心理学研究
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ISSN-L : 0021-5236
不安と心配はなぜ生じるのか?――日本語版コントラスト回避質問紙の作成――
松本 昇津藤 央亘Sandra J. LleraMichelle G. Newman
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論文ID: 96.24227

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Translated Abstract

The contrast avoidance model has been proposed as a (maladaptive) emotion regulation strategy in generalized anxiety disorder, suggesting that chronic worry and anxiety play a role in maintaining a negative mood to prevent a drastic shift to negative emotions triggered by uncertain future events. This model ironically explains why individuals with generalized anxiety disorder experience persistent worry and anxiety. The Contrast Avoidance Questionnaire (CAQ) was originally developed in English to assess individual differences in contrast avoidance. In this study, we developed a Japanese version of the CAQ and tested its reliability and validity. The CAQ includes two versions: one focusing on worry (CAQ-W) and the other on negative mood (CAQ-GE). Study 1 confirmed the structural validity and internal consistency of the Japanese version of the scale. Study 2 demonstrated sufficient test-retest reliability. Study 3 examined convergent and divergent validity, and the results generally replicated the original findings. We discussed transdiagnostic clinical applications and outlined directions for future research using the CAQ.

心配(Worry)はネガティブな結果になりうる問題についての問題解決のために生じる比較的制御不能なネガティブ感情を伴う思考の連鎖であり(Borkovec et al., 1983),専ら言語的に生じる(Rapee, 1993)。心配は全般性不安症(Generalized anxiety disorder)の発症と維持を説明する心理的メカニズムとして長年注目されてきた。Borkovecら(Borkovec et al., 2004)が提唱した心配の認知的回避理論(Cognitive avoidance theory)はその代表的な理論であり,心配は将来の脅威を防ぐために,あるいは将来の脅威に備えるための回避機能を有すると主張する。つまり,起こりうる事象についてあらかじめ心配をしておくことで,その事象が実際に起こるのを避けられる,あるいはその事象に備えられるかもしれない。認知的回避理論は,心配することで不安な事象についてのイメージとそのイメージに伴う生理的反応や情動反応を低減できるとしている。イメージは言語的な思考よりも強い情動を喚起することが知られている(Holmes & Mathews, 2010)。したがって,とりわけ言語的な心配は負の強化を受ける。さらに,不安症の治療に必要となるネガティブ情動や身体感覚へ曝露する機会が妨げられるため,心配が持続することとなる。

認知的回避理論に反して,心配はむしろ生理的反応とネガティブな情動反応を増幅させることを示す実証的なエビデンスが蓄積されてきた(例えば,Hofmann et al., 2005)。コントラスト回避モデル(Contrast avoidance model; Newman & Llera, 2011)は,これらのエビデンスを受けて,認知的回避理論の修正として提出されたものである。認知的回避理論が心配をネガティブ情動の低減効果を持つ回避プロセスであるとみなす一方で,コントラスト回避モデルは心配を,リラックス状態やニュートラル状態,あるいはポジティブ情動から,ネガティブ情動への急激なシフトを回避するために生じるとみなしている。全般性不安症の個人は,何らかの出来事によってネガティブ情動が急に生じることを恐れており,それを防ぐために,常にネガティブな状態に居続けようとする。あらかじめ心配をして悪い事態を想定しておけば,現在の気分がネガティブになったとしても,将来的に起こりうるネガティブ情動への急激なシフトを回避することができる。実証的研究は,事前の心配があらかじめ生理的反応とネガティブ情動を引き起こし,ネガティブな映像の視聴やストレスイベントの経験時に生じるはずの急激な生理的反応とネガティブ情動へのシフトを防ぐことを示している(Jamil & Llera, 2021; Kim & Newman, 2022; Llera & Newman, 2010, 2014)。

本研究の目的は,個人のコントラスト回避傾向を測定するための自記式質問紙であるContrast Avoidance Questionnaire(以下,CAQとする;Llera & Newman, 2017)の日本語版を作成することである。CAQには,心配に焦点を当てたバージョンであるContrast Avoidance Questionnaire-Worry(以下,CAQ-Wとする)と,より広範なネガティブ気分を対象としたバージョンであるContrast Avoidance Questionnaire-General Emotion(以下,CAQ-GEとする)があり,本研究ではその両方について日本語版の開発を試みる。CAQの原版は3つの原則(Llera & Newman, 2017)に沿って開発されている。第一の原則は,全般性不安症の個人はネガティブな情動への急激な変化に脅威を感じることである。第二の原則は,全般性不安症の個人はネガティブな情動とのコントラストを避けるために,心配によってネガティブな情動を作り出し,維持することである。このメカニズムはネガティブ情動への急激なシフトという結果事象を避けるための負の強化によって説明される。第三の原則は,全般性不安症の個人は安静時のポジティブな状態を不快に感じる一方,一過性のポジティブな状態は回避しないということである。このメカニズムは正の強化によって説明される(Newman et al., 2022)。仮に,ポジティブな状態に居続けた場合,ポジティブな結果や出来事が生じたとしてもそのコントラストは大きくない。ところが,ネガティブな結果をあらかじめ予測しておけば,いざポジティブな結果が得られると大きなコントラストが生じ,気分に最大の恩恵を受けることができる。この原則は,全般性不安症の個人が一過性のポジティブな状態を楽しむために,心配を続けることを意味する。

CAQ-Wは3つの下位因子から,CAQ-GEは2つの下位因子から構成されている。CAQ-Wの第一因子は「ネガティブな出来事で気分が落ち込むよりは,はじめから心配したほうが良い」のように,「ネガティブ情動シフトを回避するための心配」を表す。CAQ-Wの第二因子は「心配しているときにはストレスを感じる」や「心配は悪い気分を持続させる」のように,「ネガティブ情動を生成させ維持させる心配」を表す。CAQ-Wの第三因子は「心配をしておけば,心配しなかったときよりも,物事が上手くいったときに遥かに気分が良い」のように,「ポジティブなコントラストを生成するための心配」を表す。CAQ-GEの第一因子は「いつ悪いことが起こるか分からないのだから,もとから暗い気分でいるほうが気楽である」のように,「ネガティブなコントラストを回避するためのネガティブ情動の生成と維持」を表す。CAQ-GEの第二因子は「ネガティブな感情の急激な高まりに特に不快感を感じる」のように,「情動シフトに対する不快感」を表す。

コントラスト回避は全般性不安症の病理を解明するために有用な枠組みであり,それについての多くの実証的研究が進められてきた一方で(Przeworski & Newman, 2024),本邦では長い間紹介されることもなく見過ごされてきた。日本語版CAQは,不安を訴える患者のアセスメントに役立つと考えられ,また,精神病理に関する研究を推進する上でも役立つであろう。実際,原版を使用した研究では,全般性不安症に関する他の理論の鍵概念(曖昧さ不耐性など)を統制してもなお,全般性不安症状に対する増分妥当性を示すことが明らかになっている(Llera & Newman, 2023a)。他にも,コントラスト回避傾向の高い個人は問題解決に対する自信が低く実行に移そうとしない(Llera & Newman, 2023b)という実験的証拠や,コントラスト回避は全般性不安症に限らずうつ病や社交不安症(Newman et al., 2023),強迫症(Swisher & Newman, 2025),双極症(Kim et al., 2024)においても観察されるという知見が得られている。

われわれは,尺度翻訳の手続きを経て,研究1において構造的妥当性および内的一貫性を検討した。研究2では再検査信頼性を検証し,研究3では基準関連妥当性を確認した。すべての研究は信州大学人文学部心理学系倫理審査部会の承認の下で実施された(課題番号:24016)。なお,いずれの研究においても,すべての項目への回答を必須としたため,欠損値は存在しなかった。

研究1

尺度翻訳

CAQの各項目の日本語への翻訳は,博士号を持つ臨床心理学研究者(第一著者)とコントラスト回避を専門に研究している修士課程の大学院生(第二著者)によって独立に行われた。双方の翻訳案を参照し,協議の上で暫定の日本語版項目を決定した。次に,Editage(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)の逆翻訳サービスを利用し,日本語版項目を英語へと逆翻訳した。次に,原版(Llera & Newman, 2017)の作成者である第三著者と第四著者に項目の確認を依頼した。その結果,CAQ-Wでは項目9,11,12,13,16,17,18,21,23,25,27が,CAQ-GEでは項目1,3,4,6,8,9,11,15,17,20,22,24が原版の意図を反映できていないと判断された。フィードバックを参考に,第一著者と第二著者が日本語版項目を修正し,再度の逆翻訳手続きを経たところ,CAQ-Wの項目12,16,21,CAQ-GEの項目1,4,6,11,24が問題のある項目としてリストアップされた。大半の項目は単語の軽微な修正で問題が解決可能であったが,CAQ-Wの項目16とCAQ-GEの項目24は双方の項目に含まれる“emotionally vulnerable”の対訳が存在せず,原版項目の忠実な翻訳が困難であったため,第四著者の助言を得て意訳を行うこととした。再度,項目の修正と逆翻訳手続きを経て,原版作成者の承諾を得て日本語版CAQの翻訳を完了した。日本語版CAQはOSFから利用可能である(https://osf.io/wrjnb/)。

参加者

Comrey & Lee(1992)の提言に基づき,因子分析に必要なサンプルサイズ(N=300で「良い」)を満たすようにクラウドワークスで研究参加者を募集した。年齢が18歳から30歳までであること,日本語を母国語とすることを参加条件としてリクルートを行った。研究参加者は研究に関する説明と倫理的配慮についてウェブ上の文面で説明を受け,同意のもとで研究に参加した。研究参加者はSurveyMonkey上で回答を行った。327名が回答を完了し,そのうち年齢が30歳を超えていた19名と注意チェック項目を通過しなかった8名を除外し,300名(男性130名,女性169名,その他1名,平均年齢26.67±3.12歳)が解析対象となった。参加者には研究参加の対価として150円が支払われた。

CAQ-W

CAQ-Wは30項目からなる自記式質問紙である。原版と同様に,「以下の各項目が,あなたにとってどの程度あてはまるかをお答えください」と教示し,それぞれの項目に対して5件法(1: 全くあてはまらない―5: 完全にあてはまる)のリッカート尺度で回答を求めた。

CAQ-GE

CAQ-GEは25項目で構成された自記式質問紙であり,CAQ-Wと同様の5件法で回答を求めた。

注意チェック項目

「この質問に対しては“1”を選択してください」というタイプの質問をCAQ-WとCAQ-GEのそれぞれに1問ずつ含めた。

統計解析

Mplus Version 8.5(Muthén & Muthén, 2017)を使用して分析を行った。確認的因子分析では適合度指標として,CFI(Comparative fit index),RMSEA(Root mean square error of approximation),SRMR(Standardized root mean square residual)を用いた。われわれはSchermelleh-Engel et al.(2003)のrule of thumbに従い,CFIは.95以上,RESEAは.08未満,SRMRは.10未満を許容できる適合度とみなした。本研究ではこれらの適合度を総合的に査定することとした。

結果と考察

記述統計 CAQ-Wの記述統計をTable 1に,CAQ-GEの記述統計をTable 2にそれぞれ示した。項目の平均点±1SDを基準とした場合,CAQ-Wの計4項目,CAQ-GEの計10項目に床効果が認められた。なお,原版開発時の大学生を対象としたデータ(Llera & Newman, 2017 Study 1 Part 1 Group 3)ではCAQ-Wの計16項目,CAQ-GEの計18項目に床効果が認められていることを特筆しておく(原版との平均値の比較についてはOSFを参照)。各項目の正規性を確認するためにShapiro-Wilk検定を行ったところ,原版と同様にすべての項目で有意な結果が得られ,データの非正規性が認められた。そこで,以下の確認的因子分析では,データの非正規性に由来するバイアスを避けるために頑健最尤推定量(MLR)を用いることとした。

Table 1

Confirmatory factor analysis for the Japanese version of the CAQ-W

Item Mean SD F1 F2 F3 Communality
Note. CAQ-W = Contrast Avoidance Questionnaire-Worry; F1 = Factor 1 : Worry to Avoid Negative Emotional Shifts; F2 = Factor 2 : Worry Creates and Sustains Negative Emotion; F3 = Factor 3 : Worry to Create Positive Contrast. The interfactor correlations between F1 and F2 was .150, between F1 and F3 was .776, and between F2 and F3 was .179.
12. ネガティブな出来事で気分が落ち込むよりは,はじめから心配したほうが良い。 2.40 1.15 .805 .648
10. 突然の気分の変化を防ぐために心配する。 2.38 1.11 .778 .606
17. 幸せだと感じることを自分に許すと最後にはひどい気分になる危険性が高いので,物事について心配しておく。 2.13 1.17 .767 .589
19. 外的な出来事に気分の浮き沈みを左右されるのではなく,自分の感情をコントロールするために心配する。 2.32 1.06 .745 .556
20. リラックスしているときよりも心配しているときのほうが,状況をコントロールできるような気がする。 2.04 1.10 .745 .555
24. いつ何時でもネガティブな出来事が幸せを奪ってしまうことを知っているので,楽観的でいるより心配しているほうがいい。 2.09 1.01 .741 .549
26. 心配していると感情を安定した状態に保つことができる。 2.11 1.15 .704 .495
15. 感情が突然急降下しないように心配する。 2.60 1.21 .701 .492
9. 幸せな気持ちになったりその後に嫌な気分になったりするのではなく,安定した感情状態を維持するために心配する。 2.26 1.05 .678 .460
23. 心配すれば,必要なぶん感情的に備えておくことができる。 2.74 1.04 .668 .447
1. 悪いことはいつ起こるかわからないので,心配しているほうが気が楽である。 2.27 1.15 .643 .414
16. 心配していると,ネガティブな結果や悪いことが起こる覚悟ができる。 2.76 1.20 .640 .409
27. 良い気分のときに不安なことが起こるのを待っている自分がいるので,私は心配することを好んでいると思う。 1.78 1.03 .607 .368
2. 心配しているときは,自分の感情をよりコントロールできているように感じる。 2.27 1.10 .565 .319
7. 心配をしているときにはストレスを感じる。 3.66 1.11 .807 .652
29. 心配は嫌な気分を増大させる。 3.39 1.19 .806 .650
8. 心配すると気分がひどく悪くなる。 3.26 1.26 .806 .650
18. 心配し始めるとより心がかき乱される。 3.15 1.25 .770 .593
5. 心配は悪い気分を持続させる。 3.44 1.11 .748 .559
13. 心配しているときはいつも神経質で落ち着かない。 3.16 1.24 .725 .525
4. 心配は不安を増大させる。 3.72 1.00 .713 .509
21. 心配すると,結局動揺してしまう。 3.16 1.16 .710 .504
28. 心配することは私にとって不快な体験である。 3.17 1.21 .697 .486
14. 事前に結果を心配していたほうが,良いことが起こるとありがたいと思える。 2.87 1.21 .791 .626
11. 心配をしておけば,心配しなかったときよりも,物事が上手くいったときに遥かに気分が良い。 2.57 1.13 .789 .622
30. 最初から最高の結果を期待するよりも,まず心配して,それから最高の結果を得るほうがいい。 2.51 1.17 .710 .504
22. 良い気分でいるところに何か悪いことが起きて苦痛を感じるよりは,心配しているところに何か良いことが起きて驚くほうがいい。 2.83 1.30 .660 .436
25. 最終的に何か良いことが起こったとき,心配したことが報われたなと思う。 2.55 1.20 .651 .424
6. 最悪の結果を心配しておくと,それが大丈夫だとわかったときにより感謝する。 3.03 1.13 .642 .412
3. 失敗することを心配しておくと,最大限に成功を喜ぶことができる。 2.52 1.17 .606 .367
Table 2

Confirmatory factor analysis for the Japanese version of the CAQ-GE

Item Mean SD F1 F2 Communality
Note. CAQ-GE = Contrast Avoidance Questionnaire-General Emotion; F1 = Factor 1: Creating and Sustaining Negative Emotion to Avoid Negative Contrasts; F2 = Factor 2: Discomfort with Emotional Shifts. The interfactor correlation was .379.
12. あとで幸せを失わなくて済むように,いま嫌な気分でいることを好む。 1.84 1.10 .860 .739
5. いつ悪いことが起こるか分からないのだから,もとから暗い気分でいるほうが気楽である。 1.88 1.14 .846 .716
18. 悪いことが起きたときに対処しやすくするために,ネガティブな気分を維持する。 1.93 1.07 .832 .692
21. 気分の浮き沈みを経験しながら人生を送るよりも,むしろ落ち込んでいるほうがマシだ。 1.70 1.04 .802 .643
4. 何かひどいことが起こったときに感情が急激に変化するのを避けるために,いま嫌な気分でいることを望む。 1.84 1.02 .792 .627
22. 幸せだと感じることを自分に許すと,最後にはひどい気分になる危険性が高い。 1.99 1.22 .764 .584
16. リラックスしているときや落ち着いているときは,何か悪いことが起きても気分が急変しないように,ネガティブなことに集中する。 1.77 1.03 .751 .564
20. ネガティブなことに集中していれば,これ以上気分が落ち込むことは少ないとわかっている。 2.19 1.11 .718 .515
7. 何か良いことが起きたときに意外な嬉しさを感じられるので,悲観的な見通しを持つことを好む。 2.07 1.04 .707 .500
9. 幸せを感じていることに気づいたら,これから起こり得るすべての悪い物事をすぐに考えてしまう。 2.18 1.19 .702 .493
8. 起こらないかもしれないことを楽しみにしたくないので,どうせ失敗に終わると予測しがちである。 2.30 1.23 .695 .483
25. 物事がどうなるかを待つのではなく,今すぐ嫌な気分になってしまったほうがましな時もある。 1.91 1.10 .680 .463
24. がっかりするのを避けるために,起こり得る悪いことに意識を向けるようにしている。 2.19 1.06 .671 .450
1. 何かひどいことが起こった時のために感情的に備えておきたいので,ネガティブなことに集中する。 2.36 1.10 .569 .324
2. 感情的に不意を突かれないために,最悪の結果を予想しがちである。 2.85 1.18 .512 .262
13. すでに嫌な気分になっているときは,悪いニュースがあまり苦痛ではない。 2.04 1.08 .510 .260
10. がっかりしたくないので決して高望みはしない。 2.94 1.12 .478 .229
17. 良いことが起こるとは予期していないので,嬉しいサプライズのように感じられる可能性が高くなる。 2.74 1.00 .385 .149
11. 突然とても嫌な気分になると本当に落ち着かない。 3.13 1.24 .765 .586
19. 感情の起伏があると落ち着かない。 3.02 1.17 .755 .569
6. ネガティブな感情の急激な高まりに特に不快感を感じる。 3.08 1.25 .745 .555
23. 激しい感情の変動は私にとって特に不快なものである。 3.00 1.21 .726 .528
15. 感情が揺れ動くとコントロールを失ったと感じる。 2.91 1.25 .692 .479
3. 感情の変化に不快感を感じる。 2.93 1.18 .661 .437
14. 外的な要因によって気分が浮き沈みが左右されるのは好きではない。 3.40 1.09 .626 .392

確認的因子分析とモデル適合度 基尺度の因子構造が再現できることを担保するために確認的因子分析を行った。ここでは,基尺度の作成時と同様に,CAQ-Wについては1因子モデルおよび3因子モデルを,CAQ-GEについては1因子モデルおよび2因子モデルを検討した。モデルごとの適合度をTable 3に示す。CAQ-Wの1因子モデルはいずれの適合度指標を参照した場合にも十分なモデル適合度が得られなかった。CAQ-Wの3因子モデルはRMSEAおよびSRMRの値が十分な適合を示したが,CFIの値は基準値よりも低かった。CAQ-GEの1因子モデルはCAQ-Wと同様にすべての適合度指標が基準値未満であった。CAQ-GEの2因子モデルはRMSEAおよびSRMRの値が十分な適合を示したが,CFIの値は基準値よりも低かった。CAQ-Wの3因子モデルとCAQ-GEの2因子モデルの適合度はいずれも基尺度が作成された際に報告された適合度よりも低かった。そこで,原版作成者と項目文を修正する必要性について検討した。適合度が不十分であった原因として,翻訳の問題,基尺度の因子構造の再現性,文化差の影響などが協議されたが,翻訳に問題はないと判断され,その他の要因については不明なままであった。そこで,適合度指標を総合的に見立てて,日本語版CAQ-Wの3因子モデルとCAQ-GEの2因子モデルの適合度を許容し,これらを最終モデルとして決定することとした。CAQ-Wの3因子は原版をそのままに「ネガティブ情動シフトを回避するための心配(第一因子)」,「ネガティブ情動を生成させ維持させる心配(第二因子)」,「ポジティブなコントラストを生成するための心配(第三因子)」と命名された。同様に,CAQ-GEの2因子は「ネガティブなコントラストを回避するためのネガティブ情動の生成と維持(第一因子)」および「情動シフトに対する不快感(第二因子)」と命名された。

Table 3

Model indices in confirmatory factor analysis for the CAQ-W and CAQ-GE (N = 300)

Measure Model χ2 df p SRMR RMSEA [90%CI] CFI AIC
CAQ-W Three factors 950.495 402 < .001 .070 .067 [.062―.073] .876 23396.962
One factor 2397.226 405 < .001 .163 .128 [.123―.133] .550 25082.726
CAQ-GE Two factors 683.545 274 < .001 .076 .071 [.064―.079] .887 19615.462
One factor 1273.529 275 < .001 .118 .110 [.104―.116] .724 20310.145

内的一貫性 CAQ-Wの内的一貫性を示すCronbachのαは.93であり,3因子モデルのαは第一因子から順に.93,.92,.87であった。CAQ-GEのαは.93であり,2因子モデルのαは第一因子が.94,第二因子が.88であった。以上の結果は,各尺度が十分な内的一貫性を備えていることを示す。

研究2

参加者

信州大学の大学生および大学院生85名が同意のもとでTime 1の調査に回答し,そのうち70名(男性20名,女性47名,その他3名,平均年齢20.97±3.41歳)が1ヵ月後のTime 2の調査に回答した。これらの回答はSurveyMonkey上で行われた。二度の回答を完了した参加者は対価として300円分のAmazonギフトカードを受け取った。二度の回答データの紐づけは参加者に記入してもらったメールアドレスによって行われた。データの紐づけと謝礼の支出を完了した後,これらの個人情報は速やかに削除された。

CAQ-W

研究1と同様のものを用いた(Time 1: Cronbach's α=.92, Time 2: α=.92)。

CAQ-GE

研究1と同様のものを用いた(Time 1: α=.89, Time 2: α=.93)。

注意チェック項目

研究1と同様に,CAQ-WとCAQ-GEにそれぞれ1項目ずつ注意チェック項目を含めた。結果として,二度の回答を完了した70名の参加者の中で注意チェック項目に引っかかった参加者はいなかったため,全員のデータを解析に使用した。

結果と考察

再検査信頼性 CAQ-Wの1回目(M=80.87, SD=19.22)と2回目(M=80.49, SD=18.56)の合計得点に有意な差はみられなかった(t=0.28, p=.78, d=0.02)。CAQ-GEの合計得点についても同様に,1回目(M=58.03, SD=14.86)と2回目(M=59.26, SD=16.27)に有意な差はみられなかった(t=1.25, p=.22, d=0.08)。Rのirrパッケージを用いて二要因変量効果モデルにおける級内相関係数(ICC)を算出したところ,2回の回答におけるCAQ-W(ICC (2, 1) =.81, 95%CI [.72―.88], p<.001)とCAQ-GE(ICC (2, 1) =.86, 95%CI [.78―.91], p<.001)のいずれも有意な級内相関を示した。これらの値はPrinsen et al.(2018)が示す良い再検査信頼性の指標となるICC>.70を超えていた。下位因子ごとの検討においても,CAQ-Wの第一因子(ICC (2, 1) =.80, 95%CI [.69―.87], p<.001),第二因子(ICC (2, 1) =.77, 95%CI [.66―.85], p<.001),第三因子(ICC (2, 1) =.77, 95%CI [.66―.85], p<.001),CAQ-GEの第一因子(ICC (2, 1) =.85, 95%CI [.77―.90], p<.001),第二因子(ICC (2, 1) =.79, 95%CI [.68―.86], p<.001)のすべてでICC>.70を示した。

研究3

参加者

G*Powerを用いて事前検定力分析を行った。中程度の相関(r=.30)を高い検定力(1‒β=.95)で検出するために,138名の参加者を必要とした(有意水準5%,両側検定)。不良データの出現を見越して,150名を募集することとした。クラウドワークスにおいて,年齢が18歳から30歳までであること,日本語を母国語とすることを参加条件としてリクルートを行った。研究参加に同意した152名の男女がSurveyMonkey上で調査回答を完了した。そのうち,年齢が対象外であった6名と注意チェック項目に引っかかった5名を除外し,141名(男性56名,女性85名,平均年齢26.39±2.86歳)を解析対象とした。参加者は回答の対価として300円を受け取った。

使用尺度

原版の基準関連妥当性プロセスを再現するように使用尺度を選定した。原版で収束的妥当性の確認のために使用されていた全般性不安傾向を測定するGeneralized Anxiety Disorder Questionnaire for DSM-IV日本語版(以下,GAD-Q-IVとする;竹林他,2012)と心配傾向を測定するPenn-State Worry Questionnaire日本語版(以下,PSWQとする;杉浦・丹野,2000)を本研究でも使用した。これらの尺度はCAQ-WおよびCAQ-GEの各尺度得点と中程度以上の正の相関(r≧.30)を示すと予測された。

次に,原版作成時に用いられた,感情への恐れを測定するPerceptions of Threat from Emotion Questionnaire(以下,PTEQとする;McCubbin & Sampson, 2006)は日本語版が利用できなかったため,Affective Control Scale(以下,ACSとする;Williams et al., 1997; 日本語版:金築他,2010)のネガティブ感情に関する因子を収束的妥当性尺度として代替使用した。ACSもPTEQと同じくネガティブあるいはポジティブ感情への恐れを測定する質問紙である。CAQがネガティブ情動の急激な生起を恐れる傾向を測定する一方で,ACSは感情が生起している状態を恐れる傾向を測定する。ACSのネガティブ感情(怒り,抑うつ,不安)に関する因子はCAQの各尺度得点と中程度以上の正の相関(r≧.30)を示すと予測された。なぜなら,ネガティブ情動の生起を恐れるという点でCAQとACSの測定する概念は類似しているからである。

さらに,われわれはACSのポジティブ感情に関する因子を弁別的妥当性尺度として利用した。ACSのポジティブ感情に関する因子はCAQの各尺度得点と有意な相関を示さないと予想された。なぜなら,コントラスト回避モデルではネガティブ情動への急激な変化の回避が仮定されている一方で,ポジティブ情動への急激な変化の回避は仮定されていないからである。なお,原版作成時にはPTEQのポジティブ感情因子は弁別的妥当性尺度として用いられた経緯があるが,結果はCAQと微弱ながら正の相関を示している。

最後に,原版作成時に弁別的妥当性尺度として用いられた,刺激希求を測定するAISSについては日本語版が利用できなかったため,同様の構成概念を測定すると想定されるUPPS-P短縮版(Kiire et al., 2020)の下位因子である刺激希求(Sensation seeking)を代用することにした。刺激希求はCAQのいずれの尺度得点とも有意に相関しないことが予測された。

結果と考察

収束的妥当性 予測通り,CAQの各変数はGAD-Q-IVおよびPSWQと中程度以上の相関を示した(Table 4)。例外として,GAD-Q-IVとCAQ-Wの第一因子(ネガティブ情動シフトを回避するための心配)の相関は.30を下回った。しかし,この両者の相関は原版においても比較的弱かったことから(.38; Llera & Newman, 2017),原版からの大きな逸脱は生じていないと判断できる。CAQの各変数は,仮説と一致して,ACSのネガティブ感情に対する恐れ(怒り,抑うつ,不安)とも中程度以上の相関を示した。

Table 4

Convergent and divergent validity of the Japanese version of the Contrast Avoidance Questionnaire

Measures Cronbach’s α Mean SD 1 2 3 4 5 6 7
*** p < .001.
CAQ measures
1. CAQ-W total .94 81.12 20.81
2. CAQ-W F1 .93 32.15 11.08 .89***
3. CAQ-W F2 .92 30.09 8.22 .66*** .30***
4. CAQ-W F3 .87 18.88 6.28 .87*** .80*** .37***
5. CAQ-GE total .95 60.20 19.03 .82*** .78*** .48*** .72***
6. CAQ-GE F1 .95 38.73 14.31 .78*** .81*** .34*** .72*** .96***
7. CAQ-GE F2 .89 21.47 6.57 .67*** .48*** .66*** .51*** .80*** .61***
Convergent measures
GAD symptoms
8. GAD-Q-IV .79 5.32 2.98 .50*** .28*** .64*** .32*** .50*** .41*** .57***
9. PSWQ total .72 48.60 8.62 .58*** .43*** .54*** .49*** .62*** .52*** .64***
Fear of negative emotion
10. ACS anger .75 41.16 9.74 .60*** .41*** .59*** .50*** .58*** .46*** .68***
11. ACS depression .89 32.56 10.38 .58*** .40*** .62*** .41*** .59*** .49*** .65***
12. ACS anxiety .91 51.07 15.29 .53*** .37*** .55*** .38*** .59*** .49*** .64***
Divergent measures
Fear of positive emotion
13. ACS positive .84 47.15 11.70 .58*** .51*** .45*** .44*** .59*** .55*** .51***
Sensation seeking
14. UPPS-P SS .71 8.23 2.75 .11 .08 .12 .07 .04 .03 .04

弁別的妥当性 仮説通り,CAQの各変数はUPPS-P短縮版の刺激希求と有意な相関を示さなかった(Table 4)。しかしながら,CAQの各変数はACSのポジティブ感情に対する恐れと強い相関を示した。コントラスト回避モデルは,ポジティブ情動への急激なシフトの回避を仮定していないので,この結果は仮説と異なるものである。先述したように,原版のCAQとポジティブ情動に対する恐れとの間には微弱だが有意な正の相関が得られている(Llera & Newman, 2017)。先行研究では,コントラスト回避の傾向が強い者ほどリラクセーション状態において不安を感じやすいことが示されており(Kim & Newman, 2019),彼らは安静時のポジティブな状態においてさえ脅威を経験しているといえる。コントラスト回避得点の高い者が示すこの傾向がポジティブ感情に対する恐れに反映されていた可能性がある。これに加えて,原版作成時に用いられたPTEQは幸福(Happiness)のみに対する恐れを測定していたのに対して,本研究で用いたACSは興奮(Excited)に対する恐れを測定する項目を多く含んでいる。興奮は覚醒度の高い感情であり(Russell & Barrett, 1999),強い生理的反応を喚起する(Ketonen et al., 2023)。興奮は不安と混同されやすい,あるいは不安として誤帰属されやすい感情である(Brooks, 2014)。したがって,コントラスト回避傾向の高い個人は,興奮状態に留まり続けることを敬遠するように動機づけられているかもしれない。本研究で得られたCAQとACSのポジティブ感情因子との間の強い正の相関にはこのような背景が存在する可能性がある。

支持された仮説の割合 Prinsen et al.(2018)の基準に照らして,CAQ-GEとCAQ-Wのそれぞれについて仮説を支持した結果の割合を算出した(佐藤・土屋,2022も参照)。いずれも7分の6(85.7%)の仮説が支持されており(ただし先述したGAD-Q-IVとの相関を仮説不支持とみなした場合は7分の5),この値は良い測定特性の基準である75%を上回るものであった。以上のことから,日本語版CAQ-GEとCAQ-Wは一定の基準関連妥当性を示したといえる。

総合考察

これまでに全般性不安症の発症と維持メカニズムに関する数々の理論やモデルが提唱されてきた(Behar et al., 2009; Freeston, 2023)。その中でも,心配およびネガティブ情動の生成および維持がネガティブな情動への急激なシフトを回避する機能を有し,ポジティブ情動の喚起を増幅させる機能を有しているとするコントラスト回避モデルが近年注目されている(Przeworski & Newman, 2024)。個人のコントラスト回避傾向を測定するCAQが海外で開発され,実証的研究が進む一方で,日本語における尺度開発および研究は行われてこなかった。本研究はLlera & Newman(2017)によって開発された2種類のCAQ,すなわちCAQ-WとCAQ-GEの日本語版を開発することを目的とした。日本語版CAQ-WとCAQ-GEは許容可能な因子的妥当性(研究1),十分な内的一貫性(研究1)と再検査信頼性(研究2),およそ仮説通りの基準関連妥当性(研究3)を示すことが明らかとなった。

本研究で作成されたCAQによって,不安と心配が生起し維持されるプロセスを個人特性として測定できる。コントラスト回避モデルに沿い,CAQのそれぞれの下位因子が異なる,しかし関連するプロセスを反映する。全般性不安症あるいは不安傾向を有する個人は,ネガティブ情動への急激なシフトを恐れている(CAQ-GEの第二因子)。そこで,あらかじめネガティブ気分を生起させ(CAQ-GEの第一因子),心配をしておくという方略をとることによって(CAQ-Wの第二因子),急激なシフトを回避できる(CAQ-Wの第一因子とCAQ-GEの第一因子)。ネガティブ情動への急激なシフトの回避という結果事象によって,負の強化のメカニズムが働き,慢性的なネガティブ気分と心配が持続する。

さらに,心配をしておくことはポジティブなコントラストを強め,状態的なポジティブ情動を体験することに寄与する(CAQ-Wの第三因子)。全般性不安症や不安傾向の高い個人は,一過性のポジティブ情動を体験するために,心配をし,ネガティブな状態に居続けようとする。先行する心配による一過性のポジティブ情動の出現は正の強化を導き,心配の維持要因となる。このように,CAQによって測定される感情調整方略は,皮肉にも不安や心配を維持させ,症状を持続させる可能性が高い。なお,コントラスト回避モデルでは,全般性不安症や不安傾向の高い個人はポジティブ情動の体験を回避しないと仮定されていたが,本研究で得られたACSのポジティブ感情因子との相関はその仮定に反する知見であった。この相関は回避の対象となりうるポジティブ感情の価や覚醒度の影響を受けている可能性がある。コントラスト回避傾向を持つ個人が回避するポジティブ情動や生理的反応と,彼らが受容可能なそれらを弁別することは全般性不安症を理解する上で役に立つだろう。

コントラスト回避は未来事象を必要以上に恐れるがために生起する可能性がある。全般性不安症や不安傾向の高い個人は将来を予測する際に予期された感情(anticipated emotion)がネガティブに偏ることが知られている(Dev et al., 2023; Hoerger et al., 2012; Martin & Quirk, 2015; Mathersul & Ruscio, 2020; Wenze et al., 2012)。また,不安傾向の高い個人は,ネガティブな手がかりに対してエピソード的未来思考を行う際に,それを鮮明かつ詳細に想像する傾向にあることが示されている(Du et al., 2022)。こうした情報処理のバイアスは,ネガティブ情動の急激な生起を予防する意図や動機を高めているかもしれない。

CAQ-WとCAQ-GEは研究や臨床の目的に応じて使い分けられるべきである。CAQ-Wは心配に焦点を当てているため,心配によるコントラスト回避についての研究やアセスメントに特に興味がある場合に用いられるべきである。一方,CAQ-GEはネガティブ情動全般に焦点を当てているため,全般性不安症に限らず,幅広く精神疾患の発症と維持メカニズムの研究とアセスメントに活用できる。言い換えれば,CAQ-GEによるコントラスト回避の測定は精神疾患に対する診断横断的アプローチの一翼を担う可能性がある。

近年の拡張によって,コントラスト回避モデルは全般性不安症だけでなく他の精神疾患にも適用できることが示されており(Kim et al., 2024; Newman et al., 2023; Swisher & Newman, 2025),特にうつ病に関する研究が集中している(Jamil & Llera, 2021; Kim & Newman, 2022; Newman et al., 2023)。うつ病や抑うつ者も全般性不安症の個人と同様に,予期された感情のネガティブバイアスを生じる(Mathersul & Ruscio, 2020; for a review, Rizeq, 2024)。彼らは,良い気分を台無しにする思考スタイルを持っていたり(Feldman et al., 2008),ポジティブな感情を持つことに対する恐れを抱いている(Werner-Seidler et al., 2013; for a review, Vanderlind et al., 2020)。

さらに,反すうも心配と同様にコントラスト回避の機能を有していることが実証的に示されている(Jamil & Llera, 2021; Kim & Newman, 2022)。心配は未来志向的な反復思考であり不安症との関連が深いのに対し,反すうは過去志向的な反復思考であり抑うつとの関連が深い(Papageorgiou & Wells, 2004)。したがって,反すうはコントラスト回避を通じて抑うつを導く可能性がある。今後は,診断横断的なプロセスとしてのコントラスト回避を検討し,それに対する介入法を多角的に検討していく必要がある。

本研究で得られた知見はいくつかの点で制約を受ける。第一に,本研究は臨床群の参加者を対象としていないため,それらの人口への一般化可能性は不明である。大学生(原版)や若年層のクラウドワーカー(日本語版)を対象とした場合に,CAQの多くの項目に床効果が認められており,コントラスト回避は非臨床群というよりも臨床群において特に観察されやすい病理であることが示唆される。実際,原版を使用した研究では,臨床群は健常群よりも非常に高いCAQ得点を記録しており(Llera & Newman, 2017),臨床群と健常群を識別するROC(Receiver operating characteristics)曲線におけるAUC(Area under the curve)はCAQ-Wで.98,CAQ-GEで.96であることが示されている。この知見は日本語版においても再現される必要がある。第二に,CAQの下位因子どうしの弁別性は原版においても日本語版においても確認されていない。今後の研究では,下位因子を弁別可能な外的な尺度を見出し,検討を加える必要がある。第三に,CAQの異文化間の測定不変性については検証できていない。本研究は原版とサンプルの性質が異なるため,平均値や因子負荷量を単純に比較することはできなかった。したがって,文化差比較については今後の課題である。

結論

本研究では個人のコントラスト回避傾向を測定する質問紙であるCAQの日本語版を開発した。心配に焦点を当てたCAQ-Wと,全般的なネガティブ感情に焦点を当てたCAQ-GEのいずれも,一定の信頼性と妥当性を備えていることが確認された。CAQの臨床現場におけるアセスメントへの活用と,CAQを利用した精神疾患の心理学的メカニズムの検討の加速が望まれる。

利益相反について

本研究で開示すべき利益相反はない。

助成

本研究の実施にあたり,科学研究費の助成を受けた(基盤研究(B)24K00494)。

謝辞

尺度翻訳の手続きについて助言をいただいた佐藤 秀樹先生(福島県立医科大学)に感謝申し上げます。

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