抄録
鼻副鼻腔あるいは上咽頭の悪性腫瘍に対して放射線治療が選択されることは少なくない。しかし放射線治療後に発症する難治性副鼻腔炎に対してESSを施行する機会は少なく,手術適応や合併症についてはあまり知られていない。今回我々は前頭洞癌に対する放射線治療後に副鼻腔炎を来しESSを施行した1例を経験した。症例は82歳女性で前頭洞癌治療のため当科を紹介された。放射線治療を60Gy施行し腫瘍は消失した。治療後8ヶ月で急性副鼻腔炎を発症し,保存的治療に抵抗性であった。排泄路を確保し,感染が前頭蓋底骨欠損部を経由して頭蓋内に波及するのを防止するため,ESSを施行した。術中の合併症は生じなかったが,前頭洞の一部に腫瘍の再発が判明した。術後,副鼻腔粘膜の浮腫状変化を来したが軽快した。諸家の報告によれば放射線治療後のESSは術中合併症のリスクを増大させたり,術後の治癒過程に悪影響を及ぼす。また,放射線による粘膜機能障害は術後の副鼻腔炎の治癒を遷延させる可能性がある。放射線治療後の難治性副鼻腔炎はESSの適応となり得るが,効果や合併症については症例を集積した上での検討が必要である。放射線治療後の鼻副鼻腔におけるESSの合併症や粘膜の病態生理に関する文献的考察を加えて報告する。