We aimed to examine whether a member with higher cognitive centrality could make accurate decisions in a multi-attribute decision-making task. Previous studies have indicated that group decisions often result in negative outcomes when relying on shared information. Nevertheless, considering the reliability and validity of shared information, using it in discussions may yield positive results. This study focuses on cognitive centrality, which is defined as the amount of shared information held by group members within a socio-cognitive network. Previous research has shown that members with higher cognitive centrality influence group decision-making, as they are often regarded as experts. This suggests they may be more accurate in their decision-making. However, empirical studies on the relationship between cognitive centrality and decision accuracy are scarce. To test this relationship, a two-choice task concerning the population of Japanese prefectures was administered to 150 participants. The results indicated that there was no clear relationship between cognitive centrality and the accuracy of decision-making.
人は重要な問題に対して意思決定を行う際,集団での意思決定を採用する。集団の意思決定は個人の意思決定と比べて高いコストがかかるものの,集団で情報を共有することでより幅広い情報にアクセスすることができ,優れた意思決定が可能になるという期待をもたれている(Brodbeck et al., 2007)。その一方,過去の研究では共有情報を用いた意思決定において,集団は各メンバーが潜在的にもつ情報を十分に活用することができず,不適切な意思決定をしてしまう,といったネガティブな側面が強調されてきた(Brodbeck et al., 2007; Stasser & Titus, 2003)。本研究では,共有情報に依拠した決定にはポジティブな側面があるはずだという視点に立ち,多属性型の意思決定課題を用いてそのパフォーマンスを検討する。以下では,まずネガティブな側面に注目した共有情報バイアスに関するこれまでの先行研究を概観する。
共有情報バイアス合議前にメンバーがもつ情報には,多くの者に共有されている共有情報もあれば,特定の者にしか知られていない非共有情報もある。このような状況下では,共有情報に関する議論に多くの時間が費やされ,メンバーがもつ情報の再確認で議論が終始することが知られている(Stasser, 1992; Stasser et al., 1989; Stasser & Titus, 1985, 1987)。この共有情報バイアス(shared-information bias: Forsyth, 2006)により,集団はメンバーが潜在的にもつ情報を十分に活用できず,不適切な意思決定を行なってしまうことが示されてきた(例えば,Baker, 2010; Stasser & Stewart, 1992; Stasser & Titus, 1985)。
これまでの研究では,共有情報バイアスによるネガティブな影響力が注目される傾向にあった。しかし,そのようなネガティブな効果は,例えば,不適切な選択肢を支持する情報は全て共有され,適切な選択肢を支持する情報は共有されていないといった,集団全体の選択肢に関する情報分布に偏りが存在する特定の状況下で観察されるため,必ずしも共有情報バイアスによる効果がネガティブであるとは言えないかもしれない(Brodbeck et al., 2007; Tindale & Kameda, 2017)。逆に,多くのメンバーが認知している情報は信頼性と妥当性の面で優れている可能性もある。そうであれば,共有情報バイアスはポジティブな影響力を持つ可能性もある(Mojzisch et al., 2008; Stasser et al., 1995; Stasser et al., 1989; Tindale & Kameda, 2017; Wittenbaum et al., 1999)。
複数の情報を基に意思決定を行う多属性型・証拠主導型の課題において,高いパフォーマンスを発揮するためには,用いる情報の信頼性と妥当性が高くなくてはならない。誰が何を知っているかというメタ知識がない状況下では,合議によって,ある情報がどの程度有益なのかを検証することができる可能性がある。共有性と有益性が相関していれば,共有情報に依拠する集団は高いパフォーマンスを発揮できる。しかし,情報分布に偏りがある状況を扱った多くの研究においてそのようなポジティブな側面が十分に検証されてきたとはいえない。
社会-認知的ネットワークと認知的中心性共有情報の影響力について様々な利点が想定されているが,他のメンバーと多くの情報を共有するメンバーについても,同様の利点や強い影響力が期待される。合議における社会的な共有性の問題を定量的に検討するため,Kameda et al.(1997)はまず集団内のメンバーがどの情報を所有しているのか,以下のようなメンバー×情報の行列で表現した。
そして,行列B×転置行列B'を計算することで集団内の各ペアが合議前にどの程度情報を共有しているかを表すメンバーi×メンバーjの行列が得られる。この行列は社会-認知的ネットワーク(sociocognitive network)と呼ばれ,メンバー間のコミュニケーションや理解の可能性の程度を捉えることができる。このネットワークにおいて共有情報を多く持つメンバーは,集団内でより認知的に中心的なメンバーであることを意味する。Kameda et al.(1997)はメンバーi×メンバーjの行列から以下の式,
から計算される(ただし,i≠j)社会-認知的ネットワークの中心性の指標を認知的中心性(cognitive centrality)と定義した。
Kameda et al.(1997)は認知的中心性の高さが合議にどのような影響を与えるか検討した。その結果,認知的中心性の高いメンバーは信頼できる情報源として認識されること,発言量が多く他のメンバーの影響を受けにくいこと,そして,そのメンバーが少数派であっても強い影響力を持ち,多数派を覆すことが示された。認知的中心性の高い者は他のメンバーに対して何が信頼性・妥当性の高い情報なのかというメタな情報を提供しており,そのため彼らは有益な情報や専門性を持っていると評価される傾向にある(Kameda et al., 1997; Mojzisch et al., 2008; Wittenbaum et al., 1999)。もし他者の専門性に関する認知が正確であれば,効率的な意思決定を行う上で極めて重要である。
集団意思決定を効率的に行うには,個人の意見をいかに集団の意見として集約するかが重要となる。集約規則の代表的なものとして,多数決と,集団内で最も優れた者の判断を採用するベストメンバー戦略がある(Laland, 2004)。多数決はベストメンバーより頑健に優れるわけではないことが報告されており(中分,2017; Yetton & Bottger, 1982),最も優れた者を特定できるのであれば,ベストメンバー戦略が効率的な集団意思決定を行う上で最も有効だと考えられる(García-Retamero et al., 2009)。ベストメンバーを特定する際,人は各メンバーの専門性や影響力を参照することが明らかになっている(Kämmer et al., 2014; Reimer & Katsikopoulos, 2004; Yetton & Bottger, 1982)。またKameda et al.(1997)では「認知的中心性は専門性を意味する」という認知を,Chaiken & Stangor(1987)に倣い,認知的中心性ヒューリスティックと呼んでいる。以上から,専門性が高いと評価され強い影響力を発揮する認知的中心性の高いメンバーはベストメンバーである可能性が示唆される。認知的中心性の高いメンバーがベストメンバーであれば人はベストメンバーを特定できていることを意味するため,このことを検証することには学術的にも社会的にも大きな意義がある。
本研究の目的Kameda et al.(1997)では認知的中心性の高いメンバーは合議において強い影響力を発揮することが示された。しかし,そこでは模擬陪審という客観的な正解を示すのが困難な課題を用いており,認知的中心性とその正確さの関連については十分に検証されていない。そこで,本研究では,客観的な正解を明確に定義できる多属性型決定課題を使用して,認知的中心性の高いメンバーが正確な意思決定をしているかどうかを検討した。Kameda et al.(1997)では参加者に与える情報を操作しないStudy 1と操作するStudy 2を実施しているが,本研究では生態学的妥当性の観点からStudy 1の手続きを採用した。
本研究では,客観的な正解を明確に定義できる課題においても,認知的中心性の高いメンバーは認知的中心性が低いメンバーよりも集団メンバーに対して強い影響力をもつという仮説を立てた。本研究では認知的中心性の影響力を集団解答と認知的中心性の高いメンバーの解答との一致率と定義した。もし仮説が支持されるのであれば,認知的中心性の高いメンバーの方が低いメンバーよりも集団解答との一致率が高くなるはずである。一方で,現実場面における認知的中心性の高いメンバーの正答率は課題構造に依存するため,認知的中心性とその正確さについては探索的に検討した。本研究では解答の正確さを,確信をもって正答している程度(正答度)と定義し,Kameda et al.(1997)の認知的中心性得点と参加者が課題を解く上で使用した情報(列挙したカテゴリー数)を独立変数,正答度を従属変数とし,これらの関連を調べた。
本研究のWeb質問紙とR scriptはOSF上(https://osf.io/zxm8a/)で公開した。本研究は,第二著者の所属先に設置された広島修道大学における人を対象とする研究倫理審査専門委員会で承認された(承認番号:第2023-004号)。
実験期間 実験は2023年10月2日から2023年10月31日まで広島修道大学で行われた。
実験参加者 大学生および大学院生150名(男性54名,女性95名,その他/答えたくない1名,Mage=20.27,SD=1.38)が3人集団(計50集団)となって参加した3。サンプルサイズはKameda et al.(1997)のStudy 1と同等だった。
課題 課題の選択肢に関する属性に基づいて意思決定を行うことを検討した研究(Gigerenzer & Goldstein, 1996; Reimer & Katsikopoulos, 2004)をもとに,呈示された2つの都道府県のうち,どちらの人口が多いかを考える人口比較課題を作成し使用した。都道府県の人口は総務省統計局(2020)によるものを用いた。課題項目は一般人71名を対象に実施された予備調査(調査は2023年9月5日にWeb上で実施)のうち,正答率が0.70(課題1: 宮城県-長野県),0.42(課題2: 北海道-福岡県),0.20(課題3: 京都府-広島県)だった3項目を採用し,それぞれ難易度の程度が異なる問題を設定した。
実験手続き 参加者はインフォームドコンセントを読んで実験参加に同意した後,以下の手順に従って人口比較課題に取り組んだ。また,参加者には,全ての課題が終了した後に集団解答の正答数に応じて報酬が与えられた。報酬は0問あるいは1問正解で500円,2問正解で1,000円,3問正解で1,500円と設定し,Amazonギフトカードで支払われた。なお,参加者には正答数に応じて報酬額が増額されることのみ教示され,具体的な金額は公開されなかった。
まず参加者は人口比較課題を解く際,その都道府県の人口が多い(あるいは少ない)ことを支持する情報を,10分間思いつく限り列挙するよう教示された(例えば,北海道は土地が広い)4。これは社会-認知的ネットワークを記述する際に必要な手続きであった。その後,参加者は人口比較課題について,Kameda et al.(1997)に倣い,6段階(「絶対に都道府県Aだと思う」―「絶対に都道府県Bだと思う」)で個人解答を行った。解答後,参加者はすでに行った解答を修正することができず,正誤のフィードバックは与えられなかった。そして,参加者は3人集団となって制限時間が10分間の合議をした。合議が終了した後,協議した問題について再び6段階で,集団として解答した。以上の一連の試行が,すべての問題が終了するまで繰り返された。課題の出題順序は,試行ごとにラテン方格法で統制された。
データ分析にはR 4. 3. 2(R Core Team, 2023)を使用した。また,有意水準は5%で統一した。
個人解答,集団解答の正答度/正答率分析の際,個人解答と集団解答での6段階尺度を正答か誤答かに応じて方向を調整した(「1: 絶対に都道府県A(誤答)だと思う」―「6: 絶対に都道府県B(正答)だと思う」)。この数値は正答度というどの程度確信をもって正答しているかを表す指標である(中西・亀田,2001)。正答率は,6段階尺度における解答を単に正答か誤答かの2値型に変換したうえで算出した。Table 1に個人解答および集団解答の正答度の平均値と正答率を示す。実験では予備調査の結果とは異なり,京都府-広島県(正答度3.25/正答率0.41)よりも北海道-福岡県(正答度2.79/正答率0.19)の方が正答度/正答率が低かった。
個人解答および集団解答における正答度の平均値と正答率
個人解答 | 集団解答 | |||
---|---|---|---|---|
課題項目 | 正答度 | 正答率 | 正答度 | 正答率 |
注)丸括弧内は標準偏差を示す。 | ||||
課題1 | 3.96 | 0.64 | 4.78 | 0.88 |
(1.02) | (0.48) | (1.02) | (0.33) | |
課題2 | 2.79 | 0.19 | 2.28 | 0.14 |
(1.06) | (0.40) | (1.14) | (0.35) | |
課題3 | 3.25 | 0.41 | 3.36 | 0.48 |
(1.17) | (0.49) | (1.54) | (0.50) |
サンプルサイズの3分の2である102名が集まった段階で,2名のコーダーが都道府県ごとに列挙された情報をそれぞれ独立に検討した。その際,同じ内容を述べているものとそうではないものを分類したうえで,それぞれカテゴリー名をつけた(例えば,宮城県について「プロ野球チームがある」といった情報は「スポーツ」,「政令指定都市の仙台市がある」といった情報は「政令指定都市」,「有名な都市名」というカテゴリーとした)。コーダーによって,宮城県20個,長野県20個,北海道21個,福岡県27個,京都府29個,広島県30個のカテゴリーが作成された。その後,本実験で得られた全ての情報について,別の2名のコーダーが,上記のいずれかのカテゴリーに分類した。この2名のコーダーは,都道府県ごとに,それぞれの情報がどのカテゴリーに該当するか,そして人口が多い(少ない)ことを述べた情報かを判断した。もしその情報のみで判断できない場合は,参加者の列挙した情報の傾向と個人解答を参照してどのカテゴリーに該当するか推測を行った。なお,1つの情報に複数のカテゴリーが存在する場合には,該当する複数のカテゴリーに割り振った。もし分類する中でコーダーによって新たなカテゴリーが必要であることを提案された場合は,もう一方のコーダーの同意を得たうえでカテゴリーを新たに追加した。2名のコーダーによる分類は妥当なレベルで一致し(宮城県κ=.65; 長野県κ=.69; 北海道κ=.85; 福岡県κ=.86; 京都府κ=.90; 広島県κ=.82),一致しなかったものについてはコーダー同士の合議を行ったうえで分類を一致させた。
以上の分析の結果から,Kameda et al.(1997)に倣い,課題ごとの3人集団における各ペアの合議前の情報の共有度(つまり,社会-認知的ネットワーク)を表現する計150の行列を作成し,認知的中心性得点を算出した5。以下では,3人の中で最も認知的中心性得点が高い者を認知的中心性の高いメンバー,それ以外の者を低いメンバーと定義する。
認知的中心性得点と正答度まず,認知的中心性と個人正答率の関係を検討するために,lme4パッケージ(lmer関数)を用いて,課題項目ごとに線形混合モデルで分析した。従属変数は個人解答の正答度,独立変数は認知的中心性得点および列挙したカテゴリー数であった。また集団ID(集団の識別のため),課題順序(3項目)を変量効果とした。
課題1では,カテゴリー数の主効果が有意となったが(b=0.08, SE=0.03),認知的中心性得点の主効果は有意ではなかった(b=0.07, SE=0.07)。課題2,課題3では,認知的中心性得点の主効果(b=0.05, SE=0.04; b=‒0.04, SE=0.06)も,カテゴリー数の主効果(b=‒0.04, SE=0.03; b=‒0.01, SE=0.03)も,有意ではなかった。すなわち,いずれの課題においても,認知的中心性と正答度に関連はみられなかった6, 7。
認知的中心性の影響力認知的中心性の高いメンバーが低いメンバーよりも強い影響力を持ったかを検討するため,課題項目ごとに集団解答と認知的中心性の高い/低いメンバーの解答の一致率を算出した。分析では,3人の認知的中心性得点が同点だった集団(課題1:5集団;課題2:2集団;課題3:3集団),3人の解答が全会一致だった集団(課題1:14集団;課題2:29集団;課題3:13集団),両方に当てはまる集団(課題1:1集団;課題2:3集団;課題3:2集団)は除外した。Table 2に課題項目ごとの集団解答と認知的中心性の高い/低いメンバーの解答の一致率を示す。集団解答と認知的中心性の高い/低いメンバーの解答の一致率について適合性のχ2検定で分析したところ,いずれの課題においても解答の一致率に差はみられなかった。
集団解答と認知的中心性の高い/低いメンバーの解答の一致率
高いメンバー | 低いメンバー | Z値 | |
---|---|---|---|
課題1 | 0.73 | 0.63 | ‒0.77 |
課題2 | 0.63 | 0.69 | ‒0.82 |
課題3 | 0.75 | 0.78 | ‒0.78 |
Table 3に,上記の分析対象となった集団について,2(中心性の高低)×2(多数派,少数派)のクロス表を示す。Table 3より,本研究では認知的中心性の高いメンバーは多数派に所属する傾向にあり,認知的中心性の高いメンバーに従うことと多数派に従うことを明確に区別できなかった。認知的中心性の高いメンバーが少数派であったいずれの集団も認知的中心性の高いメンバーの判断が採用されることはなく,Kameda et al.(1997)で示されていた認知的中心性の高いメンバーが少数派でも強い影響力をもつことはなかった。
観察された認知的中心性の高い/低いメンバーが多数派/少数派に所属する頻度
課題1 | 課題2 | 課題3 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
高 | 低 | n | 高 | 低 | n | 高 | 低 | n | |
注)3人の認知的中心性得点が同点,3人の解答が全会一致だった集団は除外した。丸括弧内はパーセンテージを示す。 | |||||||||
多数派 | 37 | 23 | 60 | 19 | 13 | 32 | 33 | 31 | 64 |
(0.62) | (0.38) | (0.59) | (0.41) | (0.52) | (0.48) | ||||
少数派 | 6 | 24 | 30 | 4 | 12 | 16 | 10 | 22 | 32 |
(0.20) | (0.80) | (0.25) | (0.75) | (0.31) | (0.69) |
本研究では,客観的な正解を明確に定義できる課題を用いてKameda et al.(1997)の追試を行い,認知的中心性の正確さとその影響力について検討した。実験の結果,認知的中心性の高さと正答度には関連がみられず,認知的中心性の高いメンバーと低いメンバーの影響力にも差がみられなかった。したがって,認知的中心性の高いメンバーが強い影響力をもつという仮説は支持されなかった。この結果は,認知的中心性の高いメンバーがもつ強い影響力がKameda et al.(1997)が主張するほど頑健なものではない可能性を示唆している。どのような状況下で認知的中心性が正確な意思決定を導き,また強い影響力を持つかは今後更なる検討が必要である。
本研究で用いた人口比較課題には限界点が3つある。1つ目は,今回用いた都道府県の組み合わせは全ての組み合わせからランダムに抽出したものではなく,代表性が担保されていない点である。2つ目は,参加者がもつ都道府県の情報を活用することでどの程度正答に辿り着けるかが明確ではなかった点である。そして3つ目は,認知的中心性と選好状態が区別できていない点である。参加者に与える情報を実験者側で操作していない本研究では,結果的に認知的中心性の高いメンバーは多数派に所属する傾向にあった。客観的な正解が定義できる場合でも認知的中心性がどの程度多数派を覆すことがあるのかについて,今後認知的中心性と選好状態を独立に操作した追試を実施する必要がある。
本論文について,開示する利益相反関連事項はない。
本論文は,第一著者が広島修道大学に提出した卒業論文(2023年度)の一部を加筆・修正したものである。本研究の一部は日本社会心理学会第65回大会で発表された。
2本論文の執筆にあたり,竹澤 正哲氏(北海道大学),横田 晋大氏(広島修道大学)より助言をいただいた。記して感謝する。
3実験前の様子から,3名中2名あるいは3名が友人であると推測された集団が39あった。実験参加者プールが不十分であったため,友人同士が同じ集団に入らないようにする配慮は行うことができなかった。
4正解を導く情報を列挙させる教示を行ったため,基本的には参加者自身が間違いに導くと考える情報は列挙されていなかった。課題1において宮城県を宮崎県,長野県を長崎県と誤解しているケースも含まれていたが,ごくわずかだった。
5本研究では,Kameda et al.(1997)のように3人の認知的中心性得点が異なり完全に順位をつけることができるとは限らず,2人の同点の認知的中心性得点の高いメンバーと1人の認知的中心性得点が低いメンバーがいる場合,1人の認知的中心性得点の高いメンバーと2人の同点の認知的中心性得点が低いメンバーがいる場合,3人の認知的中心性得点が同点の場合があった。3人の認知的中心性得点が同点でない場合,各メンバーがもつ共有情報の数には差がみられた。例えば課題1では平均して1位が4.00(SD=0.85),2位が2.92(SD=0.79),3位が1.42(SD=0.79)の情報を他のメンバーと共有していた。
6認知的中心性得点と列挙したカテゴリー数には中程度の相関があったが(課題1: r=.50; 課題2: r=.60; 課題3: r=.62),多重共線性は生じていなかった(課題1: VIF=1.33; 課題2: VIF=1.52; 課題3: VIF=1.60)。
7各個人を集団にネストさせず,150名×列挙したカテゴリー数の行列から認知的中心性得点を算出した分析も行なったが,課題1では認知的中心性得点の主効果(b=0.01, SE=0.00),カテゴリー数の主効果(b=‒0.11, SE=0.05)は有意だったが,課題2,3では認知的中心性得点の主効果(b=0.00, SE=0.00; b=0.00, SE=0.00)もカテゴリー数の主効果(b=0.00, SE=0.04; b=‒0.03, SE=0.05)もともに有意ではなかった。認知的中心性得点とカテゴリー数には高い相関があったが(課題1: r=.88; 課題2: r=.82; 課題3: r=.84),多重共線性は生じていなかった(課題1: VIF=4.61; 課題2: VIF=2.96; 課題3: VIF=3.31)。すなわち,この分析においても,課題2,3では認知的中心性と正答度に関連はみられず,課題1のみ認知的中心性得点が有意だったものの,一貫した結果が得られていないため,本研究のみでは認知的中心性と正答度に関連があると積極的に解釈することは難しい。