。例えば非言語性の思考等も影響を受けるのか等検討する必要があるだろう。同様に,これまで外国語副作用に関する研究では主として実験1で用いたような内容理解に基づいて真偽判断をするといった課題が用いられてきたが,一般的な言語使用時と比較するとこれもごく限られた部分を取り出したものだと言える。外国語使用時の思考力を検討する上では,より多様な状況下での検討が今後求められる。一方,実験2ではPISAの読解力テストを用いたが,この課題は言語能力のみではなく,思考力も求められる課題と言える。これは多様な統語解析が求められる課題として用いたが,より統制された条件下での知見を得るためには,言語間で比較可能な形で多様な文構造を含むように真偽判断用の材料文を準備する等の工夫をした実験を追加することが望ましいだろう。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

1

本論文は第1著者が2021年度に広島大学大学院人間社会科学研究科へ提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである。

2

本研究の実験1で用いた言語課題は,J-STAGEの電子付録に記載した。

References
 
© 2025 公益社団法人 日本心理学会
feedback
Top