Traditional print advertisements, as well as television and video ads, consist of a headline, images, body text, and brand elements. Although the headline conveys the main message of the ad, it is occasionally accompanied by disclaimers such as "Applies to premium members only." Fine print that is unclear due to small font sizes constitutes an unfair representation and is potentially disadvantageous to consumers. We examined the effects of disclaimer font size on recall and recognition memory and on eye gaze in two video ads about formal suits and smartphone services. The dwell time on the fine print increased as font size was increased from 30 to 55 or 80 pt, but only for one type of ad. The improvements in memory performance were small or negligible and specific to one ad. Importantly, > 80% and 50% of the participants failed to recall and recognize the fine print, respectively. These results suggest that increasing font size has limited ability to improve memory for terms conveyed to customers in fine print.
地上波テレビやインターネット広告では,テレビCMなどの動画広告が主流である。動画広告とは,事業者が映像を通して視聴者に商品の利点の訴求やブランディング,購買への誘導を行う広告である。テレビCMなどの動画広告は,短い時間(一般的には15秒,または,30秒)の中で,文字や音声などの視覚的・聴覚的言語情報,そして,人やモノなど商品やサービスのイメージを形成させるための情報が含まれる。例えば,文字情報には,事業者による商品やサービスの訴求ポイントである,いわゆる強調表示が主に含まれる。この強調表示には,「通常価格から30%割引」のように,他商品よりも魅力的である取引内容などが含まれている。これに対して,例えば「30%割引は会員限定」のように,強調表示に付随する条件等が存在する場合がある。そのような条件等の記載を打消し表示という。
打ち消し表示は,消費者の消費選択に大きく影響するため,適切な方法で誤解のないように伝えなければならない。消費者が誤認するような事態が生じた場合,不当表示となり,不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に抵触し,違反行為となる可能性がある(消費者庁,2017)。そして,違反行為が認められた場合,措置命令が消費者庁により行われる。具体的には,その事業者に対して,消費者に与えた誤認の撤回,再発防止策の策定などが求められる。実際に,不適切な打消し表示によって強調表示が誤認されてしまったケースは数多く存在する(国民生活センター,2020; 大元,2017)。
強調表示の誤認に関するトラブルの多くは,文字以外の情報に対して注意が向いてしまい,大切な文字情報が記憶されないことに起因すると考えられる。なぜなら人の注意は限定的かつ選択的だからである(Basil, 1994)。実際,たばこやアルコールなどの広告において,健康リスクに関する警告表示が義務化されているが,警告文への視線停留時間は広告を見ている全体の時間の僅かな割合でしかない(Fox et al., 1998; Higgins et al., 2014; Thomsen & Fulton, 2007)。また,動画広告中に登場する人物の笑顔が警告情報の言語理解を妨げる(Russell et al., 2017)ことや,画像と同時に画像に一致した音声が流れると画像に注意が向きやすい(Matusz & Eimer, 2011)ことがある。そのため,打消し表示へ消費者の注意を向けさせるためには,打消し表示の表示方法などの実態を精査する必要がある。
一般的に,広告は強調表示に注意が向くように作成され,打消し表示には注意が向きにくくなっている。例えば,動画広告において,強調表示は文字と音声の両方を用いて呈示され,視認性および可聴性が高い。しかし,打消し表示は文字だけで表示されることが多く,さらにその視認性も低い。消費者庁(2017)の実態調査によると,動画広告内の打消し表示は強調表示と同時に,強調表示の20―30%未満の大きさの文字で,2秒以下の呈示時間で表示される割合が高かった。更に,消費者庁(2018)が調査用に作成した動画広告を視聴させたところ,打消し表示の読みにくさを感じた点について,「文字が小さい」という回答が最も多かった。つまり,見落としが生じる原因の1つとして文字サイズが重要な要因となっており(河原,2019),打消し表示への気づきには典型的な文字サイズでは不十分である可能性がある。
動画広告における文字サイズと視認性に関して,十分な検討はされておらず,明確な規制はない。そこで,消費者庁(2017)は実態調査を基に,典型的な動画広告2点を作成した。それぞれスーツとスマートフォンの広告であり,打消し表示の文字サイズはそれぞれ20ポイント(視角0.50度)と16ポイント(視角0.40度)であった(この文字ポイントサイズは約15インチの画面に表示させた状態のものを基準としている;大元,2017)。これらの動画について,1,000人を対象に視聴させたところ,スーツの動画広告では539名が強調表示に気づいたが,そのうち430名(79.8%)は打消し表示に気づかなかった。また,スマートフォンの動画広告では354名が強調表示に気づいたが,そのうち319名(92.5%)は打消し表示に気づかなかった。さらに,消費者庁(2018)はアイトラッカーを用いて,動画広告視聴中の視線計測を実施した。視線の動きからは,広告上のどの空間的領域に注視しているかを推測でき(Nordfält & Ahlbom, 2024),視線停留時間は各領域への認知的・知覚的処理の深さを表す指標となるためである(Higgins et al., 2014)。消費者庁(2018)によると,2点の動画広告中に表示される20ポイント(視角0.50度)と16ポイント(視角0.40度)の打消し表示について,視線停留時間は,0.0―0.1秒にも満たなかった。視線測定後のインタビューからも,スーツの動画広告では15名中14名,スマートフォンの動画広告では17名中全員が打消し表示に気づかなかった。
そこで,本研究では打ち消し表示の文字サイズの拡大が,表示内容の再生と再認に及ぼす効果を調べた。具体的には,消費者庁(2018)が作成した動画広告の打消し表示の文字サイズを操作し,参加者が動画広告を視聴している間の視線計測を行い,打消し表示への視線停留時間を測定した。また,打消し表示の文字サイズが打消し表示内容の意識的想起・再認に及ぼす影響を検証するため,自由記述による再生課題と二肢強制選択法で答える再認課題を行った。実験1では30ポイント(1文字の幅が視角で0.50度)と55ポイント(視角0.92度),実験2では30ポイントと80ポイント(視角1.34度)で比較した。基準を30ポイントとした理由は,消費者庁(2018)が用いた動画広告2点において,打消し表示の文字サイズが0.50度と0.40度であったことからより大きいサイズである0.50度を採用した。80ポイントを用いた理由は,スマートフォンの打消し表示画面における強調表示と打消し表示以外の訴求点に関する文字表示が80ポイントであったためである。一般的に強調表示やそれに付随する情報の表示に対して,打消し表示の文字サイズが上回ることはなく,80ポイントを超えると広告に不自然さが生まれるため,本研究では80ポイントを最大とした。また,この80ポイントは,スマートフォンの打消し表示画面における強調表示の文字サイズである約150ポイントのおおよそ半分でもあった。55ポイントは30ポイントと80ポイントの中間のサイズであった。消費者庁(2018)によると,30ポイントでは視線停留時間は0.1秒以下,再認率も6%以下と極めて低かった。それゆえ,本実験の動画広告における打消し表示の文字サイズが55ポイントまたは80ポイントであれば,30ポイントよりも注視時間がより長く,再生・再認率もより高いと予測される。
実験1の目的は,動画広告内の打消し表示の文字サイズを30ポイントと55ポイントにした場合,打消し表示の文字サイズがそれぞれ動画内の打消し表示に対する視線停留時間と打消し表示の内容の再生・再認成績に及ぼす影響を調べることであった。予測として,どちらの動画広告においても30ポイント条件に比べて55ポイント条件で打消し表示の視線停留時間は長く,再生・再認率が高いと考えられる。
参加者方法 実験の参加に書面にて同意した学生60名(女性23名,男性37名,平均年齢20.8歳,18―26歳)が参加した。サンプルサイズは,対応のないt検定を用いて打消し表示への視線停留時間を文字サイズ間で比較することを想定し,決定された。具体的には,検定力分析(d=0.80, α=0.05, β=0.80)により,適切なサンプルサイズは52名(各条件26名)と推定された。しかし,視線計測中の瞬き等の理由によりデータが欠損する可能性を考慮し,サンプルサイズを60名とした。参加者は,報酬として謝金,または,コースクレジットを実験後に受け取った。そして,参加者は矯正視力を含めて0.7以上,かつ正常な色覚を有すると自己報告した。本研究は,北海道大学社会科学実験研究センターの承認を得て,実施された。
装置 視線解析装置としてアイトラッカー(Tobii Pro Spectrum; Tobii Technology K.K.)を使用した。視線情報取得の正確度は0.30度,精密度は0.06度であった。視線計測のサンプリングレートは90Hzであった。本研究で使用した装置における視線計測のサンプリングレートは150Hzであったが,program failureのため90Hzで記録された。動画の再生時の音量や速さ,その他の視聴環境は参加者間で一定であり,観察距離は57.3cmであった。動画再生と眼球運動測定の制御にはPsychoPy2を用いた。モニターの解像度は1,280×1,024ピクセルの17インチ(横26cm,縦35cm; リフレッシュレート60 Hz)であった。動画広告のフレームレートは30 Hzであった。
刺激 消費者庁(2018)が作成した2種類の動画を使用した(Table 1)。1つは,就職活動用のスーツの広告(電子付録1;消費者庁ウェブサイト,https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/movie_003)であり,もう1つは新機種のスマートフォン(電子付録2;消費者庁ウェブサイト,https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/movie_002)の広告であった。それらを日常場面に近い形で視聴させるため,実在する他の2つの15秒の動画広告と交互に合計4つ連結させ,60秒間の動画を作成した。2番目と4番目の動画広告が本実験で対象となるスーツ(ABC SUIT)とスマートフォン(ABC MOBiLE)の動画広告であった。1番目と3番目にはフィラーの動画広告を挿入した。1番目にビール,3番目に車用タイヤの既製広告動画を用いた(順番は固定)。ビールの広告では,打消し表示は含まれていなかった。タイヤの広告では,タイヤの購入に伴うキャッシュバックサービスの各種条件(会員限定など)が打消し表示として表示された。
実験に使用した動画広告2点の内容
動画の種類 | 動画の内容(各15秒) |
---|---|
スーツ ABC SUIT |
紳士服店が就職活動の時期に合わせて4割引きでセールを行う旨が文字表記と音声で伝えられる。強調表示は10秒から13秒まで画面中央に映し出される。ただし,割引セールになる商品は限られており,打消し表示として「※20,000円以上の商品に限ります。詳しくは店頭で。」という文字表記が強調表示画面から切り替わった後,13秒から15秒まで画面下部に映し出される。また,同時に事業者のロゴが画面中央付近に表示されており,笑顔の女性がロゴを指し示す動きをしながら事業者名が述べられる。 |
スマートフォン ABC MOBiLE |
新機種のスマートフォンの発売に合わせて,新規契約者限定で5万円分のポイントがプレゼントされる旨が文字表記と音声で伝えられる。ただし,打消し表示として,「※スマホ超割に加入する必要があります。」という文字表記が映し出される。強調表示(画面中央)と打消し表示(画面下部)は11秒から13秒まで同時に表示される。 |
打消し表示のサイズを操作した2つの動画広告において,打消し表示はいずれも2秒間呈示された。具体的には,スーツの動画広告では,「※20,000円以上の商品に限ります。」という打消し表示が強調表示の画面の次の場面で呈示された。これに対し,スマートフォンの動画広告では,「※スマホ超割に加入する必要があります。」という打消し表示が強調表示と同じ画面内に呈示された。文字サイズごとの打消し表示画面の例をFigure 1に示す。これらの打消し表示画面は,Adobe Premiere Pro CC 2011を用いて,文字サイズを編集して作成した。打消し表示の文字サイズの操作について,動画ごとに30ポイント(視角0.50度)と55ポイント(視角0.92度)の2水準を設定した。フォントタイプは,「MSPゴシック」を使用した。打消し表示の文字サイズ(2種類;30ポイントと55ポイント)は,計8パタンがあり(電子付録3),それぞれのパタンに参加者が均等に割り振られた。内訳は動画の種類(2種類;スーツとスマートフォン)とその視聴順序(2種類;2番目にスーツ・4番目にスマートフォン,または,2番目にスマートフォン・4番目にスーツ)であり,ともに参加者間でカウンタバランスされた。まとめると,本研究はスーツとスマートフォンの動画広告について,1要因参加者間計画として打消し表示の文字サイズ(2水準;30ポイントと55ポイント)を操作した。
動画広告(左:スーツ,右:スマートフォン)における各サイズの打消し表示画面
注)いずれの動画広告でも画面下部に打消し表示があり,外側の枠線がAOI,内側の枠線が文字領域を示す。実際の動画広告にはそれらの枠線は表示されない。本打消し表示画面は消費者庁ウェブサイト(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/movie_003,および,https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/movie_002)の動画広告を編集して作成した。画像のぼかしは実際には表示されなかった。
手続き 参加者は椅子と卓上に固定された顎台の高さを調節した。また,参加者は動画音声を聴くためのヘッドフォンを装着した。打消し表示への視線停留時間を測定するという本研究の目的を悟られることのないように,事前の説明において,参加者には宣伝広告の要素と視聴者の購買意欲の関係性を調べるための研究であると偽の目的を伝えた。また,日常場面における動画広告と同様に参加者の注意を促すため,消費者庁(2018)と同様に,「自身や家族に商品を購入するつもりで見てください」と参加者に教示した。視線の較正後,参加者は自由なタイミングでキーを押して,動画広告の視聴を開始し,1度だけ視聴した。
視線計測の終了後,本研究の対象となる2番目と4番目の動画広告に関して,再生課題と再認課題を実施した。最初に,再生課題として,2番目と4番目の動画広告について家族や友達に伝えるつもりで,それぞれ思い出せることをすべて順に書き出すよう求めた。次に,再認課題では,2番目と4番目の動画に関して,質問項目にある表記に気づいたかを二肢強制選択法で回答した。スーツの動画広告について,質問項目は「ABC SUIT」,「フレッシャーズキャンペーン」,「3月31日まで4割引セール!!」,そして,「※20,000円以上の商品に限ります。」の4つであった。また,スマートフォンの動画広告について,質問項目は「COSMO d1」,「5.7インチ有機EL」,「ABC MOBiLEポイント5万円分プレゼント」,「新規契約者限定 抽選で100名様に」,そして,「※スマホ超割に加入する必要があります。」の5つであった。実験は15分程度で終了した。実験終了後,参加者に本研究の真の目的を開示した。
結果視線計測 各動画において分析対象となる打ち消し表示が呈示された180サンプリング(2秒間)のうち,瞬き等の理由でサンプリング数が3分の2に満たない4名の参加者の結果は分析から除外した。分析対象者は計56名であり,各動画についてそれぞれ28名ずつが30ポイント,または,55ポイントの打消し表示を視聴した。打ち消し表示に対する視線停留時間を算出するために,関心領域(Area of Interest: 以下,AOIとする)を打ち消し表示の文字の周囲1cmとして設定した(Figure 1)。そして,打消し表示のAOI上に視線の座標があったフレーム数をカウントし,時間に換算した。この分析方法は,同じ動画広告を用いて視線計測を実施した消費者庁(2018)に基づくものであった。
それぞれの広告動画における打ち消し表示の文字サイズごとの平均視線停留時間をFigure 2に示す。スーツの動画広告における視線停留時間について,Welchのt検定を用いて文字サイズ間(33,55ポイント)で比較したが,有意差は認められなかった(t (54.00) =0.81, p=.421, d=0.22)。同様に,スマートフォンの動画広告における視線停留時間について文字サイズ間(30,55ポイント)で有意差は認められなかった(t (54.00) =1.94, p=.057, d=0.52)。
動画広告および文字サイズごとの打消し表示への平均視線停留時間の箱ひげ図(実験1)
注)バツ印は平均値を示す。データポイントは第三四分位数から四分位範囲の1.5倍以上の値を示す。
再生課題 各動画において打消し表示にキーワードを設定し(電子付録4),いずれか1語でも含んでいれば再生できたと判断した。対象となる2つの動画広告の順序によって再生・再認率が変わる可能性があるため(例えば,記憶の親近効果;Waugh & Norman, 1965),動画ごとに各種の文字サイズと視聴順序を要因に組み込んだフィッシャーの正確確率検定を行った。しかし,再生率(電子付録5)と再認率(電子付録6)ともに順序の効果は認められなかった(実験2でも同様;ps>.270)。そのため,以降の分析について,順序を要因として含めずに行った分析結果を記述する。
次に,文字サイズ間で再生成績を比較した(Table 2)。その結果,スーツの動画広告において,55ポイント条件では28名中4名のみが打消し表示を再生できた。30ポイント条件では5名のみが打消し表示を再生できた。一方,スマートフォンの動画広告では,55ポイント条件では28名中2名が強調表示を再生できた。30ポイント条件では,打消し表示を再生できた参加者はいなかった。Fisherの正確確率検定の結果,いずれの動画広告でも打消し表示の再生率に及ぼす文字サイズの効果は認められなかった(スーツ,p=1.000, |h|=0.10;スマートフォン,p=.491, |h|=0.54)。
実験1の打消し表示の再生率と再認率(各条件n=28)
動画の種類 | 文字サイズ | 打消し表示の再生率 | 打消し表示の再認率 |
---|---|---|---|
注)括弧内は度数を示す。 | |||
スーツ | 30ポイント | 17.9%(5) | 32.1%(9) |
55ポイント | 14.3%(4) | 46.4%(13) | |
スマートフォン | 30ポイント | 0.0%(0) | 28.6%(8) |
55ポイント | 7.1%(2) | 28.6%(8) |
再認課題 各動画における文字サイズごとの打消し表示を再認できた参加者数を算出した(Table 2)。Fisherの正確確率検定の結果,いずれの動画広告でも打消し表示の再認に及ぼす文字サイズの効果が認められなかった(スーツ:p=.412, |h|=0.29;スマートフォン:p=1.000, |h|=0.00)。
最後に,商品,ブランドロゴ,強調表示などのその他の項目について,再認率を算出した(電子付録7)。再認率は,項目によって大きくばらつきがあり,17.9―64.3%であった。全ての項目について,気づいたと回答した参加者はいなかった。また,全ての項目について気づかなかったと回答した参加者は2名であった。
考察実験1では2種類の動画について,打消し表示の文字サイズが30ポイント(視角0.50度)と55ポイント(視角0.92度)のときの視線計測と再生・再認成績を比較した。その結果,どちらの動画広告についても,視線停留時間,および,再生・再認成績に及ぼす文字サイズの効果は認められなかった。つまり,55ポイントでは打消し表示に対する視線停留と再生・再認成績を高めるには不十分であったと言える。よって,実験2ではさらに大きな文字サイズを用いて検討した。
実験2では,実験1よりもさらに大きい80ポイントと30ポイントの2水準を用いて,打消し表示の文字サイズが打消し表示への視線停留時間と動画内容の再生・再認成績に与える影響を検討した。80ポイント条件であれば,どちらの動画においても30ポイント条件よりも視線停留時間が長く,再生・再認されると予想される。
参加者方法 実験1の参加者とは異なる学生56名(女性23名,男性33名,平均年齢19.9歳,18―26歳)が実験に参加した。サンプルサイズは実験1の分析対象者数と一致させた。同意の取得方法,報酬,視力や色覚の基準は実験1と同じであった。
装置 視線解析装置等は実験1と同じであった。ただし,視線計測のサンプリングレートとディスプレイに変更があった。具体的には,視線計測のサンプリングレートは150Hzであった。ディスプレイの解像度は1,920×1,080ピクセルの23.8インチ(横52.7cm,縦29.6cm;リフレッシュレート:60 Hz)であった。実験1と動画の表示サイズや観察距離に変更はなく,ディスプレイの一部(画面中央)に動画を呈示した。
刺激と手続き 刺激と手続きは実験1と同じであった。ただし,打消し表示の文字サイズの操作について,動画ごとに30ポイント(視角0.50度)と80ポイント(視角1.34度)の2水準を設定した。
結果視線計測 AOIの基準は実験1と同じであった。実験2では,サンプリング数(打消し表示が呈示された2秒間;計300サンプリング)が全体の3分の2に満たない参加者は含まれていなかった。そして,打消し表示のAOI上に視線の座標があったフレーム数をカウントし,時間に換算した。分析対象者は計56名であり,各動画についてそれぞれ28名ずつが30ポイント,または,80ポイントの打消し表示を視聴した。それぞれの動画広告の打消し表示への視線停留時間について,文字サイズ間(30ポイントと80ポイント)で比較した(Figure 3)。重要なことに,スーツの動画広告については,80ポイント条件(M=0.77秒,SD=0.45)で30ポイント条件(M=0.28秒,SD=0.44)より視線停留時間が長かった(t (54.00) =4.09, p<.001, d=1.08)。一方,スマートフォンの動画広告の打消し表示への平均視線停留時間は,文字サイズ間(30ポイント:M=0.32秒,SD=0.43;80ポイント:M=0.49秒,SD=0.44)で有意な差は認められなかった(t (53.96) =1.41, p=.165, d=0.38)。
動画広告および文字サイズごとの打消し表示への平均視線停留時間の箱ひげ図(実験2)
注)バツ印は平均値を示す。データポイントは第三四分位数から四分位範囲の1.5倍以上の値を示す。
補足的な分析として,打消し表示画面中(2秒間)の打消し表示以外への視線停留時間を分析した。スーツの広告において,打消し表示画面に呈示されているブランドロゴ(ABC SUIT; Figure 1)に対しては30ポイントで0.67秒(SD=0.44),80ポイントで0.40秒(SD=0.32)の視線停留があり,文字サイズ間で有意差が認められた(t (49.13) =2.59, p=.013, d=0.68)。
また,スマートフォンの広告において,打消し表示画面に呈示されている強調表示(「ABC MOBiLEポイント 5万円分プレゼント」;Figure 3)に対しては30ポイントで0.97秒(SD=0.50),80ポイントで0.95秒(SD=0.45)の視線停留があり,文字サイズ間で有意差は認められなかった(t (53.38) =0.17, p=.870, d=0.04)。また,それ以外の表記(「新規契約者限定 抽選で100名様に」)に対しては30ポイントで0.43秒(SD=0.31),80ポイントで0.36秒(SD=0.44)の視線停留があり,有意差は認められなかった(t (48.23) =0.72, p=.476, d=0.19)。
再生課題 各動画において打消し表示のそれぞれにキーワードを設定し(電子付録4),1語でも含んでいれば再生できたと判断し,文字サイズ間で再生成績を比較した(Table 3)。正確確率検定の結果,スーツの動画広告では,文字サイズ間で打消し表示の再生成績に有意差は認められなかった(p=.205, |h|=0.43)。また,スマートフォンの広告についても,再生成績に有意な差はなかった(p=1.000, |h|=0.13)。
実験2の打消し表示の再生率と再認率(各条件n=28)
動画の種類 | 文字サイズ | 打消し表示の再生率 | 打消し表示の再認率 |
---|---|---|---|
注)括弧内は度数を示す。 | |||
スーツ | 30ポイント | 14.3%(4) | 35.7%(10) |
80ポイント | 32.1%(9) | 85.7%(24) | |
スマートフォン | 30ポイント | 7.1%(2) | 39.3%(11) |
80ポイント | 10.7%(3) | 50.0%(14) |
再認課題 各動画において,文字サイズごとに打消し表示の再認率を算出した(Table 3)。正確確率検定の結果,スーツの動画広告については80ポイント条件の方が30ポイント条件より打消し表示を再認できた参加者が多かった(p<.001, |h|=1.09)。一方,スマートフォンの動画広告については文字サイズ間の再認率に有意な差は認められなかった(p=.591, |h|=0.22)。
実験1と同様に,商品,ブランドロゴ,強調表示などの項目について,再認率を算出した(電子付録7)。再認率は,項目によって大きくばらつきがあり,23.2―66.1%であった。全ての項目に気づいた,または,気づかなかったと回答した参加者はいなかった。
注視と記憶課題の関連 消費者庁(2018)が実施した打消し表示への視線停留時間は0.1秒にも満たず,注視していない(打消し表示を見ていない)と解釈できる。そこで,探索的な分析として,本実験の注視時間を分析した1。具体的には,打消し表示に対する注視を「300ms以上連続して打消し表示のAOI上に視線停留していること」として定義し,注視とサッカードを切り分けた。その結果,いずれの動画広告でも打消し表示は画面端にあり,サッカードはほとんどなく,視線停留全体の約93.4%を打消し表示への注視として抽出した。重要なことに,スーツの広告において,30ポイントで9名(M=0.84秒,SD=0.33),80ポイントで23名(M=0.89秒,SD=0.34)が打消し表示を注視していた。また,スマートフォンの広告において,30ポイントで10名(M=0.81秒,SD=0.32),80ポイントで16名(M=0.77秒,SD=0.29)が打消し表示を注視していた。注視した人数の偏りは,スーツの広告において有意であり,30ポイントより80ポイントで多かった(p<.001)。そのような偏りはスマートフォンの広告では有意ではなかった(p=.180)。
次に,注視の有無が再生・再認課題に及ぼす影響を検討した。スーツの広告の再生率について,注視した参加者の再生率は30ポイントで33.3%(9名中3名)と80ポイントで34.8%(23名中8名)であった。注視していなかった参加者の再生率は30ポイントで5.3%(19名中1名),80ポイントで20.0%(5名中1名)であった。スマートフォンの広告の再生率について,注視した参加者の再生率は30ポイントで20.0%(10名中2名),80ポイントで18.8%(16名中3名)であった。注視していなかった参加者(30ポイントで18名,80ポイントで12名)の再生率は,両文字サイズで0.0%であった。
最後に,注視した参加者の打消し表示の再認率は,スーツの広告の30ポイントで88.9%(9名中8名),80ポイントで95.7%(23名中22名)であった。スマートフォンの広告では,30ポイントで90.0%(10名中9名),80ポイントで75.0%(16名中12名)であった。注視していなかった参加者について,両広告の各文字サイズで2名ずつのみが再認できており(10.5―40.0%),その再認率は注視した参加者より著しく低かった。
考察実験2では打消し表示について,30ポイントと80ポイント間で視線停留と再生・再認成績を比較した。その結果,スーツの動画広告でのみ,30ポイントよりも80ポイントのときに打消し表示への視線停留時間が長く,再認成績も高かった。しかし,スマートフォンの動画広告では視線停留時間と再認成績に文字サイズの効果は認められなかった。同様に,スーツの広告において,文字サイズ拡大が注視を促すが,スマートフォンではそのような傾向は認められなかった。したがって,打ち消し表示の文字サイズの拡大のみでそこへの注視や再認成績が決まるわけではないといえる。そして,動画の種類によって打消し表示の文字サイズの効果が異なることから,打消し表示の文字サイズ以外の要素である,強調表示やその他の表示の数や内容(電子付録8)が打消し表示の視線停留時間と記憶成績に影響を及ぼしていたと考えられる。
重要なことに,注視と記憶課題の成績に関連がみられた。具体的には,注視した参加者は注視しなかった参加者に比べて再生率はやや高かった。しかし,注視したとしても再生率は20―35%程度であり,注視が意識的想起を保証するものではないと考えられる。そして,再認率は注視した参加者で注視しなかった参加者より著しく高く,注視したほとんどの参加者が再認できていた(75―96%)。加えて,再生率と再認率に及ぼす文字サイズの影響はほとんどなかった。すなわち,文字サイズの大小に関わらず,注視さえすれば再認はほぼできるということである。そして,その注視を促す要因に文字サイズがあるが,広告に依存する(スーツの広告でのみ文字サイズが注視を促した)ことが示された。
本研究では,動画広告の打消し表示の文字サイズを,実験1では30ポイントと55ポイント,実験2では30ポイントと80ポイントの2水準で比較し,打消し表示の文字サイズがそれぞれ動画内の打消し表示への視線停留時間,および,打消し表示内容の再生・再認成績に及ぼす影響を調べた。そして,55ポイントや80ポイントであれば30ポイントよりも視線停留時間が長く,再生・再認率も高いと予測した。実験の結果から,55ポイントと30ポイントの条件間では視線停留時間や再生・再認成績に文字サイズの効果は認められなかった。しかし,80ポイント条件ではスーツの動画広告でのみ30ポイント条件よりも視線停留時間が長く,再認成績も高かった。そのような文字サイズの拡大効果が確認された一方で,打消し表示の文字サイズが強調表示(スーツの動画広告では約150ポイント; 電子付録8)の約5割のサイズ(例えば,80ポイント条件)であっても,依然として3分の2以上の参加者が視聴直後であっても打消し表示の内容を意識的に想起できなかった。この点は従来の調査(消費者庁,2018)に一致していた。
重要なことに,打消し表示の文字サイズの拡大による視認性の向上は,本研究で用いた2点の動画広告の両方で認められるわけではなく,動画広告ごとの表示方法に依存する可能性が示された。また,打消し表示に注視した者は注視しなかった者に比べて再生率はやや高かった。また,文字サイズの大小に関わらず,注視さえすれば再認はほぼでき,注視していない場合には再認ができていなかった。この結果は,単に文字サイズを拡大することが打消し表示への安定した注視の誘導,および,表示内容の記憶(特に意識的想起)を保証しないことを意味する。すなわち,打消し表示の内容を適切に伝えるためには,視覚的表示を大きくするだけでは不十分であると言える。そして,注視と記憶成績の関連から,打消し表示の認識において,観察者にいかに注視させるかがポイントになることが示唆された。
打ち消し表示のサイズを80ポイントに拡大しても,必ずしも全ての広告表示で内容の想起を高めるには至らなかったという本研究の結果は,動画広告での打ち消し表示の文字サイズを統一的に定めにくいことを裏付けている。打ち消し表示の実態と景品表示法の考え方を解説した立場(大元,2017)からは,動画広告における打ち消し表示の最小限の文字サイズは明示されていない。考慮すべき要因として,強調表示の文字と打ち消し表示の文字の相対的な大きさ,表示箇所,背景との区別といった文脈が挙げられているに過ぎない。フォントのサイズは相対的に大きい場合に,記憶されやすいだろう,想起されやすいだろうと判断されるメタ認知のエラーが起こる(フォントサイズ効果,Chang & Brainerd, 2023; Rhodes & Castel, 2008)。したがって,有効な打ち消し表示のサイズを決定するためには,実際の表示を用いて打ち消し表示への意識的想起を測定する必要があるだろう。
動画広告において文字サイズ以外に,表示内容への注視,または,再生・再認に影響するその他の要因がいくつか考えられる。例えば,強調表示やそれに隣接した表示と,それぞれの表示内容に一致する音声が注意を引き付けていた可能性がある(Matusz et al., 2011)。スマートフォンの動画広告を例にすると,強調表示である「ABC MOBiLEポイント5万円分プレゼント」と上方に隣接する「新規契約者限定 抽選で100名様に」の2つの表示があり,それぞれの内容に一致するナレーターの音声(『新規契約で』,『5万円分プレゼント』)が呈示されており,それがより強調表示への注意を引き付けたと考えられる。したがって,打消し表示以外に注意を引き付けるような表示(強調表示やそれに付随する説明の表記)が多く,2秒という短い呈示時間でさらに打消し表示へと注意がシフトするには至らなかったと言える。実際に,それらの表示と打消し表示について,文字サイズ間で視線停留に差があるとは言えなかった(特に,強調表示への視線停留は打消し表示の2―3倍程度長かった)。そして,そのような動画の構成では,少なくとも80ポイントという打消し表示の文字サイズであっても,視線停留時間と再認成績を高めるには不十分であった。それに対して,スーツの広告における打消し表示画面のように表示がシンプルな構成の場合には,打消し表示の拡大が視線停留を増加させた。それに伴い,打消し表示以外(例えば,ブランドロゴ)の視線停留が減少した。すなわち,事業者は打消し表示画面中に強調表示のような注意を引き付けやすい文字表示を減らす工夫をするべきかもしれない。
実験2の結果から,打消し表示の文字サイズ80ポイントは,スーツの動画広告に限っては,30ポイントと比べて再認・視線停留時間を増大できる文字サイズであることが示された。この結果は,動画広告中の人物の笑顔が警告情報に関する言語理解を妨げる(Russell et al., 2017)という結果とは一致しない。しかし,彼らの研究では,バナーで警告文を視覚的に強調した場合,笑顔と同時に呈示されてもリスク警告への理解度が上昇することも示されている。つまり,スーツの動画広告の80ポイント条件では,文字サイズによって打消し表示が視覚的に強調されたため,バナーによる視覚的な強調の効果と同様に,笑顔と同時に呈示されていたとしても打消し表示の再認率が向上したと考えられる。現実場面での動画広告では,打消し表示が登場する人物の笑顔,ポジティブな表情やボディーランゲージと共に表示されることは非常に多い。本研究でわかったことは,笑顔と打消し表示が同時に呈示されていたとしても,参加者は打消し表示を再認できる場合があり,そして,小さい文字よりは大きい文字で有利になるということである。
再生課題について,文字サイズ間で再生成績に差が一貫してみられなかったのは,4つの動画広告を連結させて一度に視聴したことにより順向・逆向干渉(Jenkins & Dallenbach, 1924)を受けて,対象の動画の内容が記憶されにくかった可能性が考えられる。また,本研究の参加者は商品・サービスの購入を意識して動画広告をみる程度の構えしかなく,視聴後に動画に関する質問を行う旨も教示しない偶発学習事態であった。そのため,評価目的または自由観察の構えで動画を視聴していたかもしれない。したがって,記憶目的に比べて少ない注意しか向けられていなかったことが考えられる(Pieters & Wedel, 2004)。しかし,そのような状況でも再認課題の全体的な成績は実験を通してある程度高く(電子付録7),反応バイアスの傾向(例えば,全ての項目に気づいたと回答するなど)も見られなかったことから,努力を最小限化(Simon, 1957)して動画広告を視聴していたわけではないと考えられる。
本研究の結果をまとめると,30ポイント条件と55ポイント条件間で比較した場合,どちらの動画にも視線停留時間に及ぼす文字サイズ効果はなかったが,30ポイント条件と80ポイント条件で比較した場合ではスーツの動画広告のみ文字サイズの効果が認められた。すなわち,動画広告における打消し表示の規制策定に対する示唆を与えるものであった。しかし,文字サイズの拡大が打消し表示への安定した注視の誘導と表示内容の再生・再認を保証する訳ではなく,文字サイズを大きくすることによる視認性の向上だけでは不十分であることも意味した。ただし,動画広告視聴中に打消し表示へ注視することで再認が著しく向上することから,打消し表示への注視を促すことが消費者の誤解を防ぐ動画広告に繋がることが示唆された。その注視を促す要因の1つに文字サイズの拡大は有効ではあるが,広告に依存することが示された。
本稿について,開示すべき利益相反関連事項はない。
本研究は,JSPS科研費20H01779の助成を受けて実施された。
本研究に際し,ご協力いただきました栗田 奈波氏(北海道大学)に心から感謝いたします。
本研究で使用した動画広告の詳細な構成や内容,補足的な集計結果を電子付録に記載した。また,本研究で使用したデータセット,および,質問紙票はOpen Science Framework(https://osf.io/xsu8p/)にて公開されている。
本セクションの分析は,元の研究計画には含まれていない分析であったが,査読者のフィードバックに基づいて行われた。