心理学研究
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日本における言語発達の年上きょうだい効果
佐藤 栞樋口 大樹篠原 亜佐美小林 哲生西村 倫子岩渕 俊樹土屋 賢治
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電子付録

論文ID: 96.24301

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Translated Abstract

The effect of older siblings on language development is a phenomenon in which secondborn children with an older sibling have lower levels of language skills than firstborn children without older siblings. Because this effect has been confirmed in only a few cultures (e.g., France and Singapore), it remains unclear whether the effect is robust and universal. Using data for 755 Japanese 4- to 5-year-olds from the Hamamatsu Birth Cohort for Mothers and Children, we investigated the effect of older siblings on children's language skills, measured as verbal IQ by the Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence (WPPSI). Consistent with previous findings, results showed that secondborn children with an older sibling had significantly lower verbal IQ than firstborn children. Further analysis also confirmed previous findings: the more closely spaced the siblings' age gap, the higher the verbal IQ of the secondborn child. Therefore, the present findings suggest that the older sibling effect is robust in Japan and may be universal across cultures.

乳幼児の言語発達を理解するには,養育者からの言語インプット(linguistic input)――乳幼児に向けて話された音声言語――の役割を明確にすることが重要である。言語インプットは,広義には乳幼児以外の他者に向けられて話された音声言語(overheard speech)も含むが,これまでの研究でその質(Hoff, 2003; Pan et al., 2005)と量(Hurtado et al., 2008; Huttenlocher et al., 1991)が乳幼児の言語発達に影響を及ぼすことが示されてきた。ただし,養育者と乳幼児のおかれた家庭環境は多様であり,その違いが言語インプットの質と量に影響を及ぼす可能性があるため,養育者と乳幼児という単純な二者間の関係性のみで言語インプットを捉えるのは不十分であるという指摘がある(Hoff, 2006)。実際に,家庭に属する人数(Evans et al., 2010)や養育者以外の大人の存在(Ramírez-Esparza et al., 2014; Zhao et al., 2025)が言語発達に影響することも示され,家族メンバーが相互に関連し合うことで生み出される影響も考慮する必要がある。

言語発達に影響を与える家庭環境の要因の1つにきょうだいの存在があり,大規模なコホート調査に基づく興味深い研究が近年行われている(Gurgand et al., 2023; Havron et al., 2019)。例えば,Havron et al.(2019)はEDENコホートのデータを用いて,フランスの2―6歳児1,154名の言語発達と出生順の関連を分析した。出生順には,年上きょうだいの有無と人数,および年下きょうだいの有無と人数という2つの観点が存在するが,Havron et al.(2019)は前者に着目し,年上きょうだいのいない子(以下,第一子とする)と年上きょうだいが1名いる子(以下,第二子とする)の比較を行った。言語スキルの指標は,非語復唱や呼称などの複数の言語課題で得られた得点を合成した値を使用し,第二子は第一子よりも言語スコアが有意に低いことを見出した。本研究では,Havron et al.(2019)と同様に,第二子が第一子(年上きょうだい)の存在により影響を受けるこの現象を言語発達における「年上きょうだい効果(older sibling effect)」と呼ぶことにする。

この効果は,養育者からの言語インプットの質と量が年上きょうだいの有無により変わるために生じると考えられ,言語発達を規定する要因を考える上で重要な現象である。この効果を説明する1つ目の仮説は,Blake(1981)が提案した資源希釈化モデル(resource dilution model)である。このモデルでは,養育資金や乳幼児と関わる時間などの養育資源に限りがあるため,きょうだい数が多いほど養育資源がきょうだい間で分割され,結果として一人ひとりに分配される養育資源が少なくなる。例えば,第一子は期間の長短があるにせよ,養育資源を独占する期間が必ず存在するが,年上きょうだいがいる第二子以降は,養育資源を他のきょうだいと常に分配するため,第一子より養育資源の分配が少なくなる。言語発達の文脈で言えば,養育資源をその子どもに向けた言語インプットと言い換えることができる。つまり,年上きょうだいがいる第二子以降は,自分に向けられる言語インプット量が相対的に減少し,言語発達が緩やかになるというのが資源希釈化モデルに基づく説明である。

2つ目は,Zajonc & Markus(1975)が提案したコンフルエンスモデル(confluence model)による説明で,家庭の知的環境(家族メンバーの知的能力の平均)が乳幼児の言語や認知発達を規定すると考えられている。例えば,大人の知的能力を100と仮定すると,両親がいる家庭に第一子が誕生した場合の知的環境は (100+100+0) /3=66.6のように表現される(説明の都合上,出生時の知的能力を「0」とした)。一方,年上きょうだいがいる第二子は,第一子の知的能力も加味されるため, (100+100+10+0) /4=52.5となり,家庭の知的環境レベルが低くなる。つまり,きょうだいの有無による家庭の知的環境の違いが,子どもの発達速度の差を引き起こすと考えられている。言語発達の文脈で考えると,家庭内の知的環境レベルが低いと,家族メンバーからの多様な語彙の発話やその子の発達に合わせた語りかけなどが生じにくくなり,言語インプットの質と量の低下が,結果として年上きょうだい効果を生じさせている可能性がある。

いずれのモデルに基づく説明にせよ,年上きょうだいの有無による言語インプットの質と量の違いが,年上きょうだい効果を引き起こす要因の1つであると考えられる。こうした年上きょうだい効果が文化普遍的なのかを確認することは,言語発達メカニズムを考える上で重要であるが,この効果はフランス(Gurgand et al., 2023; Havron et al., 2019)などの欧米文化圏を中心に検討され,日本を含む他の文化圏で見られるかは不明である。年上きょうだい効果と交絡しうる要因のひとつに家族サイズがあるが,日仏間で差はほとんどない(Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD), 2016)。一方,養育者から乳幼児に向けた発話スタイルには,欧米とアジアで違いがあることが知られ(Choi, 2000; Murase et al., 2005),おもちゃ遊び場面の母子間発話を分析した研究では,アメリカの母親は物体を頻繁に命名するのに対し,日本の母親は社会的やり取りを行うための道具として物体を利用する傾向があった(Fernald & Morikawa, 1993)。このように,欧米と日本では養育者から子どもへの言語インプットのスタイルに違いがあるため,日本では,欧米で確認されてきた年上きょうだい効果が同じ形で認められない可能性もある。また,きょうだい数が非言語性認知スキルよりも言語スキルにより強く影響を及ぼすことがフランスで報告されているが(Peyre et al., 2016),この点に関する再現性も十分に確認されていない。

Havron et al.(2019)はまた,年上きょうだいとの年齢差が小さいほど第二子の言語スコアが高くなることを報告し,この結果を養育者からの言語インプットがきょうだい間で一部共有されたためと解釈している。例えば,年齢差が小さいきょうだいは,言語発達レベルに大きな違いはないため,絵本の読み聞かせ場面をきょうだい間で共有する場合もあるだろう。Havron et al.(2019)はさらに,年上きょうだいの性別を分析し,姉のいる子は兄のいる子よりも言語スコアが有意に高かったことを報告した。これは,姉が兄より下のきょうだいの世話を行う傾向があること(Tucker et al., 2001)や,女児が男児より高い言語スキルを持つこと(Peyre et al., 2019; 山下他,1994)などから,姉は兄よりも下のきょうだいに対して良質な言語インプットを提供し,こうした違いが生じた可能性がある。ただし,この結果は追認できなかった例もあり(Havron et al., 2022),さらなる検討が必要である。

そこで本研究では,Havron et al.(2019)がフランスで報告した言語発達における年上きょうだい効果が日本でも見られるかを検討するため,日本で実施された「浜松母と子の出生コホート(以下,浜松コホートとする;Takagai et al., 2016)」の言語スキルに関するデータを分析した。浜松コホートは,遺伝要因および出生前後の環境要因などが子どもの心身発達に及ぼす影響の明確化を目指し,静岡県浜松市で生まれた1,258名を対象に2007年から現在まで継続している大規模な縦断研究である。浜松コホートを対象とした理由として,(a)神経発達症の機序解明を目的とし,言語スキルの測定を網羅的に行っていること,(b)フランスで年上きょうだい効果を示したHavron et al.(2019)に近いサンプル数であったことが挙げられる。Havron et al.(2019)では,2―5歳時点の言語スキルを分析しているが,浜松コホートでこの研究と比較可能なデータは,4―5歳時に測定したウェクスラー幼児用知能検査(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence: 以下,WPPSIとする)の言語スキル(言語性IQ)であったため,この時点のデータを分析した。この言語スキル(言語性IQ)と非言語性認知スキル(動作性IQ)のデータを用いて,(a)年上きょうだいがいる第二子は第一子に比べて言語スキルが低いのか,(b)姉がいる場合は兄がいる場合と比較して言語スキルが高いのか,(c)きょうだい間の年齢差が小さいほど第二子の言語スキルが高くなるのか,(d)年上きょうだいの有無による影響は言語スキルのみで特異的に現れるのかを検討した。

方法

参加児

4―5歳時点で浜松コホートの調査に参加していた945名を対象とし,そのうち双子15組30名と,2人以上の年上きょうだいがいる117名,そして両親のいずれかが外国語を話す12名を分析から除外した。その中で,WPPSIの言語性IQと動作性IQのいずれかのデータがない31名も除外した。その結果,755名を分析対象とした。内訳は,第一子が437名,年上きょうだいが1人いる第二子が318名であった(兄のいる子は163名,姉のいる子は155名)。年上きょうだいとの年齢差は,平均3.69歳(SD=2.21,range=0.76―14.61)であった。性別などの基本情報はTable S1に示した。本研究は浜松医科大学生命科学・医学系研究倫理委員会によって承認され(承認番号:20-82,21-114,22-29,24-67,24-237,25-143,25-283,E14-062),調査参加前に保護者から書面による同意を得た。

測定項目

言語/非言語性認知スキルに対する独立変数 浜松コホートのデータから,調査対象児の生年月日,性別,在胎週数(週),出生体重(g),きょうだい数のほか,養育者側の要因として,出生時の両親それぞれの年齢(歳)と教育年数(年),世帯収入(百万円),妊娠発覚3ヵ月前の喫煙・飲酒の有無を用いた。年上きょうだいが出生時に存在した場合は,その性別と生年月日も用いた。

言語スキル(従属変数) 言語スキルの指標として,WPPSIの言語性IQを用いた。言語性IQは5つの下位検査(知識,単語,算数,類似,理解)の合成得点であった。

非言語性認知スキル(従属変数) 年上きょうだい効果が言語スキルのみで見られるのかを確認するため,非言語性認知スキルと考えられるWPPSIの動作性IQも分析した。動作性IQは5つの下位検査(動物の家,絵画完成,迷路,幾何図形,積木模様)の合成得点であった。

分析

分析は,RStudio(Version 2023.06.1 Build 524)とR(version 4.3.0)を用いて行った。

分析1 分析1の目的は,年上きょうだいの有無が言語スキルに及ぼす影響を検討することであった。出生体重などの交絡要因を考慮してもなお,年上きょうだいの有無が言語スキルに影響を与えるのかを明確化するため,言語性IQを従属変数とした階層的重回帰分析を行った。Step 1では,交絡要因となりうる調査対象児の性別・在胎週数・出生体重,両親それぞれの年齢と教育年数,世帯収入,妊娠時の母親の喫煙・飲酒の有無を独立変数として投入した。Step 2では,上記の変数に加えて出生順を投入した。また,年上きょうだいの有無による影響が言語スキルに特異的に見られるかを検討するため,非言語性認知スキルである動作性IQを従属変数とした階層的重回帰分析を行った。独立変数は,言語スキルの解析と同様のものを用いた。

分析2 年上きょうだいの性別と年上きょうだいとの年齢差が言語スキルに及ぼす影響を検討するため,年上きょうだいのいる第二子318名を対象に,言語性IQを従属変数とした階層的重回帰分析を行った。Step 1では,分析1と同様の交絡要因を投入した。Step 2では,年上きょうだいの性別と年齢差を投入した。Step 3では,年上きょうだいの性別と年齢差の交互作用項を投入した。交互作用の検討には,中心化した変数を用いた。

結果

年上きょうだいの有無(出生順)による影響

出生体重などの交絡要因の影響を考慮してもなお,年上きょうだいの有無が言語スキルに影響を及ぼすのかを検討するため,言語性IQを従属変数とした階層的重回帰分析を行った(Table 1左)。VIFによる説明変数の多重共線性の確認を行ったところ,全変数が3以下と比較的低い値を示した。そのため,当初予定していたすべての変数を投入した。その結果,出生体重などの交絡要因のみを投入したStep 1に年上きょうだいの有無(0=第一子,1=第二子)を加えたStep 2の決定係数の増分は有意であった(ΔR2=.006, p=.02)。また,出生順の標準偏回帰係数の95%信頼区間が0以下であったことから,第二子の言語スキルが有意に低いことが示された(Figure S1参照)。

Table 1

Results of hierarchical multiple regression analysis predicting Verbal IQ (N = 755)

Dependent variable Language skills Nonverbal cognitive skills
Independent variable β 95% CI R 2 ΔR2 β 95% CI R 2 ΔR2
Note . The final step βs are described in this table. CI = Confidence Interval.
*** p < .001, ** p < .01, * p < .05.
Step 1 .106 .074
 Sex (0 = male, 1 = female) .16 * [ .02, .30] .29 *** [ .15, .44]
 Gestational age .02 [‒.07, .10] .05 [‒.04, .14]
 Birth weight .05 [‒.04, .14] .06 [‒.03, .15]
 Father’s age at delivery ‒.11 * [‒.21, ‒.01] ‒.03 [‒.13, .08]
 Mother’s age at delivery .11 * [ .01, .22] ‒.01 [‒.11, .10]
 Paternal education .11 * [ .03, .19] .17 *** [ .09, .25]
 Maternal education .14 *** [ .06, .22] .05 [‒.04, .13]
 Annual household income .11 ** [ .04, .19] .06 [‒.02, .14]
 Tabacco use during pregnancy
 (0 = no smoking, 1 = smoking)
.06 [‒.13, .24] .10 [‒.10, .29]
 Alcohol use during pregnancy
 (0 = no drinking, 1 = drinking)
.07 [‒.07, .22] ‒.01 [‒.16, .14]
Step 2 .112 .006 * .075 .000
 Older sibling  (0 = firstborn, 1 = secondborn) ‒.17 * [‒.32, ‒.03] .02 [‒.12, .17]

次に,年上きょうだいの有無による影響が非言語性認知スキルにも見られるかを検討するため,動作性IQを従属変数とした階層的重回帰分析を行った(Table 1右)。その結果,交絡要因のみを投入したStep 1から年上きょうだいの有無を投入したStep 2への決定係数の増分は有意ではなく(ΔR2<.001, p=.74),非言語性認知スキルにおける年上きょうだい効果は見られなかった。なお,年上きょうだい効果は言語スキルのみで見られたため,これ以降の解析は言語スキルに限定した。

年上きょうだいの性別と年齢差による影響

年上きょうだい(第一子)の性別と年齢差の影響を検討するため,年上きょうだいのいる第二子に限定した上で,言語性IQを従属変数とした階層的重回帰分析を行った(Table 2)。VIFによる独立変数の多重共線性の確認を行ったところ,全変数が3以下であったため,当初予定していたすべての変数を投入した。その結果,交絡要因のみを投入したStep 1から年上きょうだいの性別(0=兄がいる,1=姉がいる)および年齢差(月齢)を投入したStep 2への決定係数の増分は有意であった(ΔR2=.028, p=.008)。Step 2の従属変数の95%信頼区間を確認すると,年上きょうだいの性別は正負をまたいでいたが,年齢差は0以下であった。この結果は,年上きょうだいとの年齢差のみが言語性IQに関与することを示している。また,年齢差の標準偏回帰係数がマイナスであるということは,交絡要因の影響を考慮しても,年上きょうだいとの年齢差が大きくなるほど言語性IQがより低くなる傾向があることも意味している(Figure 1)。なお,年上きょうだいの年齢差と性別の交互作用項を投入したStep 3への決定係数の増分は有意でなかった(ΔR2<.001, p=.86)。

Table 2

Results of hierarchical multiple regression analysis with Verbal IQ as the dependent variable (N = 318)

β 95% CI R2 ΔR2
Note . The final step βs are described in this table. CI = Confidence Interval.
** p < .01, * p < .05.
Step 1 .101
 Sex (0 = male, 1 = female) .16 [‒.06, .38]
 Gestational age ‒.01 [‒.14, .13]
 Birth weight .03 [‒.10, .17]
 Father's age at delivery ‒.04 [‒.21, .13]
 Mother's age at delivery .12 [‒.05, .30]
 Paternal education ‒.00 [‒.13, .12]
 Maternal education .17 ** [ .04, .29]
 Annual household income .10 [‒.02, .21]
 Tabacco use during pregnancy
 (0 = no smoking, 1 = smoking)
‒.05 [‒.36, .26]
 Alcohol use during pregnancy
 (0 = no drinking, 1 = drinking)
.28 * [ .07, .50]
Step 2 .129 .028 **
 Older sibling's sex
 (0 = male, 1 = female)
‒.03 [‒.24, .19]
 Age gap between siblings (months) ‒.19 * [‒.34, ‒.04]
Step 3 .129 .000
 Older sibling's sex × age gap .02 [‒.20, .23]
Figure 1

The relationship between language skills and age gap between firstborn and secondborn children

Note. Scatterplots show the relationship between language skills and the age gap between firstborn and secondborn children, separately for children with an older brother and those with an older sister. The solid and dotted lines indicate linear regressions, and the ranges in gray represent their 95% confidence intervals.

考察

本研究の目的は,Havron et al.(2019)がフランスで確認した言語発達における年上きょうだい効果が,日本でも見られるのかを検討することであった。日本の幼児を対象とした浜松コホートのデータを分析したところ,4つの興味深い結果を得た。第一に,本研究でも年上きょうだいがいる第二子は,年上きょうだいがいない第一子よりも言語スコアが有意に低くなることを確認した。この結果は,年上きょうだい効果が日本の幼児でも見られることを示す重要な知見である。この効果は,これまでフランス(Havron et al., 2019)などでのみ確認されていたが,本研究によって年上きょうだい効果が文化普遍的である可能性をより強める結果が示された。

第二に,年上きょうだい効果は言語スキルでは見られるが,非言語性認知スキルでは見られないというPeyre et al.(2016)によるフランスの報告と一貫した結果が得られた。これは,言語スキルが養育者の言語インプットに依存して主に発達するのに対し,非言語性認知スキルは養育者との関わりよりもパズルや人形遊びなど個人活動に相対的に依存するために生じた可能性がある。しかし,その詳細な機序については,さらなる検討が必要である。

第三に,姉のいる第二子は兄のいる第二子より言語スコアが高いというフランスで見られた結果(Havron et al., 2019)は,本研究で再現されなかった。実際,年上きょうだいの性別が言語スキルに及ぼす影響は,その後の研究で追認されておらず(Gurgand et al., 2023; Havron et al., 2022),フランス国内の2つの研究でも結果が一貫しないことから(Gurgand et al., 2023; Havron et al., 2019),結果の不一致が文化差により生じたと解釈するのも難しい。Havron et al.(2019)は,年上きょうだいの性別の効果について,女児における言語発達の優位性により姉の方が年下きょうだいに良質な言語インプットを提供するために生じると考察している。実際に,幼児期における言語スキルの女児優位性は,日本(山下他,1994)を含め,複数の文化で報告されているが,小さい子への興味を示す女児の行動傾向が4―5歳になるまで見られないこと(Fogel et al., 1987)を考慮すると,きょうだい間の年齢差がある程度大きくない限り,姉でも兄でも年下きょうだいと関わる頻度は顕著な差が見られず,年上きょうだいの性別が下のきょうだいの言語発達に与える影響がそれほど強くなかった可能性がある。

第四に,Havron et al.(2019)と同様に,第二子は年上きょうだいとの年齢差が小さいほど,言語スコアが高くなる傾向が示された。同様の結果は,フランス(Gurgand et al., 2023)とシンガポール(Havron et al., 2022)でも報告され,ある程度一貫して見られる現象である。この解釈として,先行研究(Gurgand et al., 2023; Havron et al., 2019)では,きょうだいの年齢が近いと,養育者が絵本の読み聞かせを二人同時に行える場面が相対的に増え,言語発達に寄与する言語インプット量が増加するためと考えられている。本研究でも同様の傾向が示されたことは,年齢が近いきょうだい間での言語インプットの共有が複数の文化で生じる可能性を示唆している。

本研究で得られた上記の結果は,言語発達における年上きょうだい効果の機序を解明する上で重要な手がかりを提供する。序論で述べたように,年上きょうだい効果は主に資源希釈化モデル(Blake, 1981)とコンフルエンスモデル(Zajonc & Markus, 1975)によって説明されてきた。両モデルの大きな違いは,年上きょうだいの役割の捉え方である。資源希釈化モデルでは,年上きょうだいを養育者から受ける養育資源の競合相手と捉えるのに対し,コンフルエンスモデルでは,年上きょうだいを下の子にとっての家庭環境の一部と考えている。言語インプットの文脈で言えば,前者は年上きょうだいを言語インプットの受け手,後者は言語インプットの送り手として捉えている。コンフルエンスモデルでは,言語インプットの送り手である年上きょうだいの言語スキルが高くなれば(つまり,年齢差が大きければ),第二子の言語スキルが高くなるはずであるが,実際は逆の結果であった。また,言語インプットの送り手としての年上きょうだいの役割が大きいのであれば,言語発達に優位性のある女児(つまり,姉)を上に持つ子の方が言語スキルは高いはずであるが,実際はそのような結果は得られなかった。これらの結果から考えると,年上きょうだいは資源希釈化モデルが想定する言語インプット(養育資源)の受け手としての役割が強く,言語インプットの送り手としての役割は限定的であると考えられる。

本研究では,言語スキルの指標として,幼児の認知機能を評価する際に世界各国で標準的に用いられているWPPSIのデータを分析した。WPPSIの言語性IQは,理解語彙や表出語彙,統語などの言語スキルの複数の側面を含んだ指標である。年上きょうだい効果を報告した先行研究でも様々な言語課題の合成得点を使用するという手法(Gurgand et al., 2023; Havron et al., 2019)を用いているため,先行研究との比較を行う上では妥当な指標である。ただし,本研究の目的範囲外ではあるものの,言語の各側面で年上きょうだいの及ぼす影響が異なる可能性もある。例えば,語彙や統語スキルは第一子の方が高い傾向を示すが,会話スキルは第二子の方が高い傾向を示すという知見がある(総説として,Hoff, 2006)。このことから,言語の各側面ごとに年上きょうだい効果を検討することで,出生順などの家庭要因が言語発達に影響を及ぼす機序をより精緻に理解できる可能性がある。

本研究では,Havron et al.(2019)が報告した言語発達における年上きょうだい効果が日本でも見られることを確認し,この効果が文化普遍的である可能性を示唆した。また,年上きょうだいの性別が第二子の言語スキルに及ぼす影響は見られなかったが,きょうだい間の年齢差が小さいほど第二子の言語スキルが高かったことが示された。今後は,幼児期のみならず児童期でも年上きょうだい効果が見られるかを確認することで,就学や家庭外からの言語インプットが年上きょうだい効果に及ぼす影響を検討する必要があるだろう。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

電子付録

分析結果の一部は,J-STAGEの電子付録に記載した。

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